第38話「突然ですが、馬車で出発します」
最近いろいろ立て込んでで忙しいので、
これから更新は週一、二回ほどになりそうです
申し訳ありませんm(_ _)m
今回の依頼主はウェルイン村の村長からの調査依頼だ。
本来なら準備運動がてら走っていこうかと思ったが、馬車のおかげで道中はかなり楽ができている。
御者はおらず、何故か侍女のカトレアが務めていた。おかげで誰にも見られずに訓練ができるのはありがたいのだが。
この時間を無駄にしてはならないと、アルメリアは馬車に乗り込むなり早速今日までの訓練成果を披露してくれた。
「1、2、3……10秒。ジャストで成功か……この短期間で、よくまあここまで」
「褒めてくれるのはありがたいけど、ただ0から9まで順番に書いただけだもの。そこまで大げさなことじゃないわ」
素っ気ない言葉を返しつつ、額に浮いた汗を拭うアルメリアの頬は緩んでいた。彼女も自分の成果が大したものだとわかっているのだ。
確かに彼女が言うとおり、数字を0から9まで順番に書いただけだ。
しかし、二か月前までは数字一つどころか形にすることさえできなかったのだ。
それが10秒という制限時間内の間に、綺麗な文字で書ききることができた。これは大きな進歩と言える。
「これで、次のレッスンが受けられると見ていいのかしら?」
「ああ、もちろん。十分合格点が出せる出来栄えだったよ」
「そ、そう。なら良かったわ」
今度はもっと素直に褒めたのだが、何故か目を逸らされてしまった。
(うぅ……ストレートに褒められるとかタンザーたち相手で慣れていると思ったのに、レオが口にすると何故か気恥ずかしい……)
「アルメリア?」
「っ。さあ、早く次のレッスンを教えて。そのために今日は早起きしてきたんだから」
「気持ちはわかるけど、別に次の学園の日でも良かったと思うんだが。そのせいで今回は調査依頼に同行することになってるんだし」
「先触れもなく訪問したことは悪いと思っているわ。でも、最終的に貴方が受けた依頼に同行しようと決めたのは、私の意志よ」
「今じゃなくて、二年目からでも遅くはないと思うぞ」
「そうね、遅くはないわ。けれど早い方が先に経験を積んでいる以上、より有利な条件で授業が受けられる。
それに貴方はDランクの冒険者でしょう? 剣技の実力はわからないけど、特待生で入れる以上タンザーたちと同等のはず。それに加えて実績もある。
油断は禁物だけど、ただのクラスメイトたちと組むより破格な条件で初陣を飾れると思ったのよ」
もう少し注意すべきだと思ったのだが、予想外な高評価に口を噤まざるを得ない。
そこまで持ち上げてもらえるのは光栄だし、男としても誇らしい。
元からそのつもりではあったが、余計に彼女たちを守らなければ、という気持ちになる。
「ああ。もちろんレアの実力も加味しているわよ。あの子の技量はタンザーたちを上回っているし、何より元Cランク冒険者ですもの。万が一はないと思うわ」
「それでも何が起きるのかわからないのが冒険者だ。ちゃんと気をつけてくれ」
「何か言い方が刺々しくない?」
「気のせいだ」
見事に上げて落とされてしまった。男とは単調な生き物であるゆえ、致し方ないことだ。
決して俺が単純だったからではない、断じてない。
気を取り直して、アルメリアにはレッスン2に進んでもらおう。
技術的な難易度はレッスン1とはあまり変わらないが、難易度という点ではこちらのほうがはるかに上だ。
「さて、それではレッスン2に入るんだが……内容はシンプル。今度は可能な限りたくさんの数字を書くこと。制限時間は……大体一分ってところかな」
「そんなことでいいの? だったら」
「ただし、こうやって書いてほしい」
目の前で今回の課題を実演する。その瞬間、アルメリアの頬が引きつった。
彼女の目の前で、0から9まで順番に書いてみせた。ただし、0の隣りに1、1の隣りに2、と数字を一つ一つ区切って並べていく。
先ほどまでアルメリアがやっていたレッスン1は、書いたあとにすぐ消して、また書いてと繰り返す「早く書くための訓練」だ。
このレッスン2は「書いたものを長く維持するための訓練」だ。
早くたくさん書けばいいというものではなく、放出した魔力を長時間維持するための訓練なのだ。もちろん、たくさん書けばその分だけ維持する魔力は多くなるから、たくさん書けるのならそれに越したことはない。
「……サラっとやってのけたけど、また随分と高いハードルね」
「意図がわかってくれて何より。今回の訓練で必要なコツは集中力だ。慣れないうちは書き終えた分にもきちんと意識を割いておかないと、勝手に消えてしまうからね」
「試しにやってみるわ」
こうして馬車による移動中、アルメリアはレッスン2に取り組むことになった。
数字を書く事はもう慣れたもので綺麗な字で書くのだが、二つ目からはだんだんと精細さを欠いていく。
俺もそうだったが、一度書いたものを維持することに集中してしまうと、これから書くものが雑になってしまうのだ。
『あいてっ!』
『ほら、またすぐ雑になった。さっさとやり直しな』
『だからっていきなり書いてた魔力消す!? 暴発して腕しびれたんですけど!』
『その程度とは言えリバウンドが起きるなんざ制御の甘い証拠さね。いい機会だ、この修行中では不定期に邪魔してやろう。リバウンドが起こるようじゃ何度だって駄目出しするからね』
『鬼畜!!』
いかん、良くない思い出が湧き上がってきた。
アルメリアに同じような事は出来ない。あれは訓練でもあったがただの意地悪でもある。
公爵令嬢にそんな真似したら、俺の性根が疑われる。さすがに自重した。
悪戦苦闘するアルメリアだが、この訓練に集中できたのは午前中までだった。
昼休憩のために馬車を止め、もう一、二時間ほどでウェルイン村に到着できる。
依頼の話を聞いた足で調査に行くつもりなのだ。魔力の使いすぎで一緒に行けない、いざという時戦えない、なんて間の抜けた話は許されない。
出発前に手早く弁当も買ってきたカトレアが魔法鞄から取り出し、俺はその番をしている。
アルメリアとカトレアは、今のうちに動きやすい服装に着替えているところだ。着いてから着替えても良かったのだが、どのみち今の服装では外で食べるには向かないからと、着替えることになった。
「ズボンを履くのは久しぶりだけど、よくあったわね」
「来年お嬢様が実施授業に参加されるために用意しておいたものです」
着替え終えた二人が戻ってきた。
カトレアは変わらずメイド服だったが、アルメリアはスカートではなくジーンズのようなパンツスタイルだった。髪も動きやすいように一つに括って編み込んでいる。
上着も革製の丈夫なジャケットと汚れてもいいように厚手のシャツに着替えていた。だが俺たち平民が着るような安っぽさはなく、一目で高級品だとわかる材質と意匠が施されている。
「レオ様。昼食の見張り、ご苦労様です」
カトレアはそう言って魔法鞄から紅茶のセットを取り出して準備をするのだが、その間、何故か物言いたげな視線を度々ぶつけられた。
なんだろう。気のせいでなければ、「甲斐性のない男め」と訴えられているような……。
「……そういえばアルメリアの制服以外の姿って、受験の時以来初めて見た」
「ん? それは、そうでしょうね。学園は制服指定だし、魔法の実技ではそこまで汚れないから着替える必要もないし」
「なんだか新鮮だ。男装の麗人って感じがするけど、よく似合ってると思う」
「お世辞はいいわよ? 貴族の令嬢が男みたいな格好をして、と思うのが普通でしょ」
「別に男も女も好きな格好をしたらいいじゃないか。服なんてその人の好みだろう? マナーはあるかもしれないけど、今は誰も気にしない。そう言ったのはアルメリアなんだしさ」
「……………………そう。ありがとう」
ひとしきり目を泳がせたあと、バツが悪そうな表情でアルメリアは呟いた。だが、機嫌が悪いというわけじゃなさそうだ。
ついでにチラリとカトレアの方を見れば、「それで良いのです」と微かに頷いていた。
変なプレッシャーかけるのはやめて欲しい。前世も今世も女性関係はそれほど多くなかったんだから、異性に対する褒め言葉なんてそうスラスラ出てくるものじゃない。
だがなんとかカトレアに苦言を呈されない程度には良かったらしい。そのまま昼食の時間となった。
買ってきた昼食はハム、野菜、ジャムなどを挟んだ色とりどりのサンドウィッチだった。他にも瑞々しい果物をそのまま買ってきたらしく、その場でナイフを使って簡易なデザートも頂けた。
淹れたての紅茶にデザート。これが冒険者としての旅路でなければ、ちょっとしたピクニックだったな。
今は食後のティータイムで、和やかに談笑していた。主にアルメリアとカトレアが。
「お嬢様、午前中は集中できましたか?」
「ええ、お陰様でね。新しい課題が難しいから、進捗は芳しくないけど」
「……フォーシーズン家でも魔法の扱いに長けたお嬢様を苦戦させるとは。失礼ながら教え方がよろしくないのでは?」
「未知の技術を学ぼうというのだから、手こずるのは当たり前のことよ」
「レオ様がその技術を持っているというのが、私としては疑わしいのですが」
見事な半目で睨まれる。
そういえば、先月は成績が落ちて怒られていたのだった。
お嬢様に変な虫がついたのではないかと勘繰られてるんだろうな。
まあ実際、潤沢な環境のある貴族の知らない技術を平民が持っている、なんて簡単に信じられるわけもないか。
「なんにしても、もうすぐ目的地に着きます。お嬢様は存分に集中なさってください」
「ん? いやさすがにそれは困る」
「何故……?」
カトレアが射殺さんばかりの目力で睨んでくる。
一瞬怯みそうになったが、ここは譲れない。
「村長から話を聞いたら、一休みはするかもしれないけどすぐに依頼に取り掛かるつもりだ。休み明けの学園には間に合わせるつもりだから、あまりゆっくりするわけにはいかないよ。疲れて動けないっていうのは困る」
「でしたら貴方と私で解決すればよいではありませんか」
「それだと何のためにパーティを組んだのかわからない。何も貢献してないと知れると、アルメリア様の評価に傷がつくよ」
「私と貴方で口裏を合わせればよいでしょう」
「いや虚偽の報告を判断する魔法具がギルドにはあるし」
「だから、私と貴方が口裏を合わせれば全員の評価が揃ってバランスが良くなるでしょう」
「道連れ!?」
恐ろしいことを考える侍女だ。しかも目が笑ってない。
マジでそのつもりでついてきたのか。アルメリアの用事だけ片付けて、こっちは完全におざなりだよ。
「やめなさい、レア。私もちゃんと同行します」
「しかし、お嬢様……」
「レオにも言ったけれど、貴方や彼という優秀な人材と一緒に一足先に実施訓練を体験できるのよ。これはかなり有利に働くでしょう?」
「…………畏まりました。お嬢様は私が命に代えてもお守りします」
「貴方に命を捨てられては困るわ。優秀な侍女なのだから」
「光栄でございます」
守るのはアルメリアだけというあたり、おそらく俺は含まれていないし守護に関さない限り手も貸してくれそうにないな。
別に最初から一人で引き受けるつもりだったから構わないけどさ。馬車といういい足も出してもらえたし。
「そういえば、馬車って結構揺れるってイメージがあったけど、そんなことなかったな」
公爵家の馬車だからだろうか。昔の馬車はかなり乗り心地が悪いと聞いていた。主に前世だが。
地面から伝わる振動を逃がすことができないから、かなり揺れるし尻も痛くなるはずだ。
しかし、この馬車はそんなことはなかった。
もちろん全く揺れないということはないのだが、気分が悪くなるようなひどい振動はなかった。
「一体、いつの時代の話をしているのですか」
「もしかして、レオは乗合馬車にも乗ったことがないのかしら」
「根っからの貧乏性なので、移動は全部徒歩だった」
「値が張るため貴族や大きな商会、団体くらいしか利用していませんが、揺れに対する対策がされた馬車は百年以上前に開発されています」
「サスペンション、だったかしら。振動を逃がして揺れを抑制する機構よ」
「…………誰が発明したんだ、それ」
「異世界から召喚された勇者ですよ。魔王討伐後、国に仕えるだけでなく、後世に残る技術や発明を残す勇者も少なからず存在します」
今我が国にいる勇者たちは何も残していませんが、と小さく毒づくカトレア。
勇者が俺と同じ基世界人なのは周知の事実だが、たまに前世の知識や単語がそのまま通じることがあったのは、こういう理由か。
しかし前世の百年前ならギリギリ自動車が開発されていた頃だったはずだ。
車には詳しくないが、その頃からもうサスペンションは導入されていたのか?
いまでなら車の知識があまりない俺でもサスペンションの概念は知っているが、当時の人たちはそこまで精通していたのか?
あるいは……サスペンションの理念が普及する時代から来ていた?
つまり、アレスガルドと前世の世界では時間の流れが違うのかもしれない。
実際、俺と勇者たちが異世界転移した際の誤差は葬式が終わるまでの間、一年もなかったわけだ。
それなのに彼らは、俺が生まれる前に魔王を討伐していた。そんな短期間で倒せるほどのチート能力をもらっていたのかと思っていたが、もしかすると時間の流れが違うせいで、もう少し長い期間鍛えていたり、冒険していたのかもしれないな。
「レオ? どうかしたの」
「いや、おかげで快適な移動ができたんだなと、しみじみと思っていただけだよ」
「発想が当時の人間のようですよ。もう少し若々しい思考をしてください」
そこまで年取ってない、と反論できなかった。
見た目はともかくとして、中身はそろそろ40年は生きていることになるからだ。
精神年齢は肉体に引きずられているから、そこまで枯れているつもりはないけど、見た目より落ち着いているとはよく言われるしな。
「それなら若々しく、みんなで力を合わせて依頼を達成しようと思う。だから、アルメリア様はこれからの道のりは訓練はお休みして欲しい」
「もちろんそのつもりよ。レアもいいでしょう?」
「もちろんでございます、お嬢様」
不承不承感はあったが、主人の指示には逆らえないんだろう。
全面的な協力は得られないかもしれないが、全く手を貸さないということはないはずだ。
今回の依頼は、ウェルイン村の近くにある小山の調査依頼だ。人手は多ければ困ることはない。
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遅筆な作者のペースが上がる! ……かもしれません(汗




