50話 装備品
大通りの脇に延びる細い路地。その両側に露天商が並び、シムの街の市場は活気に満ちていた。
見たこともないような果物なんかが並んでいると、「あぁ、異世界なんだな」って気になるよな。
「見てください、コーシさん! まるごとバナナが置いてありますよっ!」
……くそ。
異世界情緒が台無しだ。
コンビニかっ!
シャリーンっと、エルセが冒険者カードで精算している。
あ~ぁ、買っちゃったし。
「見て、コーシ。とても珍しい果物があるわよ」
「お、どれだ?」
「ほら、でこぽん」
「馴染み深い!」
いや、そりゃ年がら年中見かけるようなもんではないけどさ!
違うんだ、俺が言ってるのは!
「コーしゃま、コーしゃま! アケビじゃよ」
「珍しい! 確かに珍しいんだけど! そうじゃないんだよ、俺が求めている物は!」
もっとこう、異世界ならではってヤツなんだよ、分かんないかなぁ!?
「コーシさん……」
「今度はなんだよ?」
「……まるごとバナナかと思って齧りついたら…………まるごとキュウリでした」
「珍しっ!?」
「クリームとキュウリは……合いません」
異世界人の味覚はどうなっているんだ……
「って! だからそうじゃなくて! ……もういい」
どうせこの世界は、先にやって来ている転移者のせいで思いっきりジャパンナイズされているんだ。異世界情緒は諦めよう。……う~っわ、本当に売ってるよハッピーターン。
「コーシ。あのハッピーターンを装備すれば、防御力が上がるわよ」
「すぐバレる嘘を吐くな」
ハッピーターンを装備するってなんだ!? どんな状況だ!?
「とにかく、食い物はほどほどに、みんな装備品を充実させるんだ。命に関わることだからな」
「あ、見てくださいスティナさん。あのワンピ、凄く可愛いですよ!」
いや、聞けよ、人の話!
「大丈夫じゃ。あれは『溶岩魔神のワンピース』じゃ。装備すれば炎耐性がグッと上がるのじゃ」
「そんな物騒なワンピースなの!?」
見た目は白いヒラヒラの可愛らしいワンピースなのに……魔神の力が宿っているのか。
「ほれ。こうして冒険者カードを通してみると、そのアイテムの説明書きが読めるのじゃ」
ニコが写メを撮るような感じで冒険者カードをワンピースに向ける。
するとワンピースの画像が取り込まれ、その横に説明文が表示された。
『 溶岩魔神のワンピース サイズ:S
清楚な白い布ながらも下着が透けない安心設計。
手揉み洗いの後日陰干しすること。
ちょっとしたパーティ―にも着用可 』
「防御力とかの説明が欲しいかな!?」
「じゃが、洗い方を間違えればすぐに傷んでしまうのじゃ」
あぁもう! なんとなくゲームっぽい世界観のくせにどうしてこう生活じみているのか……
「ねぇ、店主。これは去年の春モデルよね? なら、もう少しまけられるはずよ」
「値切んなよ!?」
流行の移り変わりとか考慮しなくていいだろう、異世界での服装!?
「コーシさん! ちょっと来てください!」
そんな中、エルセが酷く興奮した様子で俺の腕を引く。
なんだ? 何があったんだ!?
「あのオジサンを見てください!」
それは、どこからどう見ても普通のオジサンで、変わった様子はどこにもない。
このオッサンがなんだってんだ?
「話しかけてみてください」
いつになく真剣なエルセに押されて、俺はオッサンに声をかける。
すると――
「装備品は買っただけじゃ効果を発揮しないから、きちんと装備しなきゃダメだぞ」
あの人だぁっ!?
RPGの世界には必ずいる、武器屋そばの村人Aだっ!?
「すげぇ! 本物だっ!」
「凄いですよね!? 実在したんですね!?」
「……あなたたちがなぜはしゃいでいるのか、私には皆目見当がつかないのだけれど?」
お前には分からないだろよ、スティナ。
このオジサンはな、俺の国では知らない者がいないくらいに有名な人なんだよ。
もっとも、外見や口調は作品ごとにまちまちではあるけどな。
「サインもらおうかな」
「色紙とマジックって売ってないですかね!?」
「ないだろうな……くっそ異世界め!」
サインは無理なので、とりあえず握手だけしてもらい、俺たちはオジサンと別れた。
いい記念になった。
あとは、「村長さんがお前を探していたぜ」っていう幼馴染の男に会いたい。
まぁ、俺はその村の出身じゃないから無理かもしれんが……はたから見るだけでもいいんだけどなぁ。
「コーしゃまとエルセ、嬉しそうなのじゃ」
「私には、まったく理解出来ないけれどね」
現地民の二人にはこれが日常なのだろうな。
なんだろう。まさかオジサンのセリフで異世界に来た実感が湧いてくるとは思わなかった。
「コーシさん。異世界っぽい獣の串焼きを買ったんですが、食べますか?」
「お、いいのか? ありがとう」
エルセも機嫌がいいのか、気前よく食い物を分けてくれた。
「あと、トロピカルっぽい木の実のドリンクです」
ヤシの実をパッションピンクにしたような大きな実の中に、乳白色の果汁がなみなみと入っているドリンクを渡される。
「それから、冷やしパインとかもありましたよっ!」
「エルセ」
にこにこと、両手いっぱいに持った食い物を分けてくれるエルセなのだが……どんだけ買ったんだよ!?
「お前、装備品買う気なんだろう!?」
「えっ、でもわたし、お祭りでも食べ専ですし!」
「祭りじゃねぇんだ、これ!」
エルセの冒険者カードを強奪し、残高を確認すると……800Mbしか残っていなかった。……こいつ、この短時間で9200Mbも買い食いしやがったのか……
「エルセ……」
「は、はいっ!」
じろりと睨むと、「やってもうたぁ~!」みたいな顔で懸命に視線を逸らす。
……ったく、こいつは。
「俺が何か買ってやるから、ちょっと付き合え」
「へ?」
俺も金の管理には向かないタイプなのできつくは言えないが……
こいつの装備は俺が管理しよう。でなきゃ、こいつはずっと初期装備のままだろうからな。……やれやれ。




