↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪魔のいる世界で生きている  作者: さち
飛べない鳥は羽ばたく夢を見る 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/49

15

 病院についた恭介は、すぐに病室に運ばれると、酸素マスクを装着され、看護師に点滴を打たれ、心電図モニターの器具をつけられた。

 そのモニターを医師が厳しい顔で確認している。

 そのようすを二人は黙って見ていた。

 しばらくベッドの周りでようすを見ていた医師たちも、恭介が落ち着いているためか、静かに部屋から出ていった。

 部屋の中は、張り詰めた空気で満ちている。その中で。心電図の音だけが弱々しく響いていた。

 武尊は恭介の側まで寄ると、椅子に腰をかけ、恭介の手を取った。

 両手で包んだ手を額のところまで持っていき、祈るようにしてじっとしている。

 聖子は顔を伏せて、部屋から出ていった。


 外に出ると、医師と話をしている葵と目が合った。葵は医師に頭を下げると、聖子に近寄る。

「武尊様は」

 聖子は静かに首を振った。

「うち、帰らせてもらってもええかな、悪いけど。

 痛々しくて見てられんわ」

「ありがとうございました。車の手配を」 

「そんなん気にせんでええ。武尊のそばに行ってやって」

 聖子は切なそうに病室のドアを見ると、葵に頭を下げて帰っていった。

 葵はそっとドアを開ける。そこにはいつもより小さく見える武尊の姿があった。

 声をかけようと口を開くが、葵は言葉を見つけられず、病室から出ていった。


 二時間ほどが経過すると、バタバタと病室に走ってくるボブカットの女子高生の姿が見えた。

 少女は葵の姿を見るが、何も言わずに病室に入る。その後ろから、父親らしい男性もやってきた。

「佐藤さん。すみません。こんなことになってしまって」

 佐藤は黙って首をふる。

「彼が殺魔師になりたいと言ったときから、覚悟はしていました。でも、こんなに早くとは……」

「恭介君のお父さんとは、連絡がつかなかったんですが」

「妻が引っ張ってでも連れて来ると言っていたから、大丈夫だとは思います。ただ、東京からなんで、もう少し時間はかかると思います」 

「ありがとうございます」

 葵は深く礼をした。その時、病室のドアが勢よく開く。

「もう、恭介には近寄らないで!」

 興奮した少女が武尊をドアから押し出していた。

「武尊に会わなかったら、恭介は殺魔師になるなんて言わなかったのに! 全部武尊のせいよ!」

 叫ぶ少女を父がたしなめる。

「止めなさい、若菜。恭介君が自分で決めたことだろう。武尊君は関係ないよ」

「でも、でも……」

 若菜は泣きながら父親に訴える。

「どうして若菜の大切な人は、若菜から離れて行っちゃうの。どうして……」

 泣き崩れる若菜を佐藤が支えた。

「武尊君、若菜は混乱していて。ごめん」

「いえ、俺が全部悪かったから」

 痛々しそうに、佐藤は武尊をみた。

 その時、病室から低く唸るような声が聞こえてきた。

 驚いて、武尊と若菜がベッドに駆け寄る。

 ゆっくりだが、恭介の目が開き、ぼんやりと二人を見る。

「恭介!」

 若菜は恭介の手を取った。

 何か言いたそうに口を動かすが、言葉にはならない。それでも若菜と武尊には十分だった。

「パパ、先生呼んでよ! 早く!」

「あ、ああ」

 若菜の勢いに押されて、佐藤は慌てて医師を呼びに走った。


 恭介はまた静かに目を閉じてしまったが、検診をした医師は驚きに満ちた声で言った。

「先ほどより心臓の音がしっかりしてきました。

 怪魔に魂を喰われて、あれだけ弱っていたのに、信じられない。

 まだ、油断はできないけれど、もしかしたら回復に向かうかもしれません」  

 その言葉に、若菜と武尊の顔が明るくなる。

 若菜は口元を押さえた。涙で目元が赤くなる。

 武尊もほっとして目元を隠した。

 その時、佐藤のスマホの着信音がなる。

 佐藤は慌てて電話を受けながら、病室へ出ていった。

 それに続いて、医師も病室から出ていく。

 その一瞬のドアの隙間から、佐藤の声が聞こえてきた。

「うん、やっぱり、大丈夫だった」

 葵はその言葉の何かに引っかかりを覚えたが、若菜の言葉にかき消されて、それどころではなくなってしまった。

「武尊、もう二度と恭介には会わないで。

恭介は殺魔師も止めてうちに帰ってきてもらうから、二度と会わないで」

 若菜は武尊に懇願した。武尊は何も言い返せず、黙っている。

「でも、それは……」

 さすがに言い返そうとした葵が口を開くと、武尊が黙って首をふる。

「そもそも若菜は反対だったの。殺魔師なんて、危険だし。

 でも、恭介が私のために殺魔師になるって言うから、止められなかった。

 でも、これから先も、こんなことになるかもしれないんだったら、あきらめる。

 恭介まで遠くに行ってほしくないから、若菜、全部あきらめる

 だから、武尊も二度と恭介に会わないで!」

 部屋に入ってきた佐藤が再び若菜を抑える。 

そして、武尊と葵を部屋から出した。

「すいません、本当に、すいません。

 若菜も混乱しているんです。

 しばらくしたら、落ち着くと思うので、それまで待って下さい」

 何度も頭を下げる佐藤に、葵はかえって恐縮する。

「お気持ちはよく分かります。若菜さんと恭介君は家族同然なのですから」

「すいません。

 もう数時間もしたら、妻も恭介の父親も到着します。後はこちらでどうにかしますので、一度お引取り下さい」 

「わかりました。恭介君に変化がありましたら、連絡を下さい」 

「もちろんです。ありがとうございました」

 葵は武尊をちらりと見る。武尊は無言のまま、佐藤に頭を下げ、そしてもう一度病室のドアを見つめた。

 そんな武尊の肩を抱き、葵は武尊を促す。

 そして佐藤に頭を下げると、病室を後にした。

 うつむきながらしばらく歩いた武尊が嗚咽を漏らしながら呟いた。

「良かった。生きててくれて……」

 その声を葵は優しく聞き流した。


 

本作品は個人創作です。

一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。


「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。

無断転載・無断使用・AI学習への利用は禁止しています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。