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※本作には虐待や暴力など、心身に負担を感じる可能性のある描写が含まれます。物語上必要な表現として描写していますので、苦手な方はご注意ください。
恭介が若菜の家につくと、忠がほっとしたような顔で出迎えてくれた。
時計を見ると、七時前になっていた。
あんな大事件の後にもかかわらず、武尊と話をしていたから、いつもより遅くなってしまった。
これは結構心配をかけてしまったのかもと、恭介は申し訳ない気持ちで忠に話かける。
「物部さんたち、後で寄るって言ってたよ。
あと、お弁当、ありがとうございましたって」
「お役に立てて良かったよ。
夕飯ができてるよ。恭介も食べよう」
忠は若菜も呼ぶと、テーブルに座った。
テーブルには四人分のハンバーグとサラダがならべられていた。
しかし、幸は出てくるようすがない。
「幸は?」
恭介は若菜に尋ねる。
「まだ調子悪いのかな。
さっき声かけたんだけど、返事がなくて」
若菜は浮かない顔だ。
「せっかく、怪魔は倒せたのに」
「うん。だけどね、ちょっと前に病院から電話があったんだ。
お父さん、しゃべれるようになったって」
恭介も幸のアザのことは若菜から聞いていた。
直接見たわけではない。
だけど実の父親が娘を傷つけるなんて、腹立たしい話だ。
恭介がそんな気持ちになるのだから、幸はどんな気持ちなのだろう。
想像することすら、難しい。
「そうなんだ。
幸、大丈夫かな」
「でもね。パパが行政に話しをして、幸がこれ以上辛い思いをしないようにするって、言ってくれてるの。
だから、きっと、大丈夫……」
自信がなくなるのか、だんだんと小さくなって行く声に、恭介は切なくなった。
「おじさんを信じよう。
それに、幸も落ち着いたら元気が出るよ」
「そうだといいんだけど……」
若菜の顔が曇っている。その顔を晴れさせる力が恭介に足りないことが、悔しかった。
その時、恭介のスマホから連続してLINEの着信音が聞こえて来た。
驚いてスマホを開くと、幸と若菜の大量の写真が次々と送られてきた。
それらが終わったかと思うと、最後に一言『ごめん』と書いてあった。
スマホを持つ手が震えた。
「幸、本当に部屋にいるの?」
恭介は、スマホの画面を若菜に見せる。
それを見た若菜は青くなって、幸が休んでいる部屋へ行った。
ノックもしないで部屋を開けるが、そこにはいるはずの幸の姿はなかった。
若菜と恭介と忠は家の中を探し、家の周りも探したが、幸の姿は見つからなかった。
恭介が、もう少し遠くまで探しに行ってみようとすると、家の前に車が止まった。
降りてきた葵たちは、ただ事ではないようすに表情が険しくなる。
すぐに葵が忠に話を聞き、警察に連絡をした。
「佐藤さん、警察も動いてくれるそうです」
「ありがとうございます」
忠は顔色の悪い若菜の顔を覗き込む。
「若菜、少し家に入って休もう」
しかし若菜は首を振るばかりで、さらに探しに行こうとした。
そんな若菜を恭介が止める。
「僕がもう少し探してくるから、若菜は待っていて」
恭介が行こうとすると、若菜はその手を掴んだ。
驚く恭介の目の前で、若菜は溢れる涙を止めることができなかった。
「どうして、幸はいなくなっちったのかな。
若菜が何かしたのかな」
「そんなことないよ。
きっとすぐに見つかるよ」
「でも、LINEに『ごめん』って。
幸が謝ることなんて、何もないのに……」
若菜は止まらない涙を何度も手の甲で拭いた。
その姿に、恭介は胸が痛くなった。
忠はエプロンのポケットに手を入れてはっとする。
「物部さん、ちょっと見てほしいものがあるんですが。
幸ちゃんが持っていたものなんですけど」
忠は、葵の目の前で、小さく織りたたまれた紙を広げた。
縦長の紙には三つの星が描かれている。
いや、正確にはその星は完成していない。
隙間がある星だ。
それを見た葵は、これが最上が話していた札で、間違いないだろうと思った。
葵は慎重に忠に聞く。
「本当に、彼女の持ち物ですか?」
「はい。幸ちゃんの服から出てきたんです」
葵と勝はお互いに顔を見合わせ、頷いた。
「この札は怪魔を呼び出すことができると、言われています。
おそらく今回の怪魔はこの札を使って、呼び出されたと思います。
もしかしたら、彼女は怪魔と何か関係があるのかも知れません」
忠と恭介は驚いて声が出ない。
そんな中、若菜が叫んだ。
「嘘よ!」
葵は若菜を黙って見つめた。
「幸が怪魔と関係なんて、あるはずがない!」
「僕も、そう思います!」
恭介も、勇気を振り絞って、大人たちに言った。
「確かに、君たちの気持ちもわかります。
しかし残念ですが、彼女が出ていったことと、この札と、無関係だとは思えません」
若菜はしゃがみ込んで泣き始めた。
夜の闇に悲しそうな若菜の泣き声が響いた。
恭介たちは一度部屋に戻る。
若菜は倒れるようにソファーに体を預けた。
お茶を用意しようとする忠を、葵が止める。
その言葉に甘えて、忠も椅子に座った。
長い間、沈黙が続く。
重苦しい空気の中、言葉を発する人はいなかった。
そんなとき、葵のスマホが鳴る。
葵は席を外して電話に応じると、暗い顔で帰ってきた。
その表情から、いい連絡ではないことはわかる。だけど、皆が葵の言葉を待った。
「幸さんの目撃情報があったそうです。
幸さんは、若そうな男性と赤いスポーツカーに乗って、東の方に行ったと言うことです。
そこから数キロ先の国道沿いの草むらの中に、幸さんのものと思われるスマホが投げ捨てられていたそうです」
「誘拐されたんですか?」
忠の疑問に、葵が答える。
「目撃者は、幸さんが自発的に乗っているように見えたと言っていたそうです。
もちろん、本当のところはわかりませんが、少なくとも、車に押し込められるような状況ではなかったようです」
「そのスポーツカーを運転していた人は?」
「そこまではまだ……」
幸の不可解な行動に、恭介は困惑するばかりだ。
若菜はあれから一言も喋らない。
だけど、恭介は知っている。
こういう時の若菜が、どれほど傷ついているのかを。
「申し訳ないのですが、今後の捜査は警察に任せる方がいいと思います」
「どうしてだよ。俺たち何もできないのかよ」
葵の言葉に武尊が反発する。
「武尊様、私たち殺魔師は怪魔を倒すことはできます。
しかし人探しということになると、人数や組織の大きさから考えても警察に任せる方が適任なのですよ」
もっともな言葉に、武尊は黙り込んだ。
「でも、あの札は怪魔に関係しているんですよね。
それなら、殺魔師の人たちの方がよくわかるんじゃないのですか?」
恭介は葵を見つめた。
「確かにそうかも知れませんが、殺魔師は警察のように横の繋がりがありません。
探すとなると、どれだけ時間がかかるかわかりません」
葵は優しく言ってはいるが、おそらくこの一件からは手を引こうとしている。
恭介はここで葵たちとの縁が切れたら、幸は探し出せないような気がした。
そうしたら、若菜はどうなるんだろう。
これほど傷ついている若菜は、どうなってしまうのだろう。
恭介はそれが怖かった。
「僕が探します。だから、僕を殺魔師にしてください」
思いもよらない言葉に、皆が一斉に恭介を見た。
「恭介君、何を言っているの!」
「おじさん、僕、見込みがあるんだって。
だから、僕が殺魔師になって幸を探すよ」
忠は葵と勝を睨む。
「子どもに適当なことを吹き込まないでください」
勝が口を開く前に、葵が恭介と向き合う。
「恭介君、申し訳ないけれど殺魔師はそんなに簡単になれるものじゃないんだよ」
「だったら、武尊の手伝いでもいい。
僕は、幸を探したいんだ」
さらに食い下がる恭介に葵は困った顔をする。
「まあ、いいんじゃないのか」
あっさりとそう言ったのは、勝だった。
「おじさん!」
非難する葵に勝は落ち着いて言った。
「この子には見込みがある。それは間違いない。
最近は殺魔師の人数も減ってきたからな。
少しでも可能性があれば、殺魔師になってほしい。
それはそうだろう、葵」
「確かにそうですが。しかし、彼はまだ中学生です」
「ああ、だからきちんと君の周りの大人たちを説得するんだ。
それが第一条件だな」
恭介は真剣な目で勝を見た。
「俺は期待して待ってるぞ」
その言葉に恭介は大きく頷いた。
目を開けた恭介は、一瞬自分の居場所がわからなくて戸惑った。
四角い白い部屋。
窓の外に見える街並み。
腕に刺さる点滴。
それらから、恭介は自分が怪魔に襲われてここにいることを理解した。
長い夢を見ていた。
自分も若菜も、今より更に幼かった頃の。
ゆっくりと腕を動かして、感触を確かめる。
まだ、生きている。
幸を探せるよ、若菜。
結局白鳳学園の札は、幸の札とは関係ないようだった。
それは残念だけれども、それでも、恭介は幸を探そうと再び覚悟を決めた。
しかし恭介は、自分を取り巻く環境が大きく変わっていることを、まだ知らなかった。
本作品は個人創作です。
一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。
「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。
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