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家に帰った武尊は、何も言わないで自分の部屋に入っていく。外からの光だけが差し込む暗い部屋で、ベッドに横たわり、ぼんやりと天井を眺めていた。
恭介はノックをして入ると、ベッドの側に座る。
「結局、札を作った人はわからなかったね」
「ああ。後はオッサンが調べてくれるよ。
ああ見えて、有能なんだ」
その言い方に、恭介は笑顔で頷く。
「もちろん、知ってるよ。
……武尊はどうかしたの?」
武尊は何か言おうとして、また口ごもる。
部屋の中は、静寂に包まれた。
「俺には、あいつらがそこまで強くなりたい理由がわからないんだ。
たしかに母さんが死んだときは、怪魔を倒せる力が欲しいと思ったし、強くなりたいと思った。
だけど、誰かを傷つけてまで、力が欲しいとは思わなかった」
恭介はあふれる夜の光を見ながら、ゆっくりと答える。
「僕も武尊と同じ気持ちだけど、それは僕たちの運が良かったからかもしれないね」
恭介の言葉の意味がわからない武尊は、ベッドから体を起こす。
「武尊は偶然、神剣の力を手に入れられた。そして僕も、生まれつき大きな霊力を持っていた。
でもそうしたものを、持っていなかったら。大切なものを守るために、どうしても力が欲しくなってしまったら。
僕もあらゆる手段を使ってしまうかもしれない」
「……大切なものを守るためなら」
「うん。
たぶん、僕はそういう人間だ」
恭介は彼女を想っているのだろう。はるか遠くを見つめている。武尊は小さくため息をついた。
「やっぱり、俺にはわからない。
でも、そこまで守りたいものがあるってことは、きっと幸せなんだろうな」
恭介は武尊を見て優しく笑う。
「僕は武尊の考え方が好きだよ。
だから、武尊は今のままでいい。
今のままでいてほしい」
武尊は再びベッドに倒れ込み、枕に思いきり顔を押しつける。しばらく、じっとしたかと思うと、再び勢いよく体を起こした。
「難しいこと考えてたら、腹が減ってきた。
何か食おうぜ」
「そうだね。僕もお腹が空いちゃったよ」
二人は顔を見合わせると、笑い合い、光あふれるリビングへとむかった。
翌日、授業も終わり、解放的な空気がクラスを包んだ。クラスメイトたちが、それぞれの行動に移ろうとしていた時だった。
「宮本千鶴、おるかな」
聞き覚えのある、凛とした声に、武尊は驚いた。
入口を見ると、聖子が立っている。
「私やけど、なに?」
「ちょっと話があるんよ、ついて来て」
クラス内が水を打ったように静まる。好奇心に満ちた眼差しが、二人に集中する。
「ここで話せんの? うち、生徒会に行かなならんのやけど」
「聞きたいことがあるだけや。すぐ終わる」
譲らない聖子に観念したように、千鶴は動き出した。
二人が教室から出て行くと、松本が武尊に話しかける。
「なんやろ。一組の人が話やなんて」
慌てて動き出そうとする武尊を松本が止める。
「止めとけって。女同士のごたごたに付き合って、ええことあらへん」
「ごめん。ちょっと気になることがあるから、行ってくるよ」
武尊は松本の制止を振り切って、教室から出ていった。
武尊の頭に、昨夜の光景が浮かぶ。
武尊たちが体育館に向かった理由に、聖子は気がついていた。
武尊は廊下に出て二人を探した。
目立つ二人の行き先は、すぐにわかった。
好奇心旺盛な生徒たちが、二人が向かった先を囁きあっていたからだ。
その言葉に従って、普段は使われていない、非常階段のドアを開けた。
外からの風が入ってくる。
屋外にある鉄筋の階段の踊り場に二人は向かい合せで立っていた。
「何してる!」
一瞬、聖子は驚くが、すぐにいつもの見下したような表情に戻る。
「本当に赤い目を見たんか、聞いてるだけや」
「そんなこと聞いて、意味があるのかよ」
「あるわ。昨日も言ったけど、うちらが札を使うときは、学校に誰もおらんように注意しとったんや。
だけど、宮本さんは校内におった。本当だったら、大問題や」
武尊は眉をひそめた。
「宮本が嘘をついてるって言いたいのかよ」
「うちはそう考えとる」
聖子は千鶴を睨みつける。それに震えながらも、千鶴も言い返した。
「うちは嘘つきやない。
杉原君、信じて」
泣きそうな千鶴の言葉が嘘だとは、武尊は思えなかった。
「昨日のことがあったのに、まだ反省してないのかよ」
武尊は聖子に言った。聖子が口をへの字に曲げるが、すかさず言い返す。
「あれとこれとは別の話や」
「本人が見たって言ってんだから、見たんだろ。
だいたい、どうして嘘をつく必要があるんだよ」
「うちもそこが聞きたいんよ」
「だから、宮本は嘘をついてないって」
千鶴を見ると、大きく首を縦に振った。
聖子はこれ以上何を聞いても無駄だと思ったのか、忌々しそうに武尊を見る。
「あんた、この子の肩を持ったこと、後で絶対に後悔するから」
そう言うと、二人を残して出ていった。
聖子がいなくなると、千鶴は緊張が解けたように息を漏らした。
「ありがとう、杉原君」
「いや……。それより、大丈夫かよ」
「うん、杉原君が来てくれたから」
千鶴の視線に武尊は居心地が悪くなり、この場から逃げようとする。
しかし、すかさず千鶴が話を続ける。
「文化祭の準備が終わった後って暇? うち、話したいことがあるんよ」
「今は駄目なのか?」
「……うん。お願い」
しかたなく武尊は頷く。千鶴の顔が明るくなった。
「ほな、また後で」
軽やかに出ていく千鶴を見ながら、武尊は厄介なことになったかもしれないと思った。
いつまでも熱を持つ空気が、じっとりと武尊に絡みついていた。
本作品は個人創作です。
一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。
「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。
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