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※本作には虐待や暴力など、心身に負担を感じる可能性のある描写が含まれます。物語上必要な表現として描写していますので、苦手な方はご注意ください。
水曜日、病院から帰った忠は大急ぎで洗濯物を片付けた。
こういうことを武尊にお願いしたら、気持ちよく手伝ってくれる。
しかし若菜が気にするので、おいそれと頼めなくなってしまった。
洗濯物を入れながら、ふと忠のエプロンのポケットに小さく折りたたまれた紙があるのを思い出した。
開けてみると、星が三つ書かれた札だった。
幸の服から出てきたものだ。
もしかしたら、お守りなのかもしれない。
うっかり洗濯してしまわなくてよかったと思いながら、そのまま返すのを忘れていた。
後で返そうと思っていた時、若菜の賑やかな声が聞こえて来る。
怒気を含んだその声に、何だろうと忠は部屋に入った。
若菜は怒りながら学校から帰ってきた。そして、武尊の姿を見て、さらに怒り出す。
「あなた、若菜のものをさわってないでしょうね!」
その鼻息の荒いようすに、武尊はうんざりしながら、触ってねーし、と答えた。
「幸は?」
声を抑えて若菜が尋ねる。
「部屋で休んでるよ」
忠の言葉に、若菜は胸をなでおろす。
「で、どうしてあなたが家の中にいるのよ」
再び怒りを押さえた声になる。
「パパが、買い物とかあったからさ、留守番をしてもらっていたんだよ」
外から洗濯物を抱えて入ってきた忠は答えた。
「そういうことだ。俺は手伝いをしてたんだ」
ドヤ顔で言う武尊に、若菜は冷たく返す。
「何よ、家出してるくせに」
「何だと。お前、俺には当たりが厳しいな」
「さっさと恭介の家から出て行きなさいって言ってるのよ」
「残念だったな。他に行く当てがないんだよ」
そのむちゃくちゃな理屈に、忠は苦笑した。
少し遅れて、恭介が帰って来る。
二人が向かい合って険悪な空気になっているのを見て、不思議そうに首をかしげる。
「恭介、若菜がご機嫌ななめなんだけど、どうしてか知ってる?」
ああ、と恭介は納得した。
そして言いにくそうに、声を低くする。
「実は学校で、幸のことが噂になっていて……。
あることないことを、言われたんだ。
で、特に若菜が怒っているのは、幸のお父さんが怪魔に襲われたんじゃないかっていう噂があって」
「本当、みんな信じられないことばっかり言うんだから!」
思わず声が大きくなった若菜に、恭介は自分の唇に指を当てて、しっと注意する。
若菜も慌てて口を押さえた。
「昨日、警察が近所に聞き込みをしたみたいなんだ。
そしたら、ちょうどその時間に鳥のような鳴き声を聞いたって人がいたらしくて、そこから噂が広まったみたい」
恭介はちらりと若菜を見る。若菜は学校でのことを思い出したのか、顔を真っ赤にして怒りを抑えていた。
「みんな、酷いの。
まだ、何も分からないのに、怪魔の仕業だとか、幸の家は呪われてるとか……。
面白おかしく話しているのが、腹が立っちゃって」
「そりゃひでーよな」
「あなたもそう思うでしょ!」
さっきまで喧嘩をしていたのが嘘のように、若菜は武尊の返事に嬉しそうだ。
「昨日は幸も事情聴取受けたんだよね。
あれから何か分かった?」
忠は残念そうに首を振った。
「警察からは、特に返事はないよ。
調査中だって言われている」
「幸のお父さんは?」
「ずいぶんと弱っているけれど、意識は取り戻したみたい。
だけど、まだ話はできそうにないね」
若菜は複雑な顔をして頷いた。
「ばあちゃんと同じ病院なの?」
「そうそう、だから須江さんのお見舞いにも行ってきたよ。
恭介の話は、賛成してもらえなかったけどね。
体調も悪くなさそうだし、退院してから改めて話をしようと思っているよ」
安心してと笑いかける忠に、恭介は頭を下げた。
何やら考えごとをしていた若菜の顔がぱっと明るくなる。
「ねえ、パパ。殺魔師にお願いしてみてよ」
突拍子もない話に、さすがにえっと声を出して驚いた。
「もしかしたら、怪魔が関係しているのかもしれないんでしょう。
だったら、殺魔師に解決してもらうのが一番じゃない」
忠は額を押さえた。
「まず、パパの知り合いに殺魔師の人はいないし、それに殺魔師って、漫画やドラマみたいに簡単に依頼できるものではないんだよ」
「でも、ネットで調べたら、たくさん名前が出てきたよ」
「その人たちが、きちんと調べてくれるとも限らないんだよ。
それに、もしも本当に怪魔の事件だとしたら、警察がきちんとしてくれるから、大丈夫だよ」
「それっていつなの?」
若菜の問いに、忠ははっとする。
「このままじゃ、幸がかわいそうだよ」
悔しそうな若菜を見て、さすがの忠も押し黙る。
実は知り合いの医師からも、幸の父親の容態には不審な点が多いことを聞いていた。
ただし、それを警察が調べてくれるかは、忠には分からなかった。
「もういい。パパが駄目っていうなら、ママに頼んでみる。
ママなら東京にいるし、きっと知っているわ」
こうなると、若菜は止まらない。そのことをよく知っている忠は渋い顔になる。
「そんなに頼みたいのなら、俺が聞いてみてやるよ」
二人のやりとりを黙って見ていた武尊が突然言った。
三人の視線が武尊に集中する。
「本当! あなた、殺魔師と知り合いなの?」
「ああ。ちょっと待ってな」
そういうと、武尊はおもむろにスマホを出して、どこかに電話をかけ始めた。
三人がそれぞれの思いを胸にしながら、固唾を飲んで武尊の電話を見守っている。
「あっ、葵? 俺。
なんか、若菜の友だちのお父さんが怪魔に襲われたかもしれないから、ちょっと調査してもらえないかな」
葵って、あの人だよねと、三人とも首をかしげる。
しかも、そんなに簡単な依頼でいいのだろうか。ドラマとかでも、もっと重々しいよねと、恭介は心の中で思った。
「えっ、駄目? どうして?
みんな、本当に困ってるんだよ」
あっ、断られてる、それもそうだよねと、恭介は葵に共感してしまう。
「えっ、条件?
………うーん。来てくれるんだったら、それでいいよ」
そして、武尊は忠に向かってスマホを渡す。
「なんか、おじさんに変わってって言ってる」
忠は慌ててスマホを受け取ると、冷や汗をかきながら電話を取った。
そして、事件のことや、幸のお父さんの意識が無いのは、病気や怪我が原因ではないことも伝えている。
やがて何度もお辞儀をしたと思うと、よろしくお願いしますと言って、スマホを武尊に渡した。
武尊は通話終了にすると、さっさとスマホをポケットにしまう。
「物部さん、三時間ぐらいしたら来られるって」
信じられないように、忠は呟いた。
「すごい! 本当に殺魔師と知り合いなんだ!」
興奮して若菜が声を上げる。
「でも、なんか条件がどうとかって言ってなかった?」
「ああ、俺が家に帰るってのが条件だって」
あっさりと言う武尊に、恭介が戸惑う。
「あんなに嫌がっていたのに」
「いいんだよ。いざとなったら、また家出したらいいんだし」
「その時は、恭介のところに来たらいいじゃない」
すっかりご機嫌の若菜は、とんでもないことを武尊に言う。
「それもそうだな」
すっかり意気投合する二人を、呆れながら恭介は見ていた。
部屋で寝ていた幸は若菜から話を聞いて驚いた。
今幸は若菜の部屋ではなく、客間を一つ借りてそこで過ごしている。
忠が一人で過ごしたいときもあるだろうと、配慮してくれたのだ。
「すごいよね、あの子、殺魔師と知り合いだなんて」
「そうだね……」
幸はぎこちなく頷いた。
「その人たちって、本物なの?」
「そりゃそうでしょ。嘘ついていたら、私が許さないんだから!」
幸は自分の顔色が悪くなっていくのを感じていた。
もしも父をあんなにしたのが、怪魔だったらどうしよう。
あの男からもらった札が原因だったら、どうしよう。
黙り込む幸の背中を、若菜が優しく擦る。
「ごめんね。大きな声を出して。
おじさんのことも、不安だよね。
殺魔師がきちんと調べてくれるから、大丈夫だよ。
だから、幸は心配しないで、ゆっくり休んでいて」
心配そうに声をかけてくれる若菜に、幸は頷くしかできなかった。
若菜が部屋から出ていくと、幸は洗濯してきれいに畳まれている服のポケットを探った。
しかしそこにはあの札は入ってなかった。
もしかしたら、どこかで落としてしまったのだろうか。
幸は焦って、昨日からの行動を考えた。
幸が自分の服を着ていたのは、月曜日の夜まで。その後は若菜に服を借りていた。
だとしたら、自宅で落としたか、若菜の車の中か……。
一瞬、忠さんに聞いてみようか考えた。
だけど、あんな変なもの、どうしたのか聞かれたら、上手く言い訳を言える自信がない。
殺魔師に見つけられたらどうしよう。
私が犯人になっちゃうのかな……。
幸は不気味な存在が後ろから手を伸ばしてくるような気がして、自分を抱きしめた。
本作品は個人創作です。
一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。
「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。
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