10
恭介に用事があることを伝え、武尊は千鶴を教室で待っていた。
しばらくして、千鶴は顔をのぞかせる。
「ごめんな。遅くなって」
「別にいいけど。で、話って何?」
「杉原君、お腹空いてない?」
そう言われればと武尊はお腹を押さえる。
「うち、ペコペコなんよ。悪いけど、ちょっと付き合ってもらえんかな」
あれよあれよと千鶴のペースに巻き込まれ、武尊たちは街へ出ていった。
商店街の一角にある、世界的に有名なハンバーガーショップは、他校の生徒や親子づれもいて活気があった。
そこでは武尊と千鶴が一緒でも、誰も気にする人はいない。
二人はハンバーガーセットを持って、2階の席に移動する。千鶴の向かいに座った武尊は、さっそくハンバーガーを食べ始めた。
「今日はありがとう。私、うれしかった」
「いや、気にすんなよ。宮本が嘘をついてるようには思えないし。あいつが来たの、たぶん俺の責任だから」
首をかしげる千鶴に、武尊は言った。
「守ノ宮に、クラスメイトで生徒会に入ってる人から依頼を受けて調べてるって、言っちゃったから」
彼女は改めて納得したようだった。
「そうなんね。急に来て、体育館で赤い目をみたのはほんまかって聞いてくるから、うち、驚いた」
「悪かったな、迷惑かけて」
「ええんよ。調べてほしいって言ったの、うちやもん。
それで、何かわかったん?
守ノ宮さん、札を使うとかって、言ってたんやけど」
武尊は少し考えてから、口を開いた。
「調べてはみたけど、何も分からなかったんだ」
えっ、と千鶴は意外そうな声をあげる。
「そのかわり、守ノ宮が秘密の特訓をしてた」
「……秘密の……特訓……? どんな?」
「ええっと、怪魔と戦うイメトレみたいな感じ。
だから、宮本の疑問を解決できなかったんだ」
さすがに怪魔相手に練習していたなんてことは言えないと、武尊は咄嗟に嘘をついた。
千鶴は武尊から視線を外す。そしてポテトを数個食べると、再び武尊に笑顔を向けた。
「わからんこともあるよね。調べてくれてありがとう」
武尊は嘘をついたことを後ろめたく思いながら曖昧に頷いた。
「うち、実は守ノ宮さんのこと、小さい頃から知ってんねん。
幼稚園通ってるぐらいの頃ね、大人たちに囲まれてるのに堂々としてた守ノ宮さんを見てね、すごい憧れたんよ。
どうしてそんなに堂々と出来るのかなって思うてたら、彼女が守ノ宮家の長女で殺魔師になる子やって聞いて驚いた。
同い年なのに、なんや、すごいもん持ってるなって。きらきらして見えた。
守ノ宮さんみたいになりたくて、うちも殺魔師目指した。だけど……」
千鶴は言葉を切って、寂しそうに続けた。
「うち、霊力が全くなかった。本当に、普通の人やったんよ」
武尊はすぐにそれを否定する。
「宮本は霊力が無くても、頭いいし、クラスメイトから人気あるし、生徒会にも入ってるしすごいよ。
俺なんか、絶対にできない」
千鶴は少し泣きそうな顔をした。
「ありがとう。うちも努力したの。殺魔師のことは諦めて……。
勉強も、生徒会も頑張った。
だけど杉原君と出会って、少し変わったの」
千鶴は武尊を見て嬉しそうに笑った。その美しい笑顔に、武尊はなぜか違和感を覚えて、戸惑った。
「杉原君が戦えるなら、もしかしたら、うちにも、同じことができるんやないかって」
夢を見るように語る千鶴に武尊は言った。
「俺のは、特別なんだ。普通は、できない……」
だが自信はなく声は小さくなり、千鶴の気持ちを否定しきれなかった。
「そうかもね。ほんま杉原君は特別なんやと思う。
でも、うち何か自信が出たんよ。
うちにももしかしたら、そんな特別があるかもしれへんって」
『特別』という言葉が重くのしかかる。千鶴の真っ直ぐに見つめる目から、武尊は今すぐ逃げたくなった。
「ずうずうしいと、思われるかも知れんけど、うち、杉原君のこともっと知りたいの。
友だちになってもらえんかな」
千鶴を目の前にして、武尊は断ることができなかった。
「まあ、友だちぐらいなら」
「ほんま! 嬉しい! 勇気出して言ってよかったわ。
だったら今度から、名前で呼んでもええかな」
「あ、ああ……」
「ほな、改めてよろしくね。武尊」
嬉しそうな千鶴とは対照的に、武尊は胸が重くなるようだった。
重い足取りで玄関のドアを開けると、明るい笑い声が聞こえてきた。リビングに行くと、最上がまた来ている。
「おかえり。遅くなったんだな」
「ああ。友だちと一緒だったから」
『友だち』という単語を出して、さらに気が重くなる。
「オッサンは、今日はなに?」
「葵に報告をもらって、飛んできた。明日、理事長の守ノ宮鷹臣、守ノ宮聖子、それと守ノ宮家当主にも話を聞く予定だ」
「札を渡したっていう、理事長の奥さんからは話が聞けるの?」
恭介の質問に、明朗に話していた最上の口調が重くなる。
「葵から報告後、一条家に連絡したが、個人的な問い合わせは受け付けていないとあしらわれた」
「そもそも、一条家ってどんな家なの?」
最上はさらに渋い顔になる。
「一条家はもともと京都にいた一族で、京都を護ることを主としていたんだ。それが遷都の時に東京に移ったんだ。
東京を守護する家になったことで、中央との繋がりは濃いはずなんだが、俺たちみたいな下っ端には誰が当主で、どのくらいの人数がいるのか、全く知らされていない。
そもそも、殺魔師は個人的に依頼される場合と、公的機関から依頼される場合の二つに分かれる。
だからある程度は連絡もつきやすいはずなんだけど、一条家の場合、高級官僚や大臣クラスにならないと依頼すらできないって話だ」
「エリート中のエリートなんだね」
「まあ、そういうことだ」
最上の話を聞き終わった恭介は大きくため息をついた。
「しかし怪魔を自由に出せる札なんて、世の中に広まっても困るからな。何とかするよ」
最上の言葉に恭介は頭を下げた。
「ところで、今日は武尊が大人しいんだな」
ふいに最上が武尊を見る。
「うん、なんか疲れた」
そのようすに、葵と恭介もいぶかしむ。
「また何か問題を起こしたのではないでしょうね」
「そんなんじゃねーよ」
武尊の反応を葵はじっと見ている。その視線を避けるように武尊は目をそらした。
「ところで、葵と相談したんだけど、お前らの転校は体育祭が終わったらすぐするから」
「急なんだね」
「事件の区切りもついたので。本来だったら今週末でもよかったんですけどね。
でも、二人とも文化祭の準備に携わっているようですから、行事も終わってからにしましょう」
思わず恭介の顔がほころぶ。
「よかった。僕、楽しみにしていたんだ」
「白鳳学園の文化祭は、なかなか派手にするようですからね」
「武尊もわかったか?」
「あ、うん…」
やはり反応の薄い武尊に最上が首を傾げる。
「お前、変なものでも食ったんじゃないだろうな」
「そんなわけねーよ!」
それだけ言うと、軽い足取りで武尊は部屋へ向かった。千鶴には悪いが、気持ちが少し楽になっていた。
本作品は個人創作です。
一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。
「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。
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