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51話 防御力で選ぶ

 市場には、店を構えた商店と、広場に集まった露店がある。

 商店は自分の看板を背負って商売しているため、品質もサービスもそれなりに保証されている。だが、幾分割高だ。

 反面、露店は非常にリーズナブルではあるが、保証面では不安が残る。

 冒険者カードでアイテムの詳細を検索しても、見抜けない欠陥を持った物も多数存在するらしい。


 また、そもそも冒険者カードで検索出来ないアイテムという物も多数存在するのだ。


 ギルドのデータバンクに登録されていない異国のアイテムや、非常にレアなアイテム、はたまた、どこの馬の骨とも知れないヤツが適当に作った価値のないアイテムなんかも検索は出来ない。まさに、玉石混合。露店で掘り出し物を見つけるには、おのれの目を信用する以外にないのだ。


 例えば、今俺が露店で見つけたこのレザープレートなんかは…………いい物のような気がする。むむむ……


「コーシさん、遅いです」

「早くしてくれないかしら?」

「露店のアイテムなら、クオリティはどれも同じようなものなのじゃ」


 くっそ、こいつら!

 エルセが男と買い物に行きたくないと言った理由である3ワードを揃いも揃って口にしやがって! 『遅い』『早くしろ』『どれでも同じだろう』って!


「エルセ。このレザープレートとかどうだ? これなら軽いし、お前でも装備出来るだろう?」

「あ、すみません。わたし、ユーズドファッションはちょっと……」

「好き嫌い言ってる場合か!?」

「コーシさんって、ダメージジーンズとか好きなタイプなんですか?」


 いや、だから、オシャレ目的じゃなくてだな……


「ダメージジーンズなら、ここにも売っているわよ」


 と、スティナが持ってきたのはまさしくジーンズだった。……あるんだ、異世界にジーンズ。

 しかし、どう見てもダメージジーンズには見えない。どこも破れてないし、色褪せてもいない。

 試しに冒険者カードでアイテムの詳細を検索してみると……



『ダメージジーンズ : 呪いにより、一歩歩くごとにダメージを受けるジーンズ』



「俺の知ってるダメージジーンズと違う!?」


 誰が買うんだ、こんなもん!


「ちょっと、店主。これ、贈り物用のラッピングってしてもらえるのかしら?」

「いらないぞ、俺は!?」

「日頃お世話になっているコーシへの、せめてもの気持ちよ。受け取りなさい」

「顔面の至るところに『面白そうだから見てみたい』って書き殴られてるぞ、お前!」


 真面目に選べよ!

 防具はな、おのれの命を守る重要なアイテムなんだぞ!

 ゲームでも、真っ先に防具を整えておけば、最初の街周辺のザコにはやられなくなり、延々とレベルアップが出来るのだ! 防具こそ冒険の基本! 命大事に! 石橋を乱打連打で渡りきるのが冒険者としての基本マナーだ!


「あ、このTシャツかわいい~。わたし、これ寝巻用に買います」

「装備を買うんだよ!」

「でもコーしゃま。あのTシャツ、毒耐性が付与されているのじゃ。割といい物なのじゃ」

「寝間着に毒耐性いらねぇだろ!? どんな環境で寝る気だよ!?」


 まったく、こいつらは……

 冒険者としての心構え、出来てなさ過ぎなんじゃねぇの!? しっかりして! プロでしょ!?


「コーシさん、彼女とのデートでもそんな風だったんですか? あ、彼女いたことないんでしたっけね」

「唐突に俺の心抉るのやめてくれる!?」

「すみません。コーシさんがモテない理由が分かりませんで……」


 えへへと頭をかくエルセ。

 な、なんだよ。そんなこと言われると、ちょっと「お、こいつ可愛いな」とか思っちゃうだろが。


「まぁ、今はっきりと分かりましたけども」

「可愛くねぇな、お前はホントに!」


 お金は貴重だろ!? 無駄にしたくないだろう!?

 同じ額でよりいい物が欲しいのが人情だろうが!


「まぁ、凝り性は他人が言ってもどうにもならないものだものね。好きにさせてあげましょう。もぐもぐ」


 スティナがちょっといいことを言っ……何食ってんの!?


「待ちくたびれたから、そこの露店でミソカツを買ってきたのよ」

「無駄遣い!? 俺が1Mbでも安く済まそうとしている横で、これでもかと無駄遣いがされている!?」


 くそっ! ちょっといい匂いだな! 俺も食いたくなってきたわ!


「その辺で一旦休憩にして、コーしゃまも何か食べてみてはどうじゃ? この街の食べ物はとても美味しいのじゃ」


 はぁ……こいつらは。買い物の仕方を知らないんじゃないだろうか。

 今度じっくりと教えてやらなきゃダメかもな。


「分かったよ。でもとりあえず、何か一つだけでも装備品を買っていこう」


 こいつら、今ここを離れたらあぁだこうだと渋って、俺をここへ近付けないようにしそうだからな。

 服じゃなくても、装飾品でもいい。少しでも防御力の足しになる物を買って、エルセに持たせてやる。

 恰幅のいいオバサンが店主を務める女性用の装備が並ぶ露店。そこをラストと決めて、俺はこんな注文を投げかける。


「店主。この店で一番防御力の高い装備を見せてくれ。こいつに持たせてやりたいんだ」


 俺からエルセへの贈り物だ。

 これは、感謝の印でもある。


 こいつは昨日、俺の厄介な『断れない性格』を肯定してくれたしな。

 あれは……本当に嬉しかったんだ。


 だから、まぁ、素直に感謝とかは恥ずいんでアレだけど……

 こうやって、エルセを守る贈り物って形で、感謝を形にしたいと思ったのだ。


「そうねぇ、この店で一番防御力が高いっていえば……これかしらねぇ」


 そう言いながら、露店のオバサンが提示してきたのは――



『守護精霊のおパンティ:少ない布地からは想像もつかない高い防御力を誇る』



 ――とってもセクスィ~なパンツだった。


「……コーシさん…………サイテーです」

「相変わらずの変態ぶりね、コーシ」

「コーしゃま……それはちょっと擁護出来ないのじゃ」

「うっわ、俺の親切心、滅多打ちっ!?」


 その後、露店からの強制退場を仲間三人から言い渡された俺は、市場の屋台で味噌カツを齧りながら、装備品の重要性を懸命に解いて聞かせた。

 俺の熱意がようやく伝わり、連中も装備品の大切さを少しは理解してくれたようだ。


 結局、「各々で好きな装備品を一つずつ買ってこよう」ということで話は落ち着いた。

 買い食いで小遣いを使いきっていたエルセには、俺の分から5千Mb渡してやり、俺たちは市場へと向かった。






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