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物部家は外観は典型的な日本家屋。そして同じ敷地内に道場もある。
物部家は古くから剣道の道場を開いていた。
立派な道場には、小学生や中学生が習いに来ていた。
武尊は恭介が帰ったことを聞くと、ほっとして道場の手伝いの準備をしていた。
一応、先生と呼ばれてはいるが、もともと練習を真面目にしてこなかった武尊は、あまり強くない。
小学生はともかく、本気でかかってくる中学生あたりになると、苦戦することも多かった。
今日の指導者は勝だ。いつもは葵や葵の父である樹が子どもたちの指導をしているのだが、どうしても仕事の都合がつかなかったらしい。
勝に昔から苦手意識のある武尊は、それだけで気が重かった。
勝の指導は小さい子どもに人気があった。葵や樹に比べて、さほど型にはとらわれず、自由にさせるからだ。
樹が基本、基礎に忠実ならば、勝は多少基礎が崩れても強ければいいという考えだ。
子どもたちも多少ハメを外しても怒られないことを知っているので、その分空気も緩くなる。
ただし、ふざけ過ぎた場合、一番怖いのも勝なので、子どもたちはそのバランスを見ながら稽古に励んでいた。
稽古が終わると、子どもたちはあっという間に帰っていく。さっきまで明るい声と元気のいい足音で満ちていた道場が急に静かになった。
勝と二人になった武尊は、無言で片付けをしていた。
そんな武尊にめずらしく勝が話しかけてきた。
「恭介が来てたぞ」
「知ってる」
「ここまで来たんだし、会ってやってもよかったんじゃないのか」
勝は基本的に恭介に優しかった。そもそも実力主義の勝からすると、霊力の高い恭介はそれだけで価値があるのだろう。
「俺、特に話すこともないし」
「だけど恭介は何か話があったんだろ」
さらに話を続けようとする勝に、武尊は苛立ちながら言った。
「恭介はうちの殺魔師じゃないんだ。
何かあったとしても、関係ないだろ。
それから何度も言うけど、俺も話すことはないから」
武尊はそれ以上何も言わず、道場を後にした。
武尊は八畳間の部屋をもらっていた。机と本棚とタンスとベッドがあるが、基本的には物が少なく、すっきりとした部屋だ。
部屋に戻った武尊はベッドに寝転がる。
途端に、部屋の隅に立てかけられていた玉依が駄々をこねた。
(恭介に会いたい)
恭介が物部家に来た途端、玉依は恭介に会いたいとうるさくせがんだ。その声が武尊の頭の中で響き、頭ががんがんした。
しかも会わずに帰らせたら、今度はどうして会わないのかと責め立てられ、酷い頭痛になった。
どいつも、こいつも、恭介、恭介と、本当にうるさい。
だいたい、会って何を話せばいいんだ。
恭介のことだ。絶対に、物部家に戻りたいと言うに決まっている。
武尊からすれば、そんなこと許せるはずがなかった。
今回は運よく命が助かったものの、次も同じ幸運が訪れるとは限らない。
もう、あんな気持ちになるのは二度とごめんだ。
恭介には、殺魔師のことなんて忘れて、普通の人生を歩んでほしい。
(恭介に会いたい)
「駄目だ。恭介には会わない。二度と、絶対に」
玉依の機嫌が悪くなるが、かといって、武尊にはどうしようもできなかった。
夕方六時になると、武尊はランニングに出かける。
朝の六時と夕方の二度のランニングが今のルーティンだ。
約十キロをひたすら走る。
そもそも京都から帰ってしばらくは、何もする気力が湧かなくて、部屋に引きこもっていた。
そんな武尊に、葵は言った。
「武尊様は物部家の当主なのですから、せめてこれだけはこなして下さい」
そうして出されたスケジュールは、学校の時間割のようだった。
朝からのランニングに通信高校の勉強。道場の手伝いに、家の掃除まで含まれていた。
なんだこれ。
そう思ったが、今この家に武尊がいるのは、玉依に選ばれたからだ。この家の方針に従うことは、当然だ。
特にやりたいこともないし、かといって、居候の身でぶらぶらすることもできない。
だったら、言われた通りにすればいい。
ランニングをしていると、恭介と一緒にこの道を走っていた頃を思い出す。
あの頃は、恭介といるだけで楽しかった。
恭介が探すと決めた、友だちの幸。
彼女を探すためとはいえ、恭介が物部家に来てくれたことが嬉しかった。
玉依の力が恭介の役に立つと思うと誇りにすら思えた。
だけど、今はどうだろう。
武尊はふと足を止め、後ろを振り返る。
田んぼに囲まれた中に、物部家が小さく見える。
俺はどうしてあの家にいるんだろう。
どうして、殺魔師なんかやってるんだろう。
武尊はため息をついて再び走り始めた。
隣でいつも競争していた恭介は、今はいない。
そのことが寂しくてたまらなかった。
ランニングから帰ると、玄関でスーツ姿の樹と会った。
樹は、勝と違って体格は細身だ。しかし目元の鋭さなどは、勝と似ているところもある。
「走ってきたのか?」
「あっ、うん」
武尊は、何を考えているのかよく分からない樹が苦手だった。
だけど、武尊のことは見透かされている気がする。
樹の近くにいると、そんな居心地の悪さを常に感じていた。
「明日、時間があるのだが、直美さんのお墓に参らないか」
「えっ? どうして?」
「しばらく落ち着いて参っていないだろう」
「あっ、うん。ありがとう」
武尊は戸惑いながらも、素直にお礼を言った。
武尊の母親は、津山市の山奥にある物部家の菩提寺の共同墓地で眠っている。
そこは車でなければ行くのも大変な奥地だ。
「明日、9時半ぐらいに用意をしておくように」
それだけ言うと、樹はピンと伸びた姿勢で家の奥へと入っていった。
本作品は個人創作です。
一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。
本作はフィクションです。作中には実在する地名や施設名などが登場しますが、物語の演出上、設定や描写には創作・脚色が含まれます。実在の人物・団体・事件とは関係ありません
「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。
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