五日目_02
超常の力に触れる。
さて、魔法、魔法か。
どう使うんだろう? どうすれば使えるんだろう。……知ってるやつに聞いたほうが速いな、こういうの。
「魔法ってどう使うの?」
「え? えーっとね、自らの内側にある魔力を……」
エリュシオンの話を要約すると、自らの内側の魔力を、外側の魔力と練り合わせ、現象を起こす、のだという。
魔力は常に空気中に存在している。だが魔力は存在しているだけではただの魔力だ。それはエネルギーでさえない。自らの魔力と練り合わせて、初めて奇跡を起こすための原動力となる。
エリュシオンの話では、魔力は糸のようなイメージで伸ばすのだという。糸を延ばし、空気中の魔力と合わせてより合わせて固まりにする。そしてそこに色を付けて、現象を起こす。
従って奇跡の現象は個々人によって少々異なる。同じ氷を出す魔法でも、形や大きさで差異が出る。無論のこと調節くらいはできそうだが、意識せずに行った場合は必ず差異が出るとのことだった。
つまり、魔法というのは常にそこいらにある爆弾みたいなもんか。起こせるのは現象だけ、つまり魔法は爆発力――瞬発力か。
さて、問題だ。俺の内側に魔力あるのか? また、その総量はどの程度のものか? 勿論試す。ていうかこれ使えるなら、生活楽になるかもしんない……!
「目を閉じて集中するといいわ! 魔法はイメージなの!」
エリュシオンが胸を張って教えてくれる。彼女はこういったよくわからない大量の知識を所有している。そのアドバイスに従い、俺は素直に目を閉じ、集中する。
「魔力はね、体内にあるの。何かが循環しているとか、体内にある感覚、わかる?」
解らん。応じず、軽く首を横に振った――ところで。
……何か妙なものが体内にあることに気が付いた。魔力? これがそうなのだろうか。エリュシオンに言われた通り、糸のようなイメージをまずは持つ。その妙な固まりから糸を伸ばす。その糸を、右手を伸ばしてそこから延ばしていく。
「わひゃぇ!?」
何かが弾ける音と共にエリュシオンの叫び声。何か起きたのかと慌てて目を開くと――。
「お? エリュシオン、なんか穴でも掘った?」
「掘ってないわ! 何! 何かしたのショーナ!」
なんか目の前に大きな穴ができていた。エリュシオンなら入り込める。俺でも走って足をかければ転ぶだろう大きさ。
ん、コレ俺がやったの? 自らの体内にあるものに目を向けて、再度同じように糸を延ばす。同じように地面に糸が触れると、同じように弾けて――。
「……」
――まだ糸が繋がっていることに気が付いた。
つまり分解? した? 分解したものが、空気中にまだとどまってる? 魔力の糸、のようなものもまだ繋がっている。……これ、何か作れそう?
イメージするのは完全な球体。同時にごとりと音を立てて、なにやら丸い……なんでなんか球があるんだ?
「……ショーナ、なにやったの?」
エリュシオンは不思議そうに呟く。いや、俺もなにがなんだか。
とりあえず立ち上がり分解された場所に近づき、その球を拾い上げる。綺麗な球体……鉄だな、めちゃくちゃ重たい。再度分解して、今度は明確にイメージする。そう、例えば――鍋、とか?
音を立てて手ごろな大きさの鍋が落ちてくる。がしゃんと音を立てて、鉄製の鍋が。お、おお……?
「ショーナ、ショーナ! 凄い凄い! なにこれ!」
「ま、待ってエリュシオン。俺も正直今、何が何だか……」
えーっと、分解と再構築? 的な魔法、か? いや魔法なのか、これ。
再度地面を分解して――そこで気が付く。そうだ、これ作れるか!? イメージするのは自らの体に合った――シャツ!
出来上がったのは真っ白で綺麗なシャツだった。嘘だろマジか! シャツを拾い上げると酷く手触りがいい。いや、材質とか解らんが。何? 絹とか? 俺本物のシルクとか触ったことあんのかな、解んねぇけどこれはいい。
とにかくよぉおおおおおっしゃぁああああ! シャツを握りしめて思い切り天に突き上げる。これが造れるってことはタオルとかパンツとか! 歯ブラシとか! 布団に枕に――。
「ぐっ……」
「ショーナ?」
調子に乗って色々作っていると物凄い頭痛が襲ってきて、顔を歪める。
……無制限に使えるものではなさそうかな。意識すると急に体が重たくなり、吐き気がこみあげてきた。とんでもなく疲労している。
「大丈夫?」
近くに寄ってきて心配そうに頭に手を当ててくれるエリュシオン。無理に微笑み、軽く息を整える。コップに入れた水を飲んで、軽く一息ついた。布団を持って洞窟の奥へと引っ込む。適当に地面に敷いて――汚い感じはするがまあ後で作り直せばいいや――その上に横になる。
エリュシオンを手招きして、同じように布団の上に横にする。初めて触れる感覚に、エリュシオンは驚愕した顔を見せた。
「なにこれ! ふわふわ!」
「気持ちいいだろー、布団だぞー。これで俺もゆっくり眠れるー」
けらけら笑いながら上着を脱いで、シャツを脱ぐ。シャツを着替えてそのまま横になった。掛け布団まで無いけどまあいいや。横になるだけで大分楽だ。目を閉じても睡魔は襲ってこないが、気分は楽になる。その中にエリュシオンの声が聞こえた。
「ショーナ、凄いけど……これ、なにしたの?」
「ん? 魔法じゃないのか?」
「違うわよ。魔法じゃこういうもの、造れないもの」
エリュシオンの声は心底不思議そうだった。多分、首も傾げているだろう。
魔法じゃない? でも、俺あんなことできなかったぞ? 多分、できたのはこっちに来てからだ。だとするのならば、あれは魔法でしかない。少なくとも俺の常識ではそういうことになる。
「魔法じゃ作れないって?」
「魔法じゃ個体は作れないわ。例外は氷だけよ。魔法は現象に過ぎないから、こればかりはしょうがないの。それに水だって作って魔力が霧散すればすぐに消えるわ。魔法で地面は破壊できるけど、何かを作る為に分解とか、そういうことは無理よ」
産まれてまだ十日も経過していないはずなのに、エリュシオンは妙に事情に明るいことがある。
それがどういう意味を持つのか俺にはわからなかったが、少なくとも助かっている。なら無暗に尋ねる理由もなかった。多分、エリュシオン自身も解っていないだろう。
「空気中に漂う魔力それ自体はとても不安定なの。だから――だから?」
だから。そこでエリュシオンの言葉は止まる。不思議に思って目を開くと、しきりに首を傾げていた。
「だからなんなのかしら、ショーナ」
「……いや、解らん」
「そうよね! 私も解んない! でもとにかく魔法は物質を作ることはできないわ。あくまで現象を引き起こすだけ、それが魔法なの! だから、ショーナのそれはなんなのかしら?」
そっちも解んないなあ、と俺は再び目を閉じる。
宿ったこの力がなんなのかは解らないが、とにかく便利な力なのは確かだ。とりあえず生活水準を向上させることに使わねばならない。そのうえでこの力の検証だ。使いこなせれば――もしや、ここから出ることも叶うかもしれない。
淡い希望を抱いてとにかくその日は眠りにつく。水は足りていないかもしれなかったが、俺の体はとにかく睡眠を求めていた。エリュシオンの頬を撫でるといつも通りにきゃふふふと笑う。今日のエリュシオンは、俺の隣でゆっくりと体を丸めていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
まあ多少なんらかの力とか幸運とかないと異世界に転移しても普通に終わりますよね。
なのでまぁこういう能力もあります。ただ、あるだけでどうなるかまでは解りません。




