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32話 論外の意味

 俺の魔力が……ニコの数百倍?

 なんの冗談だ?


「証拠ならあるのじゃ。のぅ、みなも見たじゃろう? コーしゃまが全力を込めて放った『イビル・クレバス』がもふらの頬を貫通したのを」


 確かに。

 それでもふらの炎が漏れ出して自滅したのだ。


「バカな! 『イビル・クレバス』は口内炎を作るだけの魔法。貫通などするものか!」


 異論を唱えたのはグレイスだった。

 周りの冒険者たちはいまいちピンときていないようだ。まぁ、見るからに戦士だの武闘家だの、魔法とは無縁そうな連中ばかりだしな。


 それにしては、剣士っぽい風貌のグレイスは詳しいな。


「グレイスは魔法に詳しいのか?」

「お。呼び捨てにしたということは嫁として認めたということか?」

「ことではないな、グレイスさん、いや、ギルド長」

「グレイスでいい。グレイスと呼んでくれ」

「いえ、そんな。親しい間柄でもないですので」

「……呼んでくれなければ、お前の仲間を一人ずつ消す」

「怖ェな、お前!? マジでやめろよグレイス!」

「………………ぽっ」


 これほどときめけない赤面も初めてだ。


「なに。ワタシが魔法に詳しいのはニコラコプールールーのおかげなのだ」

「うむ。グレイスはよくワシの家に遊びに来ておったからのぅ」

「なにせ、ワタシには友人と呼べるものがニコラコプールールーくらいしかおらんからな。友達が極めて少なくてなぁ…………くすん」

「泣くなよ!」

「……コーシが酷いこと言った」

「言ってねぇわ!」


 勝手に地雷組み立てて全力でこっちに放り投げてくるのやめてくれる!?


「あの、ニコさん。ということはですね……」


 面倒くさいグレイスを無視して、エルセはニコに尋ねる。

 賢明な判断だな。


「コーシさんの凄い魔力を全力で叩き込んだから、もふらの頬を貫通するような口内炎が出来た……ということなんですか?」

「うむ。その通りじゃ」


 えぇ……なにそれ、ちょっと怖い。


「けど、コーシさんの魔力って、ステータスに『論外』って書かれてましたよ?」

「うむ。じゃからの」


 俺の腰にしがみつき、ニコが嬉しそうに言う。


「コーしゃまの魔力は、『論じる必要もないほどの規格外』ということじゃ」

「魔力が多過ぎて……と、いうことね」


 スティナの補足に、固いつばを嚥下する。


『論外』って、そういう意味だったのかよ。


「そうでなければ、ワシの魔力をこう何度も何度も回復など出来んじゃろうに」

「言われてみればそうですね」


 エルセとまったく同じタイミングで、俺も納得してしまった。

 ニコをフル充魔させるには、それ以上の魔力が必要になるのは当然のことだったんだ。


「コーシさん……」


 エルセが微かに震える瞳で俺を見つめてくる。


「わたし、コーシさんと一緒にいられて、よかったです」

「そのセリフ、らぐなろフォンを握りしめながらじゃなかったらもうちょっと感動出来たんだけどな」


 人を充電器扱いすんじゃねぇよ。

 ニコのと違って、なんか屈辱的なんだよ、スマホを頭に載せられるの。


「それじゃあ、コーシのきゅんセリフが必要以上にきゅんとするのも、それで……」

「それは違う。それだけは違うから」


 スティナがきゅんとするのと魔力には一切の因果関係ないから。

 ……つか、きゅんとするとか、さらっと言わないでくれるか? ちょっと恥ずかしいっつの。


「では、コーシの握手がバリアを超スーパー貫通するのも……」

「それもはや魔法すら関係ない話になってるから!」


 百歩譲って、スティナのはまだ回復魔法の発動条件だったわ!


「このように、コーしゃまの魔力は常人離れしておるのじゃ。ゆくゆくは、ワシをも超える大魔法使いになるかもしれんのじゃ」


 俺が……大魔法使いに……?


「コーシが、大魔法使いに……だと?」


 グレイスが俺をジッと見つめる。

 な、なんだよ?


「嫁に来い、コーシ!」

「なんか色々おかしいぞ、お前は!?」


 テメェが来い!

 あぁ、いや違う! お前は来んな!


「くそっ! この流れで『お前が来いよ!』とか言われるかと思ったのにっ! そしたらこの場で嫁になってやったのにっ!」


 危ねぇ! 言いかけてた!

 なんか、いろんなもんと隣り合わせなんだな、異世界って!?


「あれ? でもおかしくないですか?」


 アホのエルセが一丁前に何かに気が付いたようだ。

 エルセでも何かに気が付くことってあるんだなぁ。


「コーシさん、使えない魔法ありましたよね?」

「あ、そういえば」


 俺は、ニコの店で買った四冊の魔導書の内、一冊だけ開くことが出来なかったものがある。

『サンクチュアリ・ベール』という、新刊を凄く綺麗に保存する人向けの魔法だ。……まぁ、使えなくてもいいかなと思ってたからあんまり気にもしていなかったのだが。


「魔力がそんなに凄いなら、使えないのはおかしいんじゃないですか?」

「あぁ……それはのぅ……」


 ちらりと、ニコが俺を見る。なんだか、申し訳なさそうに。


「コーしゃまの知能が……『話にならない』じゃから、じゃのう」

「そっちは本当に『話にならない』なのかよ!?」


 魔力は逆の意味だったのに、知能は素直に話にならないレベルなのかよ!?


「ぷふぅー! ……おバカ」

「黙れ、アホのエルセ」

「ひどいです! アホじゃないですよ! 可愛いです!」


 くっそ……こんなアホにバカにされるとは…………



 俺は、これから必死にレベルを上げてやると、心に誓ったのだった。






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