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怪魔のいる世界で生きている  作者: さち
夜の月に照らされる影法師の子

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※本作には虐待や暴力など、心身に負担を感じる可能性のある描写が含まれます。物語上必要な表現として描写していますので、苦手な方はご注意ください。

辺りが薄暗くなり、街灯の灯りがつきはじめる。

 怪魔が倒され、その現場検証のため警察は慌ただしくしている。

 葵は警察と連携して、動いているため忙しそうだ。

 玉依にもたれながら、ようやく落ち着いてきた武尊は大きくため息をついた。

 両手を静かに見つめる。

 あの怪魔を斬った感触が、まだその手にのこっている。

 だけど怪魔を倒すことができた。

 玉依の力を借りれば、倒せるんだ。

 武尊は自分の手を思いきり握った。

 そんな武尊に勝が近づく。

「少しは役に立つこともわかった。

 次までに葵に鍛えてもらっとけ」

「何だよ偉そうに」

「俺はお前よりはるかに偉いんだよ」

 そういうと、葵の方に歩いて行った。

「やなやつ」

 勝の背中を武尊は睨み続けながら呟いた。


 勝は葵のもとに行くと、忙しそうにしていた葵がものすごい形相で睨んできた。

 通常そんなに喜怒哀楽を見せない甥が、こんな表情をするのは珍しい。

 よっぽど腹に据えかねているのだろう。

「初戦にしては、最高だったじゃないか」

「そんな、何もなかったからよかったものの。

 あんなのは無茶すぎます」

「お前が怪魔を抑えていて、俺が後ろで控えている。

 これ以上いい条件はないと思うが?」

 葵は悔しそうに睨む。

「まあ、使えることはわかった。

 後は兄貴とお前でどうにかしろ」 

「言われなくてもそうします」

「それから、後で佐藤家にも寄るんだろう。

 娘の方に、話を聞き出せ。

 いくら子供だと言っても、一つ間違えれば大惨事になるところだったんだ。

 それをわからせろ」

 勝は割れた病院のガラスを見ながら、いつになく厳しい声で葵に言った。

 それに葵は静かに頷いて答えるのだった。



 恭介はこっそりと武尊に近づいた。

 車の近くで玉依を抱いてぼんやりと立っている武尊からは、いつもの元気は見られない。

「武尊、武尊。

 すごかったよ!」

 そんな武尊とは逆に、恭介の興奮は抑えきれなかった。

 怪魔を見たのも初めてだ。

 しかもそれを友だちが倒すなんて思ってもみなかった。

 しかし武尊の反応は、恭介の予想とは違っていた。

 玉依を握っていた両手をじっと見つめている。

「武尊?」

「俺、本当に怪魔を倒したんだな」

「そうだよ。武尊が怪魔のそばに近づくから、はらはらしながら見てた。

 何か、玉依も嬉しそうだね」

「ああ。倒したって言っても、玉依のおかげだからな。

 恭介に褒めてもらいたいんだって」

「玉依もすごかったよ」

 思わず恭介から笑みがこぼれる。

「そうだ、おじさんと幸に伝えとかないと」

 恭介はLINEで二人に連絡をする。

「ありがとう。

 武尊のおかげで、若菜も安心するよ」

 武尊は恭介の言葉に目を細めた。

「役にたって、よかった」

 いつものようにはしゃがない武尊に、恭介は違和感を覚える。

 そんな武尊のそばに葵がやって来た。

「武尊様、もう少ししたら、警察への説明が終わります。

 その後は佐藤家に報告をして、帰りましょう」

 恭介は、また武尊が嫌だと言うと思っていた。

 しかし、武尊は反発することなく頷いた。

 そのことにほっとした表情を浮かべながら、葵はまた警察の元へと戻る。

「武尊、帰るの?」

「まあ、約束だしな」

「嫌がらないの?」

 武尊はしばらく考えて、口を開く。

「俺、母ちゃんが怪魔に殺されてる。

 今までは、どんなに悔しくても、どうにもならなかった。

 だけど玉依がいたら、母ちゃんの敵討ちもできるかもしれない」

 決意を固めた声に、恭介は武尊が自分とは違う世界を見始めていることを悟った。

「怖くない?」

「ちょっと、怖い」

「危なくない?」

「わかんね」

「頑張れる?」

「……頑張る」

 武尊は恭介に向かって晴れやかな笑顔を向けた。

「ありがとう。世話になったな」

 恭介は武尊と過ごした短い日々を思い返し、少し泣きそうになった。




 手の中のスマホに恭介からのLINEが届いた幸は、まるで捕まる前の犯罪者のようにおびえていた。

 喉はカラカラで、体が恐怖で震えている。

 怪魔を呼び出したことがわかったら、どうなるのだろう。

 たくさんの人に迷惑をかけた。

 若菜たちを心配させた。

 だけど、本当のことを黙っていたら、何とかなるのだろうか。

 その時、部屋をノックする音がする。

「幸、入っていい?」

「ごめん、今、ちょっと……」

「じゃあ、落ち着いて聞いてね。

 幸のお父さんと、しゃべれるようになったって、病院から連絡があったの」

 幸は叫びそうになる声を両手で必死に押さえた。

「パパがまた幸と話したいって言ってた。

 怖がらなくても大丈夫。

 みんな、幸の味方だからね。

 だから、落ち着いたら顔を見せて……」

 そういうと、部屋から足音が遠ざかる。

 静かになった部屋の中、幸は自分の身体を抱きしめた。

 父親が話したら、全てが分かってしまう。

 幸は若菜が冷たく自分を見下ろす想像をして、胸が張り裂けそうになった。

 無理だ。

 もう、ここには居られない。

 幸はそっと部屋から抜け出して、暗くなった町へ駆け出した。


 とはいえ、幸に行く当てはない。

 裸足で幸は自宅への道を歩いていた。

 そんなとき、幸のそばに真っ赤なスポーツカーが止まる。

 驚いてその車を見ると、窓が開きあの男が顔を出した。

「やあ、久しぶり。

 あれを使ったみたいだね。

 役にたった?」

「ぷ~さん………」

 幸は大きく目を見開いて男を見ると、その車の窓を掴んだ。

「お願い! お願い! お願い!

私を連れていって!」

 男は不思議そうに幸を見た。

「どうして?」

「私、もう、どこにも行くところがないの。

 あなたのあの札のせいで……。

 どうしてあんな物、渡したの!」

「俺が悪いの?

 札に願ったのは君だよね」

「そうかもしれないけど、そんなつもりはなかったの。

 お父さんが死んでほしいとも、思ってない。

 だけど、誰も助けてくれなくて。

 誰かに助けてほしかったの」

 幸の必死の訴えにも、男は無機質な物を見るように、反応しない。

「お願い、私、もうどこにも行けないの。

 若菜のところにも、居られない……」

 車を運転している女が忌々しそうに男に言う。

「なんなのこの子。

 気持ち悪いから車出すよ」

 そういうと、車はゆっくりとスピードを出し始めた。

 はじめは何とか窓をつかんでいた幸だが、やがてそのスピードに追いつけなくなり、手を放し、幸はこけてしまった。

 離れて行く車が涙でぼやけて行く。

 地面にうつ伏せて泣いていると、足音が幸の前で止まった。

 顔を上げると、男が立っていた。

「死にたいの?」

「死にたくはない」

「どうしたいの」

「ここから逃げたいの」

 男はしゃがんで、幸と視線を合わす。

「逃げても、そこがいいところとは限らないよ。

 もしかしたら、今よりもっと酷いところかも」

「それでも、いい……

 私を連れていってください」

 幸は地面に頭をこすりつけた。

 男はそんな幸を抱き起こす。

「いいよ。君、面白いから連れていってあげる」

 幸を車に連れて行くと、運転手の女がヒステリックに男を罵った。

 それを気にするふうでもなく、男は目をつむり女と幸を無視する。

 まるで、そこには誰もいないかのような態度で。

 車が走り出すと、幸はスマホに残っていた画像をできる限りLINEに貼り付けた。

 そして最後に『ごめん』と書いた。

 手の中の画面をじっと見つめる。

 画面が涙でぼやける中、意を決してスマホを窓から投げ捨てた。

「それ、大切なものじゃないの?」

 無関心を決め込んでいた男が、呟くように問いかける。

「いいの。

 もう、私には必要ないから」

 しばらく後ろを見ていた幸だったが、男と同じように目をつむると、息を殺して車の揺れに体をあずけた。


本作品は個人創作です。

一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。


「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。

無断転載・無断使用・AI学習への利用は禁止しています。


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