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論外魔力の魔法使い  作者: 宮地拓海


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1話 あんまりにもあんまりです

 異世界『トードヴェイル』。


 俺が連れてこられた世界はそういう名前らしい。

 そして、現在俺がいるのが『シムの街』……シムシティ……舐めてんのか?


「……確認が取れました」


 長々とスマホをいじくり回していた残念美少女、エルセが肩を落として言う。


「システムが変わっちゃったみたいです」

「システム?」


 シムの街の酒場で、俺とエルセはテーブルを挟んで座っている。

 異世界人が行き交う酒場は昼間だってのに盛況だ。

 周りの騒音にかき消されない程度の音量で、エルセは現状の説明を始める。


「わたしは、神様に仕える者なんですが……」

「深刻な病だな」

「病じゃないです! ホントです!」


 まぁ、異世界転移なんて離れ業を見せられちゃ信じざるを得ないが……このアホの娘が神様の使い? 冗談にしか聞こえないな。


「それじゃ、エルセは天使とか女神とか、そういうヤツなのか?」

「いえ、営業です」

「………………ん?」

「天界にある派遣業者の、現場担当の、営業です」


 マジで営業だったのか、こいつ!?

 うわぁ……なんだろう、この馴染みのあるワード。

 天界に派遣会社あるんだ……


「ここトードヴェイルのような、現地民だけでは手に負えないトラブルを抱えた異世界から依頼を受けて、世界を救う転移者を派遣するのが主な仕事です」

「この世界のトラブルって?」

「魔王が復活したんです」


 あぁ、そういやちらっと言ってたな。魔王がいるから倒してこいとか。


「それで、わたしは異世界間を行き来して、この世界に転移者を派遣していたんです」

「にしても、なんで俺を選んだんだよ? どう考えても魔王に太刀打ち出来る要素がないだろう? 選考基準を教えてもらいたいね」

「一目見て分かりましたよ」


 エルセは両手を胸の前で組み、神に祈りを捧げるような神聖な顔ではっきりと言う。


「この人、チョロそうって」

「よぉし、表出ろ! 張っ倒してやる!」

「でもでも! これまでも、押しに弱そうな、断るのが苦手そうな、わたしみたいなかわいこちゃんに免疫なさそうな人を選んで上手くいってたんです!」

「相当な悪徳業者だな、お前んとこの派遣会社!?」


 気の弱いヤツに難題を押しつけてるだけじゃねぇか!


「そんな選考基準で、異世界のトラブルを解消出来るのかよ?」

「そこなんです!」


 テーブルを「バンッ!」と叩き、エルセが身を乗り出して吠える。


「今までは送り込むだけでポイントが貯まってたんです! なのに急に『成果を上げてないヤツにはポイントを入れない』って!」

「凄くまっとうな意見だと思うがな」


 使えもしないヤツを大量投入したって、いい迷惑だ。邪魔にしかならん。


「しかも! これまでわたしが送り込んだ転移者がことごとく使えなくて、そればかりか魔王軍側に寝返ったり、現地民に迷惑かけまくってるとかでマイナスポイント喰らいまくっちゃったんですっ!」

「お前がろくでもないヤツばっかり送りつけるからだろうが!」

「しかも! わたし個人の評価ポイントがマイナス判定になっちゃったせいで、力に制限がかけられたんですよ!? 酷くないですか!?」

「酷いな……お前が」

「折角、あと一人、あなたを無責任に異世界に置き去りにするだけで目標ポイント達成でしたのに! 最悪じゃないですか!?」

「最悪だな……お前が」

「わたしのマイナスポイント、チャラにするには魔王を倒すくらいしなきゃ無理らしいんです……」


 こいつ……ポイントのために転移者を無計画に異世界へ送りつけてやがったんだな。


「力を取り戻すには、こっちの世界にいる転移者を改心させてマイナスポイントを返上するか、マイナスを上回るくらいの功績を上げるしかありません……」

「自業自得じゃねぇか」

「どちらにしても、この世界を冒険しなきゃ達成出来ないんですよ!?」


 各地に散らばった転移者を訪ね歩いて改心させるか、力をつけて魔王を倒すか……どっちも無理ゲーだな。


「むゎぁぁぁあああっ! 力を失った、可愛いだけが取り柄のわたしに、魔王がいるような世界を冒険するなんて無理ですよぅ! 可愛さだけでここまで来ましたのにっ!」


 いや。こいつなら大丈夫かも。その逞しさがあればなんとかなんじゃねぇの。


「折角あと10ポイントでヴァルハバラに行く資格が手に入ったのにっ!」

「ヴァルハラじゃないのか? 秋葉原みたいになってるけど」

「酷いと思いませんか!? 性格ねじくれてますよね、オーデン様っ!」

「オーディンじゃないのか? 今んとこ、秋葉原のおでんみたいなニュアンスになってるけど、それでいいのか、お前んとこの天界?」


 どうやら、天界派遣会社の営業は、業績を上げて目標ポイントに到達すれば、主神であるオーデンが治める悠久の大地ヴァルハバラへ行き、永遠の幸せを手にすることが出来るらしい。


「楽して幸せになりたかっただけですのにぃ!」

「だからルールを変えられたんだよ。お前みたいなのがいるから」


 相当小ズルいことをしてきたんだろうな。じゃあマイナスポイントも相当か。

 魔王を倒してチャラになるくらいなら、それはもうかなりのマイナスなのだろう。


「……こうなったら、わたしも魔王軍に下って……」

「やめとけ、アホが!」

「でもぉ~! …………うぅ、どうしたらいいのか、もう分かんない……」


 テーブルに突っ伏し、ぐでぐでに溶けて、今にも泣き出しそうな表情を見せる。

 完全なる自業自得。同情の余地なし。

 おまけに、俺もその被害者の一人だ。

 こいつを見捨てることだって、俺には出来る。……けど。


 まぁ、一応反省はしているみたいだしな……


「あ、あのぉ…………わたしがこんなことをお願い出来る立場じゃないことは重々承知した上で、ご相談なんですが…………」


 媚びるように、こちらの機嫌を窺うように、エルセは上目遣いで俺を見つめる。

 今にも泣き出しそうな顔で、目を真っ赤に染めて。


「…………助けて、…………いただけないでしょうか?」


 散々喚き散らしていたヤツとは思えない、か細い声だった。

 はぁ……しょうがねぇな。


「分かったよ。ただし、魔王を倒すなんて期待はするなよ」

「……ですよね、無理ですよね、わたしの手伝いなんて………………え?」


 絶対に断られると確信していたのか、エルセは俺の言葉を正しく理解していなかったようだ。


「魔王は無理でも説得の方なら、……まぁ、なんとかなるかもしれない」

「え、……えっ!? あ、あの…………手伝って…………くれるん、ですか?」

「しょうがないだろう、だって」

「で、でもでも! わたし、身勝手な理由であなたを異世界に連れてきて……挙句にこっちのゴタゴタに巻き込んで……」

「その認識があるなら、今回だけは許してやるよ」

「…………っ!」


 もう、来ちまったもんはしょうがない。

 それに。俺が日本に帰るには、エルセの力が戻らないことにはどうしようもないからな。


「手伝ってやるよ。大したことは出来ねぇけどな」

「…………あなた、いい人……ですね」


 そう言って、エルセは柔らかい笑みを浮かべた。

 その笑顔は、まぁ…………なかなか、悪くはなかった。


「嬉しいです! 感激です! あぁっ! 最後に選んだのがあなたでよかったです! こんないい人に巡り会えるなんて…………神様って、本当にいるんですね……」

「いや、いるんだろ、オーデン様が。お前関係者だろ!?」

「不届き者ですが、よろしくお願いします!」

「不束な!? 不届き者とはよろしく出来ねぇから!」

「一緒に頑張りましょうね! 名前とか、まだちょっと覚えてませんけど!」

「セオ・コーシです! どうぞ、よろしくなっ!」

「イタタタタッ!? 痛い! 痛いですっ、コーシさん!? 覚えた! 覚えましたからっ!」


 差し出された不届き者の手を力任せに握り返す。

 成敗じゃ!



 ともあれ。

 こうして俺は、異世界トードヴェイルを、エルセと旅することとなった。






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