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論外魔力の魔法使い  作者: 宮地拓海


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30話 ギルド長との初対面

「もっふもふだぁー!」

「もふぅーっ!?」


 もふらに害がないと知るや、街の連中はこぞってもふらに飛びついてきた。


「こ、こらぁ! 乱暴にしちゃダメですよ! 優しくもふってあげてくださーい!」


 もふらの飼い主を公言するエルセが声を上げる。

 前飼い主が魔王で、現飼い主がエルセ……凄いところに名を連ねたもんだな、お前。


「街に入れても、なんの問題もなかったな」

「そうじゃな。ふふふ……」


 俺の手を握るニコが嬉しそうにによによしている。


「ペットのお散歩デートなのじゃ」

「なんか俺の知ってるヤツとは見た目が全然違うんだけど……」


 お散歩デートって、お互いのイヌとか連れてするヤツじゃねぇの?


「ニコのペットがもふらで、コーシのペットがエルセというところかしら?」


 スティナがそんなことを言う。

 えぇ~やだなぁ、そんな頭の悪いペット。


「コーシさん! もふらが街の人たちにもふられまくってます!」

「いいじゃねぇか。もふらもなんか嬉しそうだし」


 魔王にいらない子認定されたもふらだ。可愛がられるのが嬉しいのだろう。


「けど……可愛いからってもふらのことも考えずにベタベタ触って、ワーキャー騒いで……動物は人間のおもちゃじゃないんですよ!?」

「まぁ、それはそうだけど……」


 エルセが真面目なことを言う。

 こいつ、本当にもふらのことを大切に思ってるんだな。

 ただ単にもふもふだからわきゃわきゃ可愛がってるだけじゃないのか。


「もふらが嫌がるまでは許してやれよ。な?」

「イヤです! 独り占めしたいです!」

「それが本心か!?」


 ちょっとでも見直して損した!


「ほれ、もう冒険者ギルドじゃ。あそこに入れば少しは落ち着くじゃろう」


 もふら触りたさに近寄ってきた子供や女子たちは冒険者ギルドの中にまでは入ってこないだろう。

 ニコの言う通り、これで少しは落ち着くだろう…………と、思ったのだが。


「うぉおおおっ!? なんじゃこりゃー!」

「もっふもっふじゃねぇか!?」

「わしゃあ、こういうもふもふに弱いんじゃぁぁあ!」


 ギルドの中にいた筋骨隆々のオッサンどもが、ほのかに頬を染めて「むはぁ~、たまらんっ!」みたいな顔で群がってくる様はなかなかにカオスだった。


「きしゃあああああっ!」


 ほら、もふらも怖がってる。


「おぉ、照れとるぞ、このもふもふ!」

「はっはっはっ! シャイな子じゃのう!」


 ポジティブだな、オッサンども!?


「ニコさん! 今こそ、充魔した魔力でこのオッサンどもを焼き払う時です!」

「新しい魔王にでもなるつもりか、お前は」


 もふら可愛さに暴走しかけているエルセを落ち着かせる。


「毒を! 今、一瞬だけもふらの毒を復活させませんか!?」

「大問題になるわ!」


 ギルドで冒険者が集団で猛毒にやられたら、最悪俺らが討伐対象になりかねない。


 とはいえ……この騒動はなんとかしないとなぁ……


「せめて、もふらがもう少し臭ければ、こんな揉みくちゃにはされませんのに……っ!」

「そしたら、お前がもふる時も臭いんだぞ?」

「わたしが触るところだけは清潔にしておきます!」

「なに、その無駄な労力?」


 そんな時、すすすっと、スティナが俺に近付いてくる。


「いい案があるわ」

「聞こうか」


 あんま期待出来ないけど……


「もふらの上でおもらししたことにすれば、きっとみんな離れていくわよ」

「……真顔でなに言ってんの、お前?」

「ほら、ニコとか、近そうだし」

「そ、そんなことないのじゃ!? ワ、ワシは、その…………そういうのしないのじゃ!」


 いや、ニコ……80年代アイドルじゃないんだから……


「エルセは嬉ションとかしそうよね」

「どんなイメージ持たれてるんですか、わたし!?」

「あぁ……エルセなら、あるかもしれんのぅ」

「ニコさんにまで!?」


 ちょっと泣きそうな顔でエルセがスティナとニコを交互に見つめ、最後にキッと俺を睨む。


「コーシさんもわたしにそういうイメージ持ってるんですか!?」

「……いや、俺に振るなよ……」


 そんな話、女子と面と向かって出来るかよ。

 察しろよ。こっちはいまだ現役で思春期なんだよ。


「何を騒いでおる」


 その声が聞こえた時、ギルド内の空気が一瞬でピリッと張り詰めた。


 なんだ?


 見ると、ギルドの二階へ続く階段から一人の女性が降りてくるところだった。

 赤い髪を一つにまとめた、涼やかな表情の美人。


「……ギルド長じゃ」

「えっ」


 小声でニコが教えてくれた情報にビックリだ。

 あの美人が冒険者ギルドのギルド長?

 随分若くないか? 二十歳……いや、まだ十代くらいだろ、あの人。


「あやつ……グレイスはこの街最強の剣士じゃ。少々融通が利かんところもあるから、下手に逆らわん方が身のためなのじゃ」

「……なるほど」


 融通が利かなそうな雰囲気はあるな。

 キリッとした表情とか、姿勢の良さとか……厳しそうだ。


「おい、そこの少女よ」

「ふぁ、ふぁいっ!?」


 ギルド長グレイスに声をかけられたエルセが素っ頓狂な声で返事をする。


「何を騒いでいたのだ? 説明をせよ」

「わ、わたしが……ですか?」

「そうだ。さっさと話せ」

「は、はいっ!」


 凄まじく威圧的な視線を向けられて、完全に委縮してしまったエルセは、最大限テンパって……俺を指さした。


「コ、コーシさんがわたしのおもらしに興味津々だという話をしてましたっ!」

「って、こらぁっ!?」


 ピンと張り詰めていたギルド内の空気がどよめき、全員の視線が俺へと注がれた。

 えぇい、そんな残念な変質者を見るような目で俺を見るな!


 ……残念な変質者ってなんだ!?



 こうして、エルセへのお仕置きが確定する中、俺たちはギルド長と初対面したのだった。






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