第60話「突然ですが、二学期の選択科目を選びます」
9月30日)幼少期の章に投稿し忘れていた話を差し込みました。どうしてこんなミスをしていたんだ……。
二週間という短めの夏休みが終わり、アカデミーに登校する日がやってきた。
とは言っても、ずっと寮にいたわけだしあまり代わり映えはしない。馬車を利用して一時帰省していた貴族の子息子女が、休みは何をしていた? これはお土産です! と、楽しげに会話しているくらいだろうか。
さて、今日は休み明けということで午前中しか授業がない。
それにしても授業といっても休み開けの生徒の気を引き締めるため、講堂でありがたい挨拶を聞かされる程度のものだ。
既に校長先生の長くて退屈な話を経験している俺は、睡魔と戦う心得を獲得している。楽勝とまではいかないが、つつがなく乗り越えられたと思う。
教室に戻ってからは、担任のシュガーマン先生からもありがたいお言葉をもらい、明日からの授業内容をざっくり説明されたところで、今日はお開きとなる。その後はまっすぐ帰るなり、校舎に残って何らかの活動に精を出すなり、自由時間となる。
『レオ、アルメリア。放課後、少し話さないか?』
講堂から教室に戻る前、俺たちはシャルロッテに呼び出されていた。
呼び出し先は、俺とアルメリアにとってはいつもの東屋だ。もともと今日は特訓の成果を見る予定だったから、断る理由もなかった。
言われた通りに東屋に向かうと、違うクラスのシャルロッテは少し遅れてやってきた。
全員揃った辺りで、作法のテストだと茶を淹れさせられる。カトレアという鬼教師にみっちり叩き込まれたおかげで、それなりに慣れた手つきで準備をすませた。
「……うん、及第点ってところかしら」
「メリアは手厳しいな。普通に美味しいと思うぞ?」
「そうね。貴方よりは上手かも知れないわ」
「うぐっ……」
「シャルもカトレアに習ってみる? 貴族令嬢として、殿方を持て成すこともあるかもあるでしょう」
「いや、間に合っている」
「そう言わずに、ぜひ一緒に受けてみませんか?」
「レオ……その満面の笑みに作為を感じるのだが……」
わりと本気で、道連れができるのなら大歓迎である。
あの侍女のレッスンは故郷のジェーンさんを思い出すスパルタっぷりだ。
体罰の頻度はそんなに多くないけど、口の悪さがどっこいどっこいだからメンタルがガリガリ削れるんだよな……。
「まあそれは置いておくとして、シャルの方から話があるなんて珍しいわね? 何の用かしら」
「ああ、これからの授業について相談があってな」
「授業……もしかして"選択科目"についてかしら?」
選択科目……それは中期課程から導入される制度。
といっても、アカデミー一年目の選択科目がそんなに多いわけじゃない。選べるのは二択だ。
即ち、実技の科目を『魔法』と『武術』を選択させられる。
だが魔法を選んだからといって、武術関連の実技が一切合切なくなるというわけじゃない。どちらかといえば、より集中的に学びたい方を選ぶ感じだ。
魔法の実技に関しては前期課程が主になっているため、中期課程では座学しかない。実技で学ぶ機会が欲しければ、選択科目で魔法を選ぶしかないわけだ。
対して中期課程の実技は武術が主になるが、これは前期課程の最後に行われたグループごとによるランク入れ替え戦に重きを置いている。
つまり授業そのものが、十一月の『武術大会』に向けた予選試合みたいなものだ。
腕を磨き合いたい場合は放課後のクラブ活動をするしかないのだが、それだけでは時間が足りないという生徒のための選択科目だ。もちろん、前期課程を踏まえて魔法が苦手な生徒が選ぶ場合もある。
「私はもちろん魔法を選ぶわ。武術大会の出場は考えてないもの」
「そう言うだろうと思ったよ。私も武術を選ぶつもりだ」
「レオは? 貴方の場合、特待生だからどちらを受けても問題なさそうだけど」
「いや……特に考えてないんですよね」
ぶっちゃけた話、魔法の実技に関しては受ける必要はない。
先んじて教材を確認したところ、一年目に教わる魔法の授業は俺にとってプラスになりそうになかった。
教わる魔法は初級から中級に関する魔法のみ。しかも上級属性も教わらない。
これは予想でしかないが、全学年通してジェーンさんのところで学んだ知識や技術のみで乗り切れ、ついでにお釣りまで出るのではなかろうか。
そんなわけで、魔法の実技を学ぶメリットはないが、選ぶメリットはある。
楽に良い成績がもらえるという点だ。
だがもう一点、武術の実技に関してはそう簡単ではない。
「魔法なら高評価をもらえるでしょう? 何を迷っているの」
「いえ、実技の成績がどうなるかなあ、と……」
「実技? というと、武術大会の出場を狙っているの?」
「出場というか、どこまで行けば特待生を維持できるのか、考えてます」
「ああ、なるほど……確かに貴方からすれば、それは重要よね」
"だからあの報酬を受け取っておけばよかったじゃないか"と言わんばかりの視線を向けられているが、ここはスルー安定だ。
だが実際その通りで、特待生でいるためには文武ともに高成績でなければならない。
学費を気にする必要がなければ、実技は魔法優先で武術は最低ラインでも全然構わないのだが、冒険者の稼ぎだけでは全く支払えない。
Cランクには上がれたが、払いのいい貴族からの依頼がすぐに入ってくるわけでもなし。特待生維持のためには、武術の実技でも良い成績を残さなければならない。
(一応、総合成績の良い1stクラスのAグループには入れている。でもシャルロッテみたいな生徒がいないとも限らないんだよなあ……)
成績だけ見れば十分トップクラスなのだが、一年目のクラスの割り当ては学力・武術・魔法の三つの成績で判断されている。
つまり武術に特化した生徒が他クラスにいて、その実力が1stクラスの生徒を上回っていても不思議じゃないのだ。
前期課程の最後は合同授業だったが、ランク入れ替えがメインである以上その機会は滅多にないだろう。他クラスの偵察をするためには、放課後に寄り道するか選択科目で合同授業を受けるしかない。
(武術大会に出場するだけが条件ならこのままでいい。でも優勝……とまでは言わないけど、ある程度は勝ち上がれと言われたら不安が残るな)
戦い方は父さんに鍛えてもらったとはいえ、比較対象が少なすぎる。
魔法より自信があるわけでもないし、武術の選択科目を選んでおく方が後顧の憂いを立てるのだが……いかんせん、合同授業というのがネックだ。
1stクラスでさえ、満足にコミュニケーションを取れていないのに、そこに他クラスの生徒まで加わってくる。
もちろんシャルロッテや、合同授業の時に相対したサルバンのような貴族もいるかもしれない。
いるかもしれないが……いなかった場合、ストレスの溜まる相手がまた増えることになる。
まあ武術の授業だから合法的にぶちのめ……戦うことになるのだが、自分から率先して厄介事の渦中に飛び込むのかと思えば気後れもする。
「担任の先生には聞いてみなかったのか?」
「訊きましたよ。ただ、武術の実技を特待生制度に含んでいた前例がないので、答えは保留になりましたが……」
「ああ……今年から受験の科目に実技が入ってきちゃったから、特待生も実技を見られちゃうのね。例年までだったら座学の点数と生活態度だけでよかったのにね」
「そうなんです。魔法は今の自分のやり方が前期では評価されたみたいなんで、そっちは心配してないんですが……武術の本格的な評価は今期からですからね、不安は拭えないんですよ」
「まあ、貴方の不安は実技だけじゃなく周囲の人間でしょうけど」
バレてる。同じクラスに数ヶ月もいたんだから当たり前か。
「……そういうことなら、私の提案も悪くなさそうだな」
「シャル?」
「なあ二人とも、これから放課後少し付き合ってもらえないか? もちろん、シャルの魔法の訓練が一段落してからでもいいのだが」
「付き合う、とは?」
「うん。まさにその武術大会に向けて、道場破りみたいなことをしようと思っている」
「「……はい?」」
シャルロッテの提案とは、放課後の実技場に趣き訓練に混ざるというものだった。
だが、ただ混ざるだけじゃない。混ざりたいのは個人対戦の時間……つまり、他流派の使い手との野良試合をしようというものだ。
既に特定の剣術を学んでいるシャルロッテが、他の流派の訓練を受ける意味はない。
だが、他流派の使い手と戦う意義はある。特に同年代ではなく、上の学年の生徒との試合は勝っても負けても得られるものが大きい。
そこで最初に思いついたのが、同門の実技場で先輩相手に訓練を受けることだったのだが……実技場を利用すれば他流派の生徒、しかも先輩とも戦えるのでは? と閃いてしまったようだ。
「どうだろうか二人とも? 決して損ではないと思うのだが」
心なしか、目がキラキラ輝いているように見える。
もしかしなくても最近わかったことだが、この人バトルジャンキーなんだよな。
「シャルほどの腕前ならいいかもしれないけどね、私が行っても足手まといか冷やかしにしかならないわ。遠慮しておきます」
「そうか? むしろ今後も共に依頼を受けるなら必要だと思うぞ」
「え……?」
「確かにメリアも護身術の範囲で訓練は受けている。だがいずれ冒険者として、あるいは来年度以降の実技で、敵意を持った人間と戦う機会は絶対に出てくるぞ」
「それは……」
「もちろん魔法で撃退はできるだろう。だがもし使える状況になかったら? 前衛の味方がいなかったら? 訓練を積んだだけで、本番もちゃんと動けるか?」
「…………」
シャルロッテの言葉には一理ある。
百回の練習より一度の本番とも言うし、実戦の空気を肌で感じることは無駄どころか有意義だ。
アルメリアも何度か一緒に冒険者ギルドで依頼を受けているが、最初のハイゴブリンほどイレギュラーな事態はなく、基本的には通常ゴブリンレベルの魔物が相手だった。
はっきり言って、その程度の魔物より武器を持った人間の方が遥かに怖い。
なにより魔物には出せない、人間独特の敵意や殺気は実際に感じてみなければわからない。
俺も二年くらい前に回復魔法を覚えてからは、本気で殺気を放つ父さん相手に何度も殺されかかった。そしてその度に母さんに殺されかかった(父さんが)。
だからこそ、最初の魔物相手にも全力で立ち向かうことができたと思う。
シャルロッテの言葉は正しいと感じ、俺は口を挟まなかった。
「私もレオもCランクに上がったし、今後は人間を相手にする機会もある。その時、いざという時に殺し殺される心構えがない味方がいると、全員が危険な目に遭うかも知れないからな」
「……だから、出来るうちに本番に近い訓練をしろ、と?」
「付け加えるなら、早い方がいいだろうと思っている」
「なるほど……貴方の言いたいことはわかったわ」
チラリ、とこちらに視線を向けてくるアルメリア。
魔法の訓練に関しては俺に師事を受けているから、判断して欲しいということなんだろう。
ふむ……だがはっきり言って、俺が口出しできるものじゃない。
というのも、彼女が求める技術……全属性を得意属性と変わらない結果で出力する術は、もう佳境に入っている。
ぶっちゃけ自力で魔法陣が描けるようになれば、あとは独力でどうにでもなる。
俺ができることは、アカデミーで習わないような魔法を教えるか、効率のいいトレーニング方法を教えるくらいしか残っていない。
「……ひとまず、選択科目を本確定するまで二週間あります。そこまでに今の御自分の実力を確認してみては? それで今のペースを維持するか、集中的に行いたいか、決めていいと思いますよ」
「今のままのペースで考えると、貴方に礼儀作法を叩き込む時間をシャルに付き合う時間に変えればいい、ということ? レアがなんて言うかしら」
「そ、そうなりますね。そちらは武術大会が落ち着いた頃に再開してもらえばいいので……今の実力が納得いかないものであれば、さらなる方法を考えますよ」
といっても、あとは寝てても訓練できるようにするくらいしか思い浮かばないが。
まあそうなったら慣れない間は寝不足になるし、やはりアルメリアは放課後は付き合えないだろう。
「わかったわ。シャル、一週間待ってくれないかしら? それで返事をするわ」
「ああ、構わない。その間、私はそのための下準備をしておくよ」
俺たちの返事は一週間後に持ち越しとなったが、答えなんて既に出ているようなものだ。
前期課程のアルメリアしか知らない生徒たちが、どんな顔をするのか今から見ものである。
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