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怪魔のいる世界で生きている  作者: さち
夜の月に照らされる影法師の子

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※本作には虐待や暴力など、心身に負担を感じる可能性のある描写が含まれます。物語上必要な表現として描写していますので、苦手な方はご注意ください。

 若菜の家では、今日も忠が持てるスキルをふんだんに使って、美味しい料理を振る舞っていた。

 土曜日の夕方。若菜の前に座っている恭介は、目の前で延々としゃべりまくる若菜と幸を感心しながら見ていた。

 それを見ていたからというわけではないのだが、箸の進みが遅い恭介に、忠が声をかける。

「恭介、どうしたの?」

「あっ、いえ……。ちょっと二人に圧倒されて」

 その言葉に、若菜が素早く反応する。

「違うでしょ。

 たぶん、またネコを拾って帰って、どうしようかなって考えてるのよ」

 若菜の鋭い指摘に、恭介はたじろぐ。ただし、ネコではない。もっとたちの悪いものだ。

「なんでそう思うの」

「だって、昨日だって若菜を置いてあっという間に帰っちゃうし、話しかけてもぼんやりしてることが多いし。

 そういう時はたいてい、おばあちゃんに隠し事をしていて、どうやって言い訳をしようか考えているときだもん」

「そうなの?」

「いえ、その……」

「そう言えば、昨夜はおかずを少し家に持って帰っていたけど、そういうこと?」

 いいタイミングだ。今話してしまえば、忠おじさんがどうにかしてくれるに違いない。

 心の中で呟きながら恭介は、木曜の夜に出会った武尊の顔を思い出す。

 昨日には出ていくと言っていたのに、なんだかんだでうやむやにされ、そして今日も出ていくようすはなかった。

 さすがにこれ以上は、駄目なんじゃないかと恭介は思っていた。

 だけど武尊が朝からみそ汁を作ってくれたり、洗濯物を入れてくれたりするのは、ちょっと助かっている。

 何より、家に人の気配があると言うのは、不思議と安心できるものだった。

 要は、武尊がいることに、だんだんと違和感を感じなくなってきたのである。

 でも、さすがに武尊が世話になっているという家の人も、心配しているのではないのだろうか。

 それとも、そんな心配をしないほど、武尊はほっとかれているのだろうか。

 それはそれで、かわいそうだ。

 悩む恭介を見ながら、若菜はにやにやと人の悪い笑みを浮かべる。

「ほらぁ、何も言えないから、絶対、そうだ」

「恭介、ネコを拾うのは悪いこととは思わないけど、愛着が湧くと、別れが淋しくなるよ。

 須江さんは生きものが苦手だしね」

 そうだ、ばあちゃんにも注意されていた事の一つだ。恭介は意を決して忠に話しかけようとした。

 その時、インターホンの音がする。何だろうと忠がインターホンカメラの映像を確認する。

 そこには、見覚えのない若いスーツ姿の男性が立っていた。

 こんな時間に営業かなと、一人呟きながら忠は玄関へ向かった。

「ねえ、後でネコを見せてよ」

「ネコじゃないし」

「じゃあ、何を拾ったのよ」

「それは……」

 その時、忠が恭介を呼びに来る。

「恭介、ちょっとおいで」

 戸惑う忠のようすに、恭介は嫌な予感がした。

 玄関に行くと、スーツがいやにしっくりと似合っている、男性が立っていた。興味津々で、後ろからのぞいている、若菜と幸がその男性のイケメンぶりに、興奮している。

 男性は自己紹介のつもりか、恭介に名刺を出した。そこには、『株式会社物部建設  物部葵』と書いてあった。

「私は、杉原武尊という少年を探しているんです。君の家にいるはずなんだけど、知りませんか?」

 恭介の心臓が早鐘を鳴らすように、心拍数を上げていく。

「恭介、この人は、先に恭介の家に行ったみたいだけど、留守だったからって、うちに来たんだよ。

 でも、知らないよね」

 優しく声をかけてくれる忠の顔が、まともに見られない。

「ごめんなさい……」

 恭介は、小さくそう答えるしかなかった。




 武尊は葵の顔をみた瞬間、部屋の奥に駆け込んで行った。恭介は武尊の後を追って、同じく部屋の奥に行く。

「なんであいつがいるんだよ!」

「迎えに来てくれたんだって。悪い人じゃあなさそうじゃない。

 さっさと帰りなよ」

「嫌だ!」

 思いきり反発する武尊に、恭介は大きなため息をついた。

「だいたい、あいつは俺を迎えに来たわけじゃないんだ。

 俺がいないと困るから、迎えに来たんだ」

 言っている意味が全く分からない。

「いないと困るって分かっているんだったら、早く帰りなよ」

 もう一度、説得を試みるが、武尊は帰らないの一点張りでらちが明かない。

 しかたなく恭介は、恭介の家の玄関先で待っている葵と忠の元へ行った。

 恭介が申し訳なさそうに葵を見ると、全てを察した葵が申し出る。

「少し武尊様とお話がしたいので、お邪魔してもよろしいですか」

 葵の『武尊様』呼びに面食らいながらも、恭介はどうぞと、招き入れる。

 一緒について行こうとする恭介を、忠が引き止めた。

「少し二人にさせてあげなさい」

 もっともな言葉に、恭介は頷く。

「それで、どうしてあの子がここにいるのかな?」

 忠が恭介に目線を合わせて尋ねる。

 あっ、これは怒ってる。

 直感的に分かってしまった恭介は、包み隠さずに武尊と出会ったときのことを話した。


 話を聞き終わった忠は、決して声を荒立てることなく、静かに言った。

「須江さんが入院したときに話をしたよね。

困ったことがあったら、何でも話してほしいって。

 恭介はすぐ遠慮するから、おじさんとしては心配なんだよ。

 頼りないかもしれないけれど、もう少し甘えて欲しいなって思うよ」

 その言葉に、知らない間に忠を傷つけていたことに気がついた恭介は、ますます落ちこんだ。

「ごめんなさい。武尊も一日泊まったらすぐに帰るって言ってたし……」

「いいんだよ。責めるような言い方をして悪かったね。

 もし次にこういうことがあったら、そのときは話をしてくれたらいいからね」

 はいと、恭介は小さく頷いた。

 しばらくして、疲れたような顔をして葵が二人の元に帰ってきた。

「すみません。私の力不足で……。

 彼を説得できませんでした」

 恭介はやっぱりという顔をする。

「図々しいお願いは分かっているのですが、もう数日、こちらに泊めていただけませんか。

 少し落ち着いたら、話もできるのではないかと思うんです」

「失礼ですが、あなたは? ご兄弟のようではないようですが」

「そうですね。彼は私の父の親友の息子です。訳あって、我が家で預かっているのですが、少々特殊な事情もありまして、彼も戸惑っているのだと思います」

「特殊な事情?」

「申し訳ございませんが、これ以上は……」

 忠は少し考えてから、仕方がないと頷いた。

「わかりました。しばらくお預かりします」

 葵は深く頭を下げた。

「私の連絡先と、それから……」

 と財布を出した葵を、忠が止める。

「しかし、ご迷惑をかけるのですから、生活費だけでも……」

「お気になさらず。子どもを守るのは大人の務めですから」

 その言葉に、葵は再び頭を下げる。

「ところで、物部さんはおいくつですか」

 突然の質問に、葵は不思議そうな顔をする。

「24歳ですが」

「お若いのに、ご苦労をされてますね」

 その言葉に、葵は苦笑を浮かべた。

 恭介はその笑顔に初めて、年相応のお兄ちゃんという感じがした。


本作品は個人創作です。

一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。


「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。

無断転載・無断使用・AI学習への利用は禁止しています。


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