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異世界喫茶『カフェ de ローズマリー』  作者: 杉崎 朱


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18/30

第18話 16:12*シャトーブリアン


「あ!有真くん良いところに!なんかインターネット繋がらないんだよね?まぁ、今日はこの時間だし、明日からはGWだから良いけど休み明けまでになんとかしておいて?

 会社全体じゃなくてこのフロアだけらしいんだけど、なんかモデム?ルーター?再起動してもうんともすんともらしくて?」


「恐れ入りますがそれは専門部署の方に言うのが筋では?」

「もうみんな帰っちゃってるし。休み明け朝イチでネット繋がらなかったら大惨事だよ?」



 それが昨日、GWの連休に入る前日の話。



・・・ーーー



 くそぅっ!!まぁ別にGWの間だって何回かここにご飯食べに来ようと思ってったから良いけどさ!GWの初日くらいはせめて家でずっと寝てようと思ったのに・・・!!!


 ———カランッ!!


 怒りに任せて俺は店の扉を開けた。

「こんにちは!!」

「お待たせいたしました〜!!本日のランチは”シャトーブリアンステーキ”です!!」

 店に入ったと同時に和服メイドさんがランチを給仕するタイミングだった。ん?今———っ?!



「うぉぉおおおおおおーーーーー!!シャトーブリアンステーキィィイイイ!!!??」

「、、、おっ?よぉ兄ちゃん!いらっしゃい!シェフ!兄ちゃん来たからランチ一つ追加な!」

 ——カンッカンッ!!


 俺は扉の前で席に座ることも忘れた。驚愕した。だって、あのシャトーブリアンか?!

 牛肉の!ヒレの!ヒレの中のヒレであるあの柔らかい高級食材の!!マジでか!?本当に俺の知ってるシャトーブリアンであってるのか?!フカヒレに並ぶ高級食材だぞ?!本当に俺の知ってる・・・?!


「兄ちゃんの知ってるシャトーブリアンであってるぜ?全部声に出てるってばよ。前にコーヨーに出した時も同じだっていってたからな!」


「本物のシャトーブリアンだーーー!!」

 いや、異世界さんだから俺が思う本当のシャトーブリアンとはまぁ似て非なるものなのだろうが、お陰様で上司に押し付けられたGWの仕事のイライラが一瞬で吹き飛んだっ!!!


 

「あ!お兄さんなのー!あれ?お兄さんのところは連休っていって、しばらくお仕事お休みじゃないの?」

「あ、うさぴょん・・・あのね、仕事になっちゃったんだ」

「えーーー!!お兄さん大変なの!でも代わりのおやすみ貰えるんだよね?」

「・・・」

「えええええーーーなのーーー!!!」

「まったく、立派な社畜だなっ!!今日のランチをご褒美代わりに鱈腹食ってけなっ!」

「この喫茶店だけが俺に優しいっ!!!」




「あ!そう言えばお兄さん、今日は"スーツ"じゃないの!」

 そう。俺は今日、トレードマークとも言えるスーツを着ていない。だって俺のいるフロアは俺以外は出勤していないし商談も何もない。

 そもそも場所によっては別にスーツでなくても良いときている。今日、GW中にそもそも仕事しているだけで俺は立派なのだ!!スーツ着てきたって直らなかったら意味ないだろ!?だから私服である。



「おお、俺も一瞬誰が店に入ってきたかわかんなかったぜ!」

「でも、そのお洋服もとっても似合ってるのー!!」

「・・・ありがとう、うさぴょん」

 そんなこと人に言われた事ないから嬉しくて感動して泣きそう。あ、ダメだ、シャトーブリアンを堪能しないと。




・・・ーーー


「お待たせいたしました!今日のランチの”シャトーブリアン”です!」

 和服メイドさんが今度は俺のところにランチを持ってきてくれた!!これだよこれ!!このシャトーブリアンのステーキ!!隣のうさぴょんはウェルダンでしっかり焼きだった。そして俺は焼き加減は指定していない。きっとシェフが俺の好みに焼いてくれているんだ・・・!!!


 ナイフとフォークを持って、肉を分厚く切った。




 ミディアムレアッ———!!!



 俺はすかさず顔を伏せた。涙が出そうになりながらこう叫んだ。

「シェフーーーッッッ!!!!!」

「おーいシェフ、焼き加減バッっチリだとよー」

 ———カンッカン!!

 次の一口も豪快にいった。美味い、美味すぎる・・・!!肉を噛み締めてそして米もかっこむ。だめだ、これ今日休日出勤なのに余裕で残業できちゃうくらいテンション上がってる・・・!!!



 ———カランッ・・・



 お客さんが入ってきた。でも”いらっしゃい”を言うのは俺じゃない。マスターの仕事だ。俺は夢中でシャトーブリアンを喰らう!!あぁ!!なんか薬味とかも添えてある・・!わさびとニンニクだ、シェフ!!あんたやっぱり最高で最強だよ!!!


「・・・らっしゃい・・・。看板の文字・・・読めたか?」


 ん?なんかマスターの様子がおかしい。俺は口をもぐもぐしながら目の前のマスターを見た。顔は普段と変わらずで丸い黒目が愛らしいが、態度がタジタジである。看板の事を訪ねているからご新規さんだろうけど、読めたか聞くってどういう———


 振り返った俺の視界に入ったのは、身なりこそそれなりに整えようとしている感じではあるが、俺を凌ぐほどの社畜を感じ取った。



 この人———っ!!仲間だっ!!!




・・・ーーー




 扉の横の時計は16:12分。

 スーツっぽいがスーツとはまた違うが、なんかフォーマルに見える服を着ている男性。髪の毛は整えてはいるが髭が無性髭だ。清潔さとだらし無いの間・・・あれか、枯オジというやつなのだろうか?


「食事を頂きたくて・・・」

「おっおう。今日のランチな・・・ウチはランチは一種類で日替わりなんだ。それ以外は焼き菓子がメインだが良いか?」

 マスターの言葉に男性は隣で食べている俺を見た。

「ステーキ・・・ですか?」

「はいっ!!シャトーブリアンです!!あっ!でも多分金額はそこまで高くないから今の手持ちが少なくても大丈夫だと思いますよ!!ここは安くて美味しいランチで有名ですから!!」

 俺も前にフカヒレ出された時はびっくりしちゃったもんなぁ〜!手持ち足りるかな?!って。でもこの店なら3000円持ってればどんな料理でも一人前は食べれるだろう。


「いや・・・お金はいいんです。今の生活リズムじゃ使いきれないほど持ってるんで。肉かぁ・・・胃が受け付けてくれるかなぁ・・・」


 ・・・【今の生活リズムじゃ使いきれない】って言った。言ったよこの人・・・!!

 

 身なりとか、状態を推測するに多分『お金を自由に使う時間がない』タイプの人だ・・・!!やっぱり絶対に社畜だよ!!もしくは経営者で時間が取れないタイプ?!


「おい、大丈夫か?肉食えるか?菓子にしとくか?」

「・・・いえ、ろくに食べてなかったので一応この辺で肉くらい食べないと・・・」

「そうか・・まぁ、食い切れなかったら包んでやるよ、シェフっ!!ランチ一つなっ!!」

 ———カンッカンッ!!



 隣の人のランチがくるまで、俺は自分の肉を食べながらも話しかけてしまった。


「あの・・・お仕事大変なんですか?」

「あ?え、ええ。まぁ・・・多分。でもみんな同じくらい大変な思いをしているので、この大変さがもう”普通”ですね」

「あの、もしよろしければ食べながらにはなっちゃいますけど、お話し聞いてもいいですか・・・?」

「・・・?え?むしろ聞いていただけるんですかっ?!」

 澱んでいた目がちょっと輝いた気がした。あれ?俺なんか間違った?



「何をしているかは言えないので例え話になるのですが!まず、突然自分の子供ではない子供を他人から預けられたとします!そうしたら、ご飯を作らなくちゃいけないですよね?そもそも冷蔵庫という設備が無く、年中気温が30度を超えている場所で生活しているとしたら、加熱食品は半日ともたずに腐ってしまいますでしょ?冷蔵庫もなければ作り置きもできない、食材も限られる・・・。だから、ご飯の時間が近くなると毎回食材を手に入れて、ご飯を作って、食べきっての繰り返しです・・・その間に他のことするんです。洗濯とか掃除とか仕事とか・・・。

 自分だけだったらまぁ1日2食とか、面倒だったら1食でもいいかな?って思いますよね?その一食を鱈腹食べればって思いますよね?でも預かった子供はたくさん食べたいし、朝昼晩とちゃんとお腹が空く・・・毎回作らないといけないんです・・・お店とか出来合いとか屋台とかなかったら、全部俺が作らないとその子は自分で食べ物をどうにかして食べることができないんです・・・。

 毎食その子のご飯を作っていて、やっとその量や作業やルーティーンも慣れた!!って頃に、また別の子供を預けられるんです。増えるのです。もちろん、預かっているうちは膨大な金額をもらいます。でも、お金をもらっても、楽にならないんです。楽できるシステムがないから・・・!そのお金を丸々人に渡すことを約束しても手伝ったり引き受けてくれる人がいないんです!!

 で、毎食作って、預かる子供は増えて、時間はどんどん無くなって、楽できるシステムを自分で作ることすらできないまま・・・今に至ります・・・」


 やばいっ!!何言ってるか全然わからないけどすごく大変なことだけはわかった!!!!!

 例え話だから詳細は全くわからないけど、お金を持ってても全然楽にならなくて使い道も使い所もなく、ずっと苦労してるってことだ!どれだけお金を払ってもやってくれる人がいないって事だ!!!俺より社畜だよ!!むしろ俺なんて全然社畜じゃないじゃん?!えっ!?待って社畜ってなに?!


「・・・TOP OF 社畜だな・・・」


 マスターがぼろっとこぼした。

 その後、シャトーブリアンを食べて元気を取り戻した社畜さんが、マスターが人間ではなくハクビシンだと気付きとても驚いてました。


 社畜さんとは仲良く慣れそうです!!

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