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第45話「突然ですが、噂になっていたようです」

新年あけましておめでとうございます!

今年も週一更新が基本になりそうですが、よろしくお願いしますm(_ _)m

 バルティーユ……確か、俺が住んでいたオールド村をはじめとする地方の辺境を治める伯爵の家名がバルティーユ家だったはずだ。

 実技会場で堂々と勝利した彼女を讃える受験生たちが、彼女の家名を口にしていたのを覚えている。

 市長と村民くらいに立場に差があるし、貴族のマナー的にこちらから話しかけるのも無作法に当たるため、直接的に関わることをしてこなかった。

 同じクラスであればなんとか機嫌を損ねないように挨拶くらいしようかと思ったが、彼女は2ndクラスだったために接点がなかったのだ。


 それで……そんな顔見知り以下の関係性しかないシャルロッテ・フィン・バルティーユは、どういうわけか俺を射殺さんばかりの迫力で睨みつけていた。


「シャルロッテ。無言でそんなに睨むものではないわ」


 知り合いなのか、アルメリアが割って入ってくれるのだが間が持たない。

 というのも、シャルロッテはアルメリアに一言二言挨拶したあと、じっと俺の方を睨んでくるだけなのだ。

 もしかして、今日までずっと挨拶に伺わなかったことを怒っているのか?

 そのくらいしか身に覚えはないけど、だからといって入学から数ヶ月経った今頃に爆発させるものだろうか。


「…………話はどうやら本当だったようだな」


 訝しがっていると、ようやくシャルロッテが重い口を開いた。




「アルメリア……最近、君の成績が落ちていると噂になっていることは知っているか?」




 サッと顔を背けるアルメリア。

 月々の学力テストで順位が発表されるのだから、噂もなにも揺るぎない事実である。そして、彼女にとって耳の痛い話だ。


 シャルロッテはアルメリアと知り合いのようだし、どうやら成績の件で彼女に苦言を呈しに来たのだろう。

 自分の屋敷でも学園でも、成績に関して叱られるとはご愁傷様だ。


 と思っていたのだが……予想外なことに矛先はこっちに向かってきた。



「最近、身分違いの平民と親しくしていると聞く。彼がそうだな」



 キッと目尻を釣り上げて俺を睨む……これは、もしかしなくても俺のせいで成績が下がっていると思われている?


「どういう意味かしら? シャルロッテ。私が彼と仲良くしていることに何か問題でもあるの?」

「君の成績が落ち始めたのは平民と遊んでいるからだ。勉学を疎かにし、平民という珍しい存在にかまけるばかりに成績を落としている。という噂が流れている。知らないのか?」


 アルメリアも初耳だったらしく、きつい口調で詰問したにも関わらず目を瞬かせた。

 しかしこれは俺も初耳だ。俺に対する陰口は日に何十回も聞こえてきたせいで、意識的にシャットアウトしていたが……もしかすると、その中にあったのかもしれない。


「ありがとう、シャルロッテ。そんな根も葉もない噂を気にして注意してくれるだなんて」

「根も葉もない、と否定できるのか?」

「もちろんです。私と彼は同じ学園に通う学友であり、節度を弁えた交流を心掛けています。学生の本分を忘れて遊びに耽ったことなどありません」

「そのわりには、東屋などで遠目に君と彼がお茶をしている場面をよく見かけると聞いたが。これも事実無根か?」

「それはっ……」


 残念ながら、それは事実だ。

 遊んでいるという情報だけが尾びれのついた誤報なのだが、それを否定するためには俺とアルメリアが何をしていたのかつぶさに説明しなければならない。


 魔法の技術に重きを置いているアルメリアにとって、勝手にあのことを口にするのは憚られるのだろう。

 咄嗟に視線が泳いでしまったが、シャルロッテはそれを見て噂は事実だったのだと思い至ってしまった。


「アルメリア……悪いことは言わない。付き合いを改めた方がいい。君だって、謂われない誹謗中傷の的にされたくはないだろう?」

「っ、……」


 唇をきゅっと固く結び、口惜しげに下を向くアルメリア。

 反論したくとも、彼女の矜持が許さないんだろう。

 それに成績の下降は紛れもない彼女自身の失態だ。

 なにを言おうとも言い訳にしかならないと、自分で決めつけてしまっている。


「それに……君も君だ。レオ・オールド」


 おっと。ここでまさか俺にまで矛先が向いてくるとは。


「仲の良い相手がこうまで言われているのに、一言も口を挟んでこないとは冷たい男だ。それとも、口が開かないほどに腰が抜けているのか?」


 なるほど。彼女としては俺が口を挟んでこなかったことが気に入らなかったのか。

 だがしかし、無茶を言ってくれる。貴族同士の話を平民ごときが中断させ、あまつさえ割り込むなんてマナー違反もいいところだ。

 むしろ厳格な相手だったらそのまま罰してくるくらいの無礼な行為だぞ。


「シャルロッテ、それは……」

「アルメリアにも非はあるだろうが、元を正せば彼女を堕落の道に誘い誑かす方も悪い。さっきから言い訳の一つもしないということは、君はこれらの噂が真実だと認めるということでいいのか?」


 よろしいはずがない。そんな遊人を思わせるような噂を押し付けられるだなんて、ひどい冤罪だ。

 教師の目は気になるものの、このまま一言も返さなければ余計にひどい噂が蔓延することになる。

 減点は痛いものの、訂正するべく反論しようとしたのだが……。


「メリアの成績が落ちているのは気になっていたけど、そんな理由だとは思わなかった。見損なったよ、レオ・オールド」


 全く関係ないところから、全く関係ない人物が口を挟んできた。


「メリアの噂は僕も耳にしていた。君に限ってそんなことはないと思っていたのに、まさか事実だなんて……」


 信じられない、と言って頭を振って割って入るタンザー。

 いや信じられないのはこっちの方だ。公爵令嬢と伯爵令嬢の会話に断りも入れず割って入るだなんて。


「いやタンザー、悪いのはメリアばかりじゃないよ。シャルロッテさんも言っていたじゃないか。誑かす方が悪いんだって」

「平民と俺らじゃ住む世界が違うってのにな。少しは身の程を弁えろよ」


 そこでさらに便乗してやってくるウェスカ。隣には案の定、シーダも一緒にいる。

 君ら、相手が相手だったら問答無用で打擲されても文句は言えないほどの無礼っぷりだからな?


「同じ学生とはいえ、君とメリアじゃ立場が違う。君がメリアが拒まないことをいいことに付きまとうから、彼女がこうして責められることになっているんだぞ」

「普通なら自分から弁えて距離を取るものだよ。そんなこともわからなくて、よく入学できたものだね」

「メリア、今回ははっきり言わないお前も悪いんだぜ。付き合いはもっと考えた方がいいぜ?」


 なんだろう。俺を責めているのには違いないんだが、どことなく三人はアルメリアにも険しい視線をぶつけている。

 今までだったら……と考えたところで、二人揃っている時に彼らが乱入してくることはなかった。

 基本的に俺が絡まれている時にアルメリアが止めに来るか、近づかれる前に二人で距離を取ったりするばかりだ。


(アルメリアからは幼馴染って聞いてたし、あまり快く思ってもいなさそうだったけど……もしかして、こいつらもそう思ってるのか?)


 思わぬ事態に目を丸くしていたが、いつまでもぼうっとしているわけにはいかない。

 対面に座るアルメリアは目に見えて不機嫌になっていくし、食堂にいる生徒たちの大半の注目を集めてしまっている。

 アルメリアの怒りが爆発する前に事態を収めないといけない。

 先ほどは出鼻をくじかれてしまったけど、そろそろ一言二言では済まないくらい文句は言いたかったし、ちょうどいいのかもしれない。

 そう思って席を立とうとしたが、今日はそういう日なのか、また先に割って入られてしまった。


「君たち、すまないが私とアルメリアが話しているんだ。勝手に口を挟んで、余計に話を大きくしないで欲しい」

「なんだと……?」

「いやシーダ、シャルロッテさんの言うことももっともだよ。ボクらは十分に注意したさ。これで懲りてくれると思うよ」

「その通りだ。それから……今の貴方、私は貴方に名前で呼ぶことを許可していない。勝手に呼ばないで欲しい。それから今回は見逃したが、貴族間の会話に勝手に口を挟むものではないよ。品位を疑われるぞ」


 俺たちにも三人にも険しい眼差しで一瞥し、カツカツと靴音を鳴らせながら去っていってしまった。

 シャルロッテに叱られたのは予想外だったのか。三人はポカンと彼女の後ろ姿を見送っていたが、やがて苦々しく顔を歪めて散り散りになっていった。


「…………ごめんなさい、レオ。また変なことに巻き込んでしまって」


 今回の件は俺と関わっていたから、というだけじゃない。アルメリアの成績が落ちていたことが、大きな理由だ。

 もちろん、新しいことをしながら成績を維持するのは難しい。

 俺は授業中に制御訓練をしていることは咎めているけど、眠っている間も訓練できた俺とは違いアルメリアの時間は十数時間しかない。

 それでも順調に段階を踏んで成長しているのは、彼女自身の才能と弛まぬ努力によるものだ。それに加えて勉学にも身を入れろというのは、その難しさを知っている俺には言えそうもない。冗談交じりに気をつけるよう注意を促すくらいだった。

 今回はシャルロッテが喝を入れに来たわけだが、彼女が初めてというわけではないだろう。

 アルメリアは実家から学園に通っているのだから、侍女のカトレアや家族にだって注意されていても不思議じゃない。

 針の筵のような環境に置かれながらも、トップ10の成績を保ち制御訓練に打ち込んでいたのだから、俺としては誇ってもいいくらいだと思っている。


「さっきの方はお知り合いですか?」


 あまり自分を責めさせるのは酷だと思い、話を変えることにした。


「シャルロッテ・フィン・バルティーユ。バルティーユ辺境伯の長女で、父方の従姉妹なの。伯は私の叔父でね、子供の頃に何度も遊びに行っていたし、王都に来る時はいつも我が家に足を運んでくれたのよ」

「友達よりも深い間柄なら、アルメリア様の噂を案じるのも当然ですね」

「ええ……私だってシャルに変な噂が立ったら調べようとするし、何かあったら力になろうと思える程には親しい関係よ。でも……」


 それで俺が責められることになってしまった。

 いろいろと説明できないことは多かったし、自分の不手際で巻き込んだことを申し訳なく思っているのだろう。眉間を抑えながらため息を吐いた。


「……それなら、これから頑張らないといけないですね」

「え……?」

「魔法でも勉強でも、今は成果が出てないから外野からいろいろ噂されている。だったら、見返してやればいいだけの話じゃないですか」


 アルメリアは反省している。だったら、これからは勉強にも力を入れるだろう。

 それに、制御訓練に関しては今が基本にして山場でもある。ここさえ乗り切ってしまえば、あとは授業中まで取り組む必要性もないはずだ。

 だから挽回するのなら、これからなのだ。


 それをアルメリアも察したのか、力のない表情に活力が戻り、不敵な笑みを浮かべた。


「そうね。私が本当に遊びに耽っていると考えているみたいだけど、そんな私の成績さえ抜けないあの子たちに負けるはずなんてないもの。簡単な話だわ」


 そういえば、先ほどきたシャルロッテだけど……名前を知ったことで彼女の成績の順位も思い出した。

 確かシーダよりは上で一年生の中では優秀な方だけど、トップ争いができるほどではない。

 アルメリアの成績が落ちていることは確かだけど、彼女より順位も爵位も低い彼らが文句を言うというのも奇妙な話だ。


 彼女がいつもの調子に戻ったことで満足し、ついでに昼休みの時間も終わりに差し掛かった。

 けれど、アルメリアが周囲の評価を覆るよりも早く、俺とシャルロッテが対峙する機会の方が早く訪れてしまった。




「面白かった」「続きが気になる」と少しでも思われた方は、

ページ下の「☆」を「★」にしてやってください。

遅筆な作者のペースが上がる! ……かもしれません(汗

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