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第24話「突然ですが、銀髪令嬢に会いました」

そろそろ書き溜め分が底をつき始めています……(汗

更新頻度が落ちるかもしれませんが、生温かい目で見守っててください

 冒険者ギルドに登録してからというもの、勉強しては依頼を受け、依頼を受けては勉強して、規則正しい生活をしばらく送っていた。

 少しくらいは王都を散策してもいいかも知れないと思ったが、俺の目標はただ受かることではなく特待生で入学することだ。

 過去問や試験対策は万全ではあるが、なにせ前世でも特別優秀だった覚えはない。奨学生制度も狙えなかった普通の人生だった。

 異世界とはいえ、今度は特待生を狙おうというのだ。不安はあるし、絶対に受かるという強気な自信もない。

 だからひたすらに復習し、これだけやってきたんだ、という自信を水増しし、たまに気分転換に外に出ることで精神の安定を図っていた。


 しかし、そんな日々もついに終わりを迎える。今日はアカデミー受験当日だ。


 受験会場であるアイワーン学園は、実は王城の裏手にある。

 煌びやかに聳える白亜の城がアイワーン城であるとすれば、アイワーン学園は峻厳に構える大屋敷といった佇まいだ。

 実際、アイワーン学園の見た目は前世の学校によく似ている。高さは四階建てで、縦に長いのではなく横に広く伸びているのだ。だだっ広いグラウンドに芝生、運動場らしき建物や別棟が何棟もある。

 受験の日程は三日間かけて行われ、初日が筆記、二日が実技、最終日が魔法実技となっている。

 だから今日は冒険者としての装備は置いてきて、身分証と筆記用具だけを入れたカバンを持ってやってきたのだが……。


「あの……通してもらえませんか?」


 俺は今、アカデミーの正門前で門前払いを食らっている。


「ダメだ! 今日はアカデミーの受験日だ。受験生以外を通すわけにはいかない」

「いやだから、俺がその受験生なんですって。受験票もあります」

「ふざけるな! お前は見るからに平民だろうが。ここは裕福な貴族様だけが受けられるアカデミーなんだぞ」

「貴族専門とはパンフレットに書いてなかったような……」

「何か言ったか!?」


 さっきからこんなやりとりの繰り返しだ。

 受験票を出して見せても、お前は貴族じゃないだろう! とか変なイチャモンをつけられて通してもらえない。

 ここが貴族ばかり受けているのは、他のアカデミーよりも受験費や授業料が高いせいだ。決して平民が受けてはいけない、なんて決まり事はないはずなんだが……それとも、俺が知らないだけでここ二、三年で変わったのか?

 頭の固い門番とのやり取りを尻目に、豪奢な馬車が後ろから迫って来る。

 別の門番が御者と話し、受験票らしきものを確認すると、それだけであっさりと通されていった。


「見たか! 貴族様はああやって馬車でご来場されるのだ! 徒歩でやってくるような平民を入れるわけには行かん」

「どういう理屈? とにかく確認してくださいよ。間違いなくアカデミーから郵送された受験票なんですから」

「ええい、まだそんな屁理屈を抜かすか! いい加減に立ち去らねば番兵に突き出すことになるぞ!」


 どうしたもんかなあ……このままだと、入れずに受験できないってことになる。

 そうなったら、あの騎士団の……確かベルウッドさんだったか? あの人に敵対意思があると思われるんだろうか。

 でも俺の意思じゃないし、説明すればなんとかならないかな? でも仮にも国の意思だったからな、この人の首を飛ばして終わりとは絶対ならないだろう。絶対に俺や家族にも何かしらの累が及ぶはずだ。


「じゃあ突き出すなら騎士団にお願いします。できれば、ベルウッドさんって人に取り調べさせてください」

「ふざけるな!! こんな悪ふざけする相手に騎士団を動かせるわけないだろうが! こうなったら、反省房にぶち込んでたっぷり懲らしめてやる!」

(何を言っても全然通じないな、この門番……いっそここで叩きのめしちまえば、他の職員が来てくれるかもしれないな)


 受験前のストレスに加えて、このお役所仕事もできない門番の対応にフラストレーションが限界を迎えつつあった。

 門番の手が人の首根っこを捕まえようとする前に、その腕を捻り上げてカウンターを叩き込もうとしたその瞬間……。




「待ちなさい、そこの人」




 背後から聞こえてきたその女性の声は、まるで風鈴のように心地よく、凛とした声だった。


 振り返ってみると、一人の少女が豪奢な馬車から下りてくるところだった。

 煌びやかな飾りつけはないが、細緻で艶やかな刺繍の施された落ち着いた色合いのドレスに身を包み、下りる仕草、歩く所作の一つ一つが美しい少女だ。

 まるで羽毛か純白のキャンパスを思わせるような、光が透けて見えるほど美しい白銀の髪が風に靡いて揺れる。ただ、黒みを帯びたキリッと釣り上がった赤い双眸に、いつかの妹のような冷たい印象を覚えた。


「な、なんだ貴さ……いや、貴方は! 今は取り込み中ですぞ!」

「そう。でも用があるのはこちらも同じなの」

「何を……あ、貴様!?」


 門番の一瞬の隙を突いて、銀髪の少女の後ろに音もなく立っていたメイド――多分彼女の侍女だろう――が、素早く門番から俺の受験票を奪い返した。


「どう? レア」

「……間違いなく本物でございます、お嬢様」


 レアと呼ばれた金髪碧眼の侍女はそう答えると、奪った受験票を銀髪のお嬢様に手渡した。

 彼女もまたサッと受験票に目を走らせ、やがて細く整えられた眉を忌々しげにしかめると、何やら悩ましげに考え込んだ。


「は、早く返しなさい! 貴方たちは関係ないんだから、隣りの門番に確認してもらって受験会場に行きなさい」


 所作や纏う雰囲気だけでわかる、明らかに高貴な身分の女性。馬車の装飾具合から見ても、間違いなく伯爵位以上の上流貴族なのは間違いない。

 だからだろう、門番は非常にしどろもどろだ。早く去って俺を排除したいんだろうが、その言葉遣いは地味にアウトではなかろうか?


「残念ながら、無関係とは言えないわ。貴方と……そこで見て見ぬ振りしているもう一人の門番。よく目を見開いてこれを見てみなさい」


 銀髪令嬢はまるで紋所のように受験票を突き出し、彼らに対して死刑宣告を行った。


「この受験票は本物よ。しかも貴族の推薦票ね。この家紋からすると……推薦者はアイワーン騎士団第一団長のベルウッド伯爵かしら」


 ひゅっと、どちらかの門番が息を飲む音が聞こえた。

 そういえば、受験票の裏面には結構派手な紋章が押印されていた。

 てっきりアイワーン学園の校章かと思ったけど、どうやら違ったらしい。


「貴族の推薦で平民がアカデミーを受験するケースは稀だけど、決して前例がないわけではないわ。貴方"たち"が彼を通さないのだとすれば、推薦したベルウッド伯爵の面目を潰すことになりますわね」


 わざわざ貴族が平民を推薦するといういうのだから、当然何かしらの援助をするつもりであることは想像に難くない(実際はそんなこと起きないと思うが)。

 その準備にかかる費用や収集した援助金を、門番二人がドブに捨てさせることになるのだ。

 そのことに察しがついたのか、門番二人の顔色は青を通り越して真っ白になった。俺を阻んできた門番はもちろん、もう一人の門番も見て見ぬふりを決め込み確認しようとしなかった。連帯責任は免れないだろう。


「あ、ぃや、その、わ、わわ、私は……!?」

「まあ、だとしても私には一切関係のない話……ああ、そうそう。私も受験に来たのですが通ってもよろしいでしょうか?」

「もも、もちろんです! お二人……いえっ! 全員、お通りください!!」


 銀髪令嬢が受験票を出すが、ほとんど見ることなく門番二人は敬礼して通るようにと言った。

 うん……気持ちはわかるが、確認くらいちゃんとした方がいいと思うぞ。


 彼らの萎縮しまくった態度に、銀髪令嬢は「そう」と興味なさそうに呟くと、馬車に戻ろうと踵を返した。

 俺は……少し躊躇ったものの、貴族に礼を取りながら感謝の言葉を伝えた。


「助けていただき、ありがとうございます」


 すると銀髪令嬢の後ろに控えていた侍女の目尻が、かすかに動いた。

 彼女はジッと俺のことを見下ろしているが、やがて小さくため息をつくと呆れたような口調で答えた。


「感謝する必要はありません。通行の邪魔だったから、口出しせずにいられなかっただけです」


 銀髪令嬢は短くそう答えて、振り返りもせずに馬車に乗り込んでしまった。

 俺としても、そう言われてしまっては引き止めるわけにも行かず、先に行く馬車を見送った。

 そのあとで校門を潜ろうとしたが、門番たちが止めてくることはなかった。

 むしろ魂が口から抜け出してしまったかのように脱力していて、とてもこれからの職務を全うできそうな精神状態にない。だがそれも自業自得なので、色々と諦めてもらおう。


 学園内に張り出されている案内板に従って、校舎の中を歩いていく。

 ひとまず先に職員室らしき部屋の前にあった受付カウンターの職員に、受験票を提出して試験を受ける教室を訪ねる。

 ここでも門番のように難癖をつけられるかも、と身構えていたがそんなことはなかった。普通に丁寧に手続きをされ、試験会場までの道筋を教えてもらった。


(しかし……校舎の作りは前世の高校に似ているけど、大きさは全然違うな)


 目に付くのが広さだ。廊下の横の広さ、縦の広さ、ともに普通の高校よりも2、3割ほど広いし高い。遠目には三階建てに見えた校舎だが、近くまで寄ってみた時は中流マンション並みの高さがあった。

 内装も魔法で清掃しているのか、土足の割に非常に綺麗だ。床や壁一面の白い塗装が輝いて見えるほど清潔感に溢れている。作られたばかりの新築校だと言われても違和感がないほどだ。

 思わずいろいろな場所を見て回りたくなるが、それは受験に受かってからのお楽しみにしておこう。

 受付の職員に言われた教室まで寄り道せずに歩き、三階の角に当たる教室にたどり着いた。

 耳を澄ますと、中から人の声がする。声の調子が若いことからするに、同じ受験生のようだ。

 部屋を間違えているということもなさそうだし、両開きの扉を静かに押し開いた。


 教室の中は、大学の講堂のように手前から奥に向かって緩やかな傾斜がついていた。机も斜面に合わせて扇状に広がっており、受験生らしき同年代の少年少女らが十数人いる。


「……誰、あの人?」「社交界じゃ見たことないな」

「ていうか、何あのセンスのない仮面っ」「趣味悪いったらないよ」

「やめなよ、もし上流階級の貴族だったらどうするのさ」「だったら余計に今年のデビュタントで見かけてないとおかしくないか?」

「いや……あの格好、貴族かも怪しくないか?」「もしかして平民? だったら受けるアカデミー間違えてるだろ」


 あちらこちらで、ひそひそ話やクスクス笑いが飛び交っている。

 まあ悪い意味で目立ちそうな格好をしているから、無理もないか。

 服装も少しお高い服を王都で購入はしたものの、周りにいる彼らが着ている服と比べれば何ランクか劣る。せいぜいちょっといいところから来た平民程度にしか見えないだろう。

 顔見知りがいるはずもないので、彼らから離れた窓際の席に座る。

 さすがに受験前にちょっかい出してくるような受験生はいなかったが、それでもひそひそ話が止まることはなかった。

 しかしよく聞いてみると、話の中心にいるのは三人の少年たちだった。


「あんな薄汚れたヤツが受験しにくるだなんて、ここの質も落ちたもんだぜ」

 ウニのようにツンツンと尖った髪型の茶髪男子がそう吐き捨てた。


「そう言ってあげるなよ。きっと親孝行がしたくて、無理言って受験しに来たんだろうさ」

 見るからに委員長気質な、精悍な顔立ちをした金髪男子がそう宥めた。


「そうだよ。平民がここを受けようとしたら暮らしも厳しくなるでしょ? あの格好も当然だよ」

 女性のように線が細く、青狸の漫画に出てくる嫌味な親友のように前髪を伸ばした黒髪男子が苦笑を浮かべた。


 彼ら三人のグループが教室の中心に居座り、その周りにいくつかの集まりが遠巻きに眺めていたり、近くで相槌を打っていたりする。

 直接関わり合いが深いのはあの三人の間だけなんだろうが、他の人たちは取り巻きかお近づきになりたくて同じ話題に乗っかっているらしい。

 何者かは知らないけど、あそこまで露骨に悪口を吐ける相手とは、できれば関わり合いたくない。

 くわばらくわばら、と聞こえないように愚痴をこぼすと、また誰か……教師ではなく受験生らしき人物が入ってきた。


(あれは、校門でお世話になった……)


 侍女は連れていなかったが、あの特徴的な眼差しと髪の色は見間違いようがない。

 銀髪令嬢が入ってきた途端、教室内が騒然となった。決して大きな声ではないが、誰もが彼女のことを噂している。


「見て、フォーシーズン様よ」「何度見ても美しい髪だ……」

「同じ教室で受けられるなんて光栄だわ!」「やばい、テストに集中できないかもっ」


 先ほどの三人よりもなお近づきがたい存在のか、誰もが遠巻きに銀髪令嬢に熱い視線を向けていた。

 しかし、そんな空気をものともせず彼女に近づく輩が三人いた。ついさっきまで、教室の流れを独占していたあの三人だ。


「やあ、おはようメリア。同じアカデミーを受けられるなんて嬉しいよ」

「お前だったら、家庭教師だけで十分です、とか言ってどこも受けないと思ってたけどな」

「そんなのフォーシーズン様が許さないでしょ。アカデミーは人脈を作る場でもあるんだから、メリアがなんて言っても行かせると思うよ」


 あの三人がもし俺と同じく身分の低い立場だったら、周りからは非難轟々だっただろう。

 しかし周囲の受験生は、三人が集まったことでより熱い視線を向けていた。

 どうやらあの四人はワンセットになると様々な貴族に注目されるくらい、知名度のある人物らしい。


(そういえば、フォーシーズンっていったか? ……もしかして、あのフォーシーズン公爵家のことか?)


 さすがに多くの貴族の子息子女が通うアカデミーを受験するんだから、主だった大きな家くらいチェックしている。フォーシーズン公爵もその一つだ。

 確か、祖母が第二王女で王家の血が流れている上流貴族の一つだったはずだ。そんな家柄の子女と関わりがあるあの三人って、一体……。


(そんな人に助けてもらった上に、勝手に口を利いたわけだが、もしかすると罰せられる……?)


 顔には出さないが、恐々としながらフォーシーズン嬢の様子を伺う。

 できれば見つかったり、気づかれないことを祈りたいんだが……バッチリ目が合ってしまった。


「――――――――――」


 しかし、特に何を言うでも顔色を変えるでもなく「あ、いたんだ」と言わんばかりにあっさりと意識から外された。

 あの調子なら、門前のやりとりを気にしていることもないだろう。ホッと胸をなで下ろした。


「貴方たち、お喋りしているなんて随分と余裕そうね。今年は例年までにない試験科目も増えているから、油断していると落ちるわよ?」

「心配はいらないさ。俺たちはこれでも、勇猛な血を引く者たちの一人息子だからね。アカデミーの受験くらい、簡単にクリアしてみせるさ」

「それにテストが駄目でも、俺は実技で取り返せるからいいんだよ」

「僕らに指導してくれたのは、"あの"父様たちだからね!」


 自信満々に答える三人だが、対して教室内の他の子息子女たちは顔色を変えて問題集に向き直った。

 どうやら噂話に花を咲かせていられるほど、余裕があったわけではなさそうだ。



「……貴方たちがそんなだから、」



 フォーシーズン嬢は何か苦言を呈したかったようだが、お喋りしている三人には届かなかった。

 やれやれと言わんばかりに小さく頭を振った彼女は、適当に空いている前の席に向かい彼らとは距離をとった。


 無駄に視力の良くなった左目は、彼女が届かせられなかった言葉を唇の動きから読み取ってしまった。



"貴方たちがそんなだから、この学園の試験が見直しされたんじゃない"と。



 公爵令嬢に、学園の方針を変更させる権力を持つ三人の子息。

 俺はこんな人物が居るアカデミーに通わないといけないのか?

 はっきり言って、今から気が重い。これからの三年間はあんな大物に関わらず、できる限りヒッソリと過ごしていこう。

 そう新たに決心をするのだが、受験前に緊張していた俺は完全に見落としをしていた。


 平民のくせに特待生として入学するのなら、大勢の子息子女に注目されるのは当たり前だということを……。




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