31話 もたらされる真実
「おぉ。ニコラコプールールーではないか?」
「うむ。久しいの、グレイス」
どうやら、ニコと冒険者ギルドのギルド長・グレイスは顔見知りらしい。
……あ、そういや、もふらの討伐をギルド長から頼まれていたと言っていたっけな。
「ようやく片を付けてくれたか」
「待たせてしまって悪かったのぅ」
「いや。そなたの考えていることも分からんではないからな……しかし、上手くやったな」
グレイスがもふらを見上げて口角を上げる。
にっこりではないにせよ、微笑んだその顔は女性らしくて綺麗だと思った。
「ニコラコプールールーでなければ、そなたは殺されていたのだぞ。感謝するのだな、魔獣よ」
「もふらぁ」
「ふふっ。どうやったのかは知らんが、よく懐いておるではないか。自分の名を名乗ったぞ」
もふらの鳴き声を聞いて、グレイスがくすくすと笑う。
おぉ、なんかすげぇ美人に見える。やっぱ女性の笑顔は凄いな。
「そなたは『ごもら』というのか」
「もふらですよ!?」
「耳大丈夫か、あんた!?」
エルセと俺が同時に突っ込む。
と、グレイスはむっとした表情を見せる。
「ごもごもしておるから『ごもら』でよいだろうに」
「もふもふしてるんですよ!」
「ごもごもってどんな状態だ!?」
またもエルセと俺の声が重なる。
すると、むむむっと一層難しい表情を見せるグレイス。
「おもらしコンビがうるさく言うでない」
「「おもらしコンビじゃない!」ですよ!」
酷い言いがかりだ。名誉棄損待ったなしだな。
「おい。ニコラコプールールーよ」
「なんじゃ?」
「そなた、そのおもらし(オス)と手を繋いでおるが……放した方がいい。ばっちぃぞ」
「誰がばっちぃおもらし(オス)だ、こら!?」
失礼に失礼を重ねていくのがお前の流儀か!?
お前の口に口内炎を作ってやろうか!?
「えんがちょバーリア」
……イラ。
なんだろう、この女。
ギルド長で、強そうで、威厳とかめっちゃありそうな印象持ってたんだけど……とりあえず修正。
お前はムカつくな。
よし。
丁寧なあいさつをしてやろう。
「これは挨拶がまだでしたね。この度ギルドに新しく加入しましたコーシです、どうぞよろしく」
笑顔で言いながら右手を差し出し、握手を求める。
「くっ! やめろ! バリアを張ったのを見ていなかったのか!? 近付くな!」
「残念だったな。俺の握手はバリアを貫通するんだ」
「そんなのズルいぞ! じゃあ、超バーリア!」
「超スーパー貫通するんだ」
「うっ! え~っと、じゃあ……じゃあ……っ!」
「えい。タ~ッチ」
「ふなぁぁああああっ!?」
グレイスの二の腕にぺったりとタッチする。……と、すげぇ悲鳴を上げられた。
その反応、小学校でやったらいじめになるんだぞ。ちょっと傷付くわ。
「ふぅぅ……バリアしたのに…………っ、バリアって言ったのに……ぐずっ! ズルい! ズルい! ズルコーシ!」
「子供か!?」
なんか、思ってたのと、全然違う。
なんだったんだよ、「下手に逆らうな」とかいうニコのアドバイスは……
「ふぃぃん…………もう、お嫁に行けない……」
「そこまで言うか!? さすがに傷付くぞ!?」
「責任を取れ! 取らんと承知せんぞ!」
「誰が取るか!」
なんで二の腕にタッチしただけで結婚せにゃらなんのだ!?
「…………汚された」
「待て待て待て! 人聞きが悪過ぎる!」
グレイスは、顔面を真っ青にして、ふらふらと立ちくらみ……もふらへともたれかかってもふもふを楽しむ。……遊んでんじゃねぇか。
だというのに……
「おい、あいつ……」
「あぁ、サイテーだな」
「ギルド長を汚しておきながら……」
「責任取らないとか……」
「ギルド長、可哀想……」
待て待て待てぇ~い!
「お前ら見てただろう、この一連の流れ!?」
「「「見てた!」」」
「じゃあ、分かるだろう!?」
「「「あぁ! お前が悪い!」」」
「なんでだ!?」
理不尽な憤りに身悶える俺の袖が、ちょいちょいと引っ張られる。
振り返ると、ニコが沈痛な面持ちで首を振っていた。
……なに、その表情?
「グレイスは、戦いの訓練ばかりに青春を費やし、恋には疎かったのじゃ……それで、その反動がここ数年……」
「え……じゃあ、さっき言ってた融通がどうとかって……」
「目を付けられると、後々まですっごく面倒くさいのじゃ……」
わぁ~お。すげぇ手遅れ、その情報。
ざっと辺りを見渡すと、さっきまで騒いでいた冒険者どもが一斉に目を逸らしやがった。
……はっは~ん。さてはお前ら、グレイスの面倒くささを知っていて、俺に押しつけようとしてやがるな? 自分に火の粉が降りかからないように!
「おい、受付よ! ワタシの純情を踏みにじった鬼畜に、討伐クエストをかけてくれ」
「はい。ただちに」
「待て待て待て待て! そこのギルド長と褐色の受付嬢!」
お前らは、この十分そこそこで俺に何回『待て』と言わせる気だ!?
いいから、魔法的タブレットPCをカタカタする手を止めろ、受付嬢のアイザ!
「まぁ待つのじゃ、グレイスよ。とにかく、クエストの報告を聞いてくれんかのぅ。コーしゃまも困っておるのじゃ。少しは落ち着くのじゃ」
再び俺の手をキュッと握ってニコが言う。
それを見てグレイスが視線を鋭くする。……またばっちぃとか言う気じゃないだろうな。
「ニコラコプールールー! ワタシのコーシに気安く触れるでない!」
「お前、心の針、振り切り方が尋常じゃねぇな!?」
汚物扱いからいきなり『ワタシのコーシ』かよ!?」
「コーシさんのジゴロスキルがまた上がってますね……」
「由々しき事態ね……コーシの無節操スケベにも」
「おいそこの身内二人。ちょっとは俺の味方につこうって気持ちを見せろよ」
俺が厄介ごとに巻き込まれるとすぐ遠くへ避難しやがって。
「報告を聞いてくれるなら考慮するのじゃ」
「では、話せ! 今すぐに! 話して離せ!」
グレイスが子供のように吠える。
こいつに任せてていいのか、ギルド長……
「まぁ、大方。その者たちの援護を受け、そなたの魔法で仕留めたのであろう? 聞くまでもないわ」
「違うのじゃ」
ニヤリと、ニコが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「このもふらを撃退したのはワシではなく、コーしゃまなのじゃ!」
「バカな! 冒険者になりたての魔法使いにどうこう出来る魔獣ではなかろうに!」
「コーしゃまはただの魔法使いではないのじゃ」
まぁ、魔力が『論外』のへっぽこ魔法使いだわな。
「コーしゃまの魔力は――」
その直後、ニコの口から発せられた言葉に、俺の思考は一瞬停止してしまう。
「ワシの数百倍以上もあるのじゃ!」
……え? それ、マジで?




