14
怪魔は恭介を包み込むように覆いかぶさった。
恭介の叫び声が上がり、やがて静かになる。
怪魔が雄叫びを上げた。
「恭介!」
「近づいたらあかん!!」
静止する聖子の声。
それと同時に、怪魔の首に青の組紐が巻き付いて恭介から怪魔を引き離した。
彬の引っ張る組紐の力に負けじと怪魔が暴れる。
「一般の生徒ははよ逃げて!」
聖子の声とともに、思考停止していた数人の生徒が入口に向かって走り出す。聖子は呆然と怪魔を見上げている千鶴のもとに近寄った。
「あんたもさっさと逃げるで!」
腕を掴んだ瞬間、千鶴は怯えるように暴れて拒否する。
そんな千鶴に聖子は叫ぶ。
「ええ加減にしいや! 今はとにかく入口に向かって走るんや! 他のことは考えるな!
武尊! あんたも今は一般人や! さっさと逃げや!」
しかし、武尊は恭介のもとに近寄ったまま動こうとしない。
「もうっ。どいつもこいつも」
悪態を付くと、聖子は抵抗しなくなった千鶴を支えて歩き出した。
「彬、持ちそう?」
「何とかする」
「ほな、任したで」
彬は聖子に頷いた。
さらに紫の組紐が飛んできて、怪魔の体に巻き付く。
「物部先生!」
「守ノ宮さん、早く!」
その声に促されて、聖子は千鶴を支えて入口を目指す。
二人の殺魔師に抑えられ、怪魔も苦しそうにもがき、抜け出そうとさらに暴れる。
「核が五つ……」
葵の額から汗が流れ落ちる。
二人がかりでもなんとか抑えられている状態だ。
あまり長引かせると、危ない。
しかし今は、この手を離すわけにはいかない。
「玉依を持ってきていたら……」
葵は自分の油断を悔やんだ。
「武尊様!」
武尊に声をかけるが、反応がない。葵は思わず舌打ちをした。
「武尊!!」
その声に驚いて、武尊は葵を振り向く。
「恭介が、……動かない……」
「いいから、早く逃げなさい! あなたまで、死にますよ!」
「恭介は死んでない!!」
「だったら、恭介君をここから連れ出しなさい!!」
はっとして、武尊が動き出す。恭介を抱えると、ようやく入口に向かい始めた。
「先生、これどうしたら……」
同じく額に汗をかく彬が口を開く。
「皆が講堂から出るまでは、このままで。出たら私が手を放して攻撃に回ります。
頑張れそうですか?」
「何とかやってみる」
その時、怪魔が体を大きく揺らした。急な動きに、思わず彬の手から組紐が離れる。
それにつられて、葵の体が大きく跳ね上げられる。
「先生!!」
その瞬間、怪魔が苦しそうな雄叫びを上げた。
怪魔の力が緩み、葵は体勢を立て直して、見事に着地し、再び組紐を締める。
見れば、目の前の怪魔には大きな針のような武器が二つ突き刺さっていた。
「何やら騒がしいと思ったら。
お祭りは明日からって聞いていたんだけど」
一斉に声の主を見る。
そこには、スーツ姿の女性が緩くウエーブした髪をかき上げながら立っていた。
ぱっと聖子の顔が明るくなる。
「伯母様!」
「久しぶり、聖子。
いい判断だよ。大きくなったね」
その言葉に、聖子の顔が思わずほころぶ。
玲子は座席の方からゆっくりと歩いて怪魔に近づく。
「そこの学生は離れていて。
それから君、名前は?」
指でさされた葵は怪魔を押さえながら答える。
「物部葵」
「いい腕だ。うちにスカウトしたいぐらいのね」
「せっかくですが、間に合っていますので。
ところで早くどうにかしてください」
「悪い話じゃない。考えておいてくれ」
玲子は面白そうに口元を緩めると、恐れることなく怪魔に近寄り、武器を引き抜いた。
怒るように、怪魔が叫び暴れるが、それを葵がさらに力を込めて抑え込む。
紐が手に食い込み、油汗が浮かぶ。
一瞬でも気が緩むと、抑えられない。
葵は歯を食いしばって、怪魔を睨んだ。
いくらシュが怪魔を抑えていたとしても、核を素早く見つけ出し、的確に仕留めるのは難しい
しかし玲子は迷うことなく核を見つけると、一つずつ確実に潰していった。
その度に怪魔の一部が霧のように霧散していく。
最後の一つは、高いハイヒールで踏みつけると、怪魔は断末魔を上げて消えていき、静寂が訪れた。
葵は手の甲で汗を拭って立ち上がると、武尊と恭介の元へ駆け寄る。
武尊は泣きそうな顔で葵を見あげた。
恭介のようすを見て、葵は沈黙する。
怪魔は魂を喰らう。喰らわれると外傷はなくとも、静かに命の灯火が消えていく。
恭介も顔色は悪いが、ただ眠っているようにしか見えない。
そこへ玲子も来ると、恭介の脈を測り厳しい顔をする。
「私の車ですぐに病院へ連れて行け。
救急車を呼ぶより、速いだろう。
聖子、お前もついて行け。お前がいると話が早い。
それと、これを持っていけ」
玲子は聖子に警察手帳のようなものを渡した。
「警察に止められたらそれを見せろ。何かの役に立つだろう」
「私も行きます。保護者のようなものなので」
玲子は頷くと葵の耳元でささやいた。
「家族を呼んでおけ。かなり厳しいぞ」
硬い表情で、葵は頷いた。
本作品は個人創作です。
一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。
「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。
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