第26話「突然ですが、試験官に挑みます」
外から見ている限り、受験生の勝率はおよそ二割といったところだ。
部位鎧を破壊するところまでいける生徒が、その二割の中でさらに半分ほど。
急所に一撃を入れられるけど、破壊しきれないのが残りといったところ。
どうやらこの会場には同じ流派を修めた受験生が集まっているらしく、戦い方が試験官と噛み合いすぎている。
そのせいで互いの力量差が如実に現れてしまい、大敗を喫する受験生が続出している。
(なんでここに来ちゃったかなあ……別に試験内容と同じ流派じゃないといけない、って基準はなかったはずだけど)
実際、急所に一撃を入れられた受験生はみんな別流派を修めていた。
変幻自在な剣技で隙を狙ったり作ったりして不意を打ったり、足の速さや身のこなしを活かした速攻で手数を増やして攻めたり、火竜級の人間が嫌がる戦法を成功させていた。
敗北した彼らも同じように、火竜級の動きが苦手な流派に挑めば勝利で試験を終えられたかもしれない。
得意な剣技を活かしたいからといって、わざわざ同じ流派でぶつかり合う必要はないのだから。
(ん? なんか向こうのリングが騒がしいな……)
急に喧騒が大きくなったリングの方を向くと、大剣を背負ったツンツン頭の茶髪男子が武器を構えたところだった。
昨日の受験会場でも人気……というより、取り入ろうとする受験生が多かったことから察するに、この会場にも彼、あるいは彼らを注視する人物が多いんだろう。
『今回の受験者は程度が低すぎるぜ。俺が手本を見せてやるよ!』
結構遠くのリングにいるから声は届かないはずなんだが、どれだけ大きな声を出しているのかそれなりにハッキリと聞こえてきた。
(随分と自信があるみたいだけど、それで負けたらさすがにカッコ悪いってレベルじゃないぞ……)
面識のあるなしに関わらず、他の貴族の受験者に対する罵倒だ。よほどの結果を出さないと、あとで家に苦情が来るのでは?
とにかく、お手並み拝見である。
対する試験官はどうやら二連戦中らしい。汗は掻いているものの、息は切らせておらずまだ余裕がありそうだ。
『いくぜェ!!』
茶髪男子はそう叫ぶと、大剣を肩に担ぎ一直線に駆け出した。
無鉄砲すぎると思ったが、かなりの速さだ。試験官も予想外の速さに驚いたらしく、回避するか迎え撃つかで判断が揺れたようだ。
その判断の遅れが命取りになり、茶髪男子の攻勢を許してしまった。
間合い内に試験官を捉えると強く一歩踏み出し、全身を捻りながら大剣を振り被る。
しかも茶髪男子の力に呼応するかのように、刀身が怪しく光を帯び始める。
魔法……ではない。茶髪男子が魔力を大剣に伝わらせることで、元々備わっている能力を発動させているらしい。
危ない、と思った時にはもう遅かった。
試験官は間一髪、片手剣を自分と大剣の間に割り込ませることに成功した。
しかし衝突の瞬間、片手剣の刃が甲高い音を立てて砕け散った。
大剣はそのまま勢いを殺さず試験官を袈裟斬りにすべく滑り込み、凄まじい破砕音が響き渡った。
『ま、ざっとこんなもんさ!』
茶髪男子は勝ち誇った調子で大剣を振り回し、肩に担いだ。
倒れた試験官の傍に代わりの騎士たちが駆け寄っていく。部位鎧は跡形もなく壊されていて、試験官自身も深手を負っているが命に別状はなさそうだ。
それもこれも、片手剣の防御が間に合ったことと、試験官が防御に回ると同時に後ろに飛び退っていたことが大きい。
あのまま茶髪男子が大剣を振り下ろしていたら、間違いなく試験官は即死だったはずだ。
周囲は一瞬だけ沈黙していたが、やがて大きな拍手とともに歓声が上がった。
「素晴らしい!」「さすがだ!」「やはりぼくたちとは格が違う!」と、心から賞賛する声がたくさん上がっている。
いや……本当にそうか?
一歩間違えれば……というより、試験官の腕前がなければ間違いなく彼は殺人者だ。
あんな凶暴な力を制御しきれていないと、大衆の前でひけらかしたようなものだぞ。
しかも堂々と魔力を使い、魔法具を発動させていた。
確かに魔法は使っていないし、身体強化は"全身に"魔力を循環させる必要があるから、厳密に言えばルール違反ではないが、グレーに近い方法だった気がする。
そっと観客席にいるウッド団長をはじめとした審査員たちに目を向けると、眉をひそめて渋い顔になっていた。
(反則は取らない、か。でもこういった前例が出来たならありがたい)
筆記試験の時と同じく、今回も義眼の能力は封じて試験に挑むつもりだった。
しかし、こうして魔法具の使用が許されたならためらう必要はない。
一応開始前に聞いてみるが、問題なければ全周囲視界モードを使うことで死角を消すことが出来る。
(視界の悪い場所を歩くときはもちろん、近接戦闘で死角をなくせることは大きなアドバンテージになる。許されなかったら、その時はまたその時だな)
そんな俺の心配は、完全に杞憂に終わった。
何故ならさっきの茶髪男子とは別に、魔法具を使う受験生がチラホラと現れたのだ。
魔力を流すことで重量を軽くする長剣、一時的に視力を向上させるピアス、他にもいくつかあったがどれも試験官を直接攻撃するものではないが、本人の素の実力が測りづらいことには違いない。審査員の表情が曇っているのがその証明だ。
だが、そんな彼らはまだ優しい方だった。
この会場には茶髪男子よりもひどい決着のつけ方をした、金髪男子がいたのだ。
『いくぞ! これが俺の全力だ――――!』
そう言って金髪男子は鎧に魔力を流した。すると黄金色の鎧に白いラインが走り、眩い光を発し始めたのだ。
光は徐々に小さくなっていくが、それに合わせて背中に一対の翼が生じていく。白い翼――――強大な魔力の塊だった。
金髪男子は翼を用いた驚異的な加速で上空に飛び上がり、試験官目掛けて一直線に降下して斬りつけた。
茶髪男子とは違い彼は峰打ちだったが、それでも単純な破壊力は茶髪男子以上だ。
結局、試験官は衝撃を殺しきれずにリング外に吹き飛ばされ、部位鎧を全損させて会場外へと退場させられた。
『やるじゃねえか』
茶髪男子が悔しげな口調で、しかし誇らしげな表情で賛辞の言葉を送った。
『いいや、まだまださ。父様や母様には及ばないよ』
金髪男子は謙遜しているが、内からこみ上げる喜びは隠せていない、頬が綻んでいる。
(実力試験って、何なんだろうな……)
彼らのやり取りを見ていたら、そんなことを考えてしまった。
そこまでしなきゃ勝てないほどの相手だったとは思えないんだけどな。
少なくともここの受験生の平均より上だという自信があれば、真っ向から戦って勝利をもぎ取ることはできると思う。
逆に、そこまでしないと勝てないのか? という疑念が浮かび上がっても仕方ないような気がするが……。
得意げな表情で会場を去っていく二人から目を背け、別のリングに視線を向けると……この会場まで案内してくれた、金髪令嬢がちょうど試験を開始するところだった。
『よろしくお願いします』
金髪令嬢は礼儀正しく頭を下げると、腰に佩いた一振りの鋭利な長剣を抜き放った。
長剣といったが刀身の幅は狭く、鋒は針のように鋭く尖っている。レイピアソードというべきか、剣自体の耐久性を犠牲に軽量化と切れ味を上げた剣のようだ。
そして……そんな独特な剣を持った女性が扱う剣技といえば、ある一つの流派が思い浮かぶ。
試験官もそれに考え至ったのか、表情を引き締め腰を落とさず踵を浮かせ、すぐにでも動き出せるように姿勢を変えた。
『はじめ――――!』
審判に回った騎士の号令と共に、金髪令嬢がリングを駆ける。
茶髪男子とは違い、真正面から行かずジグザグに走り、フェイントを入れながら距離を詰めていく。
『シィッ――――!』
試験官の間合いに入る直前、金髪令嬢は一瞬で腰を落とすと一足飛びに懐に飛び込んだ。
試験官はその瞬間を見逃さず、タイミングを合わせて別方向へと飛び退いた。
しかし、それで金髪令嬢の攻撃は終わりではない。
空振りしたが勢いは殺さず、その場で回転して向きを変える。試験官を捉えては再び速攻を仕掛け、当たるまで何度も追い詰めていく。
そして、捕まえてしまえばあとは彼女の独壇場だ。
全身を使って相手へと肉薄し、腕の速さ、腰の捻り、足捌きなどで接近戦でもスピードを活かして攻撃を繰り出す。
『風の如く速く、疾く、息もつかせぬ怒涛の攻撃』こそ風虎級の基本剣術。金髪令嬢は、どうやらその使い手らしい。
後手に後手にと回っていく試験官は次々と部位鎧を破壊され、最後には体勢を崩し喉元に刃を突きつけられて決着がついた。
魔法具を使うことなく、純粋な剣の腕でのみ試験官を打ち負かした金髪令嬢。肌に張り付いた前髪を拭いながら満足げに微笑む姿に、思わず目を奪われてしまった。
『さすがバルティーユ家の御令嬢だ』
『辺境伯の長女はかなりの腕前だと聞いていたけど、これほどとは……』
『素敵なお姉さま……』
周囲の受験生も拍手とともに金髪令嬢のことを賞賛していた。
バルティーユ家……確か俺が住んでいた村を含め、国境の辺境を管理している貴族だったはずだ。
一言挨拶しておいた方がいいだろうか……でも向こうからは何も言ってこないし、平民から許可なく話しかけるのは基本的にマナー違反とされている。
悩ましいところではあるが、向こうからアプローチがあるまでは静観を決め込むのがベターかもしれない。
リング上から降りていく金髪令嬢の後ろ姿を見送りながら、そう決めた。
「さて……そろそろ行こうかな」
試験が開始されて、受験者の数も半分くらいに減った。
おかげさまで一通り騎士たちの戦い方を見ることができた。
火竜級の会場とはいえ、全員が全員同じ戦法を得意としているわけじゃない。
絶え間なく攻撃することが好きな人もいれば、攻撃を誘ってカウンターを決めることが好きな人もいる。
その中で、比較的戦いやすそうな人が試験官を務めるリングに足を運んだ。
体格はがっしりとしているが身長はあまり高くなく、筋肉のつき具合の割に素早い動きと高レベルな剣術を習得している壮年の男性だった。魔物相手ではなく、対人戦に向けた剣術を習得している人だ。
はっきり言って、魔物と戦うよりも人間相手に試合した回数の方が多いので、流派は違うもののその方がやりやすかったりする。
交代後、最初の一人を倒した試験官はまだ継続するはず。俺はそのタイミングを狙ってリングに上がった。
「受験票を提出してもらおう」
「はい、これです」
「…………ほう、なるほど」
受験票を受け取った試験官は、一瞬だけ観客席の方に目配せをした。
そういえば、昨日フォーシーズン嬢がベルウッド団長からの推薦状だと言っていた。この人はそれを読み取って知らせたのかもしれない。
そっと観客席の方を伺ってみると、案の定こちらのリングを注視するベルウッド団長の姿があった。
「確認した。それじゃ始める……」
「待ってください。魔法具の使用は大丈夫ですか?」
「お前もか……」
辟易した様子で顎鬚をなぞる試験官。
気持ちはわからなくもない。他の試験官に比べて、一番魔法具を使った受験生と戦っているのがこの人だった。
それでも勝率は八割を越える。
技量だけなら先ほど戦っていた金髪令嬢と同じか、手加減をしているのならそれ以上であることは確実だ。
「お前だけ不許可というわけにはいかない。それで? 使う魔法具はなんだ」
「これです」
そう言って左目を指さした。
「これって……」
「左目は義眼なんです。魔力で動きますし、前よりも視界が良くなります」
「……そうだったのか。すまなかった、それは好きに使ってくれて構わない」
気の毒そうな表情をされたが、今の口振りだともしかしてこの人は五年前のことを知っているのだろうか?
ありえない話ではないか。あの時やってきたのはウッド団長とその指揮下にある部隊だ。
この場にいる騎士全員が彼の部下であるのなら、あの事件を知っていたり、直接見た人がいても不思議じゃない。
ともあれ、許可がもらえたのでありがたく視界を三百六十度に調整する。
最初のうちは慣れなかったけど、父さんと訓練を重ねたおかげで激しい動きをしても問題なくなった。
(ウサギの見える世界ってこんな感じかな、と思ったけど……うん、最初のうちは満足に歩くこともできなかったよな。やればできるもんだ)
思わず感慨に耽ってしまったが、これから試験開始なのだ。
ゆっくりと鞘から剣を抜きながら、気を引き締める。
実力的に侮っていい相手ではない、全力で立ち向かわないと危険な相手だ。
「準備はよろしいか?」
「いつでも」
「では……これより試験を開始する!」
試験官のおじさんが開始の合図を告げたが、俺は速攻は掛けなかった。
前世の頃に習った剣道の動きを思い出しながら、摺足でゆっくりと間合いを詰めていく。
「むっ……」
今までの大半の受験生と違う動きに、試験官のおじさんからわずかに戸惑いの色が見えた。
だが、そんなものは隙とは呼べないほどの僅かなものだ。現に少しだけ足を動かしただけで、動揺は微塵もなくなってしまった。
「随分と慎重ではないか」
「無闇に飛びかかるだけが剣術じゃないでしょう?」
「その通りだが、制限時間を忘れてはないだろうな」
「ちゃんと頭に入れているんで、ご心配なく」
「言うじゃないか。それなら見せてもらおうか」
軽口を叩きながらも、距離を詰めることを忘れない。
試験官のおじさん同じように、軽口を合わせながらもこちらの動向を見逃さないよう、鋭い眼光を飛ばしてくる。
正直に言って、このおじさんが致命的な隙を晒してくれることに期待はしていない。
これまでの試合で敗北してきた理由は、魔法具の効果による能力の一点突破。これだけだ。
速さに負けた。腕力に負けた。そんなシンプルな力比べで敗れたから敗北に繋がっただけである。
義眼が有する能力では、自分の身体能力を向上させる効果はない。力任せの真っ向勝負も、速さ任せの不意打ちも、俺が使うと有効手段にはならないのだ。
「……面白い足捌きだが、そうやって隙を伺っていても時間の無駄だぞ」
「別に焦らすためにこんな動きをしてるわけじゃないですよ」
「ほう……? ならばさっさと見せたらどうだ」
「言われなくても……!」
間合いが近づいたところで、剣を振った。
これまでの試験で見てきた動きから、この人の利き手利き足はわかっている。
対応しづらいその反対側から逆袈裟に斬りかかるのだが、僅かな体捌きと剣の動きであっさりと阻まれてしまう。
「これで終わりか?」
「なんの、まだまだ!」
一撃打ち込んでは阻まれ、すぐに下がる。
打ち込んでは下がり、打ち込んでは下がり、それを延々と繰り返した。
上段から振り下ろす袈裟斬り、払い打つように胴を薙ぎ、打ち込み方は毎回変化させているが、一撃れた後には必ず離脱している。
「こいつ……」
王都三流派のいずれにも属さない摺り足という動きを訝しんでいた試験官のおじさんだが、この僅かな攻防でその特徴に気づいたらしい。
摺り足は両足に均等に体重を掛けているため、重心移動がスムーズに行え、前後左右へ自由自在に動ける。
他の流派は全身を大きく使った動きが多いため、次へと動くために弊害がある。動きが読まれやすくなったり、次への動作が遅くなったりするのだ。
この試験官のおじさんは、そういった隙を狙って反撃していた。そして対応できなかった受験生はそのまま敗北した。
だから俺は、まずその反撃の機会を奪うことにした。
試験の対応として定められたのか、この人を含め試験官たちは率先して自ら打ってこようとはしなかった。
ほとんどが攻勢後の反撃、あるいは同時に打ち込むカウンターで決着をつけていた。
今回の試合では今までにない動きを見せるとはいえ、同じ対応をされるのではないかと予想した。そして的中した。
「どうしました? 反撃しないんですか」
「…………」
「そっちから踏み込んできてくれていいんですよ。遠慮せず」
剣が届かない間合いではない。ただし、大きく踏み込んで振らなければならない距離だ。
初撃を外せば、当然反撃を受ける。これまでの攻防で俺の速さは大体わかっただろう。避けられる可能性は高い、と。
もちろん、普段の騎士であればそんな距離や不利などものともせずに攻め込んでくるはずだ。
けれどこれは試験なのだ。おそらく行動や実力を制限されており、その基準をどうやって越えるのか試しているんだろう。
それだけに、試験官のおじさんはもどかしいはずだ。
自ら攻めることもできず、反撃しようにも間合いのギリギリ外へと逃げられるのだから。
「……来ないなら、こっちから行きますよ」
打ち込みで焦らし、口撃で揺さぶり、制限時間も半分に届く頃合だ。
そろそろいいだろうと、俺はわざと剣先をゆっくりと下に向け、下段の構えで斬り込みに行った。
「……お望みとあらば、見せてやろうじゃないか!」
こちらの踏み込みに合わせ、試験官のおじさんもタイミングを合わせて踏み込んできた。
上体を大きく逸らし、僅かな踏み込みから繰り出す最短最小最速の振り下ろす斬撃。熟練者であればそんな小さな動きでも岩さえ切り裂けるという、火竜級で最も使い勝手の良い渾身の一撃。
「火竜剛剣流――――『刀牙』!」
先出しした攻撃に対し、意図的に後出しした方が狙い通りに攻撃を当てられるのは、誰にでもわかる単純な帰結。
俺も"反撃が来ない"とタカを括っていたら、この一撃を受けて昏倒するくらいの目に遭っていただろう。
(でも……悪いな。予想通りなんだ)
「むっ……!」
試験官のおじさんが予測していたよりも、早く刀身が翻る。
俺は最初から試験官を狙ってはいなかった。
狙いはカウンターで飛んできた攻撃に合わせること。
先ほどまでよりも姿勢を低く、剣を下げれば、ガラ空きの頭を狙うべく剣を振り被るのは当然だ。
だから、そう動くように誘導した。今まで何度も打ち込んだ中で、もっとも仕留めやすそうな構えをわざと混ぜた。それがこの下段の構えだ。
反撃させ、なおかつ攻撃の軌跡を絞りやすくすることが俺の狙い。
そしてわざわざ誘導したということは、当然これから勝利へと繋がっていく。
「なっ……!?」
鋼がぶつかり合う鈍い音が響くと当時に、手元をさらに翻す。ちょうど、相手の剣に巻き付くかのような動きで。
そして次の瞬間、一振りの剣が宙を舞った。俺の剣ではなく、試験官の剣だ。
くるくると風車のように回りながら飛んでいく剣は、やがて勢いをなくしてリングの外へと落下していった。
「…………何が、起き、た……?」
俺がやったのは、巻き上げと呼ばれる剣技だ。
衝突の瞬間、相手の剣を絡み取るように動かし、手元から弾き飛ばす。タイミングが難しく、何より実戦の中で意図して命中させるのは難しい。
だからこそ、狙いやすい相手を選んだ。技巧派の人ほど相手の隙を見逃さず、基本に忠実に攻めを繰り出す。誘いとわからないように相手をイラつかせ、しかし頭に血が上ってヤケになった攻撃をしない。そんな試験官を。
「まだ続けますか?」
呆然としている試験官のおじさんに鋒を突きつける。
しばらく呆気に取られた表情をしていたが、徐々に眉間にしわが寄っていき、不愉快げに吐き捨てた。
「いや、無理だ。お前の試験はもう終わりだ」
「どうも」
「まったく……なんて嫌な手段で勝つ男だ」
もしかして、こっちの作戦が見抜かれたかな。
確かに騎士としては、真っ向から戦ってほしかったかもしれない。残念ながら結果を優先させてもらったけど。
ともあれ、合格はなんとかもぎ取れたわけだ。ほっと一息ついてリングを降りたのだが……。
(…………そういえば俺、部位鎧一切攻撃してなかった)
どの試験官に勝つかを考えることで精一杯で、肝心なことを忘れていた。
外した部位鎧に応じて得点がつけられるんじゃなかったか? 俺、何一つとして壊していないぞ!
もしかして……0点!?!?




