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津山駅から岡山駅に新幹線を乗り換えて、名古屋駅に着いたのは一時頃だった。
新幹線を降りてすぐに見える高い建物に、都会に来たんだという実感が湧いた。
玉依も初めての景色に喜ぶ。
気温は寒くもなく、暑くもない。
武尊はキャップを目深にかぶり、リュックサックを担ぎ直した。そして白い布に包まれた玉依をしっかりと持つと、案内表示を頼りに歩き出した。
地下鉄に乗り換えて、30分ぐらいで目的の本郷駅に着いた。
高いビルはあまりなく、人の生活がうかがえるような駅だった。
そこから、年賀状と地図アプリを頼りに、武尊の母の友人宅へと向かう。
途中で道を間違えそうになりながらも、何とか到着した。
一軒家のその家には、家の前にカーポートがあり、ブルーの軽乗用車が置かれていた。その隣には小学生低学年用の小さい自転車も置かれていた。
武尊は深呼吸をして、ドアホンを鳴らす。
中から女性の声が聞こえて来た。
「あの、すいません。俺、杉原武尊といいます。
杉原、旧姓久野直美の息子です」
しばらくして、玄関が勢いよく開いた。
小柄で、ふくよかな女性が驚いたように武尊を見つめた。
「横井……綾香さんですか?」
「ええ、そう。あなた、ほんとうに直美の息子なの?」
「はい。突然すみません」
武尊は目深にかぶっていたキャップを取って頭を下げると、綾香に自分の持っていた年賀状を見せた。
「これ、確かに私が出した年賀状だわ。
どうして……?」
「住職から、横井さんが母さんのお墓参りに来てくれたことを聞いて。
どうしても会いたくなって」
綾香は呆然と話を聞いていたが、はっとして武尊に言った。
「よく来てくれたね。
上がって、上がって」
そう言うと、部屋に招き入れてくれた。
「ごめんね。散らかってるところで」
そう言って通してくれたリビングは、確かに子どもたちのものであふれていた。
「いえ、俺も急に来たから」
綾香は机の上を片付けると、ジュースを入れて出してくれた。
そして武尊をまじまじと見る。
「年賀状より大きくなっているから、びっくりした」
それはそうだろう。最後に送った年賀状は、武尊がまだ中学一年生のころだ。
その時から言えば、身長も十センチ以上は伸びている。
「よく名古屋まで来られたね」
「昨日、久しぶりに母さんのお墓参りに行ったんです。
そしたら住職が横井さんのことを教えてくれて。
帰ってから年賀状を調べたら、横井さんの住所も分かったから、会ってみたくて。
今住ませてもらってる家の人に相談したら、行ってきてもいいって言ってくれたから」
綾香は武尊の話に何度も頷いた。
「ありがとう、来てくれて。
まさか、武尊君が訪ねてくれるなんて思わなかった」
そう言うと、本当に嬉しそうに微笑んだ。
「直美からの年賀状が来なくなって三年がたつでしょ。
私の年賀状も戻ってきちゃうし、何かあったんじゃないかって思ってたんだ。
LINEをしても、電話をしても繋がらないし……」
「俺、母さんのスマホのパスコードがわからなくて、使えなくなったんだ」
「そうだったんだ」
残念そうに目を伏せる武尊に、綾香は納得した。
「岡山ってなかなか行けなくて、いつも気になっていたの。
だけどようやく行くことができて、後は武尊くんがしてくれたみたいに、年賀状を頼りに直美の家に行ってみたの。
だけど、アパートは別の人が住んでいて、どうしようって思っていたら、隣の人があなたたちのことをよく知っていてね。お寺と物部さんのことを教えてくれたの」
武尊はアパートの隣に住んでいた老夫婦のことを思い浮かべた。
小さい頃はよくお世話になっていて、武尊を孫のように可愛がってくれていた。
「大変だったね。
実は私、物部さんのお宅も行ってみたの。あんまり大きなお家だったから、外から見るだけにしたんだけど。
武尊君の顔を見ればよかったって、ずっと後悔していたんだ。
元気そうにしていて、本当によかった」
綾香が優しい眼差しを向けた。それだけで、武尊は胸にこみ上げるものがあった。
「うん。
いろいろあったけど、物部家で面倒を見てもらってるから何とかなってる」
武尊は母親が亡くなってからのことを振り返った。
新しい環境や玉依のことで、戸惑ったり反発したことはあっても、生活に不安を感じたり、寂しかったことはない。
それは隣に恭介がいてくれたことが大きい。
恭介が物部家に来てからは、どんな嫌なことがあっても、乗り越えられた。
しんみりとした中、武尊はジュースに口をつけた。
「そうそう、直美の昔の写真があるから見て」
そう言うと、綾香は慌ただしく部屋の奥に行って、しばらくしてアルバムを持って来た。
その中からページを開くと、指差して教える。
「これこれ。昔の写真だから恥ずかしいな」
そこには、バイクの前で白の長い学ランを着た武尊ぐらいの女の子二人が、かなり濃い化粧で写真を睨みながら肩を組んでピースサインを向けていた。
確かに片方は母親のようだし、目の前の綾香のような面影もある。
武尊は一瞬頭が真っ白になり、照れている綾香を見た。
「これコスプレしてるの?」
「違う違う。今の子って知らないかな。私たち、レディースだったんだよ」
「レディース?」
「暴走族の女性版」
「暴走族?」
「あれ? 知らなかったの?」
にこにこと穏やかに笑う綾香に、当時の面影は一ミリも感じない。
母親の意外な過去に、武尊はアルバムを見ながら固まった。
「直美、かっこよかったんだよ。
バイクがうまくてね。いつも先頭を走ってたんだ。
私たちは直美の背中を見て、いつも走ってたんだよ」
綾香は懐かしそうに遠くを見つめた。
「直美はどんな生活をしていたの?」
「母さんは、近くの工場で働いていて。休みのときは、よく友だちと遊んでた。
一緒にご飯食べたり、近場に遊びに行ったり。いつも家には誰かが来ていて、賑やかだったんだ」
「そっか。昔から友だちが多かったから。直美らしいね」
そう言うと、綾香は少し鼻をすすった。
それから武尊は直美のことを話し、綾香も若い頃の直美のことをたくさん話してくれた。
武尊は久しぶりに母が近くにいるようで、気持ちが温かくなった。
そうしていると、綾香の子どもたちが帰ってくる。
小学五年生と三年生の元気のいい男の子だ。
二人は武尊を不思議そうに見ていたが、綾香から紹介されると、すぐに納得をしたようだった。
「じゃあ、俺もそろそろ帰ります」
「ごめんね。もっとゆっくりしてもらいたかったんだけど」
「いえ。十分ゆっくりさせてもらいました」
「武尊君、学校は?
もし週末まで名古屋にいるなら、直美の生まれた町に行ってみない?」
「母さんの?」
「そう。車で一時間ぐらいの知多半島の師崎ってところ」
武尊は驚いて目を見開いた。
てっきり直美の実家も、名古屋市内だと思っていたからだ。
「通信高校だから、学校の方は大丈夫だけど、おじさんの親戚の家に泊まらせてもらうから、相談をしてみないと分からないんだ。
でもいいの?」
「遠慮しないで。いいに決まってるじゃない。
私も急に休みが取れないから、週末になっちゃうけど、もし行けそうだったら、連絡して」
そう言って、綾香と武尊は連絡先を交換した。
「子どもを塾に送るから、駅まで送っていくよ。
車に乗って」
「でも……」
「直美の子どもなんだから、遠慮しない」
その一言がとても嬉しかった。
車に乗ってからも、綾香の話は止まない。
綾香の話をいつまでも聞きたくて、武尊は初めて会ったのに、名残惜しくなった。
駅で別れて車を見送りながら、名古屋に来て良かったと、心から思った。
本作品は個人創作です。
一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。
本作はフィクションです。作中には実在する地名や施設名などが登場しますが、物語の演出上、設定や描写には創作・脚色が含まれます。実在の人物・団体・事件とは関係ありません
「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。
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