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怪魔のいる世界で生きている  作者: さち
夜の月に照らされる影法師の子

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※本作には虐待や暴力など、心身に負担を感じる可能性のある描写が含まれます。物語上必要な表現として描写していますので、苦手な方はご注意ください。

金曜日、病院の周りはものものしい雰囲気だった。

 何人もの警察官が病院をとりかこみ、通院に来た患者一人一人をチェックした。

 町内はパトカーのパトロールも多く何台も回っている。

 夕方になり、通院の車は減って駐車場はがらんとした。

 そこに、昨夜から泊まり込んでいる葵と勝。

 そして朝になって呼び出された武尊がいる。

 最初は怪魔が出るかもと緊張していた武尊だったが、さすがに一日の張り込みに飽き飽きしていた。

「案外、地味な仕事何だな」

「ドラマのようなことはないですよ。

 それに、こうやって張り込みをすることも、私は初めてですよ」

 武尊は車から降りて体を伸ばす。そんなとき、自転車に乗った恭介がやってきた。

「お前、危ないだろ」

 武尊は玉依を抱えて恭介に走り寄る。

「何の用だよ」

「おじさんに頼まれて、お弁当を持ってきたんだ。

 残念だけど、玉依の分はないから、武尊から見せてもらってね」

「うわー。おじさんの弁当か」

 武尊は顔を輝かせる。

「でも、よくここに来るのをおじさん許したな。

 今の状況、わかってんだろ」

「すっごい反対された。

 けどさ、おじさんここ数日僕らのことで結構疲れてたからさ、少しでもゆっくりしてもらいたくて、強引に出てきた。

 どうせばあちゃんのところにも行くつもりだしさ、武尊たちがいたら、大丈夫かなって思って」

 恭介の言葉に、武尊は思わず笑顔になった。

 武尊は袋に入った三人分の弁当を恭介からもらうと、車へと歩く。

 そして、葵と勝にそれぞれ渡して、武尊は恭介としゃがんで弁当を開いた。

「何か、玉依嬉しそうだね。家にあったときは、本当に怖くてさ。

 僕、いつか斬られちゃうんじゃないかって感じてたけど」

「こいつは外に持ち出してたほうが機嫌はいいんだよ。

 家の中に置いてたら、機嫌が悪い悪い」

「そうなんだ。本当に意志があるんだね」

 何気なく二人の会話を聞いていた勝が車の窓を開ける。

「お前、玉依の言葉がわかるのか?」

 興味深そうに勝は尋ねた。

 突然話しかけられて、恭介は戸惑いながら答える。

「わかるわけじゃないですけど。

 犬や猫も今こんな気分なのかなって思うときがありますよね。

 そんな感じです」

「だけど、だいたい合ってる」

 武尊は自慢げに言った。

 勝はポケットから緑色の組紐を取り出し、30センチほど引き伸ばして恭介に渡した。

「この紐を持って、引き伸ばしたほうを、上へ引っ張るイメージで動かしてみな」

 意味もわからないまま、恭介は言われた通りやってみた。

 すると、恭介の意志が通じたかのように、組紐は動いた。

「何、これ? 手品?」

 目を白黒させる恭介に、武尊は驚く。

「すげえ。俺、全然動かないんだよ」

「こりゃあ、予想以上だ。

 葵、将来有望だぞ」

 葵はちらりと三人のようすを見る。

「叔父さんも、武尊様もいい加減にしてください。

 君もここは危ないから、早く移動をするように。

 ここより病院の中のほうが安全だから」

 その言葉に恭介は、武尊に手を振りながら病院の中へと入って行った。






「さてと、旨い弁当で腹も膨れたことだし。

 そろそろ運動の時間ってとこか」 

 日が西に傾き始めた頃、勝が首や肩を回して、軽いストレッチを始める。

「確かに、いいタイミングですね」

「今回は、俺が『コウ』で、葵が『シュ』な」

 二人の会話を不思議そうに聞いていた武尊に、葵が補足する。

「『コウ』は怪魔を攻撃する人。『シュ』は捕まえる人のことですよ」

「そんくらい知っとけ」

 勝の言葉に武尊は眉を寄せた。

「危険ですから、武尊様は車から出ないように」

 勝はバカにしたように鼻で笑った。

 車に乗った武尊は、膝の上で強く拳を握った。

 勝と葵は車から降りる。

 そして勝は車のトランクから日本刀を出した。

 勝の顔から笑顔が消える。

 葵は紫の組紐をポケットから出した。

(来たよ)

 玉依の声が武尊の頭に響いた瞬間、病院の三階の高さ付近に、黒い霧のモヤが浮かび上がり、徐々に鳥の姿に形ができてきた。

 怪魔は奇声をあげ、大きく羽ばたく。

 その瞬間、病院の窓ガラスが何枚か割れた。

「葵!」

「わかってます」

 葵は組紐を怪魔に投げる。それは狙った通り、首と体に巻き付き、怪魔を駐車場に叩きつけた。

 抵抗する怪魔が動かないように、さらに力を込めると、怪魔は嫌がるように声を上げた。

 核が2つ。

 思ったほど力のない怪魔だ。

 葵は怪魔を冷静に分析する。

「叔父さん!」

 葵が勝を見るが、勝は攻撃をしようとしない。

 それどころか、にやりと笑うと、車のドアを開けて武尊を引っ張り出した。

 武尊は驚いて勝を見上げる。

「何考えてるんですか!」

「実習だよ。実習。

 玉依の使い手なら、このくらいの怪魔なんて軽いもんだろ」

「武尊様はまだ怪魔と戦う知識ないし、練習もしてないんですよ」

「何度も言ってるだろ。そういうところが兄貴も葵も甘いんだ」

 絶対に計画的だ。

 葵は悔しそうに奥歯を噛み締めた。

 さすがの葵でも、一人で怪魔を倒すことはできない。

 だからといって、武尊のサポートに付けば、怪魔を逃してしまう恐れがある。

 それだけは絶対に避けたかった。

「ほら、玉依の力を見せてみろよ」

 勝は武尊を見下ろして言った。

(私はいつでも大丈夫だよ!

 武尊、このくらいの怪魔なら、私を思いきり叩き込めばいい!)

 武尊は震える手で玉依を鞘から抜いた。

 青白い刀身が妖しく輝く。

 勝は武尊の背中を押し、怪魔の近くまで連れて行く。

 武尊の想像以上に怪魔は大きかった。

 赤く光る目が武尊を見て、威嚇するように叫んだ。

 その声に武尊の体が固まる。

 呼吸は乱れ、心臓は痛いほど早鐘を打ち、全身が燃えるように熱い。

「葵の『シュ』は一流だ。

 絶対に怪魔はお前に向かってこない。

 だから、集中しろ。

 ゆっくり息を吸え。

 そして確実に仕留めろ」

 不安そうな葵の前で、武尊は覚悟を決めた。

 深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。

 柄が熱くなる。

 武尊は怪魔を睨みつけると、声を上げながら思いきり神剣・玉依を怪魔に向かって叩き込んだ。

 玉依を通じて、怪魔を切る生々しい感触が伝わる。

 武尊は歯を食いしばって、さらに玉依に力を込めた。

 怪魔は断末魔の叫び声を上げ、黒い塵が弾けるように消えていった。

 思わずへたり込む武尊に、葵が駆け寄る。

 勝は武尊の手のなかで青白く光る玉依を見た。

 霊力も経験もないガキに、怪魔を倒せる力を与える神剣。

「これが兄貴が執着する理由か………」 

 その呟きは、怪魔が塵となって消えていくのと同じように、風に紛れて、誰も聞くことはなかった。


本作品は個人創作です。

一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。


「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。

無断転載・無断使用・AI学習への利用は禁止しています。


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