33話 魔獣討伐の報酬
「さて。ワタシのコーシWithユニークエンジェルズよ」
「酷い名誉棄損ね。呪い帖があなたの名前で埋まりそうだわ」
「天使なんかと一緒にしないでください!」
グレイスの物言いにもツッコミたいところだが、スティナの相変わらずの陰鬱オーラと、エルセの「向こうのセリフだろ」的クレームにも突っ込まないといけないと思っているうちにタイミングを失してしまった。
これが捌けるようになるころには、俺のツッコミはベテランの域に達していることだろう。
目指す気はさらさらないけどな。
そんな中。ただ一人、どっしりと構えそんな些細なことにいちいち反応を示さないニコ。
やっぱり、大魔法使いだけあって心にゆとりがあるのだろう。
「コーしゃまの……唯一の天使……ワシがっ!?」
あぁ……『ユニーク』を、物凄くいい解釈で受け取ってるなぁ……あれ、ニコの心のゆとりって、ゆとり世代的なこと?
「そなたらに、魔獣討伐の報酬を与える。額が大きくなるだろうから二階で手続きを行うぞ」
「そんなにもらえるんですか?」
「うむ。二ヶ月くらいは生活に困らん程度といえるだろう」
「わたしっ、二ヶ月あれば一千万くらい使える自信あります!」
「私なら、二千万はいけるわっ」
『キリッ!』っとした顔でエルセとスティナが小鼻を広げる。
『キリッ!』じゃねぇよ。
誰が二ヶ月間浪費し放題だと言った?
普通に生活して二ヶ月分の生活費程度の額だってことだよ。
まぁ、おそらく、三十万から五十万ってところだろうな。物価は日本とほとんど同じだし。いや、でも異世界だともう少し少ないかもな。
「ニコ。どれくらいもらえるか知ってるか?」
俺たちの中で一番詳しいであろうニコに尋ねてみる。
二ヶ月分の生活費相当の報酬額を。
「だいたい一万Mbくらいかのぅ」
「すげぇ倹約家!?」
それで二ヶ月は無理!
お前、芸能人が一万円で一ヶ月過ごすだけでテレビ番組になるんだぞ?
なんでその二倍も生活しようとしてんだよ!?
「実はの、本来は八十万Mbもらえるんじゃが……」
「ニコよ。アノ話は本気だったのか?」
「無論じゃ。でなければ、もふらの討伐クエストなど受けなかったのじゃ」
なにやら、二人の間で密約があったらしい。
「まぁ、なんにせよ、ここでする話ではないだろう。上に来い。もしくは、ここにいる冒険者を全員亡きものにするか?」
「「「上に行けぇ新人! 俺らに迷惑かけんなぁ!」」」
すげぇユニゾンで命令された。
仲良しか、お前ら。
「あ、あの……中に何人か、ハモってる人がいましたよね?」
「高度な音楽性を感じたわね」
感じるな、そんなもん。
「コーしゃま……ワシ、わがまま、言う……かも…………しれんのじゃ」
申し訳なさそうに俯いて、ニコが呟く。
おそらく、ニコにはどうしても成し遂げたいことがあり、そのために俺たちを利用したのだ。
腕試しという、とってつけたような理由をでっち上げてな。
もしかしたら怒ってもいいことなのかもしれないが……
そのおかげで、自分のステータスについても知れた。
なんだかんだで、メリットの方が大きい気がする。もふらも、死なずに済んだしな。
「詳しくは話を聞いてからになるが……」
肩をすくめるニコ。
今にも泣きそうな顔をしている。
そんな顔すんなって。
「ニコがどうしてもやりたかったことなんだろ? じゃあいいよ」
「……コーしゃま……っ」
うるうると、また目に涙を溜める。
ただし、先ほどとは、その涙に込められた思いは違いそうだ。
「前から思っていたのだけれど。コーシは少しニコに甘過ぎないかしら?」
「あれは、コーシさんの体質というか、性格の根底に根付いたもので、どうしようもないんですよ」
女の子の頼みを断れないという俺の体質をそのように説明するエルセ。少々困ったような顔をしている。
「つまり。おっぱい至上主義なのね」
「違うっつうのに!」
エルセにだって優しくしてんだろう、俺!? エルセ、すっかすかなのに!
グレイスに続いて階段を上る。
もふらはさすがに二階へは上がれないため、一回のホールに置いていく。
二階の廊下を進み、奥にある豪華な部屋に通される。
「ワタシの部屋だ。寛ぐがいい」
「では、早速」
「待てスティナ。お前の寛ぎ方は絶対一般常識の範疇を超えるだろうから、お前は寛ぐな」
何も言わずに靴を脱ごうとしたスティナを止める。
こいつを寛がせるわけにはいかない。
「ニコよ。そなたが今手に持っている物が、そうなのか?」
「うむ、そうなのじゃ」
そう言って、ニコはもふらの毒袋を掲げて見せる。
「ワシが欲しいのは、この毒袋なのじゃ!」
…………ニコ。お前…………
「ニコさん、もしかして……」
エルセも、俺と同じことを考えたのかもしれない。
「全身にもふらの毒を行き渡らせた状態で、コーシさんに抱きつきたいんですね!」
「やめてくれ、ニコ! 俺が一体お前に何をした!?」
「違うのじゃ!? 全身毒女になりたいわけじゃないのじゃ!」
触れると動けなくなる猛毒を纏ったニコを想像して、顔の筋肉が引き攣る。
「ちゃんと説明するのじゃ。じゃから、椅子にでも座って、ゆっくり聞いてほしいのじゃ」
「分かったわ。寛ぎましょう」
俺は、聞き分けなく靴を、そして服を脱ぎ出そうとするスティナを少々きつめの体罰を交えつつ懸命に止めて、緊張の表情を見せるニコに向き直った。
「ワシは……」
ニコがゆっくりと、自分の考えを語り始める。




