54話 お節介を焼く
「んだ、テメェは!?」
ウセロが牙を剥き出して威嚇してくる。
怖ぇ……
だが、ここで怯んではいけない!
俺は胸を張って、ドラマでよく見る感じの正義のヒーローっぽい感じを演出してみる!
「ふっ。悪党に名乗る名などない!」
「コーシよ」
「なんで名乗っちゃうかなぁ!?」
「ケンカを吹っかけておきながらビビっている姿があまりにもみっともなくて、つい」
ついじゃねぇよ!
これが日本だったら、名前バレするだけでツイッターとかフェイスブックとか掘られるんだからな? 個人情報はもっと大切に管理してくれよな!
「ちなみに、私は意地でも名乗らないから、聞かないでちょうだいね」
「ズッリィ~なお前!?」
「しょうがないでしょう? 私は、もし万が一のことがあっても、この街を捨てて遠くの街へ逃げるなんて出来ないのだから……面倒くさくて」
「なんかいろいろ最低だ、お前は!」
街を捨てなきゃいけない状況になっても引きこもりを捨てたくないのかよ。筋金入りだね、ちょっと尊敬するよ!
「なんなんだよ、テメェら!? ケンカ売ろうってのか!?」
「そうね。そのつもりよ」
つか、なんでお前が言っちゃうの、そういうこと。
それって俺の役目じゃね?
「ここにいるコーシはね……セオ・コーシはね」
「なんでフルネーム言った!?」
「セオ・コーシ、魔法使い、十六歳、彼女いない歴十六年」
「個人情報ー! 漏れ過ぎだから、蓋してくれるかな!?」
この娘、ホント怖い!
「そんなコーシはね、おっぱいの付いている人間が困っていると放っておけない困った性格なのよ」
「ふにゃっ!?」
「なぁ、スティナ!? なんで普通に『女の子』って言えないのかな!? 見ろよ、カチヤも変に意識しちゃって胸隠して俺のことじぃ~って警戒心剥き出しの目で見ちゃってんじゃん!? どうしてくれんのこの辱め!?」
なんだろう。ケンカ売られてるの、むしろ俺じゃね?
「ゴチャゴチャうるせぇんだよ、テメェら!」
「そうね。コーシ、少し黙りなさい」
「お前だそ、どう考えても、うるさいの!?」
「黙れぇえ!」
ウセロが犬歯を剥き出しにして吠える。
気が付けば、俺たちの周りにはぽっかりと広い空間が開いていた。
巻き込まれたくないのだろう。人々が遠巻きにこちらを観察している。
「テメェら、オレにケンカを売って、ただで済むと思ってんのか?」
ウセロが腰にぶら下げた、やたらとかさばる箱に手を載せる。
「テメェがカチヤとどういう関係かは知らねぇ。だが、カチヤはオレのもんだ!」
「あれ、横恋慕?」
「そういう話じゃないって、分かるよな? 最初からデバガメしてたんならさぁ!?」
カチヤに視線を向けると、何も言えないのか、ただ俯いて膝の上で拳を握りしめていた。
「横取りしようってんなら、相応の報いを受けてもらうぜ」
「それが横取りじゃなくて『解放』だった場合は、どうなんだ?」
俺は別にカチヤをどうこうしたいとは思わない。
ただ、カチヤが今見せてるような沈んだ顔じゃなくて、周りなんか気にせず、好きなことをやって、笑いながら生きていけるようになればいいなと思っている。
あんな、なんでもないようなことですぐに謝ってしまう癖がついてしまうような、そんな生活じゃなくてな。
「お前から、カチヤを解き放つ」
「つまりは……横取りしようってんだな?」
ウセロにとっては、自分の手元を離れるというのは、『奪われる』と同義なのだろう。
聞く耳持たずって感じだな。
「私も参考までに教えてもらいたいわ」
スティナが俺の隣に立ち、ウセロを睨みつけて問いかける。
「何カップからターゲットに入っちゃうのかしら?」
「俺も参考までに聞きたいんだが……どういうつもりなんだ、お前は?」
なんで目線が向こうで質問がこっちに飛んでくるんだよ。
何カップとか関係ないわ!
「Bカップって、割と大きいわよね。耳で聞くイメージよりも、実物はもっとしっかりと存在感があると思うわよね? そうよね? そうだと言いなさい」
「え、なに……お前Bカップなの?」
「だ、誰がそんなことを言ったのかしら!? 信じられないセクハラ男ね!?」
「今のは完全にお前発信の『乳話』だろうが!?」
話を振っておいてセクハラ扱いとか、当たり屋も真っ青なラフプレーだな。
もうスティナのことはしばらく放置する。
「カチヤ!」
イザコザの前に一つだけ確認しておこう。
「お節介、焼いてもいいか?」
お前を助けてもいいかと問いかけると、カチヤは二度、三度と視線をさまよわせた後、こくりと頷いた。
うっし! んじゃ、お節介を焼きますか。
「くくく…………やっぱ横取りする気なんだな…………」
ずんぐりとした腕で腰の箱を叩くウセロ。
瞳をぎらつかせ、荒い鼻息を噴き出し、怒号を飛ばす。
「オレの物を奪うヤツは、何人たりとも生かしちゃおかねぇっ!」
叫ぶと同時にウセロは腰にぶら下げた箱の蓋を開ける。
「出て来いっ! ケルベロスッ!」
ウセロの呼びかけに答えるように、デカい箱の中から現れたのは、そのデカい箱にはとても入らないだろうというような、さらにデカい魔獣。
三つ首の獰猛そうな狂犬。ケルベロスだった。
「ガァァァアアアッ!」
しかも、とってもお腹が空いてそうな雰囲気だった。




