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※本作には虐待や暴力など、心身に負担を感じる可能性のある描写が含まれます。物語上必要な表現として描写していますので、苦手な方はご注意ください。
若菜の家から出ると、勝は憤慨していた。
「あの子ども、どう考えても何か知っているだろう」
あまりの声の大きさに、葵はさすがに周りを見渡した。
今は武尊がいなくてよかったと、葵は思った。こんなところで二人の言い争いが始まったら、忠が何と思うかわからない。
「叔父さん、先輩からもメールが届いているので、早く車に乗ってください」
車に乗るが、さらに勝の話は止まらない。
「あの大人も、どうして気が付かないかな。
早く話をさせたほうが、あの子は絶対に楽になる」
その一方的な意見に葵は苦笑いを漏らす。
「佐藤さんは子どもの意見を尊重する方ですからね」
「そういう顔色ばかり気にする大人が多くなると、子どもはさらにつけあがるんだよ。
子どものうちは、大人の言うことを聞いてるぐらいがちょうどいいんだよ」
さすがに勝の意見には賛同できないが、幸が何かを隠しているのはおそらく間違いないだろう。
「お前の先輩からの連絡は?」
「電話していいみたいですから、ちょっと場所を移動しますね」
葵はエンジンをかけ、車を走らせた。
葵は幸の父が入院している病院の駐車場につくと、さっそく電話をかける。
「最上先輩、忙しいところすみません。
叔父も一緒なので、叔父にも先輩の話が聞けるようにしますね」
葵はスマホのスピーカー機能を使って、勝にも聞こえるようにした。
「えっ、あっ、物部勝だ。よろしく」
少し緊張している勝の姿に、葵は思わず笑いそうになる。
「警察庁対怪魔局特別対策課の最上です。
よろしくお願いします。
さっそくですが、今回問合せがあった『トビラ』と呼ばれる一族ですが、殺魔師の方々がそのような名称を使っているのは我々も知っています。
ただ、対怪魔局では特殊事件として取り扱っています」
「特殊事件?」
「つまり、怪魔を使って暗殺をしたと見られる事件をそう呼んでんだ」
葵の質問に最上は答えた。
「対象となるのは、主に裏社会の重要人物や、官僚、政治家。つまり社会に何らかの影響を与える人物が多いな。
そう考えると、今回の事件は特殊事件の中でも、さらに珍しいパターンとも言える」
最上の説明に、勝と葵は思わず黙り込んだ。
「もっとも、地方では未解決事件として処理されたり、事件性がないと判断されて、俺たちのところまで報告が上がらなかった可能性もあるからな。
今回のことをきっかけに、地方でも同じような事例がないか洗い直すことになりそうだ」
「まあ、いいきっかけになった、とでも言えばいいのか」
「はい。我々も怪魔を使って暗殺をする団体には以前から注目しています。
しかしその団体についての手がかりはほとんどありません。今はどんな情報でも貴重なんです。
ところで葵、襲われた家に入ったとき、五芒星の描かれた札は見なかったか?」
「札ですか? 見てないですね」
「捜査資料にも上がってなかったから、もしかしたら警察が見落としたのかもと思ったんだが」
「札が何か関係あるのですか?」
「事件現場に時々落ちているんだよ。五芒星。
正確には、完成していない五芒星が三つ描かれた札だ」
「完成していないとは?」
「五芒星をイメージしてくれ。普通なら線がつながっている頂点があるだろう。 だけど、その札の五芒星は、一か所だけ必ず線が途切れているんだ。
そこに呪術的な要因があると言われているんだ」
五芒星を頭の中で思い浮かべながら、最上の説明に納得する。
「あの家では見ていませんね。警察がいた手前、触ることもできなかったというのもありますが」
「捜査資料には載っていなかったから、もしかしたらと思ったんだ。
もっともあの家の荒れようだったら、どこかに紛れている可能性もあるしな」
「最後に、怪魔についてなんですが」
「ああ、これも特殊でな、ターゲットを殺害したら、怪魔は消滅するようなんだ。
だけど、殺害に失敗したら、目的を果たすまでターゲットにつきまとう。
その場合、周りの人も巻き込まれる可能性はある」
幸の父親はまだ生きている。
ということは、怪魔が現れて、幸の父親だけではなく、無関係の人を襲うということも考えられるのか。
「通常の怪魔と同様に、建物内など通り抜けることはできないと考えていいですか?」
「ああ、その点は通常の怪魔と変わらない」
葵は目の前の病院を見あげた。
町の総合病院とはいえ、三階建てで比較的小さい建物だ。
そして幸の父親は三階にいる。
まだ外出することはできないということは、怪魔が開いた窓や正面玄関、夜間用の入り口から侵入しない限りは、建物の外から幸の父が出てくるのを待ち続ける他はないだろう。
ただ大人しく待っていてくれたらいいが、おそらく人間を襲いその魂を吸って力を蓄える可能性もある。
勝も以前行っていたが、かなり厄介な相手だ。
葵は最上に、怪魔に狙われている幸の父親が、病院に入院していることを伝えた。
「地元の警察に応援を頼んだ方がよさそうだな。
それは俺の方から手配しておくよ」
「助かります」
「それで、犯人の目星はついているのか?」
「俺の感だと、娘だな。
もし犯人でなかったとしても、絶対に何か知ってるはずだ」
自信に満ちた勝の言葉に、葵は苦笑する。
「確かに何かは知っているとは思います。
彼女が正直に話してくれたら、状況もはっきりすると思うんですけど」
「だから、もっと強く追求すればよかったんだよ」
「叔父さん、今はそういう時代じゃないんですよ」
「何でもかんでも今の時代に合わせる風潮は、俺は気に入らん」
葵は勝の言葉に思わずため息が漏れる。
「また何かあれば連絡してくれ」
「ありがとうございました」
葵は電話を切ると勝に言った。
「今夜からここで張り込みですね」
ある程度予想をしていたとはいえ、勝の顔が曇る。
「嫌な予感はしていたんだよな。
あのガキに関わると、ろくなことがない」
その嫌味を聞き流しながら、葵は目の前の建物を見あげた。
闇に白い建物がぼんやりと浮かんでいた。
部屋の布団でぼんやりと天井を眺めていた幸は、さっき来ていた殺魔師と名乗った大人とのやりとりを、何度も思い出していた。
おかしいところはなかったかな。
疑われていないかな、と。
そしてあの男からもらった札から、怪魔が出てきたのも確信した。
私、父さんを殺したいなんて、思っていないのに。
もしもあの人たちが本当のことを知ったら、おそらく若菜たちに話すのだろう。
そうなったら、さすがにここには居られない。
どうして怪魔が出てきちゃったんだろう。
私、父さんを殺したいなんて、思わなかったのに。
ただ誰かに助けてもらいたかっただけなのに。
何度も同じ問いかけをしているのに、答えが見つからない。
すると控えめなノックの音がした。幸はゆっくりと体を起こす。
「幸。少し入っていいかな」
「いいよ」
若菜は部屋に入ると、幸の枕元まで近寄ってきた。
「さっきのおじさん、なんか怖かったね」
幸は頷く。一言も喋らなかったが、幸の嘘を見透かしているような、厳しい目だった。
「若菜、ごめんね。
なんか迷惑ばっかりかけちゃって」
「私は気にしてないよ。もちろんお父さんも。
幸は今、元気になることだけを考えてね」
「ありがとう」
「お父さんが、明日は幸の好きな物を作りたいから、教えてほしいって言ってたよ。
何か食べたいものがある?」
本当は食べたいものなんてないのだけど、そんなことを言ってしまえば、若菜が心配をするから幸は少し考えてから答えた。
「ハンバーグ」
「わかったわ。お父さんのハンバーグ、おいしいんだよ」
若菜は嬉しそうに笑った。
そして、幸をぎゅっと抱きしめる。
「大丈夫だよ。心配しないで。
殺魔師の人たちが、解決してくれるよ」
「うん。ありがとう」
若菜はおやすみと言って部屋から出ていった。
幸は寝転がると、再び天井を見上げた。
殺魔師が事件を解決するのが怖い。
父が元気になるのが怖い。
「誰か、助けて………」
幸のか細い声は、天井に吸い込まれていった。
本作品は個人創作です。
一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。
「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。
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