15
病院についた恭介は、すぐに病室に運ばれると、酸素マスクを装着され、看護師に点滴を打たれ、心電図モニターの器具をつけられた。
そのモニターを医師が厳しい顔で確認している。
そのようすを二人は黙って見ていた。
しばらくベッドの周りでようすを見ていた医師たちも、恭介が落ち着いているためか、静かに部屋から出ていった。
部屋の中は、張り詰めた空気で満ちている。その中で。心電図の音だけが弱々しく響いていた。
武尊は恭介の側まで寄ると、椅子に腰をかけ、恭介の手を取った。
両手で包んだ手を額のところまで持っていき、祈るようにしてじっとしている。
聖子は顔を伏せて、部屋から出ていった。
外に出ると、医師と話をしている葵と目が合った。葵は医師に頭を下げると、聖子に近寄る。
「武尊様は」
聖子は静かに首を振った。
「うち、帰らせてもらってもええかな、悪いけど。
痛々しくて見てられんわ」
「ありがとうございました。車の手配を」
「そんなん気にせんでええ。武尊のそばに行ってやって」
聖子は切なそうに病室のドアを見ると、葵に頭を下げて帰っていった。
葵はそっとドアを開ける。そこにはいつもより小さく見える武尊の姿があった。
声をかけようと口を開くが、葵は言葉を見つけられず、病室から出ていった。
二時間ほどが経過すると、バタバタと病室に走ってくるボブカットの女子高生の姿が見えた。
少女は葵の姿を見るが、何も言わずに病室に入る。その後ろから、父親らしい男性もやってきた。
「佐藤さん。すみません。こんなことになってしまって」
佐藤は黙って首をふる。
「彼が殺魔師になりたいと言ったときから、覚悟はしていました。でも、こんなに早くとは……」
「恭介君のお父さんとは、連絡がつかなかったんですが」
「妻が引っ張ってでも連れて来ると言っていたから、大丈夫だとは思います。ただ、東京からなんで、もう少し時間はかかると思います」
「ありがとうございます」
葵は深く礼をした。その時、病室のドアが勢よく開く。
「もう、恭介には近寄らないで!」
興奮した少女が武尊をドアから押し出していた。
「武尊に会わなかったら、恭介は殺魔師になるなんて言わなかったのに! 全部武尊のせいよ!」
叫ぶ少女を父がたしなめる。
「止めなさい、若菜。恭介君が自分で決めたことだろう。武尊君は関係ないよ」
「でも、でも……」
若菜は泣きながら父親に訴える。
「どうして若菜の大切な人は、若菜から離れて行っちゃうの。どうして……」
泣き崩れる若菜を佐藤が支えた。
「武尊君、若菜は混乱していて。ごめん」
「いえ、俺が全部悪かったから」
痛々しそうに、佐藤は武尊をみた。
その時、病室から低く唸るような声が聞こえてきた。
驚いて、武尊と若菜がベッドに駆け寄る。
ゆっくりだが、恭介の目が開き、ぼんやりと二人を見る。
「恭介!」
若菜は恭介の手を取った。
何か言いたそうに口を動かすが、言葉にはならない。それでも若菜と武尊には十分だった。
「パパ、先生呼んでよ! 早く!」
「あ、ああ」
若菜の勢いに押されて、佐藤は慌てて医師を呼びに走った。
恭介はまた静かに目を閉じてしまったが、検診をした医師は驚きに満ちた声で言った。
「先ほどより心臓の音がしっかりしてきました。
怪魔に魂を喰われて、あれだけ弱っていたのに、信じられない。
まだ、油断はできないけれど、もしかしたら回復に向かうかもしれません」
その言葉に、若菜と武尊の顔が明るくなる。
若菜は口元を押さえた。涙で目元が赤くなる。
武尊もほっとして目元を隠した。
その時、佐藤のスマホの着信音がなる。
佐藤は慌てて電話を受けながら、病室へ出ていった。
それに続いて、医師も病室から出ていく。
その一瞬のドアの隙間から、佐藤の声が聞こえてきた。
「うん、やっぱり、大丈夫だった」
葵はその言葉の何かに引っかかりを覚えたが、若菜の言葉にかき消されて、それどころではなくなってしまった。
「武尊、もう二度と恭介には会わないで。
恭介は殺魔師も止めてうちに帰ってきてもらうから、二度と会わないで」
若菜は武尊に懇願した。武尊は何も言い返せず、黙っている。
「でも、それは……」
さすがに言い返そうとした葵が口を開くと、武尊が黙って首をふる。
「そもそも若菜は反対だったの。殺魔師なんて、危険だし。
でも、恭介が私のために殺魔師になるって言うから、止められなかった。
でも、これから先も、こんなことになるかもしれないんだったら、あきらめる。
恭介まで遠くに行ってほしくないから、若菜、全部あきらめる
だから、武尊も二度と恭介に会わないで!」
部屋に入ってきた佐藤が再び若菜を抑える。
そして、武尊と葵を部屋から出した。
「すいません、本当に、すいません。
若菜も混乱しているんです。
しばらくしたら、落ち着くと思うので、それまで待って下さい」
何度も頭を下げる佐藤に、葵はかえって恐縮する。
「お気持ちはよく分かります。若菜さんと恭介君は家族同然なのですから」
「すいません。
もう数時間もしたら、妻も恭介の父親も到着します。後はこちらでどうにかしますので、一度お引取り下さい」
「わかりました。恭介君に変化がありましたら、連絡を下さい」
「もちろんです。ありがとうございました」
葵は武尊をちらりと見る。武尊は無言のまま、佐藤に頭を下げ、そしてもう一度病室のドアを見つめた。
そんな武尊の肩を抱き、葵は武尊を促す。
そして佐藤に頭を下げると、病室を後にした。
うつむきながらしばらく歩いた武尊が嗚咽を漏らしながら呟いた。
「良かった。生きててくれて……」
その声を葵は優しく聞き流した。
本作品は個人創作です。
一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。
「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。
無断転載・無断使用・AI学習への利用は禁止しています。




