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27話 不憫な魔獣

「スティナや。この魔獣にも回復魔法をかけてやってはくれんかの?」


 猛毒から解放されたニコが、冒険者の墓地に転がる巨大な魔獣を指さす。

 ……え、生きてんの、それ?


「口内炎が痛くて拗ねておるのじゃ」

「いや、もっと盛大に大ダメージ喰らったろ。口内炎どころじゃないような」


 頬が貫通して頭大炎上してたじゃねぇか。


「体の外からの攻撃は、物理も魔法もほとんど効かんのじゃ」

「そういや、そういう設定だったな、こいつ」


 それでギルドが手を焼いているとかで。


「それで、ギルドもニコもこいつを倒せずにいたんだよな」

「……実はの」


 少し申し訳なさそうな顔をして、ニコが頭を下げる。


「ワシがその気になれば倒せないこともないような魔獣なんじゃ、こやつは」

「そうなんですか? ここに来るまでにしわしわになっちゃうのに?」


 エルセ、言葉選べよ、お前は。


「魔力が枯渇したらここで野宿して回復させればよいのじゃ」

「ダメですよ、ニコさん!? 野宿はお肌の天敵ですよ!」


 いや、その前に、しわしわになって動けねぇから野宿して回復させるって話だろうが。


「まぁ、そんな感じでの、二~三日かければ倒せなくはなかったんじゃ」

「それをしなかった理由があるということね」

「うむ」


 スティナがニコに尋ねる。

 その問いに、なんでかエルセが我が物顔で答える。


「分かります! 面倒くさいですもんね、二泊三日とか!」

「お前は黙れ。4メートル下がれ」

「結構遠いですよ、4メートル!?」


 もう、真面目な話に入ってくるなってことだよ。言わせんなよ。


「この魔獣はの、かつて魔王に飼われておったというのは覚えておるかの?」

「いいえ」

「まったく覚えてないです!」

「お前ら、もうちょっとしっかりしろよ」


 スティナもエルセも、人の話聞かなそうだしな。


「こやつは、不憫な魔獣なんじゃ」

「不憫……? この、人を襲うような魔獣が、かしら?」

「うむ……こやつは、この容姿から魔王に気に入られての」

「まさか、他の魔獣からやっかみでも受けたのかしら?」

「いや……魔王はの…………もふもふした生き物に『もふーっ!』ってするのが大好きなんじゃが……」

「サラッと魔王のイメージをぶち壊すような情報がもたらされたな」

「黙って聞きなさい、コーシ」

「わたしも『もふーっ!』ってするの好きですよ!」

「黙りなさいエルセ」

「それでの……魔王がこのネコっ毛ハリネズミに思いっきり『もふーっ!』とした結果……猛毒に侵されての」

「魔王何してんのっ!?」

「しょぼっしょぼですねっ!?」

「エルセ……あなたは人のこと言えないわよ」

「それで……この魔獣は捨てられてしもうたんじゃ……」

「最低だな、魔王!?」

「許せませんね、魔王!?」

「あなたたちの憤り。おそらく、世界中の人が魔王に抱いている憤りの千分の一以下よ」


 見た目が可愛いからペットにするとか浮かれて、実際飼ってみたら飼いにくいから捨てるとか、俺はそういうヤツが最も嫌いなんだ。


「回復させてやるわけには、いかんじゃろうか?」


 ニコがすがるような、物悲しい表情を見せる。

 俺たちは、下手をすればこの魔獣に殺されていたかもしれないわけで……けれど、ニコがここまで必死にお願いするなら……


「多数決を採るか」


 俺の判断では決めかねる。


「必要ないわね」

「助けてあげましょうよ、コーシさん」


 スティナとエルセがニコの隣に立ち、俺に相対する。

 なんだよこの、まるで俺一人が反対しているような構図は……お前ら、俺以上に甘いじゃねぇか。


「それじゃスティナ、回復させてやってくれ」

「きゅん力が足りないわ」


 ……こいつの魔法、面倒くさいな。


「スティナ。……お前なら出来るって、俺は信じてるぞ」

「――っ!? そ、そんな、期待なんて……されても、め、迷惑だわっ、きゅんっ!」

「きゅんと来てますねぇ」

「ちょろいのぅ、スティナは」


 うん、回復魔法って結構簡単なのかも。


 スティナがネコっ毛ハリネズミの傷を回復させている間に、俺はニコに話しかける。


「しかし、さすがというか……詳しいんだな、ニコは」

「ふむ。冒険者カードにメールマガジンが送られてくるからの」

「もうスマホじゃねぇか、それ!」


 どこの企業がなんの目的で発行してんだよ、メールマガジン!?


「けど、元気になったらまた人を襲うんですよね……」

「ふむ、それの対策は必要じゃが……ワシらが襲われたのには特別な理由があるんじゃ」


 特別な理由?


「ニコ、それって一体なんなんだ?」

「エルセのすまふぉじゃ」

「わたしの? チマチマですか?」

「うむ……そのちまちまの声がの…………魔王の声にそっくりなんじゃ」

「えぇ……なんで魔王の声、そんな甲高いのぉ……」



 またしても魔王のイメージをぶち壊すような情報がもたらされてしまった……

 甲高い声で「もふーっ!」とか言う魔王か…………大したことないんじゃね?


 俺の中で魔王に対する印象ががらりと変わった頃、魔獣ネコっ毛ハリネズミの治療が完了した。






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