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怪魔のいる世界で生きている  作者: さち
夜の月に照らされる影法師の子

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2

※本作には虐待や暴力など、心身に負担を感じる可能性のある描写が含まれます。物語上必要な表現として描写していますので、苦手な方はご注意ください。

 病院についた恭介は、エレベーターで2階に行くと、真っ直ぐに祖母のいる病室に向かった。

 6人の集合部屋は、互いのプライバシーを守るために仕切りのカーテンがある。とはいっても、小さい町で同じ年代の人が集まるので、顔見知りの人も多く、たいていカーテンは開きっぱなしだ。

 恭介が入ると、顔なじみになったおばあさんが嬉しそうに微笑んだ。

「こんにちは」

「恭介君。毎日、えらいね」 

 恭介は照れながら、祖母の元に行く。ずれる眼鏡を指で持ち上げる。

「ばあちゃん、持ってきたよ」

 祖母はイヤホンを付けてテレビを見ていたが、恭介に気がつくとそれを外した。

「ありがとう。じゃあ、そっちを持って帰って」

 祖母の指すところには、ビニール袋に入った洗濯物が置いてある。

「他にはもうない?」

「大丈夫だよ」

 となりのおばあさんがにこにこしながら話しかける。

「須江さんには、本当にいい孫がいるね。

 うちなんか、一度もお見舞いに来たことないよ」

「その代わりお嫁さんがよく顔を出してるじゃないか。うちには居ないからね」

「そんなこと言ったって、恭介君みたいに毎日じゃないよ」

「そりゃ仕事もしていたら、なかなか来れないでしょう」

 でもねと、まだまだ続きそうな話を須江は無視した。

「何か変わったことはないかい?」

 そうそう、思い出したように恭介はポケットからスマホを取り出した。

「忠おじさんが連絡用にってくれた」

「ああ、聞いたよ。中学生にこんな高価なものを持たせるなんて」

「今頃なんて、クラスの半分は持ってるんだよ。遅いぐらいだって」

「でも、若菜ちゃんは持ってないんだろ」

「何でもかんでも若菜と一緒じゃなくていいよ」

 そういう、須江のガラケーに電話番号を登録する。

「何かいるものとかあったら、連絡して」

 恭介は自慢気に言った。

「それはそうと、忠さんに夕飯食べさせもらってるんだから、お皿ぐらいは洗うんだよ。

 それから、ばあちゃんが居ないからって、野良猫に餌をやったり、拾わないようにするんだよ。

 朝もちゃんと食べて、宿題も忘れないように」

「わかってるから、大丈夫」

 さらに話が長くなりそうな雰囲気に、恭介はうんざりとして立ち上がった。

「じゃ、帰るから」

「車に気をつけるんだよ」

 恭介は須江に手を振って帰って行った。

 帰りにスーパーに寄って、なくなりそうだったティッシュペーパーを買う。

 そしてまた駅前を通ったとき、さっきの帽子の男は町中を大雑把に描いている地図を見ていた。またなんとなく気になって、彼の方を見ていると、ふいに振り向き目が合った。

 恭介は慌てて自転車の速度を上げて、その場を通り過ぎた。


日が少し傾く頃、恭介は若菜の家に行った。勝手知ったるとはよく言ったもので、第二の我が家である佐藤家には、あいさつだけすませると勝手に上がり込む。

 台所から美味しそうな匂いがしてきて、恭介は思わずお腹を押さえた。

「おじゃまします」

「おかえり。須江さん、スマホのこと何か言ってた?」

「やっぱり、あんまりいい顔はしなかった」

 エプロン姿の忠は、穏やかな笑顔で迎えてくれる。

「須江さんらしいね」

「一応スマホに電話番号を登録して帰ったけど、たぶん電話してこないと思う」

 恭介は新しいスマホを見つめながら、そうつぶやいた。

「恭介がこっちの家に泊まってくれたら、渡すこともなかったんだけど」

「夕飯をもらって、その上泊まらせてもらったなんて、ばあちゃんが知ったら、怒られるから」

 祖母の口癖は、他人の迷惑にならないように。事あるごとにそう言われて育った恭介は、なかなか人の好意に甘えることができなかった。それを幼い頃から知っている忠も無理にとは言わない。

「ところで恭介、上の二人が降りてこないから、呼んできて」

 二階の若菜の部屋の前にいく。二人の賑やかな笑い声が廊下まで響いていた。

「若菜、ご飯だって」 

 二人は部屋から出てくる。

「今日はなんだろう?」

 にこにこしながら若菜は階段を降りる。その後ろを幸がついてくる。

「私までごちそうになって、いいの?」

「いいの、いいの」

 幸はテーブルに並ぶ彩りのいい夕飯に目を見張る。

「美味しそう」

「そりゃあ、パパが作ったもん。食べようよ」

 若菜は幸を横に誘うと席に座った。

 四人はいただきますと挨拶をすると、さっそく食べ始める。

「本当、おいしい」

 幸は一口一口、味わいながら食べる。そんな幸を見ながら、若菜は大げさだなと笑った。

「幸のお母さん、まだ帰れそうにないの?

 もう一ヶ月ぐらい経つよね」

 幸は顔を曇らせて答えた。

「うん」

「どうかしたのかい?」

 若菜の前に座っていた忠が尋ねる。

「幸のお母さん、おばあちゃんの介護で、今いないんだって」

「それは大変だね。ご飯はどうしているの?」

「お弁当か惣菜を買ってます」

「そうなんだ」

「でも、同じものばっかりになって、さすがに飽きてます」

「そうだろうね。良かったら、少し持って帰る?」

「いいんですか? 嬉しいかも」

 幸の顔が明るくなる。

「ねぇねぇ、今度の週末泊まりにおいでよ。

 ねえ、パパ、いいでしょ」

「うちはいいけど、幸ちゃんは?」

「たぶん、大丈夫だと思います」

「幸、料理も覚えたいって言ってたじゃない。パパに教えてもらったらいいんだよ」

 若菜は笑顔で忠を見る。

「幸ちゃんがいいのなら、いつでも教えるよ」

「ありがとうございます」

「あとさ、聞いてよ。恭介、スマホ持ったんだよ」

 話が急に飛んできて、油断をしていた恭介は思わず喉に詰まりそうになる。ずれた眼鏡を指で持ち上げる。

「恭介ばっかり、ずるいと思わない?」

「恭介は連絡用。おばあちゃんが入院してるんだから、家で何かあったら困るでしょう」

「そんなの、走ってくればすぐじゃない」

 若菜は口を尖らせて反論した。

「スマホだったら私も持ってる」

 幸もポケットからスマホを取り出した。

「えっ、いつから?」

「ちょっと前」

「パパぁ。幸も持ってんだから、若菜も欲しい」

「中学卒業するまで我慢って、ママとも約束してるでしょ」

 若菜はさらに不満そうだ。

「若菜ばっかり仲間外れだ。

そうだっ! 恭介と連絡先を交換しといてよ。

で、夜、話そうよ」 

「言ってる意味がわかんない」

 恭介は呆れた顔で若菜を見た。

「たまに貸してよ」

「嫌だよ」

「変なサイト見るから、若菜に見せられないんだ」 

 からかう若菜に恭介はさすがにむかつく。

「そんなん、見るわけないだろ」

「どうだか」

 なんだかんだ言いながらも、恭介は幸と連絡先を交換した。

「ねえねえ、写真撮ろうよ」

 幸は自撮り用にスマホを構える。そのなかに、二人はテレビでよく見るポーズをして収まった。そして、すぐに確認するが、思ったように撮れなかったのだろう、若菜は不満そうだ。

 もう一枚撮ろうと誘う若菜を、忠がたしなめた。

「食事中に行儀が悪いよ」

 若菜はバツが悪そうに、ちらりと忠を見た。

「まあいっか。泊まりに来たときに、練習しようね」

 食事が終わると、忠が幸に声をかける。

「遅くなったから、送っていくよ」

「自転車で来てるから、大丈夫です」

「自転車も乗るから。安心して」

 スマートに忠は車の用意を始める。

 若菜の家の車は大きめのファミリーカーだ。座席を倒せば、自転車一台は十分に乗せられる。

 幸はちらりと若菜を見る。若菜は大丈夫とアイコンタクトを送った。

「それじゃあ、お願いします」

 玄関で幸を送ると、若菜は急に大人しくなった。

 恭介は食器を集めて流しに持っていくと、それらを洗い始める。

「若菜も運ぶの手伝ってよ」

 その言葉に若菜は黙って従う。

「幸んとこも大変なんだな」

「うん。何か最近元気がないと思ってたんだ。しかも、お父さん、家でなんにもしないから、凄く嫌だって」

 家事全般何でもこなす忠の姿を見て育った若菜には、信じられない話なのだろう。

「うちに来て、ちょっとでも元気になってくれたらいいな」

 そんなとき、恭介のスマホが音をたてる。なんだろうと恭介が見ると、幸からのLINEだった。

「『無事到着! ありがとう』だって」

 スマホを渡すと、若菜はおぼつかない指先で返事をする。

「ありがとう。

 早く、若菜も自分のスマホがほしいな」

「おじさん、そういうところは引かないから、難しいんじゃない」

「そうだよね」

 恭介は手早くお皿を洗い、それらを拭くと、ちょうどのタイミングで忠が帰ってくる。

「片付けてくれたんだ。置いといてくれたらよかったのに」

「そんなことをしたら、ばあちゃんに怒られるから」

 眼鏡を持ち上げながら答える恭介に、忠は苦笑した。

 そして恭介はお礼を言って若菜の家を後にした。



本作品は個人創作です。

一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。


「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。

無断転載・無断使用・AI学習への利用は禁止しています。


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