↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪魔のいる世界で生きている  作者: さち
飛べない鳥は羽ばたく夢を見る 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/49

9

 家に帰った武尊は、何も言わないで自分の部屋に入っていく。外からの光だけが差し込む暗い部屋で、ベッドに横たわり、ぼんやりと天井を眺めていた。

 恭介はノックをして入ると、ベッドの側に座る。

「結局、札を作った人はわからなかったね」

「ああ。後はオッサンが調べてくれるよ。

 ああ見えて、有能なんだ」

 その言い方に、恭介は笑顔で頷く。

「もちろん、知ってるよ。

 ……武尊はどうかしたの?」

 武尊は何か言おうとして、また口ごもる。

 部屋の中は、静寂に包まれた。

「俺には、あいつらがそこまで強くなりたい理由がわからないんだ。

 たしかに母さんが死んだときは、怪魔を倒せる力が欲しいと思ったし、強くなりたいと思った。

 だけど、誰かを傷つけてまで、力が欲しいとは思わなかった」

 恭介はあふれる夜の光を見ながら、ゆっくりと答える。

「僕も武尊と同じ気持ちだけど、それは僕たちの運が良かったからかもしれないね」

 恭介の言葉の意味がわからない武尊は、ベッドから体を起こす。

「武尊は偶然、神剣の力を手に入れられた。そして僕も、生まれつき大きな霊力を持っていた。

 でもそうしたものを、持っていなかったら。大切なものを守るために、どうしても力が欲しくなってしまったら。

 僕もあらゆる手段を使ってしまうかもしれない」

「……大切なものを守るためなら」

「うん。

 たぶん、僕はそういう人間だ」 

 恭介は彼女を想っているのだろう。はるか遠くを見つめている。武尊は小さくため息をついた。

「やっぱり、俺にはわからない。

 でも、そこまで守りたいものがあるってことは、きっと幸せなんだろうな」

 恭介は武尊を見て優しく笑う。

「僕は武尊の考え方が好きだよ。

だから、武尊は今のままでいい。

今のままでいてほしい」

 武尊は再びベッドに倒れ込み、枕に思いきり顔を押しつける。しばらく、じっとしたかと思うと、再び勢いよく体を起こした。

「難しいこと考えてたら、腹が減ってきた。

 何か食おうぜ」

「そうだね。僕もお腹が空いちゃったよ」

 二人は顔を見合わせると、笑い合い、光あふれるリビングへとむかった。




 翌日、授業も終わり、解放的な空気がクラスを包んだ。クラスメイトたちが、それぞれの行動に移ろうとしていた時だった。

「宮本千鶴、おるかな」

 聞き覚えのある、凛とした声に、武尊は驚いた。

 入口を見ると、聖子が立っている。

「私やけど、なに?」

「ちょっと話があるんよ、ついて来て」

 クラス内が水を打ったように静まる。好奇心に満ちた眼差しが、二人に集中する。

「ここで話せんの? うち、生徒会に行かなならんのやけど」

「聞きたいことがあるだけや。すぐ終わる」

 譲らない聖子に観念したように、千鶴は動き出した。

 二人が教室から出て行くと、松本が武尊に話しかける。

「なんやろ。一組の人が話やなんて」

 慌てて動き出そうとする武尊を松本が止める。

「止めとけって。女同士のごたごたに付き合って、ええことあらへん」

「ごめん。ちょっと気になることがあるから、行ってくるよ」

 武尊は松本の制止を振り切って、教室から出ていった。

 武尊の頭に、昨夜の光景が浮かぶ。

 武尊たちが体育館に向かった理由に、聖子は気がついていた。

 武尊は廊下に出て二人を探した。

 目立つ二人の行き先は、すぐにわかった。

 好奇心旺盛な生徒たちが、二人が向かった先を囁きあっていたからだ。

 その言葉に従って、普段は使われていない、非常階段のドアを開けた。

 外からの風が入ってくる。

 屋外にある鉄筋の階段の踊り場に二人は向かい合せで立っていた。

「何してる!」

 一瞬、聖子は驚くが、すぐにいつもの見下したような表情に戻る。

「本当に赤い目を見たんか、聞いてるだけや」

「そんなこと聞いて、意味があるのかよ」

「あるわ。昨日も言ったけど、うちらが札を使うときは、学校に誰もおらんように注意しとったんや。

 だけど、宮本さんは校内におった。本当だったら、大問題や」

 武尊は眉をひそめた。

「宮本が嘘をついてるって言いたいのかよ」

「うちはそう考えとる」

 聖子は千鶴を睨みつける。それに震えながらも、千鶴も言い返した。

「うちは嘘つきやない。

 杉原君、信じて」

 泣きそうな千鶴の言葉が嘘だとは、武尊は思えなかった。

「昨日のことがあったのに、まだ反省してないのかよ」

 武尊は聖子に言った。聖子が口をへの字に曲げるが、すかさず言い返す。

「あれとこれとは別の話や」

「本人が見たって言ってんだから、見たんだろ。

 だいたい、どうして嘘をつく必要があるんだよ」

「うちもそこが聞きたいんよ」

「だから、宮本は嘘をついてないって」

 千鶴を見ると、大きく首を縦に振った。

 聖子はこれ以上何を聞いても無駄だと思ったのか、忌々しそうに武尊を見る。

「あんた、この子の肩を持ったこと、後で絶対に後悔するから」

 そう言うと、二人を残して出ていった。

 聖子がいなくなると、千鶴は緊張が解けたように息を漏らした。

「ありがとう、杉原君」

「いや……。それより、大丈夫かよ」

「うん、杉原君が来てくれたから」

 千鶴の視線に武尊は居心地が悪くなり、この場から逃げようとする。

 しかし、すかさず千鶴が話を続ける。

「文化祭の準備が終わった後って暇? うち、話したいことがあるんよ」

「今は駄目なのか?」

「……うん。お願い」

 しかたなく武尊は頷く。千鶴の顔が明るくなった。

「ほな、また後で」

 軽やかに出ていく千鶴を見ながら、武尊は厄介なことになったかもしれないと思った。

 いつまでも熱を持つ空気が、じっとりと武尊に絡みついていた。


 

本作品は個人創作です。

一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。


「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。

無断転載・無断使用・AI学習への利用は禁止しています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。