表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/75

第57話「突然ですが、昇格試験の報告をしました」

「…………事の顛末は理解致しました」


 俺とシャルロッテはクラウド村……ではなく王都の冒険者ギルドで依頼の報告を行っていた。

 一番の懸念事項であったクラウド村での報告だが、証拠となるサイクロプスの頭――本当は角だけで良かったんだが既に折られていたので――を見せたら信じてもらえた。

 もちろんネクロ草についても同じだった。あれの生態については知らなかったが、異常なまでに大きな花を見せればただ事ではないと理解してくれた。

 当面の危険は去ったことは保証したが、あの森に関しては俺たちやクラウド村の人々では持て余す案件だ。ネクロ草という貴重な素材の群生地を発見したのだから、これが知れればクラウド村ではなくもっと大きな権力を持つ勢力が管理したがるだろう。


 だがここで問題なのは、突然変異したネクロ草がどれだけいるのかわからないという点だ。


 ネクロ草アンデッドに遭遇したから第一世代の存在は知ることができたが、それが何体産み落としているのかまではわかっていない。あの冒険者たちで全部だったのか、他にもいるのか、それによって森の危険度は大きく変化する。

 そのことを村長に話したところ、森に関しては一切の手を引き関わりを持たず、俺たちが報告する冒険者ギルドの方針に従うと丸投げしてきた。いちいち伺いを立てる必要がないのはありがたいのだが、彼らとしてはそんな物騒な森の管理なんてしたくないというのが本音だろう。

 とにもかくにも、依頼は解決した。新しい問題も出てきたようだけど、それは俺とシャルロッテが考えることではない。

 胸を張って受付のユエルさんに報告したのだが、気が付けば俺たちはギルドの奥にある貴賓室へと押し込められ、何やら準備があるからとしばらくの間待たされた。

 その後やってきたユエルさんに事の経緯と、証明のために回収した素材や証拠品を開示することになった。サイクロプスの頭に関しては床が汚れてしまうので少し取り出して見せただけにとどめたが、それ以外のものはすべてテーブルの上に陳列した。


 結果、さっきの一言を絞り出すように口にし、沈鬱とした表情になるユエルさんがいた。


「……まず最初に申し上げますと、お二人の依頼の完了は受理致します。ご苦労様でした」


 お茶を一杯飲み干して、営業スマイルを浮かべるユエルさん。

 まだどことなく表情が死んでいるように見えるが、完了だというのなら素直に喜んでおこう。「ありがとうございます」と礼を言いながら、二人揃って頭を下げた。


「そして昇格試験クリアとなりますので、お二人のライセンスの記入も更新します。お帰りの際にお返ししますので、忘れずに受け取ってください」

「これでついにCランクか……少し興奮するな」

「Cランク昇格における注意事項の伝達もしたいのですが……残念ながらここからが本番になります。誠に申し訳ありませんが、注意事項に関しては後日でもよろしいですか?」

「あー……まあそうなるでしょうね」

「む? そんなに重大なことがあるのか?」

「……シャルロッテさんは、ネクロ草に関しての知識はあまりお持ちではないのですか? というか、レオさんは知っているのですね」

「俺に知識を叩き込んでくれた人は、村で薬も作っていたので」

「では、レオさんから説明してもらっても構いませんか? 不足している分はこちらで補足いたしますので」


 ユエルさんにそう言われたので、改めてシャルロッテにネクロ草の説明をする。

 といっても、基本的な生態については既に説明した通りだ。ここで重要になるのは戦う上で必要な情報ではなく、素材としての情報……つまり、『万能薬草』の一つであることを掘り下げて伝えなければならない。


「『万能薬草』……たしかレオ曰く、あらゆる薬効を高めてくれる薬草、だったか?」

「そうだね。作る薬にネクロ草の花弁や根を適量で混ぜ合わせると効果が増す。例えば、低級回復薬にネクロ草を混ぜると中級回復薬以上の回復効果が見込める。これについては普通に中級回復薬を買ったり作った方が安価で済むんだけど、まあこれが万能薬草の特性だと思ってくれていい」


 ちなみにネクロ草は万能薬草の頂点に位置する、最上級の薬草だ。

 比較的によく見つかる万能薬草を低級回復薬に混ぜても、回復量が僅かに増す程度。上位互換の薬を超える薬効を引き出せるなんて、規格外もいいところだ。

 ただし、前にも説明したとおりネクロ草の発見は非常に困難なのである。見つかるものは成長不十分なものばかりで、魔獣と同じく瘴気の濃いところでしか成長しないので栽培も不可能とされている。


「つまり何が言いたいのかというと、ネクロ草は非常に効果で売買される。蕾のまま終えたネクロ草でも金貨10枚で流通するくらいかな」

「金貨10枚!? これ一つでか!?」


 ちなみに、金貨10枚あれば一般的な平民の一家が一生遊んで暮らしていけるくらいの額だ。


「さらに言うなら、花の開花具合で効果は増幅する。蕾なら金貨10枚。三部咲きで金貨20。五分咲きで金貨40。満開状態は非常に稀有だから、最低でも金貨100枚はくだらないと思うぞ」

「金貨100枚!?」


 金貨100枚なんて、貴族であっても安い金額ではない。しかもここには完全に開花した状態のネクロ草が五つもある。つまり最低でも金貨500枚だ。

 最後に発見した冒険者は加減が出来ずに花を吹き飛ばしてしまったから、回収していない。

 サイクロプスに寄生?していた巨大なネクロ草はシャルロッテが切り刻んだので、証拠として見せはしたが素材の売買には出していない。

 ちなみに三分咲き、五分咲きは桜の木の開花具合を指す言葉なんだが、この世界には桜が存在しない。こちらでは花が開いた状態を指す言葉に置き換わっている。三部咲きは三割開花、五分咲きは半分ほど開いた状態、という塩梅になっている。


「た、確かに薬の効果をそこまで高めてくれるのなら、そこまで高価な値がつけられるのもわかる気はするが……」

「いいや、満開状態に関しては別の理由がある。そもそも満開状態は最低でも100枚だけど、他の状態は上限だから回収具合によっては値が下がるんだよ」

「どうしてだ? 完全に開花すると、そこまで効果が変わるのか?」


 これは、言ってしまっていいものなんだろうか。念のためにユエルさんの方を見るが、彼女は口を挟む様子がない。


「完全に開いたネクロ草の花弁一枚につき、完全回復薬一本ができる」

「――――――――――――…………は?」

「一国につき二、三本は確保できればいいと言われている、あの完全回復薬が作れる」


 完全回復薬は回復薬の最上位に位置する薬であり、一本飲み干せばあらゆる病魔を駆逐し、欠損した部位さえ治してみせると言われている、幻の薬だ。

 当然、市場には出回っていない。王族や最高位の貴族が万が一のために厳重に保管しているし、製薬できる人間も限られている。アカデミー卒業生などではまず不可能だし、王宮に勤められる国家レベルの医師……たちをまとめられるほどの位に就けて初めて製法が伝授されるらしい。

 それだけ厳重に管理しなければならない秘薬が作れるのだから、金貨100枚なんてはっきり言って端金だ。薬の少ない国に持ち込めば、十倍以上の値段で取引できても不思議じゃない。


「付け加えてご説明するなら、それは一般的なネクロ草においての話になります」


 ユエルさんは重々しい口調で口を開いた。

 ただでさえ恐々とした表情でネクロ草を見ていたシャルロッテが、まだあるのか、と言わんばかりに頬を引きつらせた。


「皆さんが発見したネクロ草……魔物化したネクロ草は他のに比べて数倍の大きさがあります。もし効能が変わらない、あるいは増幅されているのだとすれば、従来のレートでは安すぎます。前例がないため私的な推測になりますが、最低でも白金貨で取引されても不思議はないかと」

「これがひとつで白金貨一枚!!??」


 ついにシャルロッテは目眩を起こし、フラフラとソファーにへたり込んだ。

 だがユエルさんの表情からして、これでもかなり控え目に言ってくれているぞ?

 普通のネクロ草の花弁だと、器一つに花弁一片がちょうどいい具合に収まる。だが、俺たちが発見したネクロ草はかなり大きい。これなら花弁一枚で五、六本は作れるな。

 ユエルさんが泣きそうな表情で語るのも無理はない。明らかに国家運営レベルの大事だ。これに加えてネクロ草の群生地らしき土地まで見つかったって言うんだから、出来るなら今すぐに別の誰かに変わってもらいたいぐらいのプレッシャーに襲われているはずだ。


「あくまで希望的に解釈すれば、の話だろう。金額は比較対象がなさすぎて素人判断しかできないし、魔物化の影響でどんな効能に変化してるかもわからない。金貨100枚より安いってことはないと思うけど、そこまで跳ね上がるかは専門家に見せない限りわからないよ」

「そ、そうか、それもそうだな……」

「ええ、そうなる可能性も十分にあります」


 シャルロッテはソファーに落とした体をより深く沈ませ、深呼吸を繰り返しながら落ち着きを取り戻そうとしている。

 ユエルさんも冷めてしまった紅茶に口をつけながら落ち着いた姿を見せるが、指先や顔色が仄かに悪い。

 そして俺は、既にこれらのネクロ草を魔力を消費して解析モードで詳細に見ている。一足先に結果を知ってしまっているわけなのだが……。



『名称:魔物化したネクロ草(仮称)

 魔石に根付いたため、爆発的な成長を遂げ魔物化した特異個体から発生した、第二世代のネクロ草。

 従来のネクロ草の10倍の効能があり、花弁や根を粉末状にして特殊な調合を行うと"最上級"の万能薬草になる。

 花弁の成分を薬液に抽出することで、完全回復薬の原材料となる』


 完全回復薬は予想通りだったけど、万能薬草としての性能まで上がっているんだな。しかも花の部分だけじゃなく、あの異常に長い根っこまで使えるとか……これは薬師界隈にも激震が走るな。





「面白かった」「続きが気になる」と少しでも思われた方は、

ページ下の「☆」を「★」にしてやってください。

遅筆な作者のモチベーションが向上しますので!(_ 人 _)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ