18話 それぞれが目指すもの
「で、聖女になるにはどうすればいいのか、分かってるのか?」
ニコの家を出て、冒険者ギルドへ向かう道すがら、俺はスティナに質問をぶつけた。
「とりあえず、二つ、手に入れなければいけないものがあるわ」
「ほう、それはなんだ?」
「『高潔な魂』と『穢れ無き心』よ」
「なにその、すでに手遅れ感満載な二つ!?」
無理ゲーってヤツなんじゃないのか、それ?
「大丈夫よ。探せば見つかるわ」
「アイテム的な物なのか? なら、可能性はあるかもしれんが……」
「それで、そっちの小さい娘は何が欲しいのかしら?」
「魔神の肝じゃ」
「…………食べるのかしら?」
「うむ。ワシには必要な物でのぅ」
「…………生でかしら?」
「ワシはそこまで野蛮ではないのじゃ。失礼なのじゃ」
チラチラと俺を見ながら、ニコが抗議をする。
肝を生でいくタイプの女だと思われたくないと、そういう思いの表れだろうか。
「ちゃんと醤油を一差し垂らすのじゃっ!」
「変わんねぇよ!」
「そうね。ポン酢の方がいいんじゃないかしら?」
「味の違いとかどうでもいいわ! つか、有るの、この世界にポン酢!?」
「高位の魔導師が超高々度の技術を駆使して生み出した高尚なる魔法の調味料よ」
「この世界の魔法使い、何してんの、マジで!?」
いや、嬉しいけどね、ポン酢があるのは!
「柚子とか入れると美味くなるしな」
「――っ!? …………あ、あなた、天才なのっ?」
「いや、いい、いい! ここでそういう『現代知識チート』みたいなの求めてないから! そういうんじゃないから!」
危うく他国との貿易の重要ポジションに就任させられるところだったぜ。
そんなことしてる場合じゃないんだよ、俺は。
「コーシさん、コーシさん」
こそこそと、エルセが俺に近付いてきて耳打ちをする。
「コーシさんの魔法でハッピーターンとか作ったら売れるんじゃないですかね? ほら、あの食べた後の指についてる美味しい粉とか!」
「お前は魔法をなんだと思ってんだ?」
「でもウケますって、絶対!」
「異世界にハッピーターンが受け入れられるわけないだろう!?」
「あら。あるわよ、ハッピーターン」
「マジですかっ!?」
「すげぇなハッピーターン!?」
いつの間に進出してたんだ!?
「大昔にこの街に来た転移者が魔法を駆使して開発したんじゃ。今では大人から子供までみんな、食べた後の指先についているあの美味しい粉に夢中じゃぞ」
そうか……確か、日本からの転移者とか結構いるんだっけな、この世界。
うわぁ、過ごしやすそう。
「そういえば、コーしゃまとエルセはなんで冒険者になったんじゃ?」
「確かに気になるわね。どう見ても冒険者向きではないあなたたちが冒険者になったワケを」
ニコとエルセが歩を止め、俺たちの方へと向く。
俺たちの素性を明かすのって問題あるのかな? 転移者ってのは珍しくないみたいだし問題ないのか……でもエルセは転移者つっても、それを請け負ってる天界の人間だし…………
「実はですね」
俺が悩んでいる間に、エルセが説明を始めた。
説明してくれるんなら任せておこう。
「コーシさんを連れてきたせいで、力を奪われてこの世界に閉じ込められてしまったんです」
「おぉい、ちょっと待てコラっ!」
久しぶりの、アイアンクロー!
「ひたぃ! ひたぃですよ、こーししゃんっ!」
「……なんで俺が原因みたいな捏造してんだ、お前は? ん?」
「い、いえ、そういった意図はなく、ただ事実を断片的に伝えた結果、偶然にもそういう風に取られかねないとも言えなくもない表現になってしまっただけでしてぃひぃたたたたたっ! ごめんなさいごめんなさい! 新しい仲間の前でちょっとだけいいカッコしたかったんですっ!」
こめかみを押さえてしょんぼり歩くエルセに代わって、俺たちがこの世界に来た理由とその目的をかいつまんで説明する。
「魔王を……倒す? 本気なのかしら?」
「んなわけないだろう。そんなもんは不可能だ」
「不可能を可能にするのがコーしゃまじゃ」
「変な期待背負わせるのやめてくれる? 無理だから」
「ちゃっちゃと倒してくださいよ~」
「お前だけは何も言うな! 諸悪の根源が!」
「ひ、酷くないですか、今の発言!?」
こいつは反省してそうな顔をして一切反省してないからな。
「ということは、私たちの旅は……『高潔な魂』と『穢れ無き心』を探しつつ、どこかで柚子とポン酢を入手して、遭遇した魔神を叩きのめして新鮮な肝をさっぱりと柚子ぽんでいただいて、その帰り道にでも魔王城に寄って魔王を倒し、その後柚子ぽんの貿易で一財産を築く……ということかしら?」
「とりあえず柚子ぽんに興味惹かれ過ぎだから。あと、お手軽に言ってるほとんどが実現不可能なんだよね、気付けよ、な?」
帰りにダイコン買って帰るみたいなノリで魔王は倒せねぇんだよ。
「けれど、何か行動を起こさなければ状況は変わらないわよ?」
「確かに。わたしのマイナスポイントも、今のところ全然返上出来てませんし」
「とはいっても、このまま冒険に出ても即死だぞ? 自分がどれくらい出来るのかくらいは見極めないと行動は起こせねぇよ」
俺は、最初の街でレベルを99まで上げたい派の人間なんだよ。
「何を悠長なことを考えているのかしら?」
「人の思考を勝手に読み取らないでくれるか? 非難するならせめて口にしてからにしてくれ」
「いい? 私たちに与えられた時間は無限ではないのよ? こんなところでもたもたしていたら、私たちはみんなあっという間にお婆さんになってしまうわ……そう、例えばそこの小さい娘みたいにってあなたそれどうしちゃったというの!?」
スティナがニコを見て悲鳴を上げる。
見ると、ニコの顔にはシワが増え、お婆さん化が始まっていた。
「おぉ、もうそんなに魔力を奪われてしもうたか……コーしゃま、すまんのじゃが……」
頬を染めて、おねだりをするように両手を広げるニコ。
くそ……朝一のあの可愛らしい姿でならとても可愛らしい光景だったに違いないのに……っ!
「しょうがない。けど、あんまり持っていくなよ?」
「わ~いなのじゃ!」
許可を出すと、ニコ(しわしわバージョン)が俺の腰にしがみついてきた。
「あっ、コーシさん! ついでにわたしのらぐなろフォンも…………いえ、なんでもないです」
出来得る限りの怖い顔で睨んでやると、エルセはすごすごと退散していった。
スマホの充電は一日一回まで! あとは節電しろ!
「へぇ……不思議ね。コーシにしがみついた途端、シワが無くなって若返っていくようだわ」
「ワシはこういう難儀な体質なんじゃよ……えへへ」
「……の、割にはなんだか楽しそうに見えるわね」
嬉しそうに、俺の腰に頭をぐりぐり押しつけるニコ。
……うん。そこら辺、デンジャーゾーンだから、女の子は気を付けような。
「まぁ、このように。このパーティには不安要素が多過ぎるんだ。いきなり冒険に出るのは得策じゃない」
「けれど、私は早く聖女になって、今すぐにでもイスメーネ学院に帰りたいのよ」
「わたしも、早くヴァルハバラへ行きたいです!」
俺と、エルセ・スティナの意見は分かれてしまった。
だからよぉ。その目的を達成するためにも、ここで地道な努力が……
「それならば、これからみんなで腕試しに行くのじゃっ!」
話し合いが平行線になりかけたところで、ニコがぴちぴちに戻った顔で挙手をした。
そして、小さな体を大きく仰け反らせ、ニコが俺たちに向かって提案する。
「この街の西に、かつて魔王が飼っていたペットが棲みついておるのじゃ! これからみんなで、そやつを叩きのめしに行くのじゃっ☆」
放課後クレープ食べに行こうよ、くらいの軽いノリで……なんてもんを提案してくれてんだよ、お前は。
こうして、俺たちはニコの案内で魔獣退治に赴くことになった。




