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第33話「突然ですが、授業に慣れてきました」

 アイワーン学園の授業だが、受験の時と同様に学力のレベルは中学生レベルだったので標準的な授業に関してはそこまで難しくはなかった。

 歴史に関してもジェーンさんが詳しく教えてくれたため、不安はない。

 むしろ「そこ間違ってるんじゃない?」と思うことがしばしばあったほどだ。

 ただ世界史についてはそうもいかない。

 受験では歴史と統合されていたので問題はなかったが、授業で習うのは近代の他国の情勢についてだった。

 そこで初めて、世界地図も見ることができた。


(でもこれ、世界地図と言っていいものかな。人間族の国しか載っていない地図なんて……)


 アレスガルドには、俺たち人間族の他にエルフと魔族の三つの異種族が存在する。

"世界地図"である以上、彼らの住んでいる国や街といった情報も記載されているべきなのだが……。


 エルフに関してだが、エルフ狩りの歴史を改めて教わり自然の奥深くに隠れ住んでいるため、エルフの国というのは地図に載っていない。

 そもそも奴隷や人身売買の歴史がある以上、下手に載せてしまえば心無い人間族が兵力を差し向けることは十分にありえる。

 エルフ側が教えることはまずありえない。エルフを独占したい勢力に教えるわけにもいかないし、独占したい勢力が他所に教えるわけもないから、世界地図にエルフの情報が載ることはない。


 唯一載っている他種族は、北大陸にある魔族領だけだ。


 魔族とは、エルフと同じく人間に近しい姿形をしているが、人間ともエルフとも違う身体的特徴を持っている種族のことだ。

 しかもエルフとも人間族とも決定的に違う点が、身体的特徴ごとによって部族分けされており、能力も異なるという点である。

 例えば、額に小さな一角が生えた種族は『小鬼族』と呼ばれ、人間より大きくエルフより少ない魔力を持つ。

 逆に大きな角と浅黒い肌を持つ『鬼人族』は魔力はからっきしだが、魔物に匹敵するほどの怪力を持つ。

 犬の耳や尻尾、体毛が生えた『狼人族』は嗅覚が鋭く、猫の耳や尻尾、体毛が生えた『猫人族』は猫そのものの敏捷性を持つ、などだ。

 人間族はあくまで国ごとで住み分けているため、『王国人』や『帝国人』なんて呼ばれ方はするが本質的には何も変わらない、同じ人間族だ。


(でも、魔族やエルフに関する記述ってこれだけなんだよな)


 最初に魔族や耳長族ことエルフに関する特徴を教えてもらったが、彼らの生態や暮らし、魔族領はどのような土地なのか、といった話は一切されなかった。

 教わることといえば「何年にエルフとどんなことがあった」「何年に魔族と戦争が勃発した」と、人間族の歴史と関わる時だけ彼らの名前が出てくる。

 はっきり言って、子供の頃に読んだ本の方がよっぽど詳しくエルフや魔族について記述されていた。

 世界史というのなら、人間族だけでなく他の種族の歴史についても詳しく掘り下げて欲しいものだ。

 授業内容にやや不満はあるが、まだ一年目なのだしそこまで焦る必要はない。予習復習を欠かさなければ、置いていかれる心配もなさそうだし。


 座学についてはあまり不安はなかった。

 実技に関しては、不安ではないが暗雲の陰が見え始めたが。


 実技の授業だけど、前期は魔法に関する実技しかない。体を鍛えたければ、自主的に時間を使えということだ。

 ついでに言えば、礼儀作法やマナーに関する実技もない。この学園に通うのなら必修ということなんだろう。

 年中行事にダンスパーティとか学年交流のお茶会とかあるのに、学ぶ授業がないというのは非常に困る。

 図書館で今もっぱら読んでいる本が、それらに必要な作法やマナーに関する本だったりする。

 だが実施の場がまだ当分先であるから、それらについてはあまり緊急性はない。雲行きが怪しいのは、魔法の授業の方だ。


 魔法の授業は週に五回あり、そのうち午前中にある二回が座学。午後の三回が実施となっている。

 今日は週の初め、午前中と午後両方に魔法の授業がある日だ。


「それでは午後の実技に向けておさらいをしましょう。まずは魔法における属性についてです。シーダくん、基本属性を答えてくれますか?」

「火・水・風の三属性だ。子供でもわかるぜ」

「はい、正解です」


 魔法座学Ⅰの教師は担任のシュガーマン先生だった。

 先生は正解と言う前に、一拍だけ間があった。


(うん、正確には半分しか正解してないよな……)


 正確には、無属性という魔法がある。特定の属性を持たず、魔力と術式だけで発動する魔法だ。

 例を挙げるならば、身体強化の魔法や解析魔法などもこっちに含まれる。

"特殊な魔力"を使う必要がないという点では、無属性も立派な基本属性の一つだ。


「それではウェスカくん、『上位属性』をすべて答えてくれますか?」

「土・雷・木・光・闇の五属性です、先生。タンザーやメリルのようにね」

「ええ、正解です」


 正解と言うたびに、シュガーマン先生の表情がこわばっていく。

 彼の回答は間違いじゃない。

 間違いじゃないけど、他人の属性をこんな公の場で説明するなよ。

 タンザーは得意げに頷いているけど、フォーシーズン嬢は眉間にシワを寄せてるぞ。


 アレスガルドにとって、魔法には様々な意味合いがあり、一言で言ってしまえば財産だ。

 魔法の分野における技術や発明は生活や戦闘で役に立つし、"とある事情"から新しい魔法や魔法具を開発されたりしたら、研究機関から莫大な報奨金が出るし、なんなら特許だってもらえる。

 故に、魔法の技術も才能も秘めるものであり、自らの力で高めるもの。

 勝手に暴いたり、ひけらかしたりすると、どこかで必ず損をする。

 このことは魔法の座学の最初で習うし、なんなら貴族だった最初に言い聞かされていてもおかしくはない。


(だっていうのに、なんで他人の属性まで勝手に話しちゃうかなあ)


 シュガーマン先生も同じことを考えているんだろう。ウェスカが席に座る間に、眉間を揉みほぐしていた。

 しかも席に着いたあと、ウェスカは「ちなみにボクは親譲りで全属性なんだよ」と得意げに周囲に話していた。


「えー……では先ほどの五属性が上位属性と言われる意味を……アルメリアさん、答えてくれますか」

「人は本来、体内に基本属性の魔力をすべて持っています。人によって得手不得手がありますが。しかし上位属性はその三つの魔力のうち、二つを同時に練りこまなければ作れない。魔力の混成は非常に困難であることから、上位属性と言われています」

「けど、僕やメリルみたいに生まれつき上位属性しか持っていない場合もある。僕たちは人よりも得をしているってことだ」

「正解です、アルメリアさん」


 あの三人組は余計なことを言わないといけない病気にでも罹ってるんだろうか。

 正解を口にしたフォーシーズン嬢も、正解だと答えた先生も苦い顔をしていた。

 特にフォーシーズン嬢は、一瞬だけ憎々しげな表情になっていた。

 例外といえば、ある意味で俺は例外中の例外だ。魔力の輸血(?)によって得意属性が変わってしまったが、それによって上位属性の魔力しか練れなくなったというわけじゃない。

 赤色の炎属性。もともと持っていた青の水属性。"あまり意味はない"けど両方の魔力も過不足なく扱えるようになった。

 ただ、タンザーは得をしていると言ったけど、現実はその真逆だと彼はまだ気づいていない。



 それは、最初の魔法の実技の時のことだ。



 前期課程の実技では、基本属性の魔法すべての習得と練度を見るということが伝えられた。

 人にはもともと基本属性の魔力をすべて持っているため、魔法陣をきちんと学びうまくその魔力を引き出すことができれば、火・水・風の三属性の魔法を使うことができる。

 この属性すべてをバランスよく使いこなすのは、生まれ持っての資質以外では不可能だ。

 人によって得意な属性、不得意な属性というのは絶対に出てしまうからだ。

 それに人によっては魔力量が少なかったり、基本属性は押さえていても制御が甘かったりと、未熟な点もあるはずだ。

 この三属性の魔法の習得に合わせて、足りないところを補い、向き不向きを覚え、中期課程に向けての糧にするべくカリキュラムが組まれている。


「《火炎球(ファイアーボール)》」


 一人ずつ担任の前に出て魔法を使い、何が不足しているのか、何が悪いのか、それを見てもらう……のだが、俺はサクッと"いつもの裏技"を使って授業の評価基準を乗り越えてしまおうと考えた。

 今回は火属性の魔法なのだが、はっきり言ってしまえばこの程度の授業ならもう既にジェーンさんの元で経験済みだ。

 それに実技で教われる魔法も初級魔法の初歩の初歩。

 ぶっちゃけ全部習得済みなので、この授業では習うべきことがない。

 そんなわけで、さっさと評価してもらって自習でもしていよう。魔力制御や図書室で借りた魔道書とか。


「うー、む……」

「どうしました? 先生」

「いえ、まあ…………なんというか、ここまで指導しがいがない生徒というのは稀でしたので、コメントに困っています」

「それは、どうも……すみません?」


 シュガーマン先生は困ったというが、実際は目を輝かせている。

 この人は魔法実技の試験の時も試験官をしていたから、俺が水属性魔法を使っている時を見ていた。

 二つの属性も使えるし、アレンジ魔法も見せている。今回はゆっくりと初級魔法を使ってみせたが、専門の教師の目から見ても制御レベルは問題ないらしい。

 だが、そんな担任の言葉をクラスメイトたちは悪い意味で捉えたらしい。


「ぷっ。教えがいがない、ですって」「《火炎球》も満足に使えないのかよ」

「なんであんな人が1stクラスにいるの?」「本当に賄賂でも使ったんじゃないか?」


 俺の悪評ここに極まれり、って感じだ。

 突っ込むこともできないし、その気力もないから放置するに限る。

 ただ、一部の生徒はその悪評に乗らず、ジッと俺の魔法を見ていた。

 またごく一部……というか約三名。悪口を言うより忌々しげに睨みつけてくるのもいたが。

 ともあれ俺の番は終わり、他のクラスメイトから離れた場所で適当に自習をしながらみんなの力量を観察した。


(……なんというか、ほとんど家格で選ばれたって感じなんだよなあ)


 クラスメイトで花弁三枚の伯爵家の令息令嬢たちの大半は、あまり魔法がうまくない。

 魔力そのものはそれなりの量を持っているので、鍛えれば魔法使いとして成長はするだろう。


 ただし制御技術があまりうまくない。

 しかも地味に怖いのが、みんな魔法を使う時に魔力を込めすぎているのだ。


 基本的な制御方法を習っていないのか、疎かにしていたのかはわからないが、あれでは少し難しい初級魔法を使った時、三回に一回くらいは発動に失敗しそうだ。

 最悪の場合、五回に一回は暴発しても不思議じゃない。

 シュガーマン先生もそう思ったらしく、彼らには制御方法について乗っている教科書のページを教え、残った時間は熟読するようにきつめに言い含めた。

 ただ中でも歴史のある伯爵家、侯爵家の人たちは安定した制御レベルだった。

 突出してうまいというわけではないが、初級魔法であれば問題なく習得できるだけの技量は持っている。あるいは、もう覚えているかもしれない。


(その中でも別格が、一番の問題児ばっかりってのはなんて皮肉だよ)


 まずは転生者の子孫たちであり、見るからに魔力量が少なかったシーダ。

 魔法具に魔力を込められるのだから、それなりに制御技術はあるはずだがなぜか魔法陣の発動が遅い。

 しかも一応発動はしたのだが、《火炎球》を唱えたはずなのにただ手のひらから炎が吹き出すだけだ。


「チッ、やっぱ魔法は苦手だぜ」

「………………苦手なのはわかりますが、まずは制御方法をよく勉強しましょうか」


(あれもしかしなくても、魔力放出する以外の訓練なんにもしてこなかっただろ……)


 魔法具を使うためには体内にある魔力を外に出し、流し込む必要がある。

 魔法陣も原理としては同じなのだが、シーダの場合は蛇口を捻って水を出しているだけの状態だ。

 魔法を使うためにはその水で絵を描けるようにならなければいけないのに、水を出しただけでほったらかしにしているからうまく形にならない。

 ということに、きっと気づいていないんだろう。

 あからさまにやる気なさげに教科書を持ち、場を離れていく。


 そして次に《火炎球》を使ったのはウェスカなのだが、試験の時と全く同じ結果になった。

 手加減の手の字も知らない巨大な火の玉を作り出し、周囲はそんな彼を絶賛する。

 担任のシュガーマン先生と、フォーシーズン嬢をはじめとした制御レベルの高い者たちは、その歪さに感づいて顔を青くしていたが。


「……ウェスカくん、貴方の魔力は素晴らしい。しかし《火炎球》をそこまで大きくする必要はないんですよ?」

「そう? ボクとしてはこれでも小さくしているつもりなんだけど」


(嘘だろお前)


「………………もう少し小さくできるか試してみましょう。その調子ではすぐに魔力が枯渇してしまいますよ」

「大丈夫ですよ先生、こんなのボクにとってはコップ一杯分の魔力しかへってませんから」


(言葉の裏を読もうか。先生は心配してるんじゃなくて、注意してるんだから)


「とにかく、初級魔法はそこまで大きくする必要はないんです。これからはもう少し小さく発動させてください」

「ボクとしては小さいつもりなんですけどねえ」

「……いえ、ですから」


 シュガーマン先生は根気強く言い含めようとするが、堂々巡りする。

 だが生徒全員を見なければいけないから、あまりウェスカだけに時間はかけられない。

 結局先生は再度同じ忠告をして無理やり締め括り、次の生徒を見ることになった。


 三人組の最後の一人であるタンザーだが、魔法に関しては彼だけが一番まともだった。

 魔法具を使えるのはもちろん、魔法の実技を魔法剣なんていう独特な技で切り抜けたのだから、制御レベルもそれなりにある。

 ……むしろそれで何故ウェスカの魔法に違和感を抱かないのか不思議だが。

 そして何より、タンザーは光属性の持ち主だ。万能眼で彼の魔力を見たところ、その色は透明に近い白だった。

 つまりどんな色(属性)も薄まりはするが、出すことができるということ。

 火の属性が得意な魔法使いと同じ火の魔法をぶつかり合えば、得意な魔法使いには負けるものの、それを補って余りある利点である。

 なにせ他属性だけでなく、光属性の魔法まで使えるのだから。


 そして"最後の問題児"――――それはあまりにも小さな《火炎球》を作り出し、悔しげに俯いている銀髪の令嬢だった。


「制御には問題はないようです。どうやら火属性の魔力の練りが甘いようですね」

「そう、ですか……」

「アルメリアさんは多くの魔力を持っているのですから、もっと思い切って練り込んでもいいと思いますよ」

「……わかりました。今度はそうしてみます」


 しかし、何度やってみてもフォーシーズン嬢の魔法は微々たる変化すらない。

 小指サイズの小さな火の玉、水の玉、風の玉。

 実技の授業が来るたびに、同じアドバイスを受けては歯を食いしばって下がっていく。

 そんな日々が続いたからか、同格のクラスメイトには陰で哀れまれたり、嘲笑われたりする声がたまに聞こえてくる。


 そうこうしているうちに入学から一ヶ月が経過したが……やはり問題児たちは変化が起きなかった。




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遅筆な作者のペースが上がる! ……かもしれません(汗

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