41話 スティナを脱がす
「さぁ、コーシ。尽くしなさい」
「ごめーん! 終了ー! みんな戻ってきてー!」
「ちょっと待ちなさい。まだ始まったばかりよ?」
二人きりになるや、横柄にふんぞり返ったスティナを見て確信する。
こいつと二人きりは面倒くさいことになる。
「スティナは俺の手に余り過ぎるんだが」
「安心なさい。そのうち慣れるわ」
「慣れたくない。全力で!」
お前の介護に疑問を抱かなくなったら、それはもはや洗脳だろう。
川原にある手ごろな大きさの岩に腰掛けて、スティナは俺を見上げている。
……お前は立つことすら億劫になったのか?
「私はあなたとイチャイチャするつもりはないわ」
「それを聞いてちょっとホッとしたよ」
「あなたが私をチヤホヤなさい」
「それを聞いてちょっとイラッてしてるんだが?」
ここの魔獣って、カップルを見て出てくるんだよね!
介護を見せつけても出てこないんと思うんだけどな!?
「多少のサービスはしてあげるわよ」
「へ……っ!?」
スティナの口から「サービス」なんて言葉が飛び出して、……不意打ちだったこともあり……不覚にも、ちょっとドキッとしてしまった。
「…………エロコーシ」
「そ、そうじゃねぇよ! そういうんじゃねぇから!」
別に変なこと想像したわけじゃねぇよ! ちょっとビックリしただけだ!
薄く頬を染め、俺から胸を隠すように身をよじるスティナ。
やめろ。そのポーズが逆にちょっとセクシーに見えんだよ。普通にしてろ普通に。
「靴を脱げば川には入れそうね」
水深は浅く、川の流れは緩やかだ。
ズボンを少し捲れば川に入ることは可能だろう。
スティナはスカートだし、少し捲れば問題はないか。
「入るか?」
「そうね、カップルといえば入水ですものね」
「……お前が言うと不幸な出来事にしか聞こえねぇな」
幸いなのは、この川ではそういう不幸な事故は起き得ないってことか。
浅いしな。
「コーシ」
俺の名を呼んで、スティナが右足を持ち上げる。
俺へ足を向けて、つま先をプラプラと揺らす。…………なんの真似だ?
「脱がさせてあげるわ」
「自分で脱げ」
「サービスよ」
「それのどこがサービスだ?」
「美少女の衣服を脱がすチャンスなんて、あなたの人生において、この先もうないかもしれないのよ?」
「ブーツじゃねぇかよ! 何が衣服だ!」
「カップルはみんなやっていることよ?」
「やってるか、そんなこと!」
やっぱりスティナはちょっと感覚がズレているようだ。
二次元の男に散々甘やかされた弊害だな、これは。
「エッカルト様にしてもらってたのか、こういうの?」
「ばっ!? ……バカね。エッカルト様の前で肌をさらすなんて……恥ずかしくて出来るわけないじゃない」
「……で、俺ならいいのか?」
「あなたに照れる必要がないもの」
こいつは……
きゅんセリフで盛大に照れたくせに。
「俺も一応男なんだけどな」
「コーシ……私はね、有機物ならなんでもいいわけじゃないのよ?」
「随分と広い括りだな、オイ!?」
男とか人間とか以前のレベルなのか、俺は?
「ほら、早くなさい。川で遊びたいわ」
「これは恋人関係じゃなくて主従関係だな。よし! 放棄する!」
これ以上スティナと絡んでも損をするだけだ。
さっさと見切りをつけて次に行こう。
「……いいのかしら?」
意味深な笑みを浮かべて、スティナが俺を見上げてくる。
なんだよ、その含みのある顔は。
「私の次はグレイスよ?」
「あいつの方がまだお前よりまともな思考してるだろうよ」
「そうね。男女の仲という面においてはそうかもしれないわね。……ただし、私でケリを付けられないと、あなたは確実に後悔することになるわよ」
そう言ったスティナの目は、冗談を言っているようには見えなくて……背中をイヤな汗が伝う……
「グレイスはね……」
きらりと、スティナの瞳が怪しく光る。
そして、その口からもたらされた言葉に――
「カップルごっこ開始早々あなたを押し倒して力づくで既成事実を作るつもりのようよ」
「すみません、協力してください!」
――土下座した。
なんとしてもここでケリを付けなければ!
グレイスの本気は、きっと俺では太刀打ち出来ない。
嫌だ、こんなところで、そんな心の傷を負うのは。
それなら、多少面倒くさくても、スティナの介護をしている方がマシだ。
「では、靴を脱がせなさい。大丈夫よ。きちんと言うことを聞けば、きちんとカップルっぽいこともしてあげるから」
盛大な上から目線が若干気にかかるが……カップルっぽいこともしてくれるって言うし……なら仕方ないか。
「分かった。今だけはお前の言うことを全部聞いてやる。その代わり、絶対俺とイチャイチャしてくれよ」
「ちょ……っ!? ま、真顔でそういうこと言わないでくれるかしら?」
足はこちらに伸ばしたまま、限界まで首を向こうへ向ける。
「あなたが、そういう行為を期待しているように聞こえるじゃない」
「なっ!? ち、違ぇよ! 魔獣をおびき出すために……!」
「分かっているわ! けれど、そういう風に聞こえて……少し、勘違いしてしまうのよ」
「いや、すんなよ!」
「恥ずかしいのっ!」
「何ギレだ、それ!?」
俺がスティナに惚れて、何がなんでもイチャイチャしたいがためにお前の言うこと聞いてるって、そんなわけないからな?
魔獣をおびき出すまでの期間限定だからな!
「ほ、ほらっ。……ぬ、脱がせなさい、よ」
「お、おう! 脱がせてやるよっ」
くっそ。自分でやっといて照れるな。こっちまでドキドキしちまうだろうが。
俺は一度大きく息を吐いて、無心でスティナの靴を脱がせた。
するりと、ゆっくりと脱げるブーツから、スティナの真っ白な足が現れる様は……なんつうか……これでもかってくらいに艶めかしくて…………顔が熱い……
「……コーシ」
名を呼ばれ、胸が高鳴る。
「私と、カップルっぽいことを、しましょう」
スティナにも照れがあるのか、たどたどしくそんなことを言う。そのたどたどしさがまた……ドキドキに拍車をかけていく。
よし。落ち着いて。
目的を果たすんだ。
スティナとカップルっぽいことをして、魔獣をおびき出す。
よしやるぞ!
顔を上げてスティナと視線を合わせる。
すると、スティナはとてもナチュラルな笑みをこちらに向けて、囁くような、けれどはっきりとした口調で呟いた。
「舐めなさい」
「お前の中のカップル像、どうなっちゃってんの!?」
「ご褒美よ、ブタヤロウ」
「張っ倒すぞ?」
目の前を、スティナの白い足が行ったり来たりする。
「カップルとは、こういうことをするものなのよ」
「するかっ!」
どこの世界にこんな危険なプレイを屋外でやるカップルがいるんだ!?
――と、思った瞬間。
『いーーーーーーーーーーーーーーなぁーーーーーーーーーーーー!』
浅かったはずの川底から、巨大な魔獣が姿を現した。
もふら並みの巨大な魚型魔獣が、スティナの背後、川の中から俺たちを睨み降ろしていた。
……どうなってやがるんだ、コレ!?




