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論外魔力の魔法使い  作者: 宮地拓海


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43話 コーシの治らない性分

 やっかみ魔獣の大河豚を倒した俺たちは、ギルドから10万Mbの報酬を受け取った。

 そこからもふらの食費として6万Mbを引き、残った4Mbを俺たち四人で等分して、一人当たり1万Mbの稼ぎとなった。……日当一万。まぁ、こんなもんか。

 グレイスは「ワタシの意思で同行しただけだ。報酬はそなたらで分けるといい」と、受け取りを辞退した。

「その代わり、次こそイチャイチャさせてもらうからな!」などと、不穏な発言を残していきやがったが……


「それじゃあ、今日はもう仕事を終わりにして、自由行動としましょう!」


 エルセの提案で、俺たちは本日の業務を終了することにした。

 終了宣言と同時に、エルセはもふらをもふりに行くと走っていってしまった。

 ニコは調べたいことがあると冒険者ギルドへと向かい、スティナは「もうお家帰る」と、さっさとニコの家へと帰っていった。


 もふらのエサは、俺が買いに行くしかなさそうだな。

 俺の冒険者カードには、エサ大の6万Mbと、俺への配当1万Mb、計7万Mbが入っている。

 ちょっとした小金持ちだ。


 冒険者ギルドを離れて、市場の並ぶ大通りを歩いていると……一人の女性が道端にうずくまっていた。

 慌てて駆け寄る。


「だ、大丈夫ですか?」


 具合でも悪いのかと声をかけると……その女性は泣いていた。


「す……すみません…………うぅっ!」


 顔を上げた女性は、堪え切れないといった様子で、俺の胸に飛び込み、声を上げて泣いた。

 ……何がどうしたんだ?


「実は……母が重い病なのですが…………薬を買うお金が……なくて……っ!」


 あ……これはいけない。

 ダメだぞ、俺。

 これは、みんなで稼いだ金だ。俺の金じゃない。絶対ダメだ…………ダメだからな。


「7万Mbあれば…………母を、助けてあげられるのに……っ! 私、私……っ!」


 あぁ……つくづく…………自分が嫌になる。


「じゃあ、この金を使いなよ」


 …………みんなに、なんて謝ろう。


「いいんですか!? あぁっ! 神様……この巡り合わせに感謝します! これで、母が助かります…………っ!」


 涙で声を枯らせ、女性が天に祈りを捧げている。

 これで…………よかった、のかな?

 よかったんだよ、な? 彼女の母親が助かるんだから…………


 冒険者カードを介して、金銭の受け渡しを行う。赤外線通信みたいなやり方で、俺の冒険者カードから7万Mbが…………消失した。






「あぁ……やっちまたなぁ…………」


 女性と別れた後、言いようのない自己嫌悪に襲われて、俺は大通りのすみっこに座り込んでいた。……残金、ゼロ。もふらのエサ、どうしよう。


「あれ? コーシさん?」

「……エルセ」


 しゃがみ込む俺の前を、ほくほく顔のエルセが通りかかった。

 何かいいことでもあったのか?


「聞いてくださいよ、コーシさん! もふらのお家が見つかったんです! グレイスさんとニコさんが手続きをしてくれて、街の中にもふら小屋を作ってくれたんですよ!」


 嬉しそうに話すエルセの笑顔が…………痛くて、俺は顔を逸らしてしまった。


「あれ? どうしたんですか?」


 話さなきゃ……そして、謝らなきゃ……


「実は……」


 俺は、まるで懺悔でもするかのように、真実を打ち明けた。






「よかったじゃないですか」


 俺の話を聞いたエルセの第一声はそんな言葉だった。

 底抜けに明るい顔で、嬉しそうな顔をしている。


「それで誰かの命が救われたなら、有意義な使い方だったと思いますよ」

「いや、でも……もふらのエサ代が……」

「そんなの、また稼げばいいんですよ」


 あっけらかんと、エルセは言う。

 こいつ……本気で言ってるのか? それとも、俺を慰めようと……


「それに、コーシさんがそういうの見過ごせない人だって、わたしは知ってますから。むしろ、その人を見捨ててたら怒ってたくらいですよ」


 可愛らしく眉を吊り上げ、次の瞬間には笑みを浮かべる。

 ……こんな反応をしてくれたのは、こいつが初めてだ。

 俺のこの厄介な性分は、いつだって、誰にだって不快感しか与えてこなかった。


 こいつは……エルセは…………違うのか?


「それ、どんな人だったんですか? やっぱりコーシさんがデレデレしちゃうような美人さんだったんでしょ?」

「美人は関係ねぇよ……まぁ、美人だったけど。そうだな、例えば……あ、ちょうどあんな感じの……」


 と、酒場から出てきた女性を指さそうとして……思考が停止した。


「今日は私の奢りだよ! じゃんじゃん飲もうじゃないかぁ!」


 その女性は、まさしくアノ女性で……


「臨時収入があったのさ。チョロい男がいてさぁ! さぁ、次の店行くよ!」


 数人の男を侍らせて別の酒場へと入っていく姿を見て、俺は「あぁ、やっぱりな」と思っていた。

 いくらなんでもあのタイミングで偶然俺に声をかけたなんて出来過ぎてるよな……

 そうじゃないかと思いつつも、やっぱり信じたくはなかった…………


「コーシさん……」


 エルセが俺の名を呼ぶ。

 罵ってくれるか? いつもみたいにバカにして笑ってくれるか?

 そうしてくれれば、幾分か救われるかもしれない。

 なのに……


「よかったですね」


 そんな言葉を、俺に言うのだ。


「重い病気の人は、いなかったみたいですよ」


 そんな、見当違いな言葉を。


「…………ごめん」

「なんでですか? いいじゃないですか。命を取られたわけでもないんですから」

「けど、みんなで稼いだ金を、あんなことに使われて……」

「他人の利益は、わたしたちには関係ないですよ。それより大切なことは……」


 エルセはたぶん、本当にバカなんだと思う。


「この次は、どんなクエストでお金を稼ぐかってことだと思いますよ」


 こんなことを、屈託のない笑みを浮かべて言うのだから。


「わたし、実は、ちょっとずつクエスト好きになってきました。なんかこう、『働いてるなぁ~』って達成感とは全然違うんでなんなんですけど……」


 てへへと、照れ笑いを浮かべて。


「みんなでわいわい冒険するの、楽しいです!」


 心底楽しそうな顔で笑う。

 それは、すべてを洗い流してくれるような眩しい笑顔で……これを見せられた後まで鬱々した気持ちを引き摺ってるのはこいつに失礼だ……そう思わせてくれる力があった。


「よし、分かった! じゃあ責任を持って、俺がバシバシクエストをこなしてやるぜ!」

「あははっ。なに言ってんですか。コーシさん戦力的には補欠じゃないですか」

「お前よか戦力あるだろう!?」

「わたしにはらぐなろフォンがあります!」

「ずっとバッテリー切れだろうが!」

「じゃあ充電させてください!」

「断る!」

「騙し取られたお金があれば……こんな苦労は…………よよよ」

「卑怯! お前、今それを持ち出すのはすげぇ卑怯だろ!?」


 こうして、隣でバカ騒ぎをしてくれるヤツがいるって…………なんか、いいな。

 こういうバカは……うん…………割と好きだ。


「コーシさん。何かあったらわたしを頼ってください。わたし、ずっとコーシさんのそばにいてあげますから!」


 …………くっそ。


 エルセなんかんに、ドキッとさせられるとは……


「最初は、お前が俺に泣きついたんだろうが」

「ということは、わたしは成長した……ってことですね!?」

「ポジティブだなぁ、お前。見習いたいわ」

「見習ってください! 是非!」


 金は働いて返そう。

 それよりも、こいつや、他の連中の前で腐るのだけは、絶対やめよう。

 エルセのおかげで、そう思えた。


「気持ちに整理がついたようね」

「コーしゃま。ドンマイなのじゃ」


 声がして、振り返ると想像通りの顔がそこにあって。


「スティナ……ニコ……」


 謝ろうかと口を開きかけた瞬間、スティナが人差し指を自分の唇に当てた。

『黙れ』のサインだ。


「お金を騙し取られたことはどうでもいいわ。コーシが馬車馬のように働けばすぐに取り戻せる額だもの」

「うむ。金などどうでもよいのじゃ」

「けれど……」


 ゆらりと、スティナの体から黒いオーラが立ち上る。


「コーシにあんな顔をさせたことは、許せないわね」

「そうじゃのぅ。ちぃっとお灸を据えてやる必要はあるのぅ」


 ニコの体からも、禍々しいオーラが立ち上る。


 こいつら……俺のために怒って……


「そういうことでしたら、わたしも協力しちゃいますよっ!」


 エルセがスティナたちの隣に並ぶ。


「それじゃあ、ちょっくら行くかのぅ」

「はいです!」


 不敵に笑う三人の美少女たちは…………俺から見ても、ちょっと怖かった。


「コーシはそこで見ていなさい」


 スティナが嗜虐的な笑みを浮かべる。

 ゾッとするくらいに……綺麗に見えた。


「ウチの世帯主に寄生していいのは私だけだということ……思い知らせてあげるわ」

「お前も寄生すんじゃねぇよ!」


 あぁ、でもやっぱり、スティナはスティナなんだな、って、ちょっとほっとした。






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