↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪魔のいる世界で生きている  作者: さち
夜の月に照らされる影法師の子

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/49

7

※本作には虐待や暴力など、心身に負担を感じる可能性のある描写が含まれます。物語上必要な表現として描写していますので、苦手な方はご注意ください。

 月曜日。学校から帰ってすぐに、恭介は須江の着替えを持って病院に行った。

 いつもどおりの病室に行き、着替えの交換を済ませる。

 顔色は悪くないし、相変わらず口も達者で元気そうだ。

「家の方は変わったことはないかい?」

 大きく変わったことがあるのだけれども。

 恭介は曖昧に返事をすると、じっと見つめた須江が静かに告げた。

「ばあちゃん、来週末には退院できそうだから、それまでにはどうにかしておくんだよ。

 かわいそうだとは思うけど、動物と暮らすのは苦手なんだよ」

 恭介は小さく頷いた。

 来週までには出て行ってくれることを期待するけれど、最近の武尊のようすをみていると、本当にこのまま居着いてしまいそうだ。

「そうそう、大切な話があるんだけど」

 背筋を伸ばして話し始める須江に、恭介の姿勢も思わず正す。

「ばあちゃん、恭介が中学校を卒業したら、施設に入ろうと思ってるんだ。

 だから、恭介はお父さんのところで暮らしな」

 恭介は一瞬何を言われたのか理解できずに、ぽかんと須江を見る。

「ばあちゃん、そんなに悪いの?」

「心配するほどではないけれど、ばあちゃんも歳だからね。いつこの前みたいに倒れるか分からないよ。だから、もしもの時に安心できるところに入っておこうと思ってね」

「そんな……。僕もいるし、忠おじさんもいるんだから」

「あんたは学校があるだろう。それに、忠さんにはこれ以上迷惑をかけられないよ」

 恭介は返す言葉がなくて、押し黙ってしまった。

「僕……今さら父さんと暮らすなんて、考えられないよ」

「それでも、あんたの父親なんだ。どうにかしてくれるだろう」

 ばあちゃんはもう、決めたんだ。

 言葉こそは柔らかいが、意志の強さを感じて、恭介は何も言えないまま病院を後にした。






 明るい佐藤家に行くと、なぜか武尊と若菜が喧嘩をしていた。

「どうしたの」

「この人、サイテーなの。若菜の洗濯物、勝手に触った」

 若菜が武尊を指差しながら、嫌そうに睨んでいる。

「別にいいだろ。おじさんから頼まれんだし、俺、母ちゃんのも畳んでたから、別に気にしないし」

「あなたのお母さんとは違うでしょ。だいたい女の子のもの、普通触らないでしょ。デリカシーがない。

 パパもパパよ。何で触らせるのよ!」

 二人の間に挟まれた忠はすっかり困っている。

「ごめんごめん。武尊君が何か手伝うよって言ってくれたから、ついつい頼んじゃって」

「お前、意識しすぎなんだよ」

 その一言に、さらに若菜の怒りが増す。

「そういうところが嫌なんだって。今後二度と私のもの触らないでよ」

 若菜は大きな足音を立てながら、自分の部屋に入って行った。

「難しい年頃になったね」

 忠は苦笑する。

「武尊君もごめんね。せっかく手伝ってくれたのに嫌な気持ちにさせちゃって」

 忠が謝るが、武尊はまだ納得はできないようだ。

「俺は気にしないけど。

 だいたい、嫌だったら自分ですればいいんだよ。何でもかんでも、おじさんにさせてるって、おかしいよ」

 意外に真っ当な意見に、恭介は武尊を見直した。

「おじさんが甘やかしちゃったからね」

「少しは何かさせとかないと、社会に出たときに困るのはあいつなんだからな」

「武尊君、大人だね」

「母ちゃんによく言われてた」

 武尊は胸を張って言った。そんな武尊に恭介は苦笑するばかりだ。

「恭介君、須江さんのようすはどうだったの?」

「来週末には退院できるって」

「よかったね」

 安心する忠とは反対に、武尊の表情は浮かない。

「ばあちゃん帰ってきたら、俺、どうしたらいいんだよ」

「家に帰ればいいじゃない」

「嫌だよ。それまでに、ここらあたりで働けるとことか無いかな」

「中学生が無理に決まってるでしょ」

 それでもどうにかならないものかと、武尊は考え込んだ。

 そんな武尊はほっといて、恭介は忠に話を続ける。

「ばあちゃん、僕が卒業したら、施設に入るつもりみたい」

「そんなに悪いの?」

 驚く忠に、恭介は続けた。

「ばあちゃんはそうでもないって言っていたけど、また、倒れたりしないか、不安なんだって」

「そんな。恭介や僕もいるのに」

「おじさんには頼れないって言ってた」

 忠は須江さんらしいねと苦笑した。

「それなら、恭介君はどうするの? 一人暮らしってこと?」

 隣で武尊の顔が明るくなる。それを無視して、恭介は続けた。

「お父さんのところに行けって言われた」

 その言葉に、忠は沈黙した。

 部屋の空気が重くなる。忠は珍しくため息をついた。

「お父さんか……」

「お父さんがなんとかするだろうって言っていたけど。

 おじさん、昔お父さんと働いていたんでしょう。お父さんって、どんな人?」

 その言葉に、忠はますます沈黙する。そして、言葉を選ぶように恭介に話し始めた。

「研究者としては、優秀な人だよ。僕もお世話になった先輩だし。

 だけど、子育てとなると………」

 忠の雰囲気で恭介は全てを悟ってしまった。

 そもそも、一年に一度連絡があるかないかの人だ。期待なんてしてはいなかったけれど。

「正直なことを言えば、お父さんのいる東京に行くよりも、高校三年間はおじさんと一緒に暮らした方がいいと思う。

 でもたぶん、須江さんは反対するだろうね」

 絶対に、忠に迷惑がかかると言うだろう。

「わかった。

 明日、おじさんが須江さんのところに行って話をしてみるよ」

「いいの?」

「もちろんだよ。たいしたことはできないけれど、恭介をお父さんのところに行かせるほうが不安だからね」

 恭介は胸に手を当てて、ほっとした。

「よろしくおねがいします」

 そんな恭介の頭を、忠はくちゃくちゃっと撫でる。

「さあ、夕飯にしようか。悪いけど、若菜も呼んできてくれる」

 恭介は若菜の部屋に向かう。忠には迷惑をかけるのかもしれないけれど、もう少し、この優しい家で甘えていたかった。



本作品は個人創作です。

一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。


「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。

無断転載・無断使用・AI学習への利用は禁止しています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。