第32話「突然ですが、ギフトの正体がわかりました」
2020/11/4 誤字報告があったのでちょっと文章を修正しました。
わかりづらくてすみませぬm(_ _)m
アイワーン学園に入学してから、数週間が経過した。
予想はしていたが、クラス内での俺は完全に腫れ物扱いされている。
しかしそれでも、学園生活にも慣れてきた。
意外にも例の三人組が俺に直接絡んでくることはなく、教科書を破かれたり落書きされたり、そういった嫌がらせもなかった。
これまでの俺の日常はいたってシンプルだ。
平日は寮の職員さんが起きるのとほぼ同時に起き、日課のトレーニングを行う。走り込みと剣の鍛錬だ。
終える時間は朝食の前、他の入寮生が起きてくる前だ。これは良くない評判を持つ俺が、余計に絡まれないために切り上げるためである。
そして普通に登校し、授業を受け、放課後は真っ直ぐ寮に帰るか図書室によって本を読むくらいだ。これを五日間繰り返し、週末は寮に帰る前に冒険者ギルドに寄っている。
シュガーマン先生に確認したところ、授業として冒険者ギルドの依頼を受けたり魔物の討伐に出るのは二年生になってからだが、個人的に冒険者として依頼を受ける分には問題ないとのことだった。
ただし、依頼で学園を休む場合は公欠扱いにはならない。あくまで欠席として処理されてしまう。
そのため週末の放課後にギルドで依頼を見繕い、日帰りか長くても一泊二日で片付く依頼を受領し、二日間の休日を利用して依頼を解決する。
このローテーションを繰り返し、体もようやくこの生活習慣に慣れてきた。
変わったことが起きたのは、常駐依頼のゴブリン退治を終えて帰ってきた日の晩のことだ。
幸いなことに寮には大浴場が備え付けられており、身分に応じて入浴時間が決められている。平民の俺は一番最後で、利用者も俺一人だけだ。
風呂の湯は少し温くなっているが、魔法で温めてしまえば気にならない。何より広い浴場を独り占めでいるし、傷跡を誰にも見られる心配がないというのが最高だ。学園生活での唯一の憩いの時間である。
入浴が終わったら、明日の予習をしてから眠る。朝は早いから夜更しは厳禁だ。
実家のベッドよりも広く上質なシーツにくるまり、そうして一日を終えたのだが――――
――――――気がつくと、いつか見た白い空間で目が覚めた。
(ああ…………この感覚、懐かしいな)
学園に入るまで一緒に暮らしていたマオやジェーンさんに教わった、眠りながらも意識を保ち夢の中で特訓する魔法だ。
術式は覚えているがひどく難しく、今の俺では作り出すことができない。そして、今回はその魔法ではない。
最後にここに来たのは十年前……ある女神さまに膝枕をされていた時だ。
「その思い出し方はどうなんですかねえ」
懐かしい方の声が聞こえてきた。
声の方を振り返れば、絵に描いたような美しい金髪碧眼の女神様――――十年振りに会うマイナ様がいた。
「お久しぶりです、マイナ様」
「ええ、お久しぶりです。この五年間、ずっと忙しそうだったので遠慮していましたが、ようやく落ち着いてきたみたいなので遊びに来ました」
「来たって言うんですか? 厳密に言うとここ、夢の中じゃないですよね」
「言葉の綾ですよ」
なんていうか、ノリが軽い。いや前からこんなノリだったかもしれないが、どうやら本当に今日は雑談しか用がないみたいだ。
「あ、いえ雑談ばかりってわけじゃないんですよ? 重要ではないですけどご用はありますし」
「用件? 一体何を……」
「貴方に伝え忘れたことが本題なんですけど、どうせなら大したことない方からお話しましょうか」
「転生者たちの子孫にお会いしたんですよね?」
ああ……そういえばそうだった。
初日の邂逅があまりにもひどすぎたんで、もはや避けることしか考えていなかったけどそういう設定があったんだ。
「設定とか言いますか。まあ実際その程度なんですけど」
「でも、それがどうかしましたか?」
「別に直接関係があるわけじゃないんですけど、あの人たちを見てどう思いました?」
「人格に問題あるとは思います」
「わぉストレート」
平民や身分が下の者を嫌ったり、見下す貴族がいないとは思っていない。あの三人はその典型だ。
世界を救った英雄の子供、という身分を傘に来てナチュラルに身分が下の者を見下している。悪気がない分、言葉に遠慮がない。
実際、俺以外の身分が低い男爵や準男爵の生徒はあまり関わろうとしない。あんなのが二代目で大丈夫なのか。
「いえ、二代目ではありませんよ?」
「…………はい?」
「彼らは勇者や賢者の二代目ではありません」
何やら衝撃の事実がマイナ様の口から語られた。
え。実はあの三人て拾われた子だったり養子だったりしたのか?
「ああ、言葉を間違えました。彼らは転生者たちの血は引いてます、嘘じゃないですよ。
でも、勇者の二代目ではないんです」
言葉遊びだろうか。血縁であるのに二代目ではないとは、これ如何に。
「あの人たちはマエダ二世にはなりえますが、勇者の二世ではありません」
「だって――――『勇者』や『賢者』は転生時に与えられたギフトなのですから」
「確かに親の血を引いているから特殊な魔法は使えますし、膨大な魔力もあります。けれど勇者や賢者にはなれません。彼らはギフトのおかげでさらに強力な力を得たので、魔王討伐をなし得ることができました」
「でも、子供にはそれがない……?」
「ギフトっていうのは、あくまでその人だけに与えられる特典。子供が出来ても子孫がどれだけ続いても、血筋で勇者は受け継がれないんです。私が与えた特典はその人の体質になったので、魔力の属性や量くらいは遺伝しますけどね」
なんと、衝撃の真実。王国は救世の七人のうち四人を囲うことはできたけど、その強さは一世代だけらしい。
でもよく考えれば、過去にも勇者召喚は行われていた。魔王討伐なんて崇高な使命、それこそ彼らの子孫に任せればいいじゃないかと思ったが、そううまくはいかなかったようだ。
「つまりもしまた魔王が生まれたら、その度に勇者召喚は行われるってことですか」
「自分たちでどうにもならないと思ったら、そうなる可能性はありますね」
なんとなく、嫌な気分だ。
俺もその召喚に巻き込まれて転生した身だが、子孫がいるんならもう召喚は行われないんじゃないかとどこかで考えていたらしい。
だからだろうか。もし俺が生きている間に魔王が誕生し、世界が窮地に陥ったら、また地球で大勢が亡くなって数人の救世主が呼ばれるわけだ。
前世の世界を認識しているだけに、思いは複雑だ。
そうしなければこの世界が危ないのはわかるが、だからといって関係のない者を何人も巻き込むだなんて……。
「あー……すみません、嫌なこと思い出させて。ただ私は、勇者たちの子孫だけどそこまで強くないですよ、と言いたかっただけなんです」
「どうして俺にそんなことを?」
「これでいつでも気兼ねなくぶっ飛ばせますよ」
ニコッと擬音がつきそうなほど、完璧な笑みだった。
女神さまなのにとんでもないことをサラっと言ったぞ。
いくら女神さまからお許しが出たとはいえ、そんなことをしたら世間が黙っていないわけだが。
「でも合法的にぶっ飛ばす機会はあるでしょう? 授業中とか実技の大会とか」
「いやまあそうかもしれませんがっ」
「しないんですか? もうぶっちゃけますけど、潜在能力をちゃんと制御できてないあの三人だったら、同時に相手にしても勝てますよね」
「えー……いやそれはさすがに」
「"あの"エルd……エルフに師事を受けたんです、自信を持ってください」
自信を持つというのはその通りなんだが、それはそれであとが怖いというか……。
しかし成績のために正面から対決することは、確かにあるかもしれない。
まあその時は容赦しないし、マイナ様のお墨付きだからむしろやり過ぎないように心掛けておこう。
「う~ん……レオさんって結構慎重派なんですね」
「慎重派というか、ならざるを得ないというか。昔から運は良くない方でしたから」
「あ」
ちょっと待て、なんだ今の「あ」は。
「あー……別に変なことではないんですよ。本題は実は、そのバッドラックに関することでして」
「え……実はマジで呪われてるとかそういうオチなんですか?」
「いえ、そう思われても仕方がないレベルだとは思いますが、本当にただの体質です。
しかしこの世界の基準で言うところ、貴方の運気ってFランクなんですよ」
冒険者のクラスだったら最下位じゃないか。
「ちなみに平均でDランク。宝くじを買えば、2、3割の確率で何等か当たるくらいの運気です」
「………………俺、前世で宝くじなんて当たったことないんですが」
「というか、Fランクできちんと就職しているのが驚きです。ホームレスのひどい人でもEランクですよ?」
マジで俺の運勢ってどうなってんだよ……。
「それで……あの、お気づきかもしれませんが……転生してもその不運はリセットされてなくてですね……」
「やっぱりそうでしたか」
「あの……その悟りきった表情やめません? 申し訳なくなるんですが」
でもこの不運は物心ついた時からの付き合いだ。マイナ様のせいじゃない。
物申すのなら前世の世界にいた神様にだ。会えるはずはないのだけど。
「それでですね、五年前に貴方に送ったギフトなんですが、その不運に関するものなんですよ」
不運に関するギフト? その言葉は、俺は一つ思いついていたギフトと結びつかない。
炎の獅子の精霊に傷つけられた傷の治りが、普通の人間よりもはるかに早かったことだ。てっきり治癒力に関するギフトだと思って感謝を捧げていたのだが。
「そう! その考えを早く訂正したかったんですよ。ずっとその考えで無理されて、ひどい傷を負ったら下手すれば普通に死んじゃいますからね」
「ああ、確かにあれ以降大きな怪我はしてませんでした」
もしかしたら知らず知らずのうち、ギフトさえあれば怪我の治りが早いからと無理をしていたかもしれない。
取り返しがつかなくなる前に、その間違いが知れて良かった。
良かったんだけど、それならどうして五年前の怪我は早く治ったんだ?
「それは元から貴方に送っていた加護のおかげです」
「加護の……? でもマイナ様の加護って、貴方と交信できるはずじゃ……」
「交信するために、貴方にはうっすらとですが神気……いわゆる神様の気配が宿っているんです。それが関係してます」
「どういうことです?」
「詳しいことは調べてもらえばわかりますが、精霊の気質は私たち神に近しいんです。例えるなら、超劣化版神様です。
そのため神気を帯びた体の方が上位にあたりますから、精霊の与えた傷が貴方の体に適合を始めた。怪我の治りが早かった理由と、精霊の魔力が宿った原因も神気のおかげなんです」
「神気……初めて聞きますけど、それって」
「残念ながら利用はできませんよ? 誰にも感知できないくらい薄いものですから。できて本物の聖女か、最上位の精霊くらいです」
精霊の魔力に匹敵するチートが手に入ったのかと思ったが、そうではなかったらしい。
いやまあ手に入れたとして、精霊の魔力でさえ非常に制御が困難なのだから、絶対に手に余ったはずだ。
「まあまあそうガッカリしないでください。代わりに本物のギフトを教えに来たんですから」
そういえばそうだった。
解析モードで自分を見ても、精霊の魔力や傷跡をはじめとする重要な情報が表示されなかったから、結局今日まで勘違いしていたんだ。
「貴方に与えられたギフトは……ズバリ! 『不幸中の幸い』です!」
「…………すみません。明日も早いのでそろそろ起きますね」
「待って待って待ってください! 嘘でもないしうまいこと言ったわけでもないし本当に真実なんですってばぁっ!!」
本当に帰れるわけじゃないが、踵を返した俺の足に飛びつき留まらせようとするマイナ様。
「いやでも、不幸中の幸いって……俺に対する皮肉にしか聞こえないっていうか」
「そう思われるのも無理はないんですけど本当のことなんです信じてください!!」
「はぁ……わかりました、話を聞くので足から離れてください」
なんだかやけに肩が重い。肩透かしってレベルじゃなかったけど、俺に関する事なんだしちゃんと話は聞こう。
今のところ、幸らしきことが全然起きてなくてそれ本当にギフトですか? と言いたくはなるが。
「言ってます言ってます! 心の中でめちゃくちゃ言ってますからっ」
「話脱線しっぱなしですよマイナ様」
「うぅ……唯一の信者からの視線が冷たい。でも負けませんよ! 私女神ですから」
「でも難しいことは本当に何もありません。貴方のギフト、それは『悪いことがあってもいつかいいことが起きる』という常時発動型のギフトなんです」
「いつか、ねえ……」
「これは本当です、気休めで言っているのではなく必ず起きます。ただ、条件がありますけど」
「条件……?」
「それは『起きた不運に連動していいことが起きる』ということです」
「例えば、『ゴブリンの巣穴にいきなり遭遇した』だから『犠牲者の遺族から感謝され、貴族に覚えてもらった』ということがありましたよね? つまりそういうことです。『ゴブリンの巣穴にいきなり遭遇した』けど『次の日に大金を拾った』みたいに、全然関係のない良いことは起こらないんです」
なるほど。言われてみれば確かに、冒険者初日の大捕物では予期せぬ大金も入ったし、良いことは起きた。
もし今までだったら、ゴブリンを倒すだけ倒して終わりになったり、生存者がいなかったり、遺族を証明するものが見つからなかったり、そのくらいの不運の連続は平然と起きていた。
あの出来事が最後に少しでも良い方向に持って行けたのは、このギフトのおかげだったのか。
「ご理解いただけてなにより。でも、もう一つ注意点があります」
「条件じゃなくて、注意点ですか?」
「はい。『不幸中の幸い』で起きる『良い事』は、必ずしもすぐに起きるわけじゃないんです」
「だから……あのアカデミーに入るしかなかった不運にも、いつか本当に良い事が起きますよ」
もしかして……マイナ様は気づいていたんだろうか。
たった数週間ではあるが、この学園生活に不満、というか精神的に苦痛を感じていることに。
せっかくの二度目の学校生活なのに、立ち位置は完全にボッチだ。
そして特待生を維持し続ける限り、遠くない未来きっと嫌がらせが始まり、さらに鬱屈するかもしれないと予想していることに。
"そんな学園生活の中でもきっと良い事が待っている。だから頑張ってください。"
マイナ様は、俺にそう言いたかったのかもしれない。これからの生活に、少しでもいいから希望を持ってくれと。
「……それじゃあ、期待して待っていることにします」
「ええ! ……あ、でも過度な期待はダメですよ。公爵令嬢に惚れられるとか王女様と禁断の恋に落ちるとか、そんなハードルの高いこと望まれても幸運を起こすのは私じゃないんで過度な期待! ダメ、絶対! ですっ」
「そんな今後の人生が危ぶまれるようなこと望みませんよ」
身分違いの禁断の恋とか、そんなのフィクションの中だけで十分だ。
励ましに来てくれたと思ったけど、考えすぎだったかな。なんだか普通に雑談している雰囲気だし。
「そ、それでは、そろそろ朝になるので起きる時間ですね。これからも頑張ってください」
俺からの評価が微妙に下降傾向にあることに勘づいたのか、慌てた様子で締めくくられ意識が遠のいていく。
久しぶりに会ったというのに、別れがやけに唐突だ。
でも、五年振りに拝見できてやはり嬉しかったし、元気づけられたのも確かだ。
(だから、俺が貴方に幻滅することなんてありませんよ)
聞こえるかどうかわからないけど、最後にそう伝えた。
目覚めの際、外から聞こえてくる鳥の囀りが、マイナ様の笑い声に似ているような気がした。
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遅筆な作者のペースが上がる! ……かもしれません(汗




