29話 もふらを連れて街へ帰還
「ケージを買いましょう!」
「あるか! こんなデカいハリネズミが入るようなケージ!?」
「回し車も!」
「だからねぇっつの!」
魔獣ネコっ毛ハリネズミのもふらの背に乗り、俺たちは墓地の中を移動している。
ギルドに説明をして、この毒袋を見せることで任務完了としてもらうらしい。
魔獣の討伐とは、殺害するだけではなく、その危険性が解消されてもクリアとされるようだ。
シムの街の西門にたどり着くと、門番たちが大挙して押し寄せてきた。
「魔獣だー!」
「総員、戦闘準備! 退治しろー!」
槍を向ける門番たちに、ニコが手を振って声をかける。
「待つのじゃ! 魔獣の討伐はもう終わったのじゃ」
「そうですよ! うちのもふらはとっても大人しいいい子なんですよ!」
「この子に怪我でもさせたら、呪い帖に子々孫々まで名を連ねることになるわよ」
エルセがニコに続いて説得をし、スティナがよく分からない脅しをかける。
……よく分かんないけど……子々孫々までこいつに恨まれるのは、嫌だなぁ……
「あのシワ……あのしゃがれた声……ニコラコプールールー様だ!」
『お前の物は俺の物』を使用し、さらに時間も経ったことで、ニコはまたシワシワになってしまっていた。
それがいい方に作用したのか、出る時とは違い、門番たちは一目でニコを認識したらしい。
「おぉ! あの方が!? 確かに、貫禄のあるシワシワだ!?」
「シワシワ様が魔獣を討伐してくださったぞ!」
「シワシワばんざーい!」
「ばんざーい! シワシワー!」
「シワシワー! シワシワー!」
「……残り少ない魔力じゃが…………ヤツらを薙ぎ払うっ」
「落ち着け! 落ち着けニコ!」
手のひらに紅蓮の光を集結させ始めたニコを抱きしめ落ち着かせる。
「じゃけど……酷いのじゃ」
「なぁに、元のお前に戻れば、連中も黙るさ」
「そうかのぅ……」
「そうだよ。本当のニコはすげぇ可愛い女の子だからな」
「にょふっ!? …………はぁあぁあ……かわいいって……コーしゃまに、かわいいって…………ニコは三国一の幸せ者なのじゃー!」
ニコが俺の胸に飛び込んで、ギュッと抱きついてくる。
ってぇ! 毒! お前、今、手に毒袋持ってるから!
胸にたっぷんたっぷん当たってるから!
「コ、コーしゃま……あの……きゅってしてくれると……充魔がはかどる……の、じゃけどなぁ~、なんて」
「はいはい。ぎゅっとな」
胸に飛び込んできた十四歳の美少女は、現在シワシワのお婆ちゃんになっている。
……なんか、こういう時っていっつもシワシワだよな…………こういうのって普通さぁ、もっとぴちぴちした女の子とさぁ……それでドギマギしたりさぁ…………折角巨乳なのにさぁ……っ!
「コ、コーしゃま…………は、早くぅ……じゃ、よ?」
あぁっ、このおねだりも元の声で言ってほしかったなぁ!
さっさと充魔を完了させるためにも、俺は持てる力のすべてをかけて、力強くニコを抱きしめた。
「はぅっ! ……はゎぁぁあああああっ! ニコは、三国一の…………いや、四国一の幸せ者じゃぁぁああっ!」
「範囲狭まってますよ、ニコさん!?」
エルセが珍しくもっともなことを言う。
日本、インド、中国(三国)が香川、愛媛、徳島、高知(四国)になったからな。
けどまぁ、それくらいの規模の方が理解の範疇で、逆に凄そうな感じがするけどな。
ニコがつやつやになるまで待って、俺たちはもふらの背中から降りた。
女子小学生のような外見になったニコを見て、門番たちが目を丸くする。
まぁ、驚くわな。
「……シワシワの婆さんと熱烈ラブシーンを演じたかと思ったら……」
「……こんな幼い幼女にまで手を……いや、毒牙を…………」
「……鬼畜」
「……女ならなんでもいいんだな……」
「……むしろ、男らしいとすら言える……」
「……あぁ、ちょっと尊敬するな…………」
……こいつら、何の感想を言い合ってるんだ? ん? 言ってみろよ、こら。
「お前ら下がれ!」
ざわざわする門番たちを押し退けて、がっちりとした体付きの兵士が一人、俺たちの前へとやって来た。
口元に蓄えた髭と、その風格から、この兵士が門番たちをまとめるリーダーであることは一目瞭然だった。
「西門の門番長、ダガーです」
おぉっ、刃物みたいに危険な男って感じだな。
「フルネームは、ダガー・シカシです」
「凄い残念!? ギャップって、時に残酷だね!?」
そんな残念な門番、ダガーは、俺たちに向かって深々と頭を下げる。
「魔獣討伐、ご苦労様でした。ストライクゾーン・広蔵様」
「それどっかで有名なの!?」
二回目なんだけど、言われたの!?
「魔獣を街へ入れることは原則禁止なのですが……」
ちらりと、ダガーが俺とニコを見る。
「ニコラコプールールー様とストライクゾーン・広蔵様がいれば問題ないでしょう」
俺は、どの分野で敬われてるんだ?
どこから来る信頼だ、それは?
「魔獣が大人しいことの証明にもなりますでしょう。皆様ご一緒にギルドへ向かってください。こちらから一報を入れておきます」
もふらを連れて街に入ってもいいらしい。
「やりましたね、もふら! ずっと一緒ですよ!」
「もふら~!」
…………ん?
鳴き方変わってない?
なに? 自分のキャラ前面に押し出していくタイプの生き物なの、お前?
「念のため、この者に同行させます」
街に魔獣を入れることへの保険だろう。
一人の門番が俺たちに同行するらしい。
そいつは、ガタイがよく、角刈りで頬に傷があり、いかにも百戦錬磨といった風貌の男だった。
そして――
「『それでは、ご案内します!』」
――声が、物凄く甲高かった。
「きしゃぁぁああああっ!」
「落ち着いてください、もふら! 大丈夫! あの人は敵じゃないですよ!?」
「『あの、私が何か?』」
「きしゃぁぁああああっ!」
「『ひぃ! 怖い!』」
「ちょっとその甲高い声の人を黙らせてください!」
……街に入れて、本当に大丈夫なんだろうな、こいつ…………
甲高い声の門番はやめて、声の野太い門番に同行してもらい、俺たちはシムの街へ入り、冒険者ギルドへと向かった。




