十日目_01
深い森の中で生活を続ける日々。
けれどどうやら生活は安定してきた。ちょっとしたできた余裕で、彼らは森の探索を始める。
更に五日が経過し、俺とエリュシオンの生活水準は大分向上した。同時にこの能力の検証も少しずつ進んでいる。
現状解っていることは、石や枯葉といった、生命が宿らない物資に限ってだが、分解及びに再構築が可能。一応例外もあって、そこいらの木々は分解できない。まあ植物も生きてるしな。落ちていた武器やら鎧やらは一部、分解できないものが含まれている。同じものは造れるし分解できるんで、形に因るものではないと思うんだけど、詳細は不明。
しかも再構築した物質は元の物質の性質を引き継がない。硬い石から柔らかい布を作れるし、その逆も然り。
作れるものは単純な道具に限る。分解できるものは生命体以外すべて。ただ、どうにも作れるものは『俺が知っているもの』に限るらしい。これは当然と言えば当然で、そもそも知らないものは造ろうという発想にならない。
また、分解したものによって作れるものは、総量がその物資以下のもの。試しに剣を分解して作った時は、大体剣と同じ重量の石を作れたが、小さな石を分解しても同じサイズの石しか作れなかった。
また、触らずとも分解は可能だ。どうにも有視界範囲内にある物質は大抵分解できる。めちゃくちゃ強力な能力だ。とりあえず、これが今のところ解っている俺の能力だった。
数日かけてみたが、やはりエリュシオンはこの力について全く解らないと言っていた。兎にも角にも、これで俺たちの生活は一気によくなった。
一番良かったのは、これでエリュシオンの服が作れたことだ。
単純な上下一体型のワンピースだったが、服を贈った時はやっぱりキャーキャー喜んでくれて、まあ贈った甲斐があることあること。まあ背中の翼が出る部分は一仕事必要だったけど。気楽に脱げるのは背中がざっくり開いてないと無理だ。
他にも、布団や歯ブラシ、ヤカンや竈にお皿、食器各種に保存容器など、もう様々なものが作れた。マジで生活状況改善できたのありがたい。乾いた木を作れるので、燃料にも事欠かない。後は食事がまともになりゃぁなあ……。肉は未だに食えてないし、魚はまずいし。
それでも飢えてないのは、木の実を沢山エリュシオンが見つけてきてくれるからだ。偶に焼いたりして、ピーラーなどを作って皮をむいたりして楽しく食べている。残った種はそこにらに飢えておいた。また樹になって実をつけておくれ。
まあそんな訳で十一日目。生活状況も改善されたので色々と探索する余裕も出てきた。特に睡眠が改善されたのが大きい。エリュシオン用の小さな布団も用意したが、大抵は俺の隣で体を丸めている。
エリュシオンは非常に頭がいい。試しに文字を教えてみたら、あっという間に覚えた。今やひらがな、カタカナはマスターしている。一部だが漢字も覚えた。
言語学が得意でよかった。最近は学ぶことが楽しくなってきているみたいで、簡単な算数とか、色々な料理とか教えている。エリュシオン用の小さな包丁やまな板を造って渡すと、また喜んでいた。
まあ俺の知識にも限界はあるので、こういう時は本が欲しいもんである。教科書が専ら校則の乗ってる生徒手帳ってのはまずい気もする。一度本も作ってみたけど白紙のノートだったしな……俺の知らない文字は書けねぇよそりゃ……。
何にせよ、食事の状況以外は全く持って平和なもので。
今日も今日とて、エリュシオンと共に森の中を散策している。
「ねぇショーナ、ショーナ、今日はまた別の場所に行ってみましょうよ!」
「そうだなー、別の拠点欲しいしな」
エリュシオンの提案に素直に応じる。
今のところ拠点は洞窟一つ。他の洞窟を緊急時の拠点として造っておきたい。俺のこの力なら拠点は無制限に作れる。今は洞窟の中も綺麗に整地されて、地面には茣蓙が敷かれていたりする。
同じような洞窟があるといいんだけどな。綺麗に整地して、とにかく眠れる場所くらいは作っておこう。
「ふんふふーん」
エリュシオンは俺の頭で上機嫌に鼻歌を歌っている。ぱたぱたと羽ばたいて、尻尾を揺らして上機嫌。
エリュシオンの方向感覚はとても頼りになる。拠点までの道は迷ったことがない。方位磁石も作ってみたが、全くに役に立たなかった。原理がどうなってるかわからんもんは、造っても役に立たんよ。
「あ、ショーナ隠れて。魔獣だわ」
言われた瞬間そっと近くの木に身を隠す。
この森において生き残る最善の策はエリュシオンに従うことだ。危険な魔獣については直ぐに気が付いてくれる。
見かけたのは、白と黒で彩られた虎のような魔獣だった。だが、兎に角デカい。動物園で見た雄のライオンよりさらにデカそう。一歩毎に踏みしめる音が聞こえてきそうだが、不思議なことに足音はほとんどしない。野生の獣スゲェ。
長い牙が上顎から伸びていた。白く濁った瞳は何も映していないようだったが、はっきりと辺りを見ている。巨体のままゆっくりと静かに、鼻を鳴らしながら歩いていた。白と黒の綺麗な模様が美しいとさえ思う。
不可思議なことに、この森において俺とエリュシオンは魔獣たちに見つかったことがない。彼らの感覚は鋭敏そうだというのに、不思議な話だった。今回も問題なくすれ違い、魔獣はどこかに去っていった。やがて魔獣が去った後、俺は小声で尋ねる。
「アイツ、何?」
「しらなーい。でもアレは凶暴よ! どんな巨体にも怯まないし、強いわ」
思い切り肉食。……その割には見つからないの不思議だな。
見つけられて見逃されてる、とか? いや、まあ安全ならいいんだけど。エリュシオンと共にとりあえず再度歩き出す。きゃっきゃとエリュシオンが俺の周りで飛び回る。
「しかしなんか、本当に森だな……どこをどうすりゃ出られるんだ?」
「出るの?」
「その時はお前も一緒な」
「当然よ! どこでも守ってあげるからね!」
エリュシオンが胸を張る。ありがとな。何のかんの言って、めちゃくちゃ守られてるしなぁ。軽く頭をなでると嬉しそうに笑った。
一人だったらこの力に目覚める前に死んでただろうしな。呼び名はまだ決めていない。なんか漫画やアニメに倣った呼び名にしようかと思ったんだけど、なんかそれも格好悪い。エリュシオンは呼び名を決めてほしそうだったが、なんか決められなくて困ってる。
というかまあ使うの俺だけだし、能力名とか決めなくていいんじゃないか……?
「あ、また魔獣だ。今度は群れね」
ギャア、ギャア! と吠えている魔獣の群れ。小型の恐竜ですね。なんだっけ、ラプトル? っぽい?
でも俺より大きいし間違いなく重たいし。それが五匹。怖すぎるだろ。ただ首を振って素早くどこかへ去っていく。そしてどこかで魔獣たちの咆哮。さっきの連中が争ってるのだろうか。
しかし本当にどこにでもいる。同じものを見かけることは少ないが。しかも連中、何でも食う。互いの肉、草木。草食に見えてまったくそうでない連中が多すぎるし、肉食に見えても平然と草を食うし。だが、辺りの木々も結構食われているように見えるのに、全く本数が減っている様子はない。
ふらふらと森の中を歩き回り、やがて十分歩いたところで、不可思議な場所へとたどり着いた。妙に冷える。ただでさえ霧が深いこの森の中において、そこは更に霧が濃い。
「霜……?」
空気を吐くと妙な寒さに空気が白くなる。木々も霜が張って凍り付いている。寒すぎる。なんだ、ここ。ていうか……。
「この氷、分解できねぇ……なんで?」
寒いんでコートでも一着造ろうと氷を分解しようとしたら、全くできない。氷の下の地面も当たり前のように。氷に覆われた枯葉や枯木、そういったものも当然のように。……この氷なんだ?
ふむ、霜の森、とでも名づけようか。なんか地名みたいなの造ろうぜ。そんな気になりつつある。生活能力安定してきてるからかなぁ、余裕出てきてるっぽい。
「ショーナぁ、ここ寒いよぉ……」
「……ドラゴンが爬虫類なのってマジなのか。寒いのだめか、お前」
そして俺の胸ポケットの中で丸くなるエリュシオン。本当に寒そうなので内側のポケットに避難させる。
確かに当たりの冷え方は尋常じゃない。周辺には魔獣も一匹もいなかった。それどころか虫も飛んでいない。何匹が落ちてるのは死んでるやつ。何匹、どころじゃないけども。
兎に角霜の森を離れる。暫くするとエリュシオンも元気が出たのか、内側のポケットから飛び出して、俺の頭に乗った。
「もうあそこは嫌! 寒いもの!」
頬を膨らませながら本当に嫌そうに叫ぶエリュシオンに和みながら、また適当に歩き始める。まあ俺もあんまり行きたいとは思わないけど。ただ、それでも微妙に不可解だ。剣や鎧も分解できなかったけれど、氷との関連性は皆無にしか思えないんだけどなぁ……?
まあ、後回しにしよう。今はとりあえず別の拠点を作るのが目的だし。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
少しずつ色々なことが解ってきますが森は相当深いようですね。




