2話 ギルドへ行こう
シムの街はかなり巨大な都市のようだ。
石畳の道にレンガの家。どう考えても建設不可能だろうという形状のやたら高い塔まである。
幅の広い道には、多種多様な種族が行き交っている。雑踏と呼ぶべき混み具合で、道の両側に並ぶ店はどこも活気づいていた。
「異世界だな……」
「なんです、今更? まだ信じてなかったんですか?」
「いや、そうじゃないんだが……こう、目の当たりにするとな」
エルフにホビット、獣の耳と尻尾を生やした美少女なんかもいる。
曲がり角からリザードマンが出てきた時は素で悲鳴を上げた。
「あんまりきょろきょろしていると、田舎者だと思われてスリに遭いますよ」
「盗られて困るようなもんもないが……まぁ気を付けるよ」
金はエルセが持っている。日本円は当然使えない。
しばらくは、エルセの金を借りて生活することになりそうだ。
「まずは、冒険者ギルドへ登録しましょう。そうしないとお金も稼げませんからね」
そんなわけでやって来たのが、冒険者ギルドだ。
ギルドに登録して冒険者になれば、様々なクエストを受けたり、魔物の素材を買い取ってくれたりするらしい。
大通りに面する一等地にドデンと構える大きな建物。銀座にあるレトロな美術館を彷彿とさせるその外観は圧倒的な迫力と、レンガの織り成す繊細な色調と相まって、かなりの存在感を放っていた。
少々気後れしながらも中へ入ると、そこは広いホールになっていて、数えるのが嫌になるくらいの冒険者で溢れ返っていた。酒場や取引所のような場所がある。
「わたしたちの目的地はあっちですよ」
エルセが指さす先に、七つ並んだ受付カウンターがある。
登録はそこでするらしい。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。どのようなご用件でしょうか?」
凍てつくような冷たい視線の美女がカウンターの向こうから話しかけてくる。褐色の肌が妙に艶めかしい。だが、驚くほどに無表情だ。
何か嫌なことでもあったのかな? とか言ったら怒りそうなタイプなので黙しておく。
「コーシさん。あの人、何か嫌なことでもあったんですかね?」
「なんで言っちゃうかな!?」
思ったこと、すぐ口に出ちゃう娘か!?
我慢しろよ!
「ケンカの買い取りですね。承りました。表へどうぞ」
「違う! 違います! 冒険者の登録に来ました!」
無表情のまま腰を浮かせた褐色の美女を慌てて制止する。
勘だけど、俺、この人には勝てない。なんかもう、体つきからして強そうだもん。
「冒険者登録には一人800Mb(マルバ)が必要になります」
「エルセ、金頼む」
「もぅ~、あとで返してくださいよぉ」
誰のせいでこんなことになってると思ってんだ、こいつは。
渋々と、エルセが懐に手を伸ばす。…………その瞬間、エルセの顔が真っ青に染まる。
「えっ!? あれ!? ない! ない!?」
懐をぺたぺたと叩きながら、エルセが「ないない」と叫ぶ。
「確かに、ありませんね」
褐色美女がエルセの胸元を凝視して呟く。……いや、確かにないけども。俺も初めて見た時「あ、ないな」って思ったけども。そうじゃねぇよ。
「お金がなくなってます!」
「田舎者だと思われてスリに狙われたのではないですか?」
「…………」
俺に言ったことを、まんま体現しやがったわけだ。
なんつうか……
「お前。とことん残念だな」
「う、うるさいですっ! 今落ち込んでるんだからもうちょっと慰めてくれてもいいじゃないですかっ!」
「おそらく大丈夫でしょう。微かな膨らみの方がいいという人も、一定数いると言われていますので」
「そこじゃないです、慰めてほしいところ!? あと、うるさいですっ!」
有り金を財布ごとすられたらしいエルセ。
これで俺たちは無一文になってしまったわけだ。……冒険者登録すら出来ないのか。
金、どうすんだよ?
「もしお困りのようでしたら、特例クエストを受けてみますか?」
「特例クエスト?」
「冒険者登録のための費用を稼ぐ目的でのみ、冒険者以外が受けられるクエストです」
要するに、そのクエストをクリアすれば、冒険者登録の費用を負担してくれるってわけか。
「しょうがねぇな」
「ですね……受けるしかないでしょうね」
どちらにせよ、俺たちは仕事を探しに来たのだ。
当面、この世界で暮らすための資金を稼ぐためにな。
「登録はお二人でよろしいですか?」
「そうですね。わたしも冒険者に身をやつし、頑張ってお金を稼ぎます! 少しは私にも責任がありますし」
「九分九厘、お前の責任なんだけどな」
異世界へ連れ込むわ、悪さがバレて帰れなくなるわ、有り金全部すられるわ……
けれど、十割有責と言わないこの俺の寛容さよ。
きっと、ステータスとか見たら『やさしさ:999』とかだと思うぞ。『思いやり:65535』とか、『紳士的な振る舞い:プライスレス』とかな。
「きっとわたし、ステータスとか見たら『おしとやかさ:プライスレス』って書かれてると思います」
うわ……アホの娘と同じこと考えてた。口外するまい。
「ステータスによって、就ける職業が変わります。また、ステータスは鍛錬を積むことでレベルアップさせることが可能です」
褐色美女が淡々と説明をしてくれる。
なんだかゲームみたいだな。レベルを上げてステータスを上げるとか。
「じゃあ、オシャレアイテムを買い漁れば『女子力』のパラメーターどんどん上がってっちゃいますね!」
うん。たぶん、こいつの『知能』って、上がることはないんだろうな。可哀想に。
そんなこんなを思いつつ、俺とエルセは『まるでタブレットPCのような形状の魔法的な何か』にステータスを計測してもらった。
そして俺ははっきりと告げられるのだ。
お前の魔力は、『論外』だと――




