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金髪令嬢の独り言③

「あの花を刈り取れば、あのアンデッドはおしまいだ!」


 レオはそう言うなり、木の上から飛び降りて私たちを探す四人の冒険者に斬りかかっていった。

 この場にメリアがいれば、もっと詳しく説明をしろ、一人で突っ走るな、と一言や二言くらい苦言をせずにはいられない所業だ。


 しかし私は、レオの対応に感謝していた。


 レオの魔法によってローブを切り裂かれた魔法使い。

 彼女も見るも痛々しい上半身に咲き誇る、握り拳一つ分の大きさはある白い花。花弁には幾筋もの赤い模様が入っていて、鮮やかというより毒々しい印象を受ける不気味な花。

 レオは第一に「アレだ」と言っていた。

 あの花が、彼らをアンデッドにした原因なのだと、言ってくれた。


 突然だが、私はアンデッド全般……特に、スケルトンやゾンビなどの実体のあるアンデッドが嫌いだ。

 これは他の冒険者や女性も同じことなのだが、多くの人はその理由がひどく気味が悪い。そして汚らしいからだ。

 スケルトンならいくらかマシらしいが、ゾンビになると腐臭がひどく、一撃加えるたびに腐肉や骨片が飛び散り阿鼻叫喚の地獄絵図になる。普通の魔物にはない独特の臭い、そして感触が多くの人に嫌われる理由だ。

 けれど私はそんな理由で嫌ってはいない。


 レオが花を指さした時、既に私の体は動き出していた。

 木の枝から枝へと飛び移り、四人の背後を取ったところで樹上から飛び降りた。

 心臓の位置から咲く花が原因で、あれを切り落とせと言われたのだから正面から行くしかない。

 上から突然現れた私に、しかし魔法使いのアンデッドは驚く素振りを見せなかった。

 私に気づいていたんじゃない、そういう反応ができないのだ。

 冒険者であってもそうでなくても、死角から敵が現れれば狼狽える。警戒していたのならば身構える。それが当たり前だ。

 なのに一切の反応を見せず、獲物が現れたと不用意に近づいて来るだけだ。


「ああ……やはり、()()()()


 私は実物のアンデッドを見るのはこれが初めてだ。

 故郷で冒険者として活動していたが、アンデッドが生息するようなダンジョンが近場になかった。

 あくまで魔物図鑑で読んだ知識と、伝え聞いた情報でのみ知っていた。そのうえで私は、アンデッドが嫌いだった。


 だって、アンデッドは魔物だ。

 人間や動物の体を使った魔物なのだ。


 生きている以上、戦いの末にしろ、事故にしろ、寿命にしろ……必ず終わりは訪れる。

 死んでしまった者は蘇らない。

 それなのに、体だけが勝手に動きまわり、襲いかかってくる。

 そこに故人の意思はない。瘴気に汚染されていたり、術者にいいように使われるだけ。

 紛れもなく、死者に対する冒涜だ。

 人生は戦いの連続である、と父は言う。それならば死とは戦いの終わりであり、ようやく得られる安息ということだ。

 初めてアンデッドの話を聞いた時、死者の安息を妨げ、疲れ果てた体に鞭打たせる魔物だと認識した。


「やはり……許せるはずがないな」


 剣を抜き放ち、徐々に加速しながら()()使()()()()()()()()へと肉薄する。

 ()()にあったはずの経験も知識も活かされることなく、おぼつかない挙動で私を探してフラフラと左右に揺れるだけ。

 これがアンデッドだ!

 死者の朽ちた肉体を勝手に使っておきながら、かつての尊厳や威厳さえも侮辱する仕草!

 人の生き様を汚す魔物相手に、憤らない理由があるだろうか!?


「これが原因だというのなら、容赦なく切り落とすまで! 《弧月閃》!」


 刃に魔力をまとわせ、地面をスレスレに剣先を下げ、円弧を描くように斬り上げる。

 私の描いた軌跡の通りに魔力が走り、斬撃が飛んでいく。

 魔力を用いた剣術は三大流派の中でも基本的な動作だが、私の魔力量は平均をやや下回る。そのせいで魔力による斬撃の射程距離も短いのだが、それを補うために私の足がある。

 ましてや今回の相手は動きの鈍いアンデッド。外す理由はどこにもなかった。

 アンデッドの左下から弧を描く斬撃が撃ち出され、毒々しい色合いの花を茎から切り落とす。

 すると、まるで糸の切れたマリオネットのようにアンデッドが膝を落ち、その場に倒れ伏した。


「……やったのか?」


 周囲に気を配りながらアンデッドを見るが、動き出す気配がない。

 本物の死体……魔物化から解放されたと見ていいのだろうか?


(…………そうだ、レオ!)


 四人を引き受けてくれているレオに加勢しなければ!

 倒したことを確認して振り向くと、そこにあった光景に思わず目を奪われた。


 レオは四人の注意を引くため、わざと全員に囲まれて対処していた。

 いくらアンデッドで動きが鈍いとはいえ、前後左右を敵に囲まれて冷静に対処し切るなど、私にも無理だ。

 それなのに、レオはまるで後ろに目でもあるかのように背後の敵の攻撃を見切っていた。

 クルリ、クルリとまるでダンスでも踊っているかのような軽やかな足取りで、四人もの魔物を翻弄しているのだ。


(やはり、()()()レオの強さの一つなのだろうな)


 いつだったかレオは「自分の剣は我流だ」といった。

 しかし、それにしては彼の剣術は完成度が高すぎた。

 アカデミーに通う以上、三大流派を習う機会はある。しかしそれに向かない武器の使い手――弓や暗器など――は我流に走るが、剣術で我流を貫く者はほとんどいない。それこそアカデミーにも通えない貧困層の生まれで、冒険者として生活費を稼ぐ輩くらいだろう。

 レオは武術はもちろん教養もある。貧困層の出とは思えない……であれば、特別な誰かに師事を受けたのだろう。三大流派ではない、我流を極めた何者かの。

 その者が誰であるのか、興味はあるが無理に知ろうとは思わない。

 私としては教えを請うというより、自分の剣術に活かせる何かを見つけたい、より強い相手と研鑽したい、という思いの方が強いからだ。

 そして今、レオの動きから感嘆に値するものを見出せている。

 合同試合の時は距離が近すぎてわからなかったが、こうして距離を取ってみるとよくわかる。

 彼の体捌き、足捌きは三大流派のどれにも属さず、さらに言ってしまえば剣術ですらないのだ。

 冒険者の中にも希にしかいない、()()()使()()()と似た動きをしている。

 特殊な刀身の剣を振るっているが、その気になれば蹴り足や拳を繰り出して不意打つこともできるはずだ。というか、現に後ろを取ったアンデッドに組み付かれるより早く、回し蹴りが炸裂している。

 剣術であって剣術ではない。それがレオの我流剣術なのだろうか。


「って、見ている場合じゃない! 加勢するぞ、レオ!」


 いつまでもボウっと見ているなんて間抜けすぎる。慌てて駆けつけ、四人のうち二人を引き受ける。


「こいつらもさっきのと同じだ。左胸に同じ花が咲いているから、それを切り落としてくれ」

「承知した!」


 鎧を着ているアンデッドはレオの魔法で損壊させ、衣服を着ているだけのアンデッドは上半身を露出させた上で、例の花を見つける。

 そして、動きの遅いアンデッド相手に弱点まで露出させられれば、さほど時間が掛からなかった。

 五つの死体を一箇所にまとめ、例の花を一つ除いて回収する。この花が証拠になるから、とレオに渡され魔法鞄に収納した。

 最後の一つを手に、レオは眉間に深々とシワを寄せている。


「レオ……君はその花が何か知っているのか?」

「実物を見たのは初めてだけど、植物図鑑を読んだ時に見た覚えがある」

「植物図鑑? 魔物の仕業ではなかったのか」

「正確に言うと、魔物に近い特性を持った超危険な植物、て分類かな」



「この花の正式名称はネクロ草。死体を養分に成長する、冬虫夏草に似た植物なんだ」



 トーチューカソウとやらが何かはわからないが、死体を養分に成長する、という一文から嫌な予感がひしひしと伝わって来る。


 レオが言うには、このネクロ草は暑さにも寒さにも強く、まず自然環境において死滅することがない。基本的に花を咲かせず種のままなのだそうだが、そのせいで誤って食するケースが後を絶たないと言う。


「ネクロ草の種はクルミに似ているせいで、動物も誤って食べてしまうことがあるんだが……この森の動物たちはそれを学習してるんだろうな。森の奥に鳥や動物たちがいないのは、こいつを食べないためか」

「種を食べても問題があるのか? 養分にするのは死体なのだろう?」

「そうなんだが……説明が難しいな。先にネクロ草の成長段階から説明するよ」

「成長段階?」


 ネクロ草第一段階「種子生成」


「第一段階は花が枯れて種を残すんだが、この種が花一つにつき十から二十粒くらいで小石よりも小さい。そのせいで風に飛ぶから群生地が定まらないんだ」

「小石ほどって……さっきはクルミに似た種だと……」

「魔物に近い特性があるって言っただろう? 種は瘴気を吸って少しずつ大きくなっていくんだ。そのせいでネクロ草はダンジョンにしか見かけないし、ダンジョンにしか咲かない。そしてシャルロッテの言うとおり、クルミほどの大きさに成長すれば第二段階になる」


 ネクロ草第二段階「養分摂取」


「ネクロ草の種は地中に潜らないけど、代わりに無数の長い根がある。これを使って、近くに苗床になりそうな場所があれば移動を行うんだ。這いずるというより、根をロープ代わりにして飛び移るような移動らしい」

「根で移動するとは奇妙な……」

「そして苗床についたら、その長い根を全体に張り巡らせて養分を吸収する。そうして咲かせるのが、この花だ」


 レオがそう言って見せたのが、私たちが切り落としたあの毒々しい花だった。


 ネクロ草第三段階「開花と種子」


「この花は苗床の養分を吸収し切ったら枯れてしまうから、もう少し大きくなったかもしれないな」

「枯れてしまうのか?」

「そう。苗床が()()()()なるまで養分を吸収してしまえば、これ以上に大きくなることはない。最後には花を閉じて蕾のような形になり、内部に種を作り出す。このサイクルを繰り返して、ネクロ草は繁殖するんだ」


 聞けば聞くほど、植物とは思えない生態だ。

 何より、成長するための苗床として死体を選ぶのだから悍ましい。

 しかし言われてみれば納得もする。

 彼らのアンデッドは骨でも腐肉でもなく、干からびていた。まるで日照りの日に打ち上げられているミミズのように。

 あれは植物が養分を吸収した影響だったのか。


「ネクロ草は死体を養分にするけど、正確に言えば()()()()()()()()()()()が栄養になるんだ」

「……それは、つまり」

「ああ。()()()()()()()()()()()()なんて関係ない。ただ、死体に寄生しているところを発見されるケースが多いから、そう認識されているだけなんだよ」





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