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恭介は驚いて武尊を見た。武尊も同じように恭介を見ていた。
「あれ? 知り合い?」
修が二人のようすを見て言うと、武尊は恭介から目をそらした。
「知らない」
その返事に恭介は顔をしかめる。
「すみません。俺、着替えて来ます」
武尊はそう言うと部屋の方に行ってしまった。
恭介は追いかけようとするが、さすがに神谷家の皆さんに失礼だと感じて、踏みとどまる。
「知り合いだよね」
修が戸惑いながら、もう一度確認する。
「……はい」
「まあ、少し落ち着こうか」
修が恭介をテーブルに促す。恭介は持っていた荷物を置いて座った。
真緒が恥ずかしながら恭介にお茶を出してくれた。
「みんなで聞いてもいいのかな?」
「あっ、大丈夫です」
恭介は言葉を探す。修は黙って恭介が話すのを待った。
「……僕、少し前まで物部家の殺魔師で、武尊と一緒に動いていたんです。だけど怪魔と戦ったときに僕が大怪我をしてしまって……それが元で物部家の殺魔師から抹消されているんです」
恭介はため息をついた。
「武尊と話がしたくて何度か連絡をしたんですけど、取り次いでもらえなくて……」
まあ、と静江が口を押さえる。
「恭介君が怪魔について調べようと思ったのは、殺魔師だから?」
「いえ……それとはまた別のきっかけがあるんですけど……」
真尋と真緒は黙って話を聞いていた。
静江が修をちらりと見る。
「お部屋、別にしたほうがいいかしら」
修が考え込んでいると、泰蔵が口を開く。
「恭介君は武尊君と話がしたいと思っているのだから、部屋は同じでいいだろう。
話をしないと、何を考えているのかも分からんだろう」
「そうですね。僕もそう思います」
恭介は申し訳なさそうに頭を下げた。
「ご心配をおかけして、すみません」
「恭介君が後ろめたく思うことはないよ。
だけどこういう巡り合わせは大切にしようね」
修の言葉に恭介の気持ちが軽くなる。
「真尋、武尊君を呼んできてくれる?」
真尋はめんどくさそうにしながらも立ち上がり、武尊を呼びに行った。
しばらくして服を着替えた武尊が真尋と帰ってくる。
武尊は気まずそうに修を見て、泰蔵の近くに座る。
恭介とは視線を合わそうとしない。恭介はそれを寂しく思った。
「武尊君、恭介君から話を聞いたよ」
武尊は無言で頷いた。
「僕としては、二人の問題に口を挟むことはしようとは思わないんだけど、二つだけ守ってもらいたいことがある」
恭介と武尊は緊張して修に注目する。
「あいさつは必ずすること。食事のときは、無視をしないこと。
守れる?」
恭介と武尊は拍子抜けをした顔で修を見た。
「これね、我が家のルールなんだ」
修が微笑みながらそう言うと、真緒と真尋が頷いた。
「……わかりました」
二人は同時に返事をした。それに満足すると、修はスーツの上着を脱いだ。
「それでは、夕飯を食べようか」
静江は何事もなかったように、おかずをお皿につぎわける。泰蔵はお気に入りの日本酒を持ってくる。
恭介がちらりと見ると、武尊と一瞬目が合った。すぐにそらされてしまったけれど、今はそれでもいいかと思った。
岡山県の県北に位置する津山市。11月半ばが過ぎると、夜は上着の上にもう一枚何か羽織りたくなるぐらい冷える。
株式会社物部建設。地元ではまあまあの規模の建設会社だ。
葵は溜まっていた仕事を、一人残って片付けていた。時間は9時を回っている。
そろそろ帰ろうかと片付けをしていると、葵のスマートフォンから着信音が流れる。
画面を見ると最上からだった。
「もしもし?」
「久しぶりだな、元気にしてるか?」
相変わらず安心感のある落ち着いた声だ。
「いつも通りですよ。何かありました?」
「いや、特別な用はないけど……。ほら、武尊と恭介どうしてるかなって思ってな」
葵はため息をついた。
「恭介君は退院してますよ。二・三日前に物部家にも来たそうですし、元気なんでしょう」
「なんか他人行儀な反応だな」
「先輩には言ってませんでしたが、恭介君は当家の殺魔師から抹消されました。ですから今は当家とは関係ありません」
「武尊は承認したのか?」
「武尊様ご自身が、当主として決めたことです」
スマホの向こうで最上が沈黙する。
「武尊様は恭介君があんなことになったことに責任を感じているんですよ」
葵は静かに言った。
「で、武尊は大丈夫なのか?」
「けっこう参ってましたね。物部家に帰ってからは引きこもり状態でした。
見ていられなくて、一日のスケジュールを作って渡して見たんですが、気持ちが悪いぐらい素直に実行していましたよ」
武尊の姿を思い出して、葵はため息をつく。
「……しばらくはそっとしておくように父からも言われたのですが、僕はついつい手を出してしまうので……。
難しいものですね」
思わず弱音を漏らす。家族にも話すことがないことを、最上には言ってしまう。この先輩には、昔から自分の嫌いなところばかり見せてしまう。
「俺も樹さんに賛成だな。武尊には自分を見つめ直す時間が必要だと思う」
「それはわかっているのですが……それで武尊が潰れたら……」
「だから、そういう思考が過保護なんだって。少しは武尊を信じてやれよ」
「信じてますよ……」
「いいや、信じてない」
はっきりと断言され、思わずむっとする。
「葵は武尊を子ども扱いしすぎてる。
お前の心配はわからんでもないが、それが武尊のためになっているとは、俺は思えん」
痛いところを突かれて、葵は返す言葉が見つからなかった。
「樹さんが言うように、お前も少し武尊から距離を置け。
何度も言うけど、あいつはもう守るだけの子どもじゃない」
葵は物部家に来たばかりの武尊の姿を思いだしていた。
右も左も分からない新しい環境の中で、玉依に選ばれてしまい、当主という立場まで負わされてしまった。
突然武尊が当主になったことに、戸惑わなかったと言えば嘘になる。
しかし物心ついたときから、次期当主として物部家を背負う覚悟で生きていた自分とはまったく違うこの子どもを、支え、守らなければならないと、次第に思うようになっていった。
その役割を突然やめろと言われても、すぐに気持ちが切り替えられるほど、葵も器用な人間ではなかった。
「わかりました。なるべく努力します」
葵らしい言い回しに、スマホの向こうで最上は苦笑を漏らしたようだった。
「どっちにしても今、武尊は物部家にいないので」
「どこかに行ってるのか?」
「名古屋の修おじさんのところに」
「……神谷家先生のところに?」
「武尊の母親が愛知県出身だそうで、その友だちに会いに行ったんですよ」
「神谷先生のところか……」
「何かあるんですか?」
スマホの向こうで、明らかに動揺している最上に葵はたずねる。
「いや、何でもない。
まあ、神谷先生のところにいるんだったら安心だ。
きっとあいつらだったら、乗り越えられるよ」
「あいつら?」
「いや、……あっ、なんか仕事の連絡が入ったみたいだからここらで。
またな」
慌ただしくスマホの通話が切れる。
「……あいつら……?」
葵はスマホの画面を見ながらもう一度呟いた。
そして電話帳から修の電話番号を検索する。しばらくその番号を眺めていたが、ため息をつくとスマホを伏せて机の上に置いた。
本作品は個人創作です。
一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。
本作はフィクションです。作中には実在する地名や施設名などが登場しますが、物語の演出上、設定や描写には創作・脚色が含まれます。実在の人物・団体・事件とは関係ありません
「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。
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