26話 回復魔法
魔獣を倒したことで、俺とエルセはレベルアップし、共にHPとMP、及び状態異常が回復した。
「コーシさん、凄いです!」
らぐなろフォンを拾って駆け戻ってきたエルセが興奮気味に言う。
……つかさぁ。
「お前、らぐなろフォン切っとけよ。もう、そいつに振り回されるのは御免だ」
「もう魔獣も倒しちゃったし大丈夫だと思いますけど……そうですね。電源をオフに………………バッテリーが切れてます」
「遅せぇよ!? もっと前のタイミングで切れてろよ、どうせなら!」
なんて空気の読めないスマホだ!?
俺なら即解約するレベルだな!
「それよりも、ニコ。お前は回復しなかったのか?」
「ワシは……コーしゃまたちより、すこしレベルが高いからのぅ……レベルアップせんかったのじゃ」
そうか。
レベル差があるから、全員一斉にレベルアップするってわけじゃないのか。
「スティナ。ニコの毒と体力の回復を頼めるか」
「いいのかしら?」
「ん?」
ニコを抱いて屈む俺の前に立ち、スティナが思いっきり見下ろしてくる。
……威圧的だな、こいつはいつも。
「いいも何も、いいに決まってんだろう。早く回復させてやってくれよ」
「じゃあ、頑張りましょう、二人で」
「ん?」
……二人で?
回復魔法を使うお前と、回復してもらうニコの二人か?
「シスターの回復魔法には、MPとは違う特殊な力が必要なのよ」
「え……『かいわれ~』とか言って回復出来るんじゃないのか?」
「それは平均的な治癒師の場合よ。シスターは、より高度な回復魔法を使うのよ」
「コーシさん……より高度っていうことは、『さくらじま~』とかですかね?」
「うん、エルセ。回復魔法に『ダイコン縛り』とかないから、ちょっと黙って向こう行ってろ」
今こっち忙しいから。バッテリーの切れたスマホでも眺めてろ。
「私が魔法を使用するには……コーシ、あなたの協力が不可欠なの」
「俺の?」
じゃあ、二人ってのは俺とスティナってことか。
俺の協力って、ニコにやってるみたいに魔力を分け与えるのか?
……え。
じゃ、じゃあ…………スティナのことも、その、抱き、しめたり?
「……犯罪者顔炸裂ね」
「そんな顔してねぇだろ!?」
ヤバイヤバイ!
スティナは人の顔から感情を読み取る達人だったっけな。
「私にやたらと長い帯を巻かせてから『あ~れ~』ってしたいなぁ、みたいな顔はやめてもらえるかしら?」
「そんなことは考えてねぇよ!」
……訂正。
こいつは人の顔を見てありもしない疑惑を植えつける天才なんだ。
「コーシさん…………もう、なんでもありですね」
「お前もブレないな!? なに、それ言わないと減給とかされるシステムなの!?」
こいつを黙らせるためになら、スマホの充電やってやってもいいんじゃないかって気になってきたよ。
と、そんなことを考えていると、俺の目の前に一枚の紙が差し出される。
……なに、これ?
「これを、『誠心誠意、心を込めて、心持ちいい声で』朗読しなさい」
嫌な予感しかしないのだが……手渡された紙に視線を落とす。
『参ったな。天気予報は晴れだって言っていたのに……まさか、天使が降ってくるなんて思わなかったな。あはっ』
寒いっ!
特に最後の『あはっ』が凶悪っ!
何これ!?
「シスターが回復魔法を使用するには、『きゅん力』が必要なのよ!」
「つくづくしょーもねぇなぁ、シスター!?」
何を原動力にしてんだ!?
「これも、そのエッカルト様ってヤツのセリフなのか?」
「バカなの!? コーシごときにエッカルト様の代わりが務まるわけないじゃない! 身の程を知りなさい!」
すげぇ怒られた……
似たような髪型にして「見て見て~エッカルト様ヘアー」とか言ったらブチ切れるタイプの人間だな、こいつは。
「それは、隣国の王子スカラー・ディルスとの出会いのシーンのセリフよ」
「……攻略キャラ、結構いるんだな」
まぁ、様付けじゃないところを見ると、スティナの中では一段落ちるキャラなんだろうけど。
「コ、コーしゃま……」
「あぁ、すまん、ニコ。苦しいよな? すぐに回復してもらうからな?」
「い、いや……コーしゃまが嫌なら……ワシ、我慢するのじゃ……だから、やらなくてもいい……のじゃ」
「バカ。お前のためにやることなら、嫌なことなんかねぇよ」
「きゅんっ!」
「そっちをきゅんとさせてどうするのかしら!? 私をきゅんとさせるのよ!」
ったく、うるせぇなぁ。
……なんかもう、展開が見えてて憂鬱なんだよなぁ。
どうせあれだろ? 言い回しが違うとか、声が違うとか、そんな感じじゃないとか、色々難癖付けて何回もやり直させるんだろ…………あ~ぁ、億劫だ。
けど、ニコの毒は回復してやらなきゃな。
「それで、どんな感じで読めばいいんだ?」
「そうね……いきなり完璧を求めても不可能でしょうから……コーシの思った通りでいいわ。ただし、私のキュン力を高めるためにやるっていうことだけは、決して忘れないようにしてね。中途半端なことをしたらタダではおかないから」
俺の思った通り……ね。
俺はニコをエルセに預け、スティナの前に立つ。
ジッと目を見つめると、スティナはそっと視線を逸らした。
……照れんならやらせんなっての。ったく。
「『参ったなー。天気予報は晴れだって言っていたのになー』」
「ちょっとコーシ……真面目にやる気はあるのかしら? 棒読みもいいところじゃない」
……そう思うだろ?
「……えっ」
油断させておいて、俺はスティナの腕を掴んで強引に引き寄せる。
そして、体が触れるほど接近した後、耳元で囁いた。
「『……まさか、天使が降ってくるなんて思わなかったよ』」
「――っ!?」
スティナの耳が一瞬で赤く染まる。
そして、俺の胸をドンと押し、俺から距離を取るように後退する。
こちらを向いた顔は、目がまんまるに見開かれ、そして真っ赤に染まっていた。
「……『あはっ』」
最後に笑っておく。
と、スティナが「ひぅっ」と短い音を漏らした。
「そ、そういうのは、ドS傾向の強いエッカルト様の領分でしょう!? スカラーはクールだけど主人公にだけは優しい王子様系なの! ま、まったく、キャラ性をは、はき、穿き違えるとか、まだまだね、コーシも!」
と、そんなことを真っ赤な顔で言われてもな。
「ま、まぁ、今回は初めてだったし、こ、こんなもんでしょう……きゅ、及第点といったところね。きゅ、きゅん力もそれなりに溜まったし……よ、よしとしてあげるわ」
そう言いながら、両手を広げたスティナ。
その両手には夥しいまでの純白のオーラが渦を巻いてまとわりついていた。
ものすげぇ魔力集まってない!?
きゅん力、ぎゅんぎゅん上がってない!?
「ニコ、今すぐ回復してあげるわ」
いまだ熱の引かない顔で、スティナがニコへと両手をかざす。
「我、聖女イスメーネ様の御心のままに、苦しむ者を救済せし! 『すずしろ』っ!」
スティナの放った純白の輝きがニコを包み込む。
……そういえば、春の七草に含まれる『すずしろ』って、小さい大根だったよなぁ…………結局ダイコン縛りなのかよ、回復魔法!?
エルセ、中らずと雖も遠からずだったのかよ。
……ヤだなぁ、エルセレベルのセンスが日常的な世界……
「治ったのじゃ! 凄いのじゃ、スティナ」
「まぁ、私にかかればこんなもんよ」
……俺の活躍もお忘れなく。
手柄を独り占めしようとしているスティナにジト目を向けていると、不意に視線が合った。
そして、ばつが悪そうな表情をして、スティナがこんなことを言った。
「必要な時は私が指示を出すけれど……基本的には、コーシのオリジナルで構わないわ……今後は」
それだけ言い、ふいっと顔を背けて歩いていってしまった。
……なんだかなぁ。
割とヒット飛ばしたみたいだな、俺の『きゅんセリフ』。
お気に召したようで何よりだ……はは。嬉しくねぇなぁ…………




