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第47話「突然ですが、謝罪を受け入れたのですが……」

ストックがなくなってしまったので、しばらくは溜まり次第or出来次第の投稿になります。

不定期更新になってしまいますが、どうかご容赦くださいm(_ _)m

「申し訳ない!!!」


 実技の合同授業があった日の放課後。

 いつものように東屋に集まって茶会の作法を叩き込まれながら、アルメリアの制御訓練に付き合おうと行った先で、予期せぬ人物に頭を下げられた。

 彼女はその合同授業で戦った相手。黄金のように艷やかな金髪のご令嬢、シャルロッテ・フィン・バルティーユ様だ。


「えっと……突然、どうされました?」


 あの授業のおかげで俺は彼女に対して発言する自由が得られたわけだが、いきなり深々と頭を下げられても困惑する。

 彼女の後ろでは優雅に紅茶を飲むアルメリアがいるが、一瞥もくれないところを見ると助け舟を出す気はないようだ。


「これまでの不躾な態度を謝罪したい。知らなかったとはいえ、一方的に罵倒するなど人としてあるまじき行為だ」


 …………ああ、"あの時"の忠告の意味がわかったのか。


「誰かに教えてもらったのですか?」

「授業が終わったあと、メリアにな。謝罪する場を設けてくれたのも彼女だ」


 名前が出たからか、彼女はシャルロッテに気づかれないよう小さくウインクした。

 感謝しなさいよ、と一瞬だが楽しげに瞳が輝いていた。


「まあ、もう過ぎたことですから。謝罪は受け取りますので、頭を上げてください」

「しかしっ……」

「本人が許すと言っているのだから、あまりしつこく言っても余計に困らせるだけよシャル」

「そ、そうか、わかった。レオ、君の懐の深さに感謝する」


 ここでようやくシャルロッテは頭を上げてくれた。

 貴族様に頭を下げさせるなんて、ひどく居心地の悪い経験だった。


「大げさですよ。それに感謝するなら、貴方に気づかせてくれた人たちにしてあげてください」

「そうね。私にも感謝して欲しいわ」

「もちろんメリアにも感謝しているが、クラスメイトにも改めて礼を言わなければ」

「クラスメイトですか?」

「ああ、君と戦ったサルバンだよ。彼が戦前儀礼をしてくれと進言してくれなければ、君からの忠告も得られなかったはずだ」


 あの人か。平民相手の礼儀も完璧だったし、もしかすると平民上がりの準男爵家だったのかな。

 なんにせよ、彼のおかげで悩みの種が一つ解決したわけだ。

 今度なにかお礼をしなければ。


「それで、もう用件は終わり?」

「いや……差し支えなければ、一つ聞きたいことがあるんだ。

 レオと手合わせをし、こうして話してみて噂の信憑性は格段に下がった。しかし……それならどうして、メリアは成績を下げたんだ?」

「うっ…………」

「今回は実技だったが、さすが特待生と唸るほどに得られるものが多かったと思う。元から優秀だった君だ、むしろ成績が上がって然るべきだと思うのだが……」


 アルメリアは「それは」と声を詰まらせた。

 そうだな、彼女の性格を考えれば勝手に話して聞かせるのは憚られるだろう。


「構いませんよ、アルメリア様」

「…………いいの?」

「シャルロッテ様は従姉妹なんでしょう? 誤解は晴らした方がいいと思います。どこまでお話するかはお任せしますよ」

「そう……それなら、お言葉に甘えさせてもらうわ」


 アルメリアは二つ分のティーカップを用意すると、俺たちに座るように促した。

 話せば長くなることだし、甘えさせてもらって席に着くことにした。

 冷静になって考えてみれば、公爵令嬢と辺境伯令嬢と一緒にお茶をしているだなんて場違い感がハンパじゃないな。


「まず、私が彼と関わりだした理由から話すわね」


 祖母のような魔法使いになるために、俺に助言を求めたこと。

 詳細は省いたものの、俺から魔力制御の教えを請うていること。

 成績下降の原因は、勉学と両立できないほどのめり込んでしまったせいだということ。


 何度か紅茶のお代わりを淹れてもらい、昼間の暑さの薄れる夕焼け空に変わった頃、ようやくすべてを語り終えた。

 事情を知ったシャルロッテは眉間に深くシワを刻み、悩ましげに重いため息を吐いた。


「……レオが弁明できないからといって、本当に事実無根な噂が蔓延しているのだな」

「そうね。一つ一つ訂正しても無駄だからと無視していたけど、シャルのように先走る人が増えるとなると対処を考えたほうがいいわね」


 ニヤニヤと、普段はあまり見せない意地の悪い笑みを浮かべるアルメリア。


「私もそう思う。メリアがもっと真面目に授業を受けていれば、こうまで広まることはなかったとも思うが」


 それに対して、シャルロッテはふふん、と鼻を鳴らせて軽く笑って返した。

 言い返されたアルメリアは悔しそうに、下品にならない程度に頬を膨らませてそっぽを向いた。


 第一印象はアレだったが、こうして見ると二人は本当に仲が良いんだなと思わされる。

 アルメリアの態度はカトレアに向けるそれとは違うが、親しい人物にだけ見せる穏やかな表情だった。

 シャルロッテも同じく、今までに見せた険しい表情とも勇ましい表情とも違い、親愛に満ちた柔らかな顔をしている。



 それが少し、羨ましいと思えた。



 故郷とは離れた場所に来ているから、昔からの知り合いなんて当然いない。

 それに置かれている境遇からしても、気軽に冗談を言い合える友達も作れそうにないから。


「ところで……ひとつ相談、いや頼みたいことがあるのだが……」


 いつの間にか二人の会話が終わっていたらしく、シャルロッテが何やらこちらの様子を伺うような上目遣いをしていた。


「頼みたいことですか?」

「ああ。さっきも言ったが、君が特待生としても同年代の人間としても優れていると私は思っている」

「……そ、そこまで持ち上げられたことがないんで、どう返したらいいか悩みますね」


 基本的にはジェーンさんは鞭九割、飴一割で伸ばすタイプだったし、父さんは褒めるより先に自分がヒートアップする。

 ベタ褒めしてくれるのはマオくらいだったが、彼女の目には妹補正のフィルターがかかっているものだと思っているから、気持ち半分くらいで受け止めていた。

 同年代の人からそこまで手放しに、かつ高評価を受けるのは初めてだから、なんとなく座りが悪い。


「誇っていいと思うわよ。シャルは心から認めた相手には、素直な気持ちをぶつけるわかりやすい子だから」

「そ、そうですか。わかりました……それで、相談とは?」

「うん。そんな君から教えを賜われるということは、すごく糧になるだろうし、羨ましいと思うわけだ……」


 目を泳がせながら人差し指を何度も突き合わせるシャルロッテ……言いにくいのだろうが、もうほとんど本題なんだよな、それ。


「何が言いたいのかわかったわ。そのうえで私は拒否させてもらうわ」

「め、メリアに頼んでいるわけじゃないぞっ?」

「私の方が先にお願いした立場なんだから、口出しする権利はあるはずよ」

「別に私は魔法について教わりたいわけじゃない! 剣だ! 教わる内容は被らないんだから、少しくらい融通してくれてもいいだろうっ」

「時間が被るんだから無理よ。それに、私は教わるための対価を差し出している。貴方は何かできるの?」

「それはっ……その……」


 申し訳ないが、言いたいことはすべてアルメリアが言ってくれた。付け加えるとすると……。


「それに、俺の剣術は我流です。ちゃんとした流派を収めたシャルロッテ様に教えられることは、そんなにないと思いますよ?」

「そんなことはない! 自分よりも強い者と戦ったり、意見をもらえることは十分成長に繋がる!」

「そう言ってもらえるのはありがたいんですが、やはり平日はアルメリア様に時間を割いていますし……」

「む……? それなら、休日ならいいのか? いや、さすがに休みの日にまで付き合わせるのは……」

「それ以前に、休みの日はレオの予定が詰まっているわ」


 生活費のために冒険者ギルドで依頼を受けなければいけないからだ。

 基本的には数時間から半日の依頼ばかりだけど、たまに日帰りだったり一泊したり時間を多く取られる依頼もある。

 一度アルメリアとブッキングしてしまってからは、事前に訪れてもいいか確認を取ってもらうようにしている。

 それ以来たまに……王都近くの依頼を受ける時は、修行の成果を見せるためについてくる時もあるが。


 そのことをシャルロッテに伝えると、どういうわけか目を輝かせていた。


「レオも冒険者として活躍しているのか」

「俺も……ということは、シャルロッテ様も?」

「ああ。領地にいた頃に冒険者登録をし、王都に来るまではそちらで活動していた」

「貴方、仮にも貴族のご令嬢でしょう。何をやってるのよ……」

「辺境伯の子女だからな。戦う術の一つや二つなくてはならないという家訓に従ったまでのことだ」

「それを誇らしく言い切っちゃう限り、貴方の正体が少し不安だわ」


 まあ確かに、正しい貴族の女の子というより、武家の奥方を目指している印象を受ける。

 とはいえ、辺境伯といえば領地防衛のためにある程度の軍事力の保有が許されている貴族だ。

 その子息子女が武力に一欠片の理解もない、というのはやはり問題なんだろう。


 ところで、冒険者の話になってからやたら活き活きしているのだが、そこはかとなく嫌な予感が……。




「レオ。もしよければ、私と一緒にパーティを組まないかっ」




 …………うん、まあ、そう来るんじゃないかとは思ったよ。


 でも悪いけど、答えはもう決まっているんだ。





「申し出はありがたいですが、基本的には一人で活動したいと思っています」


「なぜだ!?」


 テーブルをひっくり返しそうな勢いで身を乗り出してくる。

 カップが溢れないように慌てて抑えるアルメリアが、恨みがましく睨んでいるが気づいてもいなさそうだ。


「レオのランクがいくつかはわからないが、一人での活動には限界がある。パーティを組むことで役割を分担し、危険やリスクを分散することができる。君なら、それがわからないわけじゃないだろう?」

「それはもちろん把握しています」


 実際、そろそろCランクの昇格試験を受けてみないかという話も出ているが、それと同時にパーティを組むことを強く推奨されている。

 Dランクまでであれば素材の採取だったり、倒す魔物の脅威度的にも一人から二人程度でなんとか達成できる規模の依頼が多い。

 だがそれはあくまで、クリアできる"かも"しれないという話だ。

 依頼主が魔物の種類を勘違いしていたり、予期せぬイレギュラーが発生したり、そうなった場合に一人では出来ることが限られている。

 多くの場合、そのまま依頼不達成……破棄して帰ってこれればいいが、大半はその場で死んでしまう。

 だからこそDランクに昇級した段階で、どこかのパーティに入った方がいいと冒険者ギルドの受付嬢のユエルさんから忠告を受けていた。


「でも残念ながら、パーティを組むつもりはありません。いや、資格がないと言った方がいいですね」

「君ほどの実力者なら、資格がないだなんて」

「俺は、ランクに固執していないんです。あくまで生活費を稼げる程度に依頼をこなせればいい、そういった方針で依頼を選んできているんです。実際、学業の合間の休日だけしか活動してませんしね」


 それで冒険者を生業にしている人たちとパーティを組むなんて、おこがましい。

 彼らは俺と違い、冒険者一本で食っていく社会人なのだ。

 基本的にたった二日しか参加できず、上昇意欲のないアカデミー生を仲間に加えても、足並みはきっと揃わない。


「シャルロッテ様も、冒険者として活動する以上は上を目指すつもりでしょう?」

「それはっ……もちろんだ。本業にするかは考えていないが、目的を持って活動したいと考えている」

「俺はそこまで強くランクに固執していない。この時点で、俺とシャルロッテ様の意識にズレがある。きちんと方針や意識を統一できないパーティは、それは危険なものじゃありませんか?」

「うぅ…………」


 断る理由を並べていくと、シャルロッテがどんどんと小さくなっていく。

 悪いことをしているわけじゃないんだが、申し訳ない気分になってくる。


 ちなみにパーティを組まない本当の理由だが、もちろん顔のこともあるが、俺の魔法の技術を周囲に知らしめないためだ。


 これはアカデミーに入ってしばらくしてから気づいたことだが、俺が会得してきた魔法の技術はかなりぶっ飛んでいるようだった。

 無詠唱はともかくとして、上位属性の魔法を使っただけでカトレアに怪しまれてしまったのだ。はっきり言って、これは予想外だった。

 貴族のアカデミー卒業生に訝しがられる魔法の技術だ。これが現役の冒険者に知られたら、あることないことネタにされて噂にされても不思議じゃない。良い意味でも悪い意味でも、目立つのはよろしくない。

 まったく……ジェーンさんは「そんじょそこらの人間には負けない」程度に鍛えたと言っていたが、もしかすると彼女が現役だった頃の人間と比較していたのかもしれない。

 俺が望んだことだしありがたいことだと思うけど、加減の塩梅を見極める必要が出てくるとは思わなかった。


(魔法に詳しくないってシャルロッテは言っているから、もしかするとアルメリアの時ほど気は配らなくていいかもしれないけど……前の時みたいなことになれば、そんなこと言っていられないしな)


 前世から引き続き運の悪い俺は、初めてアルメリアとカトレアとパーティを組んだ時に早速引き寄せたのだ。

 狼退治かと思いきや、最終的に討伐した相手はハイゴブリンという予想外にして規格外。

 人手があって白狼と協力することができたから、先手を打てる準備も出来たし全員無事に依頼を達成できたけど、一歩間違えば三人のうち誰かが重傷を負っていても不思議じゃない魔物だった。

 あれからはそこまで大きな不運に遭遇することはなかったが、もし彼女とパーティを組んで定期的に依頼を受けるとなると、遠からず俺の不運に巻き込む恐れがある。

 それも含めて冒険者だし自己責任だと言ってしまえばそれまでだが、出来ることなら巻き込みたくはない。


 結局、お茶会の場ではシャルロッテの誘いに「うん」とは言わず、彼女もその後はしつこく食い下がることもなかった。


 そうして前期課程の最後にちょっとした騒動と、新しい人物と知り合うことができた。

 これから迎える夏休みは、七月の残り二週間ほどの大型連休と呼ぶには中途半端な休みの期間に入る。

 故郷に帰ろうかとも考えたけど、休みの大半を移動で使ってしまい、よくて二、三日程度しか滞在できない中途半端な帰省になってしまう。

 それならば、王都に残って街の図書館で勉強したり、冒険者ギルドで小遣い稼ぎをしていた方がいいかもしれない。


 そう考えて迎えた、夏休み初日。

 俺の立てた予定はあっさりと崩されてしまうのだった。




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遅筆な作者のモチベーションが向上しますので!(_ 人 _)

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