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麦茶に入っていた氷が小さい音を立てた。仕切り直しというように、最上は咳払いをする。
「つまり、特に手がかりはないってことだな」
すでにいつもの声色に戻っている葵が、冷静に答えた。
「残念ですが、そういうことです」
最上は顎をさすりながら遠くを見つめる。それは十年ぐらい前の学生時代を思い出していたのかもしれない。
「まあ、学生の流行りなんて、そんなものなのかもしれないな」
「私たちの一年と、学生の一年とでは、時間の流れが違いますからね」
「そうそう、特にここ最近、一年なんてあっという間に過ぎている気がするよ」
最上は気弱に呟いた。恭介と武尊は冷たく見つめる。
「二人して、発言がオッサンだな」
「そういうお前らだって、すぐにそうなるんだからな。十代は大切に生きろよ!」
ムキになる最上に、武尊と恭介は顔を見合わせて呆れた顔をする。
「転入から三ヶ月だけど、収穫はないか。そろそろ学校の調査は終わりにするかな」
「そうですね」
最上の言葉に葵も頷く。
「思った以上に何も出てきませんね。事務員や教員にも探りを入れて見ましたが、特に問題があるようにも思えませんでした」
「守ノ宮家のチェックもあるしな。理事長はなにか言っていたか?」
白鳳学園は明治初期に守ノ宮家が創立した学校だ。その流れで理事長は代々守ノ宮家の者が就任する。
「最初に、全面的に協力すると、言ってくれていましたが、そのとおりにしてくださいましたよ。
そもそも、理事長は守ノ宮家の当主のお姉さんのご主人で、婿に入った人なので、守ノ宮家に逆らうことはできないようですよ」
「守ノ宮家は一族の団結も強いからな。その目をかいくぐって悪さをすることはできんだろう。
まあ、グルになっていたら、わからんがな」
「その場合、私たちが調査できる相手ではありませんがね」
「守ノ宮家の方は、俺の方で調べてみよう。
お前たちには世話になったな。後は手続きが終わるまでは、自由に楽しんでくれ」
最上が頭を下げると、三人も頷いた。
「転校する前に、俺、クラスメイトから頼まれたことがあるんだけど」
「頼まれたこと?」
突然言い出した武尊に、再び葵が不穏な空気を醸し出す。武尊はそれに気が付かないふりをして、話を続けた。
「水曜日、俺達早く帰っているだろ」
「ええ。学生は部活も休みで、事務員や教員も働き方改革で、早く帰らされますね」
「その日に、たまたま残っていたらしいんだけど、体育館の窓から赤い目を見たって話なんだ」
「学校の怪談、みたいな話か?」
「でも、彼女以外は知らないみたいでさ、彼女の先輩たちにも信じてもらえないって言ってたんだよ」
葵が持っていたコップに力がこもる。
「そもそも、どうして、そのような話の流れになったんですか? 一組の恭介くんが相談を受けるということはまだわかりますが、武尊様が殺魔師ということは知られていないでしょう」
言葉に詰まる武尊に代わって、恭介が説明をする。
「武尊、クラスメイトに、自分が殺魔師だって、話しちゃったんだよ」
葵のこめかみがピクピクと動く。
「だって、俺が恭介のお供だって噂になってるから……」
「お供、いいじゃないですか。いいカモフラージュになっているじゃありませんか。それを、どうして、わざわざ、否定するんです」
声は押さえているが、明らかに怒気が込もってくる。
「だって、友達に嘘ついて過ごしたくないし」
「あなたは本当に当主という自覚がない」
「そんなもん、もともと持ってねーし」
吐き捨てるように言うと、再び葵の目が釣り上がる。その気配を察した最上が口を挟む。
「武尊、今回は葵の言い分が正しい。
いいか。殺魔師って言うのは、もちろん怪魔にやられることも多いんだが、それと同じぐらい、一般人に狙われることも多いんだ。
逆恨みをするやつ、霊力を無駄に恐れるやつ、力比べをしようとするやつ。その力を利用しようとするやつもいる。
だからこそ、護身術を身につけるし、身分も伏せる。
学生だから、相談程度で済んでいるかもしれないが、実際殺魔師と名乗って生きていくことは、危険なことなんだ」
真剣な最上の言葉に、武尊はうなだれた。
「ごめん。俺、そんなこと、何も考えてなかった」
「私はいつも言っていたと思いますが」
「葵!」
最上の制止を遮るように、葵は言い放った。
「これに懲りたら、少しは自覚を持つことと、護身術を真面目に習うことですね」
「……葵。」
武尊の顔色が明らかに変わる。再び爆発しそうになる武尊に、最上は頭を押さえながら、武尊に優しく語りかける。
「口うるさいことを言っているようだが、武尊のことを心配しているんだ。少しは言うことを聞いてやれ」
武尊は渋々頷いた。
「オッサンが言うなら、そうするよ」
「それから、そのクラスメイトの相談も一応受けとけ。それでその子が安心して生活できるんだったら、それも殺魔師の仕事だから」
その言葉に今度は葵が非難の声を上げる。
「先輩!!」
「まあ、いいじゃないか。もう転校もするんだから」
葵はエプロンを脱ぐとグシャグシャに丸めてキッチンの棚に押し込んで出ていく。そして大きな音を立てて自分の部屋のドアを閉めた。
耳の奥でドアの閉まる音が鳴り響く。
「オッサン……」
静かになった部屋の中で、バツが悪そうに武尊が最上を見た。
「まあ、気にするな。
あいつには、あいつなりの信念があるだけだ。だからといって、それが全て思い通りにならないことも知っているやつだから。
お前らはなんにも気にしないで、あと少しの学園生活を楽しめ」
武尊は葵の部屋を見ながら、ぎこちなく頷いた。
だんだんとキャラクターたちが動いてくれるようになりました。
本作品は個人創作です。
一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。
「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。
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