第17話 03:36*創作御膳
「昨日スケジュール出してくれた5月の第三週の出張ね、あれ一人で行ってもらおうかと思ったの。先方も君一人で良いって言ってたから。でもね、一緒に京都支社行きたいって人が居てねぇ・・・そもそも『なんで有真くんなの?』って自分が選ばれなかったことが気に入らないみたいでねぇ?だから二人で行って?」
「なんでそう言うこと先に言っちゃうんですか。気まず過ぎます」
・・・ーーー
「お兄さん!!今日はうさぴょんからご来店のお客さんに人参プレゼントなのー!!」
「人参プレゼント?人参くれるの?」
「そうなのー!」
店に着いたらうさぴょんが人参を抱えて扉の近くに居た。そう言って、人参を一本手渡された。おぉっ!なんか立派な人参だ!異世界産の人参・・・!
「なんか今年すごく収穫できてるらしいぜ。店にまた寄付してくれたわ。今日は人参ゼリーのデザート付きだぜ」
「人参ゼリー?!」
シェフが作ったのならなんでも来いだ!!美味いに決まってる!!
昨日は顔見知りが沢山だったが今日は少ない。今はマスターとうさぴょんだけだ。そう思ったら扉が開いた。マスーたがペンを持った。多分初めての時間、初めての世界のお客さんだ。俺も気になって扉の隣の時計を見た。
3:36分。
———カラン
「こんにちは。俺、中学生だけど一人でいいですか?看板は読みました」
「おう、いらっしゃい。看板読んで守れるならいいぜ」
高校生にも見える少し背の高めな男子中学生が入って来た。
・・・ーーー
カウンターに座る順番は、うさぴょん、俺、中学生の彼だった。他の初めてのお客さんと比べて、彼はスマートにマスターに話かけた。そしてマスターもそれに応えている。その会話の風景は、初見のお客さんとは思えないほどだった。なんか・・・もう常連さんみたいな話し方、雰囲気、内容である。———あれ?俺の方が初々しい気が・・・?
「俺の親さ、父親は離婚していないし、母親はあまり料理得意じゃねぇし、そもそもあんま俺に興味ねぇからさ。手作り自体少なくて大体インスタントとかだし。別に手作りが食べたいって言ってるんじゃねぇけど、既製品の味しか知らねぇってのも人としてどうなんだよって思ってさ」
彼の言う通りだと思った。しかし、喋り方から感性からほんとに中学生っ?!
「美味いのかどうかは知らないけど、ダチの母親なんかは色々手作りする人が多いみたいでさ。『ほうれん草のババロア』だとか『トマトパイ』だとかなんか色々そういうの食べてるらしい」
「ほうれん草のババロア?さすがの俺も聞いたことねぇな?兄ちゃんの世界じゃどうだ?ババロアに野菜入れるの一般的か?」
突然俺に話を振られてびっくりした!!俺も話聞いてる人にカウントされてたのかっ!!いや、隣だから聞こえてたけど!!
「そうですね・・・、入れるとしても多分もっと甘みがある野菜じゃないですか・・・?俺も聞いたことないです。多分その人オリジナルかもしれないですね・・・」
なんか、当たり障りない意見言っちゃったよ!でも本音だけどっ!!俺のその言葉に彼は続けた。
「あぁ、良くある料理、無い料理、美味いとか美味くないじゃなくて、そう言う”一般的には存在してなくても、親が考えて作ってくれた料理”体験とかがないと、人と共感ができないとこの先俺苦労することもあるんだろうなって思って。『親の出してたよくわからない料理』って、それが家庭の味っていうのだろうし、そう言う話題が時々出るくらいだから、この先もそう言う話題が出たりしても俺は会話に入れない気がしてさ。別に入れないから疎外感を感じるわけじゃないんだけど」
大人だよっ!!この人!!
「中坊、お前やけに落ち着いてるな。なんか三十代の子持ちの男と話してるみてぇな感覚になるわ」
マスターが言った。わかる。なんかわかる。自分の体験じゃなくて、自分の奥さんが料理が苦手で子供の将来を心配してる感じにも聞こえるっ———!!
「自分の子供の話なら、俺が子供に飯を作ればいいだけだからそこまで気にならない。料理が苦手な親はよくいるだろう。でも、だからって作らないって親は少なくてなぁ・・・まぁ俺の”世界”?の話だけど」
達観。
「まぁ世の中には世界的に家庭で料理を作らない場合もあるし、世界規模じゃなくてもそういった”国”もある。外で食べるのが主流的なな?まぁ・・・だからなんとも言えねぇけど中坊の世界の主流は『母親がご飯を作る、それが下手でも』って言うのなんだろうな」
「あぁ、それです、それ」
・・・俺、会話に入っていけない。
「(難しいお話だね!!)」
うさぴょんが俺に小さな声で話かけてくれた!!本当それっ!!!!!
「(本当にね!!凄く大人っぽい人だね!)」
「(背もちょっと大きいよね!お兄さんに近いくらいある!)」
そう、俺の身長に迫りつつある彼。着ている服も制服だ。ブレザーなので、俺に似た感じをうさぴょんは受け取ったらしい。
あーでも、自分が学生だった時はよくこんな感じの小難しい話を大人たちがしてたなーと今思い出す。そうそう、自分は学校の事考えて、周りの大人は会社の事、世の中のことを良く話してたなぁ…関係ないわけじゃないけど、『でも俺には関係ない』って思いながらちょっと盗み聞きしてさ。・・・待て、大人は俺の方だぞ?!
「お待たせいたしましたー!本日のランチは”シェフの創作御膳”です!」
なんだと?!シェフの創作御膳?!料理名を言われないことにこれの興味がより一層そそられた!
「説明致します〜!」
俺とうさぴょんと中坊くんの前に御膳を置いた和服メイドさんが説明を初めてくれた。
「まず、ご飯は舞茸の混ぜご飯です!隣のお味噌汁は春菊のお味噌汁です!香りがとっても良いんです!小鉢の中はツナとコーンのマカロニサラダ!メインはソーセージの入ったスクランブルエッグです!!」
キラキラした顔で説明をしてくれた。可愛いっ・・・!!!
「そして・・・!このデザートの”人参ゼリー”の人参が———」
「うさぴょんが育てた人参なのーーー!!」
「と、いう事ですー!」
うさぴょんとメイドさんの可愛い演劇みたいな説明が終わった。可愛い、美味しそう、早く食べたい・・・!!
「早く食べたい!頂きますっ!」
「頂きますなのー!」
「・・・これ・・・」
食べる姿勢に入った俺とうさぴょんに対して中坊くんは動かない。あれ?どうした?全然食文化が違う世界だったとか?ほうれん草ババロアにするくらいだから全然違う可能性もなきにしもあら———
「学校で話に出た料理だ・・・」
ボソッと中坊くんが呟いた。
「あれか?調理実習とかか?学校の授業で出た内容か?中坊の世界じゃポピュラーなメニューか?」
「違う・・、クラスメイトが話してた”家で母親が作った一般的には無いメニュー”の方・・・頂きます」
頂きますを言い終わったら俺たちよりも早く食事に手をつけた。一通りお皿に箸をつけて彼が言った。
「・・・っ凄く良い意味で、お店っぽくない味」
「———おう!!そうか!シェフ!良い意味で美味いってよ!!」
———カンッ!!!
中坊くんの目が輝いたっ!今までは俺が会社にいる時と同じ、社畜的な人生に少し冷めた目に見えたが今は輝いている!ハイライト多めだよ!!俺もこうしちゃいらんない、早く食べよう!!
平皿に乗っている黄色と茶色の人気食材を合わせた料理に箸を伸ばした。切られたソーセージと卵を一緒に掴んで食べる。
「っくぅうーーー!!!なんかめっちゃ美味いっ!!」
・・・ーーー
「また来る。ご馳走様でした」
中坊くんは礼儀正しく、また来る宣言をして帰っていった。会計の時に”1000バン”って通貨に酷く驚いてたけど1000バンってどんなくらいなんだろう・・・でも払えなかったわけじゃないからそこまで高くはないんだろうけど・・・?あ、いけない。俺も会社戻らないと・・・トホホ。
「ご馳走様でした!シェフ今日も美味しかったです!中坊くんと同じ感じで、なんか懐かしくて実家で食べたご飯って感じでした!」
———カンッカンッ!!
俺の声が聞こえたのか、キッチンからシェフの返事が返ってきた。
「ほぉ!兄ちゃんの世界でもあんな感じのが”家庭料理”なのか?おもしれぇな?」
「はい!中坊くんと俺の世界の感覚が一致はしないでしょうけど、似たような感覚ならあのご飯は嬉しかったんじゃ無いかなって思います!」
「だったらちょうどよかったな、確かに店っちゃ店の飯だけど、家庭っぽい料理を食えたんだったらあいつの経験、体験の一つになっただろうな・・多分な!!」
適当な感じに言うけど、まぁちゃんと中坊くんの事は考えてる優しいマスターだ。
「マスター!お会計お願いします!」
「あいよっ!今日は・・・100円だ!」
「100円っ?!?!」
これは驚く金額だっ!!!




