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25話 ネコっ毛ハリネズミの撃退法

「何か手はないか?」

「そうね…………私も考えてみたのだけれど……」


 スティナが懐から飼育委員みたいなつなぎを着たエッカルト様のイラストを引っ張り出してくる。


「この動物園シチュのエッカルト様のシーンなら、ネコっ毛ハリネズミのハートにもきゅんとくるものがあるのではないかしら?」

「今すぐしまえ。土つけるぞ」

「神をも恐れぬ行為よ、それは!?」


 お前の言う神様って、新刊にはしっかりブックカバー付けちゃう感じの神様なのか?

 三冊くらい買いそうだな、新刊とか。


「私は攻撃の手段を持たないのよ」

「そうか。シスターだもんな」

「えぇ……トゲのついたこん棒で後頭部を殴打するくらいのことしか出来ないわ……」

「……それ、十分過ぎる殺傷能力持ってんじゃねぇか」

「モーニングスターは聖職者の愛用品なのよ?」

「お前にだけは絶対買い与えないから」


 こいつが持つとろくなことにならない気がする。


「けれど、治癒なら任せてちょうだい」


 スティナの整った顔がこちらを向き、俺を真正面から見つめる。


「どんな猛毒であっても、必ず私が癒してみせるわ」


 それは、シスターとしての使命感なのか、こいつ自身がもともと持っていた正義感なのか、はたまた、少しの時間とはいえ共に行動をした仲間に対する思いやりからなのか……

 とにかく、頼もしい響きを持った言葉だった。


「じゃあ、なんとしても助け出してくる」

「そうね。ただし、あなたまでネコっ毛の毒にやられないで頂戴ね」


 厳しい目が俺を見つめる。


「……三人は、担げないわ」

「あぁ。任せとけ」


 冗談っぽく言ったスティナだが、『三人担ぐ』……誰一人見捨てる気はないようだ。

 こいつは、意外といいヤツなのかもしれないな。


「もう、あなたたちしかいないのよ……」


 そして、寂しそうな顔をして言う。


「……私を扶養してくれるのは」

「お前はぁ…………ホンットにいい性格してるよな」


 戦う前に頭痛で寝込みそうだよ。

 なんでこの歳で将来の介護不安を抱えなきゃいけねぇんだ。


「しかし……問題はどうやってあの二人を助け出すかだが……」


 迂闊に近付けば俺も毒の餌食になるし、そもそも、今は大人しくなったがまた暴れ出されたら毒云々関係なく一発でやられちまう。

 あいつは炎まで吐きやがるしな。


 さて……どうしたものか…………


 と、その時……


 ♪ぱぱぱっ、ぽんぴんろんり~ん♪

『ぅは~い! 新しいクエストが始まったよっ☆』


「エルセェ!?」

「ち、違…………け、消せないん……です…………指、動か…………ふぇぇえ……」


『みんなっ、盛り上がっていこう~☆』


「ぐがぁぁああああっ!」


 盛り上がってんのネコっ毛ハリネズミだけだけど!?


 よほどチマチマの声が癇に障るのか、ネコっ毛ハリネズミが声の出所を探してキョロキョロし始めた。鼻息が荒く、相当怒っているようだ。


『さぁ、れ~っつ、チマチマ~☆』


「ぐがぁあっ!」


 そして、ついにネコっ毛ハリネズミが声の出所を突き止める。

 自分の背中を睨み、げっ歯類の鋭い牙を剥き出しにする。


 背中にいるであろう憎い敵を食い千切ろうとでもいうのか、ネコっ毛ハリネズミは自分の背中に向かって口を近付けようと体を回転させる。だが、それに合わせて背中が逃げる。追いかける口、逃げる背中!

 そんな感じでその場でグルグル回り始めた。

 なにこの可愛い光景。

 動画に撮ってアップしたら観覧数稼げそう。


 ひとしきり回った後、ネコっ毛ハリネズミは噛み千切るのを諦め、後ろ足で背中を乱暴に掻き始めた。


「あっ!?」


 ぽん、ぽ~ん! と、ニコとエルセが、ネコっ毛ハリネズミの後ろ脚に弾き飛ばされる。


「エルセ! ニコ!」


 投げ出された二人の体は地面の上でバウンドして、そのままぐったりと横たわった。


「ぐるるるるぅ……っ」


 ネコっ毛ハリネズミが降ってきた二人を睨みつける。


 ニコは軽いせいか、俺のそばまで飛ばされてきたが、エルセはネコっ毛ハリネズミの足元に倒れている。

 そして、空気を読まないらぐなろフォンはエルセのすぐそばに落ちている。


 もう、何もしゃべるなよ、チマチマ!


 ネコっ毛ハリネズミを刺激してしまう可能性はあるが……

 俺は駆け出しニコの元へ向かう。


 どちらも助ける。そう決意したんだ。


「がぁっ!」


 ネコっ毛ハリネズミがこちらを睨んで短く吠える。

 ヤバイ! やっぱり動く物には敏感に反応するか!?


 ネコっ毛ハリネズミがこちらに向かって移動を開始する。


 間に合えっ!


「ニコ、大丈夫か!?」

「コー……しゃ、ま……」


 なんとかニコの元までたどり着き、その小さな体を抱き上げる。


「いったん逃げるぞ! あいつを引き離せれば、エルセのことはスティナがなんとかしてくれるかもしれない!」

「…………ごめん……なのじゃ」

「何言ってんだよ。お前はエルセを救ってくれた。大感謝だ」

「…………そぅ…………よか……ったの、じゃ☆」


 弱々しいながらも、ニコが笑みを漏らす。


「コーシ! 後ろ!」


 スティナの声に振り返ると……


「がぁぁあああっ!」


 すぐそこにネコっ毛ハリネズミが迫っていた。

 逃げ切れるか!?

 いや……逃げ切るしかねぇだろ!


 ニコを抱えたまま立ち上がり、走り出そう……と、した時…………


 ♪ぷぷー、ぷぷー♪

『バッテリー残量が20%を切ったよ。充電してねっ☆』


 あいつがまたしゃべり出しやがった。


「…………ぐるぁぁああっ!」


 俺たちに向かってきていたネコっ毛ハリネズミが体の向きを変え、エルセに狙いをつける。

 そして、口を開いて大きく息を吸い込んだ。


 炎を吐く気か!?


 身動きが出来ないエルセが、今あんなもんを喰らったら…………


「やめろぉ、ネコっ毛ハリネズミ! 狙うなら俺を……っ」


 はっ、そうか!

 俺はチマチマの声を真似て甲高い声で叫ぶ。


「『ははっ! 僕はこっちだよっ、べろべろばぁ~!』」


 ………………

 ………………

 ………………


 …………無視されたぁ!?


「ぷ……くく…………『コーシ、ナイスファイト☆』」

「やかましい! 甲高い声で言ってんじゃねぇよ、スティナ!」


 お前を楽しませるためにやったんじゃねぇわ!


「コー……しゃ、ま…………」


 ニコが俺の服をキュッと掴む。


「炎が……」


 そんな短い言葉に総毛立つ。

 ネコっ毛ハリネズミを見上げると、胸の付近がパンパンに膨れ上がっていた。


 …………ダメだ…………炎が……


「…………ありったけの魔力で…………イビル・クレバス……を」

「イビル・クレバス!?」


 あんな口内炎の魔法をか!?

 いや……今は考えてる暇はねぇ!


「やってやるぜ……」


 ニコを片腕で抱きしめ、開いた右手をネコっ毛ハリネズミへと向ける。


 そして、体の中にあるのであろうありったけの魔力を右腕に集中させるイメージをして………………


「イビル・クレバスッ!」


 魔法を放つ。


 右腕が鈍色の光に包まれ、同じ鈍色の光がネコっ毛ハリネズミの顔を覆い尽くす。


 瞬間――



 ドボォォオウッ!



「ぎゃぁぁあああああんっ!?」


 ネコっ毛ハリネズミの頭が爆発を起こし業火に包まれた。

 …………ほゎい!?


「口内炎が……内頬を貫通して…………頬に穴をあけたんじゃ…………そこからネコっ毛ハリネズミの炎が漏れ出したんじゃよ……」

「かん……つう?」


 え?

 口内炎が貫通って…………なにそれ、想像しただけで超痛ぇ……


「あやつは……あのネコっ毛の針に対魔法攻撃、対物理攻撃の結界を持っておるのじゃが……体内は例外じゃったようじゃの…………コーしゃまの、勝ちじゃ」


 俺の……勝ち?


 自身の炎に焼かれてのたうち回った後、ネコっ毛ハリネズミはその場にパタリと倒れ込んだ。

 そして、俺の体力と魔力が全回復する。レベルが上がったのだろう。


 ってことは……戦闘終了。

 俺たちは、ネコっ毛ハリネズミに勝利したようだ。






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