4話 職業選択の自由……は?
「それでは、続いて職業の登録をしてください」
アイザさんが再び『魔法的タブレットPC』を操作すると、先ほどとは違う文字が画面に浮かび上がった。
「あの。職業って、『冒険者』じゃないんですか?」
「は?」
俺のまっとうな問いにアイザさんは、「何言ってんだこいつ? 常識ないんじゃねぇの?」みたいな顔をする。
「何を言っているのですか? 常識がないのですか?」
言っちゃったよ!?
思ったこと、心に留めておけないタイプの人なのかな!?
綺麗な顔してりゃなんでも許されると思うなよ? ……思ってそうだな、この人!?
「すべての方が、ギルドに登録した時点で『冒険者』となります。その上で、女神様の恩恵を受けて特殊な力を発揮出来るこれらの職業に就くのが通例となっています」
と、アイザさんは受付カウンターに設置された『魔法的タブレットPC』の画面を指さす。
その画面に、職業の一覧が表示される。
ところどころ『××××』と表示されているのがあるが、それはきっと俺が選択出来ない職業なのだろう。
「戦士に武道家……魔法使いや治癒師。学者や薬剤師なんてものまであるんですねぇ」
画面を覗き込んでエルセが言う。……こいつ、この世界に詳しいんじゃないのかよ。ものすげぇ興味津々だな。
「各職業の解説を見てみますか?」
「じゃあ、お願いします」
アイザさんが「出来る女」バリの指さばきでパネルにタッチすると、画面が切り替わり各職業ページが開かれる。職業名の横に表示されている解説文を見てみると――
『 戦士:カキーンカキーン、ザシュー! 』
擬音っ!?
「こういう職業になります」
「いや、確かにそうなのかもしらんけど!?」
思わず敬語が吹き飛ぶほどの衝撃があった。
しかも、戦士に関する説明は以上らしい。もっと色々書くべきことあるだろう!?
もしかして、他の職業もみんなこうなのか!?
アイザさんに視線を向けると、画面をタッチして次のページを表示してくれた。
『 武道家:ポカスカポカスカ、アチョー! 』
『アチョー!』って言っちゃったじゃん!? 擬音の縛りは守れよ、せめて!
で、おい武道家よ! 『ポカスカポカスカ』って、お前二回に一回攻撃ミスしてるからな!? 命中率低過ぎるだろう!?
「では、次です」
『 魔法使い:もにゅもにゅもにゅ……バシュー! 』
魔法の音おかしい!?
『もにゅもにゅ』言ってるけど!? え、なに? 詠唱!?
「魔法使いにはお年を召した方が多いもので。おそらく、入れ歯でも落としたのでしょう」
人によるだろう、だとするなら!?
若いヤツはもにゅもにゅ言わないよね!?
「次は回復系の職業ですね」
『 治癒師:かいわれ~……きらりらーん! 』
「『かいわれ』ってなんだぁーっ!?」
「野菜です」
「違ぇよ!」
「違いませんが?」
「いや、違わないけど! 違うじゃん!? 俺の求めてる回答はそれじゃないじゃん!?」
じゃあ何か?
この世界の回復魔法は「かいわれ~」って言って発動するのか?
大切な仲間が瀕死の重傷を負ったら、「お願いっ、死なないで! かいわれっ! かいわれぇぇえっ!」って、涙ながらにすがりついたりするのか!?
爆笑するわ、その場面に居合わせたら! 大切な仲間の一大事だったとしてもねっ!
「コーシさん! 治癒師になってくださいよっ! ぷぷぷっ!」
人をおちょくった顔をさらすエルセを見て、絶対治癒師にだけはなるまいと心に誓った。お前がなれ! 指さして笑ってやるから。
「コーシ様には、魔法使いをおすすめいたします」
「へ? 魔法使い?」
意外な職業に、俺は思わず聞き返してしまった。
だって、MPが『論外』で、知力が『話にならない』んだぞ?
どう考えても肉体系の職業向きだろう。
それとも、ステータス以外の、何か重要な要素でもあるのか? 実は俺が、魔力的なチート能力を隠し持っているとか!?
「登録された職業の初期装備をギルドから支給するのですが、魔法使いの装備だけ在庫が山のように残っているのです」
「そりゃ、説明文が『もにゅもにゅ』ならみんな避けるわ!」
「ご協力を」
「やかましい!」
なんでギルドの在庫処分のために魔法使いにならなきゃいかんのだ!
職業ってのは、今後の成長、ひいては生活そのものに関わってくる重要なファクターだぞ!?
そんなふざけた理由で決められるわけ……
「……そう、ですよね。申し訳ございませんでした。忘れてください」
…………決められるわけ。
「それでは、コーシ様。現在観覧出来る職業の中から、お好きな職業を選んでください」
ほんの一瞬見せた悲しげな表情は、すぐに元の無表情へと塗り替わった。
だけど…………あぁ、ダメだ。
俺ダメなんだよな……女の子の、あぁいう顔。
なんていうか…………なんとかしてやりたいって、思っちまうんだよな。
「……魔法使いで」
「……え?」
「魔法使いでいいよ。どうせ、他の職業にだって適性があるわけじゃないんだし」
そうだ。どうせ変わらないなら、誰かが喜んでくれる方がお得じゃねぇか。
「コーシ様……」
アイザさんは一度目を伏せ、そしてもう一度、真っ直ぐに俺の目を見つめて言った。
「職業はもっと慎重に選ばないと死にますよ?」
「お前が言い出したことだろうが!」
こうして、半ば意地になって、俺は魔力が『論外』の魔法使いになった。




