↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪魔のいる世界で生きている  作者: さち
南風に誘われた少年は、優しい蜃気楼を見る

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/49

6

 津山駅から岡山駅に新幹線を乗り換えて、名古屋駅に着いたのは一時頃だった。

 新幹線を降りてすぐに見える高い建物に、都会に来たんだという実感が湧いた。

 玉依も初めての景色に喜ぶ。

 気温は寒くもなく、暑くもない。

 武尊はキャップを目深にかぶり、リュックサックを担ぎ直した。そして白い布に包まれた玉依をしっかりと持つと、案内表示を頼りに歩き出した。

 地下鉄に乗り換えて、30分ぐらいで目的の本郷駅に着いた。

 高いビルはあまりなく、人の生活がうかがえるような駅だった。

 そこから、年賀状と地図アプリを頼りに、武尊の母の友人宅へと向かう。

 途中で道を間違えそうになりながらも、何とか到着した。

 一軒家のその家には、家の前にカーポートがあり、ブルーの軽乗用車が置かれていた。その隣には小学生低学年用の小さい自転車も置かれていた。

 武尊は深呼吸をして、ドアホンを鳴らす。

 中から女性の声が聞こえて来た。

「あの、すいません。俺、杉原武尊といいます。

 杉原、旧姓久野直美の息子です」

 しばらくして、玄関が勢いよく開いた。

 小柄で、ふくよかな女性が驚いたように武尊を見つめた。

「横井……綾香さんですか?」

「ええ、そう。あなた、ほんとうに直美の息子なの?」

「はい。突然すみません」

 武尊は目深にかぶっていたキャップを取って頭を下げると、綾香に自分の持っていた年賀状を見せた。

「これ、確かに私が出した年賀状だわ。

 どうして……?」

「住職から、横井さんが母さんのお墓参りに来てくれたことを聞いて。

 どうしても会いたくなって」

 綾香は呆然と話を聞いていたが、はっとして武尊に言った。

「よく来てくれたね。

 上がって、上がって」

そう言うと、部屋に招き入れてくれた。


「ごめんね。散らかってるところで」

 そう言って通してくれたリビングは、確かに子どもたちのものであふれていた。

「いえ、俺も急に来たから」

 綾香は机の上を片付けると、ジュースを入れて出してくれた。

 そして武尊をまじまじと見る。

「年賀状より大きくなっているから、びっくりした」

 それはそうだろう。最後に送った年賀状は、武尊がまだ中学一年生のころだ。

 その時から言えば、身長も十センチ以上は伸びている。

「よく名古屋まで来られたね」

「昨日、久しぶりに母さんのお墓参りに行ったんです。

 そしたら住職が横井さんのことを教えてくれて。

 帰ってから年賀状を調べたら、横井さんの住所も分かったから、会ってみたくて。

 今住ませてもらってる家の人に相談したら、行ってきてもいいって言ってくれたから」

 綾香は武尊の話に何度も頷いた。

「ありがとう、来てくれて。

 まさか、武尊君が訪ねてくれるなんて思わなかった」

 そう言うと、本当に嬉しそうに微笑んだ。

「直美からの年賀状が来なくなって三年がたつでしょ。

 私の年賀状も戻ってきちゃうし、何かあったんじゃないかって思ってたんだ。

 LINEをしても、電話をしても繋がらないし……」

「俺、母さんのスマホのパスコードがわからなくて、使えなくなったんだ」

「そうだったんだ」

 残念そうに目を伏せる武尊に、綾香は納得した。

「岡山ってなかなか行けなくて、いつも気になっていたの。

 だけどようやく行くことができて、後は武尊くんがしてくれたみたいに、年賀状を頼りに直美の家に行ってみたの。

 だけど、アパートは別の人が住んでいて、どうしようって思っていたら、隣の人があなたたちのことをよく知っていてね。お寺と物部さんのことを教えてくれたの」

 武尊はアパートの隣に住んでいた老夫婦のことを思い浮かべた。

 小さい頃はよくお世話になっていて、武尊を孫のように可愛がってくれていた。

「大変だったね。

 実は私、物部さんのお宅も行ってみたの。あんまり大きなお家だったから、外から見るだけにしたんだけど。

 武尊君の顔を見ればよかったって、ずっと後悔していたんだ。

 元気そうにしていて、本当によかった」

 綾香が優しい眼差しを向けた。それだけで、武尊は胸にこみ上げるものがあった。

「うん。

 いろいろあったけど、物部家で面倒を見てもらってるから何とかなってる」

 武尊は母親が亡くなってからのことを振り返った。

 新しい環境や玉依のことで、戸惑ったり反発したことはあっても、生活に不安を感じたり、寂しかったことはない。

 それは隣に恭介がいてくれたことが大きい。

 恭介が物部家に来てからは、どんな嫌なことがあっても、乗り越えられた。

 しんみりとした中、武尊はジュースに口をつけた。

「そうそう、直美の昔の写真があるから見て」

 そう言うと、綾香は慌ただしく部屋の奥に行って、しばらくしてアルバムを持って来た。

 その中からページを開くと、指差して教える。

「これこれ。昔の写真だから恥ずかしいな」

 そこには、バイクの前で白の長い学ランを着た武尊ぐらいの女の子二人が、かなり濃い化粧で写真を睨みながら肩を組んでピースサインを向けていた。

 確かに片方は母親のようだし、目の前の綾香のような面影もある。

 武尊は一瞬頭が真っ白になり、照れている綾香を見た。

「これコスプレしてるの?」

「違う違う。今の子って知らないかな。私たち、レディースだったんだよ」

「レディース?」

「暴走族の女性版」

「暴走族?」

「あれ? 知らなかったの?」

 にこにこと穏やかに笑う綾香に、当時の面影は一ミリも感じない。

 母親の意外な過去に、武尊はアルバムを見ながら固まった。 

「直美、かっこよかったんだよ。

 バイクがうまくてね。いつも先頭を走ってたんだ。

 私たちは直美の背中を見て、いつも走ってたんだよ」 

 綾香は懐かしそうに遠くを見つめた。

「直美はどんな生活をしていたの?」

「母さんは、近くの工場で働いていて。休みのときは、よく友だちと遊んでた。

 一緒にご飯食べたり、近場に遊びに行ったり。いつも家には誰かが来ていて、賑やかだったんだ」

「そっか。昔から友だちが多かったから。直美らしいね」

 そう言うと、綾香は少し鼻をすすった。

 それから武尊は直美のことを話し、綾香も若い頃の直美のことをたくさん話してくれた。

 武尊は久しぶりに母が近くにいるようで、気持ちが温かくなった。

 そうしていると、綾香の子どもたちが帰ってくる。

 小学五年生と三年生の元気のいい男の子だ。

 二人は武尊を不思議そうに見ていたが、綾香から紹介されると、すぐに納得をしたようだった。

「じゃあ、俺もそろそろ帰ります」

「ごめんね。もっとゆっくりしてもらいたかったんだけど」

「いえ。十分ゆっくりさせてもらいました」

「武尊君、学校は?

 もし週末まで名古屋にいるなら、直美の生まれた町に行ってみない?」

「母さんの?」

「そう。車で一時間ぐらいの知多半島の師崎ってところ」

 武尊は驚いて目を見開いた。

 てっきり直美の実家も、名古屋市内だと思っていたからだ。

「通信高校だから、学校の方は大丈夫だけど、おじさんの親戚の家に泊まらせてもらうから、相談をしてみないと分からないんだ。

 でもいいの?」

「遠慮しないで。いいに決まってるじゃない。

 私も急に休みが取れないから、週末になっちゃうけど、もし行けそうだったら、連絡して」 

 そう言って、綾香と武尊は連絡先を交換した。

「子どもを塾に送るから、駅まで送っていくよ。

 車に乗って」

「でも……」

「直美の子どもなんだから、遠慮しない」

 その一言がとても嬉しかった。

 車に乗ってからも、綾香の話は止まない。

 綾香の話をいつまでも聞きたくて、武尊は初めて会ったのに、名残惜しくなった。

 駅で別れて車を見送りながら、名古屋に来て良かったと、心から思った。


本作品は個人創作です。

一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。


本作はフィクションです。作中には実在する地名や施設名などが登場しますが、物語の演出上、設定や描写には創作・脚色が含まれます。実在の人物・団体・事件とは関係ありません


「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。

無断転載・無断使用・AI学習への利用は禁止しています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。