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月曜日の朝の7時。恭介は新宿の高速バスターミナルへ到着した。
広い待合室で思いきり体を伸ばす。
思ったより眠れたけれど、疲れが取れたとはいえない。
恭介はトイレで軽く顔を洗って、コンビニでおにぎりを買うと、再び待合室に戻ってLINEを開く。
昨夜、忠がくれたLINEによると、父に連絡をする前に、若菜の母親の真由美と連絡を取ったほうがいいらしい。
恭介の突然の思いつきで東京に来たにもかかわらず、フォローまでしてくれる忠には、感謝しかなかった。
恭介は少し早いかなと思いながらも、真由美に電話をした。
真由美はすぐに電話に出てくれた。
「おはよう恭介。本当に東京に来たんだね!」
若菜とそっくりの元気のいい声が聞こえてくる。
「ごめんなさい。急に来ちゃって」
「いいよ、いいよ。じゃあ、康介の家まで来てくれる?
場所、わかるかな」
「それが、初めて来たから……」
「それなら、住所送るから」
それからすぐに恭介のLINEに住所が届く。それをもとに地図アプリを開いて、父の家の道順を確認する。
「来れそうかな?」
「たぶん、大丈夫」
「なら、着いたらまた教えて。気をつけて来てね」
そう言うと真由美は電話を切った。
恭介はおにぎりを急いで食べ、父の住まいがある文京区までの行き方を調べる。
そして「よし」と気合を入れると、朝の通勤客が増え始めた新宿駅へ向かった。
地図にのっていた最寄り駅で降り、スマホの指示通りに進んで行く。
街は静かで、あまり歩いている人も少ない。たまに見かける小学生の姿に気持ちが和む。
しばらくすると古びたマンションが見えてきた。恭介は緊張しながら、階段を登って行った。
表札はないが、真由美から送られてきた部屋番号はここで間違いない。
恭介は深呼吸を一度して、ゆっくりとインターフォンを押した。
しかし、しばらくしても返事はない。
もしかして、もう仕事に行ったのかな。
それとも、まだ寝てるのかな。
恭介が不安に感じていると、真由美が階段からやってきた。
ストレートのロングヘアーを一つにまとめた真由美は、若菜がこのまま大人になったら、こんな感じになるのかなと思うぐらいよく似ていた。しかしぱっと見た雰囲気は、真由美のほうが気が強そうだ。
出社前なのだろう。いつもは見ないスーツ姿、恭介は少し戸惑った。
「ごめんごめん、待たせちゃったね」
そう言うと、鍵を取り出し部屋の中に入って行く。
「汚いけど、入って」
真由美の自然な行動に驚きながら、恭介は小さな声で「おじゃまします」と呟いた。
部屋の中は、生活感が薄く、本や資料以外は物が少なかった。入ってすぐにある台所も資料らしき物が散らばっている。
真由美はそれを端に寄せると、ポットの水を入れ替えてお湯を沸かした。
そしてコップを食器棚から取り出すと、軽く洗い直す。
「恭介、何飲む? コーヒーと紅茶とお茶ぐらいしかないけど」
「あっ、お茶で」
「朝早かったけど、お腹空いてない?」
「うん、コンビニで買って食べたから、大丈夫」
お湯が沸くと真由美はティーパックを使ってお茶を入れてくれた。
恭介は物珍しそうに部屋を見ていたが、真由美に促されて椅子に座った。
「おばさん、仕事は?」
「遅れるって言ってるから大丈夫。
それに、ここから職場まではすぐだしね」
自分のもお茶を作ると、恭介の前に座って同じようにお茶を飲む。
自分の家のように慣れている真由美の行動に、恭介は戸惑った。
「あの、父さんは?」
「それなんだけどね。康介、三日前から仙台の大学に行っていて、今留守なんだ」
「えっ、いつ帰ってくるの?」
それに真由美は申し訳なさそうに言う。
「大学の用事自体は今日までなんだけど、ついでに長期休みを申請していたから、正直に言えばいつ帰るかわからないのよ」
「連絡は取れないの?」
真由美は仕方なさそうに、自分のスマホから電話をする。
すると別の部屋から着信音が聞こえてきた。
「康介、スマホを持ち歩かないのよ」
「今の時代、スマホを持ち歩かないなんて、信じられない!」
「私も何度も忘れないように言うんだけど、こればっかりは駄目なのよね」
恭介は自分の父親ながら、頭が痛くなるような気がした。
「で、恭介はどうしてお父さんに会いに来たの? 今までそんなことなかったじゃない。
何かあったの?」
「うん……そうなんだけど、その前に一つ聞いていい?」
真由美が不思議そうに恭介を見る。
「あの……、おばさんと父さんって……」
いいにくそうに言葉を濁す恭介から真由美は察して、思わず吹き出した。
そのようすに目を丸くする恭介に真由美は「ごめんごめん」と謝る。
「そりゃ、誤解しちゃうよね。恭介も高校生だし。
だけど安心して。
私は康介とは何でもないよ」
それを聞いた瞬間、自分のとんでもない勘違いに恭介の顔は赤くなる。
「それにしても、恭介も大人になったね。そういう心配もしちゃうんだし。
忠が手を焼いちゃうのもわかるわ」
「……ご、ごめんなさい」
「いいのいいの。慣れてるから。
私と康介は中学時代からの腐れ縁だし。
康介は昔から同じ研究バカだから、ついつい世話を焼いてきたの。
それが今も続いているってわけ」
恭介は正直どこかに隠れたいぐらい恥ずかさかった。
「大きくなったね」
優しい眼差しで見つめられて、恭介はさらに恥ずかしくなった。
「それで恭介はどうしたの?」
恭介は津山で体験したことを話そうとしたが、真由美に上手く説明する自信がなかった。
「うん……。
実は、父さんに聞こうと思ってたんだけど、おばさん、父さんと昔から知り合いなら知ってるよね」
「なに?」
「僕のお母さんのこと……」
真由美が驚き、そして切なそうに恭介を見た。恭介は、真由美がどうしてそんな顔をするのか分からなかった。
「知ってるよ、もちろん。
だけどお母さんのことは、お父さんから聞いた方がいいと思うの」
「どうして?」
「恭介たちの家族のことだからね」
その言葉に恭介は少し驚いた。
確かに、家族のことだけれども、今まで父のことを家族だなんて思ったこともなかったからだ。
もちろん、祖母は家族だ。
そして、父なんかよりも、忠や若菜の方が、家族と言う言葉がしっくりする。
そんな中で、今さら父と家族だと言われても、違和感しか感じなかった。
「康介がいつ帰るかわからないけど、少しゆっくりしたらいいわ」
そう言うと、真由美は部屋の鍵を恭介に渡した。
「書類はあまり触らないようにしてあげて。
それだけ気をつけたら、部屋は自由に使っていいから。
何が困ったら私に連絡をしてね」
恭介は頷いた。
「私は仕事に行ってくるわ。
夜、ご飯を一緒に食べようね」
それだけ言うと、真由美は颯爽と仕事に向かった。
一人残された恭介は、部屋を一つずつ見て回る。
どの部屋も本と書類で埋まっていた。
本のタイトルは、難しくてどんな研究をしているのか、さっぱりわからない。
ここで生活している父の姿を想像してみたが、それも難しかった。
父のことを何も知らなかったことを改めて感じて、居心地が悪くなった。
本作品は個人創作です。
一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。
本作はフィクションです。作中には実在する地名や施設名などが登場しますが、物語の演出上、設定や描写には創作・脚色が含まれます。実在の人物・団体・事件とは関係ありません
「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。
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