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夕暮れ時、いつまでも暑い京都の街中を、武尊と恭介は家路についた。
日暮れの京都は美しいと思う。当たり前のようにある寺の瓦に夕日が反射して、街に陰影をつける。武尊の人生にはそんな景色は見当たらないのだけれども、どこか懐かしく、切ない気持ちになった。
こちらに来てから住んでいるマンションは、セキュリティも完備した立派な建物だ。部屋も広く、3人で住んでもお互いのプライバシーは守られている。
とはいえ、もともと狭い家で一人で過ごすことが少なかった武尊は、なんだかんだ理由をつけては、恭介の部屋に入り浸っていた。
武尊はマンションのドアを開けると、見覚えのない男物の革靴を見つけて首をかしげた。
「客が来るなんて、めずらしいな」
「本当だね」
二人がリビングへ行くと、そこにはしっかりと夕飯を食べている最上がいた。
「オッサン! 久しぶり!」
「オッサンはやめろって!……って、おう、久しぶりだな。元気にしてるか?」
嬉しそうな武尊のようすが、まんざらではないようで、最上も気さくな笑顔を浮かべる。
「こんにちは。最上さん」
「恭介も元気にしてるか? お前ら、そろそろ気になる子でもできたか?」
「そういうところが、オッサンなんだよ」
「何だと!」
「そういうオッサンこそ、彼女できたのかよ」
「お前な、俺は今、仕事に生きてるんだよ」
「じゃあ、俺も、勉強に集中してる」
「それは初耳でした」
その声に武尊はびくりと肩を震わせる。エプロン姿の葵が立っていた。葵は端正な顔立ちに涼しげな笑みを浮かべているが、その裏に隠された真意を武尊は知っている。
「私、事務職とはいえ、武尊様のようすもよく聞こえて来るんですよ」
「あっ、その話はまた聞くよ。
それより、オッサンはどうして来たんだ?」
焦って話を変える武尊に最上は呆れた顔をした。食事を終え、葵が出した麦茶を飲み干す。
「近くで仕事があったから、調査がどこまで進んでるのか、確認に来たんだ」
「なんだ、飯を食いに来たわけじゃないのか」
「俺はな、そこまで暇じゃないんだぞ」
聞いていた恭介がくすりと笑う。
「前回の事件の調査も終わったから、お前らに聞いといてもらおうと思ってな。
『札』を使ってた生徒は担任に対して不満を抱いていた。それを『札』が吸い取り、怪魔を呼んだわけだ。
だが本人はどうして怪魔が現れたのか、分かっていないようだった。
もちろん、従姉妹も『札』にそんな効果があるとは思わなかった、とのことだ。
学園では、『札』を持っていたら、幸せになれるとして、出回っていたらしいからな」
「『札』について何かわかったのですか?」
最上は難しい顔で唸る。
「今、研究課に調査依頼を出しているんだが、そもそもあそこは研究員の人数が少ないから、時間がかかってな。
何度問い合わせても、調査中としか返事がないんだ」
「4ヶ月も経つのに?」
責めるような恭介に最上はすまなそうに答えた。
「コピー用紙で印刷されたあの『札』が偽物だってことは一目瞭然だ。しかも、原理は分からないが、怪魔を呼び出すことができるものが存在すると知られたら、どんな犯罪に使われるか、わかったもんじゃない。
だけど、その危機感が研究課や上の方には薄いようでな」
話を真剣に聞いていた恭介の顔が厳しくなる。
「で、どうだ、お前らは『札』について何か分かったか?」
葵に荷物をおいてくるように促されると、二人は急いで部屋に向かう。部屋のドアを開けようとすると、恭介がポツリと呟いた。
「もしかして空振りかな」
武尊のドアを開ける手が止まる。
「わかんね」
恭介の気持ちがわかるからこそ、武尊は無責任な慰めの言葉をかけることはできない。
「そうだね。これからだもんね」
感情を押さえた硬い声の恭介の肩を、武尊が思いきり叩く。あまりの勢いに顔をしかめた恭介が武尊を見た。
「一緒に探そうって、約束しただろう」
恭介の色素の薄い瞳に光が戻り、表情が和らぐ。
「そうだったね。
ありがとう」
武尊は照れくさそうに横をむくと、部屋に入っていった。
隣から、恭介が荷物を置く音が聞こえてくる。その日常的な音に武尊は安心するのだった。
リビングに戻ると、見計らったように麦茶が出される。
恭介はぺこりと頭を下げてから、美味しそうに口をつける。武尊も少し濃いめのよく冷えたお茶を一気に飲み干した。思った以上に喉が乾いていたらしく、体の中を流れていく液体の冷たさに、生き返るようだ。
「『札』は一年前に流行っていたとのことです。出どころは残念ながら不明ですが、あまりのブームに、問題を感じた学校側で注意を促し、回収したということです。回収した『札』も全て廃棄しているようです」
「俺もそれとなく聞いたけど、反応は薄くて、そんなのも流行ってたなって感じだった」
「一組でも同じ感じだったけど、どちらかというと、そういう流行りをくだらないと思っているようだったよ」
「それって、あの女?」
「いや、守ノ宮さんは特に何も言わなかったけど、他の人たちはそういう反応だったよ」
「意外。あの女だったら、一番バカにしそうだけど」
「おいおい、武尊が言ってる女って守ノ宮家のお嬢さんか?」
驚いたように最上が口を挟む。
「ああ、今日初めて会ったんだけどさ、初対面で俺に『霊力が無いのなら殺魔師をやめろ』って言ってきたんだよ」
その言葉に、最上は複雑な表情で葵を見る。
「殺魔師としては普通の反応ですね。それを武尊様に直接言うあたり、守ノ宮家の者としてのプライドを感じます」
葵は機械的に淡々と言った。
「なんだよ、葵まで」
「そういう世界なので、仕方がないのですよ。言ってみれば、武尊様が『特別』なので」
武尊は嫌そうに顔をしかめた。
『特別』なんて、褒め言葉じゃない。
それを誰よりも知ってるのは武尊自身だった。
「そんなことを言ったって、玉依が俺を選んだんだ。そして当主にしたのは、葵の親父だ。
霊力のない俺が殺魔師になれたことはラッキーだったと思ってる。
でも、好きで殺魔師や当主になったわけじゃない」
葵の動きが止まり、冷たい瞳で武尊を捕らえる。声はさらに低くなり、部屋の空気が張り詰めた。
「そうですね。神剣玉依姫を扱える者が物部家の当主になることは、当家の古くからの定めです。そしてそれに沿って、全て前当主が決めたことです。武尊様に非は何もありませんよ」
その言葉に壁を感じて、武尊はますます苛立ちを募らせる。そのようすを察した最上は二人の間に割って入った。
「おいおい、今はそんなことを言っている場合じゃないだろ。武尊の言いたいこともわかるが、少し落ち着け。葵もだ」
武尊は面白くなさそうに横を向いた。そのようすをはらはらしながら見ていた恭介は、小さくため息をつく。
「話を戻すぞ」
本作品は個人創作です。
一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。
「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。
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