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論外魔力の魔法使い  作者: 宮地拓海


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42話 河豚

「デカいっ!?」


 浅いはずの川に、突如現れた巨大な魔獣。

 その姿は、どう見てもフグだった。


「海の魚がなぜ淡水にいるのかしらっ!?」

「そんなことは割とどうでもよくないか!?」


 確かに、フグが川にいるのはおかしいけども!


「とにかく逃げるぞ!」

「そうね!」


 俺たちだけじゃ勝ち目がない。

 俺はスティナの手を取って走り出した。

 砂利を踏みつけて魔獣から距離をとる。


「きゃあっ!?」


 突然、スティナが地面へと倒れ込んだ。

 なんだ!?

 魔獣の攻撃でも食らったのか!?


「スティナ、大丈夫か!?」

「す……」


 スティナを抱き起すと、整った顔を苦痛に歪めながら、スティナが足を押さえる。


「素足で砂利の上は…………死ねるっ」

「不健康だから足つぼが必要以上に効いたんだよ、お前は!」


 ちょっとした刺激で悶絶しそうだもんな、この不健康の塊!


「靴を履かせてちょうだい」

「そんな暇あるか!」

「じゃあおんぶ」

「お前なぁ!?」

「痛くて立てない……」


 えぇい! そんな泣きそうなうるうるした目で俺を見るな!

 断れなくなるんだよ、そういう顔されると!


「しょうがねぇな! 負ぶされ!」

「やっぱりお姫様抱っこがいいわ」

「贅沢抜かすな!」

「馬になりなさい」

「調子に乗んなよ!?」


 どこの女王様だ、お前は!?


「私が馬になれと言ったら馬になるのよ、このブタ!」

「馬かブタかややこしいわ!」


 いっそ、こいつをここに放置して逃げてやろうかと、そんな気持ちが腹の底からむくむくと湧き上がってきたところで――


『いーーーーーーなぁーーーーーーーーーーーー!』


 ――魔獣が咆哮した。

 そして、俺を睨みつけると、口から霧状の何かを浴びせかけてきやがった。


「ぐおっ!?」


 紫がかったキリを浴びた瞬間、全身に鈍い痛みが走り、痙攣するようなしびれに見舞われて、俺は指一本動かせなくなってしまった。


 くそ……っ、またしびれか!?


「……スティナ……逃げ、ろ……っ!」

「無理よ! ここじゃ立てないもの!」


 痛がってる場合か!?


「エルセたちが、来るまで……逃げ切れっ!」


 もうすぐあいつらが駆けつけてくれる。

 それまで、なんとか逃げ切るんだ!


「……それに、コーシを置いて逃げるなんて、出来ないわ」


 バカ。俺はいいんだよ!


「お前がどうにかなる方が、俺にはこたえるんだよ! いいから逃げろ!」

「……っ」


 俺の言葉を受け、スティナが胸を押さえる。

 一瞬見せた表情は、泣きそうな顔にも見えた……だが、すぐにスティナは笑みを浮かべる。


「ふふ……さすがね、コーシ」


 そう言うスティナの腕に、純白の光が集まっていく。


「……今のセリフ。なかなかきゅんポイントが高かったわよ」


 不遜に笑うスティナの頬は、誤魔化しようがないほどに赤く染まっていた。


「あなたを助けるわ。逃げなさい」


 開き直ったかのように、真っ赤な顔をさらすスティナ。

 俺に向かって腕を伸ばし、呪文を唱えるスティナ。


「我、聖女イスメーネ様の御心のままに――」


 しかし、その背後に魔獣の影が迫る。


「スティナ! 逃げろ!」

「――苦しむ者を救済せし! 『すずしろ』っ!」


 呪文の発動と共に、俺の体からしびれが消え失せる。

 そして……


「きゃぁああっ!?」


 魔獣がスティナに襲いかかる。


「スティナッ!」


 砂利を掴んで立ち上がり、転倒しながらも駆け出す。

 間に合え! 間に合えぇぇえっ!


 巨大なフグがスティナに覆い被さる。

 スティナは必死の抵抗を試みて、その結果、巨大なフグの顔にその白く細い、あまりに頼りない素足で蹴りを入れる。

 その瞬間――



『ぶひぃぃいいいーーーーーーーーーーーーーっ!



 ――けったいな鳴き声を上げて、巨大なフグが恍惚とした表情をさらした。

 ……は?


「コーシィッ!」


 背後からグレイスの声が飛んでくる。

 振り返ると、三人がこちらにかけてくるところだった。さすがというか、グレイスだけが群を抜いて速い。

 一人で先に俺のもとへとたどり着く。

 そして、恐ろしい形相で俺を睨みつける。


「今おびき寄せたら、ワタシの番はどうなる!?」

「お前の番に回さないように今おびき出したんだよ!」

「ワタシの結婚はどうしてくれる!?」

「他当たってくれる!?」


 つか、状況を考えろよ!?

 さっさと魔獣を倒せよ!


 でないと、スティナが…………


『ぶひぃいい!』

「ちょっと! 気持ちの悪い声を出さないでくれるかしら!? まるでブタね!」

『ぶっひぃぃいいっ!』


 ……なんか、上手いこと魔獣をあしらっている、な?


「あの、コーシさん。同じ性癖の持ち主として、この状況を説明してくれますか?」

「駆けつけて二秒で暴言を吐くとはいい度胸だな、エルセ?」


 俺が暴れん坊な将軍だったら、二秒で成敗してるところだぞ。


「ふむ。どうやら、この魔獣をおびき出すには、この魔獣の嗜好に訴えかける必要があったようじゃの。ワシらのやり方では出て来んかったわけじゃのぅ」


 魔獣の嗜好って……


「気持ちの悪い顔を近付けないでくれるかしら? 不愉快なのだけど!」

『ぶひぃいっ!』


 …………アレ、か?


「そういえば、フグって、『河豚』って書きますよね……」


 河に棲む豚か?

 意味違うだろう、それ? 


「どきなさいというのが聞こえないのかしら、このブタっ!」

『ぶっひぃいぃぃい!』


 うわぁ……すげぇ喜んでる。

 生足で顔面を蹴られて、こうまで恍惚とした表情になれる生き物なんだなぁ、この魔獣は。


「退治するか」

「そうじゃの」


 ニコの魔法でさらっと退治してもらう。

 これ以上は見るに堪えない。


 グレイスが物凄く膨れていたけれど、クエスト完了だ。



 ……つか、あぁいうことをしないと姿を現さなかったあの魔獣の目撃情報が多く寄せられていたってことは…………


 川原で何やってんだよ、冒険者カップル!?


 由々しき事態だ。

 魔獣討伐の前に、そっちの教育をしっかりするべきだと、俺は思うね。まったく!






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