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※本作には虐待や暴力など、心身に負担を感じる可能性のある描写が含まれます。物語上必要な表現として描写していますので、苦手な方はご注意ください。
病院についた恭介は、エレベーターで2階に行くと、真っ直ぐに祖母のいる病室に向かった。
6人の集合部屋は、互いのプライバシーを守るために仕切りのカーテンがある。とはいっても、小さい町で同じ年代の人が集まるので、顔見知りの人も多く、たいていカーテンは開きっぱなしだ。
恭介が入ると、顔なじみになったおばあさんが嬉しそうに微笑んだ。
「こんにちは」
「恭介君。毎日、えらいね」
恭介は照れながら、祖母の元に行く。ずれる眼鏡を指で持ち上げる。
「ばあちゃん、持ってきたよ」
祖母はイヤホンを付けてテレビを見ていたが、恭介に気がつくとそれを外した。
「ありがとう。じゃあ、そっちを持って帰って」
祖母の指すところには、ビニール袋に入った洗濯物が置いてある。
「他にはもうない?」
「大丈夫だよ」
となりのおばあさんがにこにこしながら話しかける。
「須江さんには、本当にいい孫がいるね。
うちなんか、一度もお見舞いに来たことないよ」
「その代わりお嫁さんがよく顔を出してるじゃないか。うちには居ないからね」
「そんなこと言ったって、恭介君みたいに毎日じゃないよ」
「そりゃ仕事もしていたら、なかなか来れないでしょう」
でもねと、まだまだ続きそうな話を須江は無視した。
「何か変わったことはないかい?」
そうそう、思い出したように恭介はポケットからスマホを取り出した。
「忠おじさんが連絡用にってくれた」
「ああ、聞いたよ。中学生にこんな高価なものを持たせるなんて」
「今頃なんて、クラスの半分は持ってるんだよ。遅いぐらいだって」
「でも、若菜ちゃんは持ってないんだろ」
「何でもかんでも若菜と一緒じゃなくていいよ」
そういう、須江のガラケーに電話番号を登録する。
「何かいるものとかあったら、連絡して」
恭介は自慢気に言った。
「それはそうと、忠さんに夕飯食べさせもらってるんだから、お皿ぐらいは洗うんだよ。
それから、ばあちゃんが居ないからって、野良猫に餌をやったり、拾わないようにするんだよ。
朝もちゃんと食べて、宿題も忘れないように」
「わかってるから、大丈夫」
さらに話が長くなりそうな雰囲気に、恭介はうんざりとして立ち上がった。
「じゃ、帰るから」
「車に気をつけるんだよ」
恭介は須江に手を振って帰って行った。
帰りにスーパーに寄って、なくなりそうだったティッシュペーパーを買う。
そしてまた駅前を通ったとき、さっきの帽子の男は町中を大雑把に描いている地図を見ていた。またなんとなく気になって、彼の方を見ていると、ふいに振り向き目が合った。
恭介は慌てて自転車の速度を上げて、その場を通り過ぎた。
日が少し傾く頃、恭介は若菜の家に行った。勝手知ったるとはよく言ったもので、第二の我が家である佐藤家には、あいさつだけすませると勝手に上がり込む。
台所から美味しそうな匂いがしてきて、恭介は思わずお腹を押さえた。
「おじゃまします」
「おかえり。須江さん、スマホのこと何か言ってた?」
「やっぱり、あんまりいい顔はしなかった」
エプロン姿の忠は、穏やかな笑顔で迎えてくれる。
「須江さんらしいね」
「一応スマホに電話番号を登録して帰ったけど、たぶん電話してこないと思う」
恭介は新しいスマホを見つめながら、そうつぶやいた。
「恭介がこっちの家に泊まってくれたら、渡すこともなかったんだけど」
「夕飯をもらって、その上泊まらせてもらったなんて、ばあちゃんが知ったら、怒られるから」
祖母の口癖は、他人の迷惑にならないように。事あるごとにそう言われて育った恭介は、なかなか人の好意に甘えることができなかった。それを幼い頃から知っている忠も無理にとは言わない。
「ところで恭介、上の二人が降りてこないから、呼んできて」
二階の若菜の部屋の前にいく。二人の賑やかな笑い声が廊下まで響いていた。
「若菜、ご飯だって」
二人は部屋から出てくる。
「今日はなんだろう?」
にこにこしながら若菜は階段を降りる。その後ろを幸がついてくる。
「私までごちそうになって、いいの?」
「いいの、いいの」
幸はテーブルに並ぶ彩りのいい夕飯に目を見張る。
「美味しそう」
「そりゃあ、パパが作ったもん。食べようよ」
若菜は幸を横に誘うと席に座った。
四人はいただきますと挨拶をすると、さっそく食べ始める。
「本当、おいしい」
幸は一口一口、味わいながら食べる。そんな幸を見ながら、若菜は大げさだなと笑った。
「幸のお母さん、まだ帰れそうにないの?
もう一ヶ月ぐらい経つよね」
幸は顔を曇らせて答えた。
「うん」
「どうかしたのかい?」
若菜の前に座っていた忠が尋ねる。
「幸のお母さん、おばあちゃんの介護で、今いないんだって」
「それは大変だね。ご飯はどうしているの?」
「お弁当か惣菜を買ってます」
「そうなんだ」
「でも、同じものばっかりになって、さすがに飽きてます」
「そうだろうね。良かったら、少し持って帰る?」
「いいんですか? 嬉しいかも」
幸の顔が明るくなる。
「ねぇねぇ、今度の週末泊まりにおいでよ。
ねえ、パパ、いいでしょ」
「うちはいいけど、幸ちゃんは?」
「たぶん、大丈夫だと思います」
「幸、料理も覚えたいって言ってたじゃない。パパに教えてもらったらいいんだよ」
若菜は笑顔で忠を見る。
「幸ちゃんがいいのなら、いつでも教えるよ」
「ありがとうございます」
「あとさ、聞いてよ。恭介、スマホ持ったんだよ」
話が急に飛んできて、油断をしていた恭介は思わず喉に詰まりそうになる。ずれた眼鏡を指で持ち上げる。
「恭介ばっかり、ずるいと思わない?」
「恭介は連絡用。おばあちゃんが入院してるんだから、家で何かあったら困るでしょう」
「そんなの、走ってくればすぐじゃない」
若菜は口を尖らせて反論した。
「スマホだったら私も持ってる」
幸もポケットからスマホを取り出した。
「えっ、いつから?」
「ちょっと前」
「パパぁ。幸も持ってんだから、若菜も欲しい」
「中学卒業するまで我慢って、ママとも約束してるでしょ」
若菜はさらに不満そうだ。
「若菜ばっかり仲間外れだ。
そうだっ! 恭介と連絡先を交換しといてよ。
で、夜、話そうよ」
「言ってる意味がわかんない」
恭介は呆れた顔で若菜を見た。
「たまに貸してよ」
「嫌だよ」
「変なサイト見るから、若菜に見せられないんだ」
からかう若菜に恭介はさすがにむかつく。
「そんなん、見るわけないだろ」
「どうだか」
なんだかんだ言いながらも、恭介は幸と連絡先を交換した。
「ねえねえ、写真撮ろうよ」
幸は自撮り用にスマホを構える。そのなかに、二人はテレビでよく見るポーズをして収まった。そして、すぐに確認するが、思ったように撮れなかったのだろう、若菜は不満そうだ。
もう一枚撮ろうと誘う若菜を、忠がたしなめた。
「食事中に行儀が悪いよ」
若菜はバツが悪そうに、ちらりと忠を見た。
「まあいっか。泊まりに来たときに、練習しようね」
食事が終わると、忠が幸に声をかける。
「遅くなったから、送っていくよ」
「自転車で来てるから、大丈夫です」
「自転車も乗るから。安心して」
スマートに忠は車の用意を始める。
若菜の家の車は大きめのファミリーカーだ。座席を倒せば、自転車一台は十分に乗せられる。
幸はちらりと若菜を見る。若菜は大丈夫とアイコンタクトを送った。
「それじゃあ、お願いします」
玄関で幸を送ると、若菜は急に大人しくなった。
恭介は食器を集めて流しに持っていくと、それらを洗い始める。
「若菜も運ぶの手伝ってよ」
その言葉に若菜は黙って従う。
「幸んとこも大変なんだな」
「うん。何か最近元気がないと思ってたんだ。しかも、お父さん、家でなんにもしないから、凄く嫌だって」
家事全般何でもこなす忠の姿を見て育った若菜には、信じられない話なのだろう。
「うちに来て、ちょっとでも元気になってくれたらいいな」
そんなとき、恭介のスマホが音をたてる。なんだろうと恭介が見ると、幸からのLINEだった。
「『無事到着! ありがとう』だって」
スマホを渡すと、若菜はおぼつかない指先で返事をする。
「ありがとう。
早く、若菜も自分のスマホがほしいな」
「おじさん、そういうところは引かないから、難しいんじゃない」
「そうだよね」
恭介は手早くお皿を洗い、それらを拭くと、ちょうどのタイミングで忠が帰ってくる。
「片付けてくれたんだ。置いといてくれたらよかったのに」
「そんなことをしたら、ばあちゃんに怒られるから」
眼鏡を持ち上げながら答える恭介に、忠は苦笑した。
そして恭介はお礼を言って若菜の家を後にした。
本作品は個人創作です。
一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。
「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。
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